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ハートの海賊団の船員達、及び船長のローは交戦中であった。
優勢になっているし、鎮圧するまであと少し、そんな中で元気の良い二つの声が聞こえた。
「助太刀するわよ!」
「皆さんお久しぶりです!」
船員達も敵も、どちらも声の聞こえた方に顔を向ける。
どちらも物々しい雰囲気であったのに払拭されても可笑しくない華やかな女の登場に湧いたのは意外にも敵方だった。
「おい女だ!」
「しかも若いぞ、今回の大取りじゃねっ?」
「自ら飛び込んでくるとかバカだなァ」
明らかにアウェーだと思い込んでいる敵の男達と違い、ハートの戦力達は頼もしい彼女らを歓迎する。
「はしゃいで怪我すんなよー」
「元気にしてたか〜」
「つーかタイミング良いなァ」
「実践としては良いんじゃね?」
様々な意見が飛び交う中でマイとヨーコは我先に、となりつつもコンビネーションを発揮して敵を沈めていく。
嘗めていた敵の男達は海賊であり腕に自身があるからこそルーキーを襲った訳で、なのに自分達より明らかに年下で若い少女達の戦闘力に土肝を抜く。
残りの非戦闘員のリーシャはと言うと、マストの陰から二人が怪我をしないかハラハラしながらそれを眺めていた。
危なくなったら船員達がフォローしてくれると分かっているし、危なくないと理解はしているが、やはり怪我をされるのは嫌だ。
非戦闘員だから口も手も出せない、何と痒い気持ちなのだろうと溜息を吐く。
「溜息吐く程不幸な事は起こってねェだろ」
「!?……ローさん……脅かさないで下さいよ……敵かと思ったじゃないですかあ」
後ろを向くと驚く程近くに居たローの姿。
モコモコな帽子を被っている。
ハートのマークが描かれた服を着ていて顔付きは青年と大人の中間、顎髭があってニヒルな口元が良く似合う。
彼はハートの海賊団の船長、トラファルガー・ロー。
マイとヨーコが強くなる手助けをした人物その一だ、因みにその事はまだ許していない。
よってまだ怒っているのだ、だというのにローはズカズカと土足で歩くが如く話しかけてくる。
「私から半径一メートル以内に来ないで下さい」
「クク、まだ根に持ってんのか?」
「とーぜんです!」
「フフフ……そう言われると近寄りたくなるのが人の性だな」
近かったのを更に近くさせるローにジリジリと後ろへ下がる。
「怯えられるともっと苛めたくなるな」
「へへへ変態!」
「変態って言うな、まだ今までの付けも払って貰ってねェしな……何をして貰おうか」
ローは青筋を浮かべて怒ると気を取り直して顎に手を置く。
その仕草がとてもわざとっぽくて憎たらしい。
ローには何かと助けて貰っている。
何か不幸があったときも治療をしてくれたり、船内の中に軟禁されたり。
ロー曰く『自業自得』で軟禁されるのだから公的に犯罪をされているわけだ。
本人は海賊で犯罪者で賞金首で二億というルーキーなので犯罪者をしても何とも思っていないようだ。
そういえば前に銀行強盗と鉢合わせしてしまい人質された時にローが助けに来てくれて、でも犯人達の物であり銀行の物であるお金をもぎ取ったあの金銭はどうしたのだろう。
もしかしてローから貰った中型の船の中の倉庫置き場の中にあったあのお金は……とそこまで考えて怖くなったので思考を中断した。
物音が聞こえなくなった事に気付いて振り返ればそこに立っていたのは敵以外の者達。
つまりは戦闘が終わったらしい。
ホッと安堵の息を漏らすとローに向き直る、まだ目の前に居た。
敵との乱闘中にこちらへやってきたようだから、余程暇なのか、暇ではないのにやってきたのか。
真意はどうかは知らないが、兎に角終わったのならもう此処へ留まる理由はない。
二人を呼び寄せようと声を張り上げ名を呼ぶ。
「終わったなら帰るよー!こっち戻ってきてーっ」
「「え」」
唖然と答えたのは二人だけではなかった、船員達も同じ反応をする。
かく言うローも不満げに声を掛けてくる、どうしてそんな風に反応されるのか。
「折角此処で会ったってのに連れねーな」
「何言ってんですか……ローさん船長でしょ……記者の私達をおいそれと上げるなんて可笑しいんですからね」
今更何を、とでも言いそうなローの言葉を聞く前に二人の方を見る。
すると、二人の前に我先にとやってきた船員達がこちら側の甲板の手摺りにやってきた。