45
その後も何故かローに連れ回されて片時も離れない男に首を傾げながらも流されるままに付いて行った。
「ローさん?あのそろそろ私、宿に行きますね……」
「宿?盲点だった……今から俺達の泊まるホテルに変更しろ」
「無理です無茶です横暴ですっ」
「ときめくの間違いだろ」
「本の読み過ぎてす。無駄知識ですよそれ」
何様俺様の男はフィクションでは好かれる傾向にあるが、現実となるとお引き取り願いたい部類だ。
今日のローは本当にどこか変な行動を起こしてばかりだ。
ローが考え事をしている間に去ってしまおうと後ろ足を動かしてソロソロと後退。
これ以上付き合うと夜中になってしまう。
「おい」
そのまま気付かないで、と願いつつ逃れようとするが、呆気なく捕まって後戻り。
「ちっ……幾ら払えばお前は俺と行動する?」
「だから何故そこでお金をちらつかせるのですか、何というか幻滅してしまう事ばかり言いますね今日は」
「それだけお前と居たいって感情が溢れ出てるって乙女思考はないのかてめェには」
ローにしては甘めな言葉を吐く。
「むず痒い……」
「絞められたいのか」
望んだ回答ではなかったからか彼の額に青筋が浮き出る。
そう言い合っている間にもバイトの時間が差し迫っているのだが。
それを説明して何とか解放してもらおうと言ってみた。
「どこの店だ。そこを貸し切る」
「え、今日入る店で……私は新人なので……進言なんて無理ですよ?」
オーナーに今日は海賊が貸し切ると言っても信じて貰えるかどうか。
唸っているとローが兎に角連れて行けとしつこいので仕方なく案内する事にした。
因みにマイとヨーコのバイト先は健全なお昼経営の所だ。
「此処です。本当に貸し切るつもりなので?」
怖ず怖ずと聞いてみてたらそれをスルーされてズカズカと店に乗り込んで行くロー。
慌てて付いていくとローが来た事や貸し切る事を話したからかオーナーがてんやわんやしていた。
それを見なかった事にしてそっと裏から入って着替える為にロッカールームへ入る。
着替え終わるとほぼ無人の店の中にローが居て、高そうなVIP用のソファに腰を沈めていた。
「遅い。こっち来い」
「私はヘルプ要因なのでそういうのはこの店の一番人気の人に頼んで下さい」
「……五秒やる」
と言ってカウントダウンを口にし始めたロー。
三秒の所で刀をスラリと抜くので瞬時に隣へダッシュした。
「ぜえぜえぜえっ!」
瞬発力を使ったので急な行動に身体が酸素を得たいと訴えて酸素を懸命に取り込む。
その間にローは満足げにリーシャの腰を抱き寄せてくる。
やけに近い。
そして耳元で「最初から素直にしてればいィんだよ」と偉そうに言う。
「今日はヤケに薄いドレスだな」
「お国柄ですよ。スケスケが主流なんだとか」
昔、ハレムがあった名残でこういう服が女性達に馴染みがあるらしい。
確かにスースーする。
暑い国なのでこれは楽かもしれない。
でも、如何せん相手が少々悪い。
「へェ。なかなかエロいな……胸も薄いな」
ヒラヒラでスケスケなのでビキニを着ている気分だ。
ローは更にググッと腰を抱き寄せてきては耳に息を吹きかける。
「ピアスか?イヤリングか……これもなかなか良いな」
耳にはこれまたゴールドの厚みのある肩に付くくらいの長さと存在がある耳飾り。
アラビアン風だ。
「全く。お前も俺を煽るのが上手いな」
「取り敢えず勝手に煽られてるのはローさんですから。私さっきから何もしてないし喋ってないんですけど。後これ支給品なので私が選んだ訳じゃないです」
今、兎に角言いたい事は言い切った。
「どうでもいい。お前がこの店でバイトをするのを決めたのは褒めてやる」
「は、はあ」
どうでもいいと言われ、勘違いではなければ褒められているようないないような。
「貸し切ったのなら皆も此処へ来るんですよね?」
「ああ。そいつらは後からくる女達が居るから気にする必要はねェ」
「私接客業なんですけど」
「俺が支払ったクライアントだ」
「は、はい。え?それが……何か?」
ローはクッと口元を歪に上げてリーシャを片手で軽く抱き上げると太ももに乗せられる。
驚いて退こうとしても腕が絡み付いていて逃げられない。
「お前は指名されたんだ。最後まで上客をもてなせ」
「え……」
いつ指名したんだ。
それと自分はヘルプだ、オーナー、また、裏切りやがったな!
「オーナー!オーナーどこ!?」
「女達をかき集めてるからここには暫く来ねェよ」
クツリと笑うローはリーシャの髪をクルクルと指に絡めてボーイが持ってきたグラスと高そうなボトルを顎でしゃくる。
「ほら、注げ」
「人使い荒い!」
「くくく……注いだらそれを持ってこい」
言われた通りにすると次は飲ませろと指示され指が揺れる。
「な、なんだ、と」
「俺はこの通り両手が塞がってる」
彼の刀の鬼哭は立て掛けてある。
塞がってる主な原因はリーシャをガッチリ拘束しているせいだ。
ギリギリ胸の傍なのが腹立たしく思う。
「ほら。零すなよ。零したら舐めてもらうからな」
(プレッシャーが!)
そんな事を言うなんて卑怯過ぎる。
「むう」
そうとなれば真剣になるのは当然で、真剣に飲ませようとグラスを近付ける。
「……あの、口、開けてもらえます?」
「くく!……嗚呼」
絶対この状況を楽しんでいる。
ローは一口飲むとニヤッと悪戯に笑う。
「?……うひゃ!」
弾力を付けるように手が太股を撫でさする。
「あ?どうかしたか?」
白々しく言うローをキッと睨んで「お酒どうぞ」と進める。
「酒のつまみが足りねェ」
「いやいや此処にありますけど?」
頼んだのだろう一品料理が数個テーブルにある。
「嗚呼。俺とした事が、見落としてた」
と言ってお尻を揉んできた。
薄いので彼の手の熱が生々しい程伝わってくる。
オーナーどこだ!こんな店止めてやる!