47
とある秋島に停泊している期間が丁度島の名物イベントと重なったらしく、マイとヨーコがきゃっきゃとハシャいでいた。
どうやらハロウィンらしい。
道理で町の人間がソワソワしているし、町の飾り付けも豪華な訳だ。
「って事で!着替えるわよ!」
「沢山着ましょうね」
ハロウィンが名物な町だけあって、沢山の仮装がある。
一人でのんびりしようとしていた矢先、外へ連れ出されて着せ替え人形の如くクルクルと着回される。
まるで着せ替えのドールの気分だ。
マイとヨーコもお揃いで揃えて楽しんでいた。
「二人は似合うけど私はちょっと」
歳とか年齢とか年代とか。
色々考えるとお揃いはあまり、なんて思ってしまう。
二人には良く似合う、自分は歳が相応ではない。
ただそれだけの事だが、隔たれる何かを感じるには十分。
「何言ってんのよ!あんただって似合ってる」
「ええ、とても良いです」
二人に褒められて複雑だ。
引き立て役くらいにはなろうと決めて仮装の賑わいに混ざる。
今日の仮装は魔女だ。
「魔法使えないけど魔法使いたい!異世界なのに使えないってどうなの?」
「悪魔の実でもう事足りてるよ」
マイが苦笑してステッキやホウキを片手に持つ。
「テクマ……やっぱりやめやめ!二番煎じはアウトよね。うーん。じゃあ雨よ降れ!とか?魔女っぽくない?」
「ヨーコ……雨が降って困るのは私達だから嘘でも止めて」
「う……じゃあ!イケメンホイホイ!」
「ぶふ!」
ついリーシャは吹き出してしまう。
今時の高校生は全員こんな感じなのだろうか。
イケメンとは時と場合と時代と人それぞれのタイプによって千差万別。
ヨーコにとってはイケメンでも他の人間から見れば普通、なんて事もある。
「イケメンホイホイって……!ふふふ!ヨーコって……そう言えば乙女ゲーム好きだったよね?携帯ゲームとかの」
「な、何でマイがそんな事知ってんのよ!?」
「課金までして攻略するくらいハマってたんだから皆知ってるけど……」
「う、嘘って言って!」
ヨーコが蒼白になってこの世の終わりの顔をするが、マイは残酷に本当だと告げた。
そんな風に盛り上がっているとお菓子を配っている人達の前に言ってもらう。
この島は祭り、イコールハロウィンなので大人も子供も同じ扱いらしい。
一時間程魔女の仮装をしてからナースに着替えた。
裾が短いし胸が見えるしスカートもかなりショートなのはヨーコ流ファッションのせいだ。
「知り合いに見られたら」
「そんな都合良く会う訳ないでしょ?」
「そうですよ」
と話ながら歩いていると人混みが開ける。
「あ」
「え?」
「は?」
誰がどの台詞を吐いたのかは既に分からない。
「お前等その格好……」
船員の誰かが真正面から言ってきた。
(噂をすれば何とやら……!)
ハートの海賊団と鉢合わせ。
「……ナースか」
シャチが惚けた様に言う。
それに伴い他の船員達もこちらの格好について好き好きに言ってくる。
「……あんまり見るとお金取るからね!」
ヨーコがフフン、と笑みを浮かべて果敢に言う。
リーシャは過去、類を見ない程恥ずかしく思い二人の間に隠れていた。
凄くローの視線を感じるのは過剰でも自惚れでもなさそうだ。
「出せ」
「「え?」」
突然ローが凄んできたので少女二人は首を傾げた。
しかし、ローは次に言葉を繋げる。
「そこに居る女をこっちに渡せ」
「何言ってるんです船長さん……本人は出たがってないですよ」
マイが庇うように言ってくれる。
味方が居るのは心強い。
出たくない、恥ずかしい。
「見られるのを分かっていて見せてるんだろ。別に減るもんでもねェ」
「……理屈が可笑しいです!」
ついリーシャは反論してしまう。
「煩ェ。いい加減隠れるな」
「!……逃げるよ二人共!」
どこに見る価値が有るのか分からないが、見たがるローにホイホイと見せたくない。
複雑な心境で叫ぶと二人は息のあった走りを見せる。
走るのは走ったが足の遅いリーシャは遅れ気味だ。
「はあはあはあ!」
息を盛大に吐いたり吸ったりしつつしていると二人といつの間にかはぐれてしまった。
しまったと思っても見えるのは人の波。
辺りを見回しても見つけられない。
困っていると後ろから声をかけられた。
見知らぬ声に振り返ると軽そうな男が一人。
「おねーさん一人?」
典型的な台詞に辟易。
どう見ても感じてもナンパ確定だ。
祭りにかこつけたナンパは言葉に詰まらないのだろう、まあ良く喋る男だ。
「それナースだよね?俺、ナース好き何だよー」
「あの、先を急いでるので」
こういうのは体よく追い払って探すべきだ。
「え?でもこの町、今日は祭りでそれ、仮装だよね?」
「待ち合わせしてるんです。貴方にこれ以上説明するつもりはありません。他を当たって下さい」
ナンパを丁寧に対応するのは逆上されるのを防ぐ為だ。
それでもなかなか引き下がらない男にどんどん腹が立ってくる。
海軍に突き出してやろうかとさえ思う。
「おい。俺の女に何か用か」
男の肩が浅黒い手に覆われて掴まれる。
余程握力を込めたのか盛大に痛がる男に呆気に取られた。
「いっ!!誰だよ!邪魔す」
続く筈だった言葉は後ろを向いた途端に窄(すぼ)む。
眼光がそれなりに凄いから萎むのも頷けるくらい凶悪だ。
「もう一度聞く。何をしてる?まさか人の女を口説いてないよなァ?」
彼が言うと男は顔を蒼白にさせて何やら意識が飛びそうになっている言葉を言ってから飛んで逃げた。