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この島で過ごして三日、特に何かが有るわけではない。
と、ナレーションをしたい所だが、平和ではなかった。
ローが凄く介入してくるのだ。
宿とバイト先に押し掛けてきてはリーシャにベッタリだ。
ここまで露骨にされるような事をした覚えもないのでリーシャだけ混乱。
二人はローから何か聞いたらしく警戒の目で周りを見るようになった。
「……私だけ何か独り」
仲間外れ、疎外感が激しい。
いつものように接客業をしていると一人のお客に指名されてルンルンと行く。
嫌な顔は接客業としてやってはいけないので基本はスマイル、これは鉄則だ。
「ご指名ありがとうございます」
相手は男性、特に記す特徴はなし。
強いて無理矢理言うならば狐の目をした人。
「可愛いねー。店に入った時から話してみたかったんだよ?」
リーシャは話す専門。
夜の方は他の方が居るので、この人は話す事がしたいらしい。
「嬉しいです。ありがとうございます」
ニコニコ。
「−−−でさ」
かれこれ三十分程話した彼は徐に時計を見てからこんな時間かと立ち上がる。
フラフラとしているのは彼がお酒のボトルを二本空けたからだろう。
「入り口までお送り致します」
「お、ありがとう」
「いいえ。足下にお気をつけ下さい」
肩を貸して彼を入り口へ案内して扉を開ける。
フラフラとしている人は肩に体重をかけてきて歩きにくかったけれど何とか頑張った。
「それじゃあ……っ!?」
肩を退かそうとすると、外に出た途端にその男性は口元を手で覆って声を出せないようにしてきた。
「っ、つ!?」
男は狐目をこちらに向けたまま笑う。
「悪いねお嬢さん」
モガいてもどうにもならない。
「おい」
その三者の声に男は後ろを向く。
「がっ!?」
口から手が離れて息が出来ると気付いた時にはローが居た。
「モールス信号、お前にしては良い判断だな?」
「っ、はあはあ……っ!?この人一体……?助けてくれてありがとうございます。ロー、さん」
息も絶え絶えにお礼を言うと相手の男を見て、目を逸らさない。
「こいつ、どうする?」
「尋問します」
「…………俺の聞き間違いか?お前が尋問?」
「はい」
「…………まァいい。誰かに見られると厄介だ。場所を移すぞ」
ローに足されて場所を移動させるとそこはハートの海賊団の船。
確かに此処なら誰も咎めない。
ローは一つの部屋に男を放り投げる。
そこへ入ろうとすると彼が腕を掴む。
「何か」
「俺がする」
「いいえ。これは私に関係してますので」
譲る気等サラサラない。
「……此処で待つ」
「そうしてもらえると助かります」
笑顔を浮かべるリーシャに目を見開く男。
「では」
パタムと扉を締めて男が居る所へ足を進めた。
数刻してから扉の外へ出ると、まだローは居た。
本当に待っているなんて、と苦笑すると彼は何も言わずただこちらを見るばかり。
「…………終わりました。生きてます」
「嗚呼。分かってる」
ローはどんな表情をしているのか分からない。
帽子を深く被っているせいだ。
「王子の好意を利用して私とマイ、ヨーコを巻き込んだ騒動を起こそうとしたと自白しました」
「…………そうか。どうする?王族に抗議するか?」
そう言うローに鼻から抗議してもどうにもならないと分かっているので何もしないと言う。
王子はきっと利用された事は知らない。
ヨーコにもマイにも何もしていないのなら何もやることはない。
「お前がそう決めたのなら好きにしろ」
「はい。それと……あの男が私に近付いてきたからローさんはずっと守ってくれてたんですよね?ありがとうございます」
礼を言うとローはゆっくりこちらに来てイエローブラウンの瞳をこちらに向けた。
「じゃあ、礼でもしてもらおうか?」
くくっ、と笑うローに少し笑みを浮かべて顔が近いのを利用して普段は届かない高さにある頬へキスを落とした。