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ナンパから救い出してくれたのだろうローに礼を言う。

「前みたいにキス払いでやってくれてもいいぜ?」

(くそう。からかわれるならやらなきゃ良かった……!)

あの時は本当に助かったし嬉しかったからしたのだ。
一回ぽっきりのキスだ。
しかも頬だから疚しい気持ちなんて欠片もなかった。
ムスッとした顔をして「しません」と断言するとローは「じゃあ貰う」と口にしてリーシャの口へ軽く合わせた。

「!、訴えます!」

「は?誰にだ?」

それを言われてしまえばうんもすんも言えない。
だって彼は海賊で無法者、訴えられる機関があっても無駄だ。

「だ、大体ですねえ!私達は付き合ってないのに、こういう事をするのは可笑しいんです!」

「なら付き合っちまえば済む」

「はあ!?有り得ません付き合いません!」

「へェ、理由は?」

「付き合う理由がありません」

軽く言ってくるが、言うのはタダである。

「理由?んなもん。俺はお前が好き。これで理由も名目もあるだろ?」

「な、ないです!ないですよ!」

告白されてしまった現実から目を背ける選択肢をした。
よし、忘れよう。

「じゃあ俺と寝たら付き合うか?」

「ねねねね、ね!?破廉恥です!」

彼は百戦錬磨だから、モテるから簡単に言えるのだろうか。
恥ずかしくて泣きたくなる。
今まで頑張ってボカして避けて回避してきたのにこんなにストレートに言われたら避け方が思い付かない。
うやむやにしてしまいたいのではぐらかす。

「何だ?不意打ちだからテンパってんのか?今までお前は尽く天然を装って俺の好意を見ないフリしてきたもんな。でも、もう逃げられねェ。逃がさない」

これは夢だ、夢なんだ。

「目を反らすな。こっちを見ろ」

「…………マイとヨーコを探さないと、だから、だから、もう行きますね」

逃げよう、逃げてなかった事にしよう。

「もうその手には乗らねェ」

「っ!は、離して……」

逃げようとしたら腕を掴まれた、夢じゃない。
現実だ、告白されたのも。

「これから先、もしお前がうっかり何かの拍子で死んだら俺は後悔する。何故お前をあの時てめェのもんにしなかったんだってな」

何故今日なのか。

「お前の目は、何もかも諦めてる奴の目だ」

「それはローさんの偏見ですきっと」

「そりゃ良い。俺以外にもベポだって知ってる。お前が死んでも可笑しくない生き方してるってな」

何が可笑しいんだろう。
何も可笑しくない。
こんなシリアスな展開は好んでないのに。
内心では焦っているけれど、兎に角今はうやむやにしたい。
彼の言った事も、何もかも。

「仕方がない、見逃してやる。そう思うのは止めた。俺はきっと後悔するからな」

「や、やだなあ、私、ローさんの何かを刺激する事、しました?」

「前からしてる、無自覚にな。馬鹿な女だって。もう我慢の限界だ」

「……今なら、全部冗談にしてあげます」

「残念」

彼は自嘲するように笑う。

「冗談に出来る猶予は終了した」

そうしてローはリーシャの肩に甘く甘く、噛み付いた。



朝になってホテルを出ると予約していた宿へ戻った。
宿に戻ると二人は既にそこに居て安堵の顔をして出迎えてくれたのでホッとした。

「ごめん。連絡せずに」

「大丈夫ですよ?船長さんが教えて下さいましたから」

「え?」

(言ったの?いや、そんな訳ないよね?)

「リーシャさんが迷子だったからホテルで保護したって。私達、一応探そうとしたんですけれど、早い段階で連絡を貰えたので」

(良かった……言ってないのか)

よもや、ローと……。

「ごめんね。次は絶対はぐれないから」

「あはは。別にあんたは大人だし私達に無理矢理合わせて夜寝なくていいわよ?」

ヨーコがケタケタと笑みを浮かべた。
それにまた鼓動が跳ねる。
大人だから、合わせなくていい。
大人だから、朝帰りの理由も問われない。
きっと彼女達はリーシャがただホテルで過ごして帰ってきたと思っているだろう。

(ローさんと関係持つの、嫌なのに、嫌だったのに……いざそうなると嫌って思わなかった……なあ……)

「どうしたの?」

「!、ううん!何でもないよっ」

「そう?」

「朝ご飯食べますか?一応三人で予約しておきました」

「ありがとう」

彼と一線を越えたのは昨日が初めてだった。
何故唐突なのか、何故いきなり肌を合わせようと思ったのか。
考えれば考えるほど、謎は尽きない。 確かに前々からいつ何が二人の間に起きても可笑しくない雰囲気ではあった。
それが昨日だったと言うだけ。
ローの事が頭から離れなかった。
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