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三人で魚釣りに勤しんでいると微量な、海の波とは違う揺れに辺りを見回す。
しかし、何もない。

「…………?…………あ!」

突然声を出したから二人はこちらを向いてどうしたのだと訊ねてくる。
慌てて釣り竿を上げてから二人にも釣りを止めるように言う。
納得していないが、それを気にしている暇などない。
片付けてから二人に近くへ来るように言ってから小さな声で伝える。

「この感じ、久々だけど……近くに海王類が居る」

二人は驚いた後顔を強ばらせてから周りを見て気配を探ろうとする。
ヨーコは「微かに振動は感じる」と言うとマイも頷いてから誰も動かなくなる、このまま通り過ぎるのを待つだけだ。

「この状態であとどれくらいジッとしとかなきゃいけないの?」

「この船は船底だけ海楼石で出来てるから通り過ぎて暫く待ってからなら大丈夫だと思う」

ヨーコの問いに答えてみたが、リーシャもいかせんこんな船に初めて乗るのでかってが分からない。
恐らくという前提で言うとマイは不安そうに俯く。

「ま、適当に何か食べよう」

振動を感じなくなって五分が経つが万全で絶対が保証出来ないので此処で停泊する事になった。
パンやハム、バターにジャム。
魚釣りが中止になったので麦系のご飯となったが不満という不満もない。
寧ろ二人は美味しそうに食べているのでこちらも気にせず食べられる。
ご飯を食べ終わってから休憩したので既に海王類の時から一時間は経過していた。
これならもう大丈夫だろうという事になり船は再び動き出す。

「今日は良い天気のままであって欲しいですね」

空を見上げて言うマイに同意。
船を進めているとマイから何か向こうに黒い煙が見えると報告を受けてヨーコと外へ出る。
確かに微かに黒煙が見えた。
しかし、海賊船とも限らないのでスルーしようか話し合う。

「海賊旗ではなく何かの紋章がみえました」

「馬鹿。偽装してるだけかもしんないでしょっ」

マイにヨーコが怒る。
確かにその可能性もある。
海軍に見つからない安全な航海を望むならそれが一番切り抜け易い。

「様子見する?それとも無視する?」

自分だけの意見は無しとして二人にも選択肢を与える。
考える事を癖にすれば自分に何かあった時に二人は生き残れるようになる筈。
そんな想いを込めて普段は二人の意見を考慮している。
二人は十秒くらいかけて黙るとそれぞれ意見を出す。
マイは様子見でヨーコは取り敢えず見に行く。
リーシャへ最後意見を問われたので躊躇しつつ言う。

「もし海賊だったら困る。それに助けた人達がただの商人でも変な気を起こさないとも限らない……でも、まあ……近付くだけなら、いいかもね」

もし自分一人だったならば進んで船へ向かい人命救助をしていただろう。
けど、今は大事な異世界の子達を預かっている身だ。
彼女達は防御手段を持っているが、自分が人質に取られてしまうなんて本末転倒になる。

「では、船を進めましょうか」

マイに頷くとそれぞれの位置に着いて船へと接近させる。
刻々と近付くと破損が酷く、動かせない状態で所々ボロボロだった。
海に沈むのも時間の問題だろう。
眺めていると船外に人影が見えたので二人に伝えると緊張に満ちたまま寄る。
人影は四人で、一人は怪我を負っているらしくもう一人の人の肩へ捕まって支えられていた。
人影もどんどん細かくなっていき全員が男だと知ると溜息を付く。
さてはて、この船に乗せるには難しくなった。
最悪船を引かせてもらうしかないな、と策を練る。

「おーい!」

どうやらこちらに気が付いて助けて貰おうと手を懸命に振っている。
見て見ぬフリをして捨て置く事も脳裏に浮かぶ。
ここは海、絶海の孤島と同様のシチュエーションだ。
そんな中で女三人に男四人はどう足掻いても最悪の割合。
襲われたら太刀打ち出来ない。

「……如何いたしました?」

飛び移れない距離に止めると冷静な声で訊ねる。

「何故余が名乗らねばならぬのだ。貴様から答えよ」

無駄に装飾品を付けた貴族っぽいアラビアン風の男が言う。
それに顔色を変えるのは傍に居る兵の姿をした人達。

「二人共、ここから離れてさっさと次いくよー」

明らかに貴族の教育を受けたとしか思えない発言にスルースキルを発動させて何もなかったの様に踵を返す。
マイとヨーコは首を傾げながらも従い、マイは舵を取りに戻る。

「貴様!余を誰だと思うておる!?」

「難破した船に乗るただの人間です」

正直に言うと男の顔は赤くなり兵士の顔は青くなる。
このままでは難破した船が沈みお陀仏なのだから青くもなるだろう。
命がかかっているのに身の上が大事なんて何と海を馬鹿にしているのだろう。
此処は一言でもありがとう、とか色々先に言うべき事があるだろう。
こっちが下手に出てみれば何を威張ってるんだか。

「待って下さい!」

「王子の失礼は侘びさせていただきます!」

「お前達!我が国に忠誠を誓っておきながら何を言うておるのだ!」

忠誠の前に死んでしまっては元も子もないだろうに。
王子とやらの偉そうな青年は不服そうにもう一人の従者らしき男へ語りかけた。

「おい、シルバ。余が何か粗相をしたか?」

「はい。王子。今は兎に角助けて貰うことを優先してはどうでしょう」

シルバと呼ばれた男は兵の男達よりも遙かに冷静そうだった。
しかし、既に船は離れている。
マイもヨーコも置いていく意向へ纏まっているようだ。
それでいい、と頷いてから中へ入ろうと扉を開ける。

「待て!そこの女!」

(君は取り敢えず目上の相手の呼び方から改めてね)

取り合う価値もないと呆れる。

「余の国へ連れていけば褒美をやるぞ!」

「へー」

全く興味も出ない。

「リーシャさん」

舵の運転がヨーコに変わったらしくマイが出てきた。
これを見届けるつもりか。

「!?……う、麗しいっ」

「?」

何か変な単語が聞こえた気がする。
二人して振り返ると先程の偉そうな顔付きとは違い、目が情熱に燃えていた。
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