36
久々に島へ着いたので女三人で楽しく買い物を満喫していた。
しかし、こんな所にもあのルーキーの噂や何かは耳に入ってくる。
「トラファルガー・ローがこの島に来てるらしいぞ」
「え!マジか……こんな果物しかない島に……」
「二億……一攫千金狙えるな」
「馬鹿言うな!こっちが死ぬっつうの」
こそこそと人々は色んな思惑を話す。
ローの首を狙おうとするなんて馬鹿な話しを聞いてしまい内心呆れる。
かく言うマイとヨーコもこっそり話し掛けてきた。
「この島にローさんが来てるのね」
「船長さんを狙うだなんて無理な話しですよねえ」
マイはのほほんとそんな事を言う。
それをリーシャに言って何を言って欲しいんだか、と苦笑。
ヨーコは思い出したようにニヤニヤと笑う。
高校生でその笑みはやばい、駄目だと思う。
ただの好奇心旺盛なオジサンみたいだ、なんて言ったらきっと怒るだろう、と想像する。
「あ、でもーあんたならローさんの首狙えるわよね?勿論方法はハニートラップ!」
「花の乙女がそんな言葉、はしたない」
咎めれば大人しく引き下がる少女ではない、マイも楽しそうにニコニコと同感とでも言うように笑っている。
この子達は記者ではなく海賊みたいになった。
その原因であるローを密かに恨む、よくも変な事を仕込んでくれたな。
「誰がハニートラップ何だ?」
「「「え?」」」
三人で振り向くと見知らぬ男が居た。
「何あんた?あたし達の会話に何入ってきてんの」
ヨーコは不機嫌な声音で手厚く睨む。
確かにそこら辺の町人が聞くなんて不審者扱いしてくれと言うようなものだ。
「は?……あ、失念してたな……あー…………いや、すまない」
彼は恐る恐る謝ってきて再度言う。
「いつもは帽子被ってるし、今日は私服だから分からないのは当然だな……俺はペンギンだ」
「ペンギン……?え?」
ペンギンという名前は早々ない、思い出すのはハートの海賊団である船員のペンギンだ。
今の言葉を照らし合わせると彼がそのペンギンと言っている。
「へえ……そうやってあたしらを貶めようとする奴、居るのよね」
「証拠出していただけます?」
「嗚呼。女だから警戒するのは当然だ。これでどうだ?」
彼は、多分ペンギンは懐から電伝虫を取り出してどこかへかける。
その隙に二人はこちらを見てからリーシャの腕を掴む。
「へ?な、何?」
いきなり走り出した二人に必死に足を動かす。
「どこの誰に電話かけてるのか分からないのにのこのこ待っとく訳ないでしょっ」
「仲間を呼んだのかもしれないですし!」
「……あ、あの二人共」
リーシャは彼女達よりも彼等と交流が長い、つまりは。
「さっきの人、声が確かにペンギン本人だったんだけど……」
そう口にすると二人は進めていた足を止める。
ボケッとした顔で目を白黒させる様子に申し訳なく思う。
「確かなわけ?」
ヨーコが念入りに聞いてくるので頷く。
それにマイは罰が悪そうにペンギンが居た方向に目を向ける。
「……と、取り敢えず、買い物の続きしよう?」
ここは年長者として、まとめ役として二人の動揺を鎮火させようと考えた。
宥める為に、少し時間を与えようと提案すると二人は困惑したまま後ろ髪を引かれるように歩き出す。
アイスが目に付くとアイスクリーム屋さんのトラックへ二人を誘う。
美味しそうだと二人の思考を向こうに向けさせてから辺りを見回してペンギンがやって来ていないかを確かめる。
「何味が食べたい?ほら、今回は甘いもの巡りしよっか」
「っ、でも……私達がやるとお金が……」
「この島でもアルバイトするんだから、大丈夫だって」
リーシャは前からやっている夜のお酒の出るお店の接客業。
彼女等二人は未成年というのもあり健全な店を選ぶ。
今回も今日から始めるので資金の心配は差程していない。
「さ、どれ食べる?」
「俺、バニラ」
「そっかバニラねってうわあ!」
後ろから突然声が聞こえて仰け反ると悪戯な顔をした男性がカラカラと笑う。
「うわ、マジで三人共この島に居たんだな……あ、俺シャチ!言っとくけど偽物じゃねーしな!ペンギンも偽物じゃねーしよ!」
それはもう分かっている。
「何で皆私服なの?」
シャチに訊ねたら彼は面倒臭そうに説明し始める。
どうやらこの島は海軍の駐屯があり、おまけに滞在期間も長い。
となれば騒ぎを起こすのは得策ではない、という事でツナギでは駄目なので私服、というスタンスを取る事になったらしい。
「んで?ハニートラップって何だ?ペンギンが言ってたけど」
「「「特に意味はない」」」
それを良くシレッと聞いてくるなあ、と思う。
三人は声を揃えて口封じした。
シャチは気圧されて「お、おお?」と頷く。
しかし、シャチが聞いたのならローにも届いた可能性が高い。
聞かれるだろうな、と回避不可能な未来が見えた。