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一隻の船がゆらゆらと波と風に任せて進められていた。
その船からは一人の元気な声が聞こえてくる。

「ご飯出来ましたよー!」

「今行く!」

答えたのは甲板で釣り糸を垂らして魚を釣っていた少女。
この船には三人の女が乗っており、残りの年長者で代表の女性が見張りから「私も!」と声を張り上げる。
望遠鏡を降ろして首に掛けたままマストに掛かるロープを伝った。
魚を釣っていた少女、ヨーコも魚が沢山入ったバケツを持って料理をしていた少女、マイの元へと向かう。
中へ続く扉を開けて入るとエプロン姿のマイがお皿をテーブルに並べている所だった。

「何か異常は有りませんでしたか、リーシャさん」

見張りとして見張り台に居たリーシャへと声を掛けるマイに何も無かったと伝えると椅子に座るヨーコが笑う。

「余程の強者じゃなきゃあたしらが追い払うわよ」

ローの船に乗っていた時に習った護身術をマイとヨーコは物にしていた。
けれど、それは数ヶ月だけのものなので彼等、ハートの海賊団のような戦闘力はない。
彼女等二人は少し前までただの高校生だったのだ、当然だ。
戦えると分かっていても怪我をして欲しくないのが本音、出来れば戦いは避けたい所だ。
しかし、女三人となれば例え積み荷を明け渡して命乞いをしたとしても敵は「うん分かった」と気安く解放等してくれないのは考えるまでもない。
なので死ぬか戦うかの二択となる。
二人は戦えてリーシャは戦えないお荷物なので隠れているか囮になるかしかない。

「二人には比較的大人しくしていて欲しいんだけど……」

二人には絶対に秘密なのだが絶対絶命になった時のとっておきの秘策がある。
それを使うのは果たして何時になるのかは、自分も予測出来ないのでいつでも平気なように覚悟を決めている。

「なーに言ってんの!あたし達は非力じゃないんだから、あんたはとことんあたしらを使いなさい」

ヨーコの言葉に頷くマイ、何だか麦藁海賊団の航海士に似てきている気がする。
それを言うつもりはないが、それも面白そうだと思う。

「貴女達は別に消耗品なんかじゃないから、そんな事出来るわけないし」

リーシャは渋い顔をする。
それにマイがクスクス、と楽しそうに笑う。

「大丈夫ですよ、毎回トラファルガーさんや皆さんが会う度に手合わせして下さってますし。身体が鈍るなんて事もありませんから」

そうなのだ、毎回彼女達はローと会う度に手合わせをしたり訓練、鍛錬を教えられているのだ。
それに納得出来ないのはリーシャだけで、マイとヨーコ、ロー、船員達は進んで教えている。
今日の昼食を咀嚼してから口を開く。

「女の子が生傷はどうかと思うけどさ」

彼女達を乗せると決めた時から敬語を止めた為、少し違和感がまだ残っている。
リーシャの言葉にマイとヨーコは何食わぬ顔で言う。

「ですが、此処は異世界、戦闘力は持っておいた方がいいかと」

「そうよそうよ、あんた不幸体質なんだから余計に必要だと思うし」

「ちょっとヨーコ。すいませんリーシャさん」

「ううん。だって本当の事だし。二人が来る前も結構色んな事に巻き込まれたり、自分から突っ込んだりしてたしね」

そう言ってしみじみと思い出す。
凄く寒い海域に居て死にかけたり。
例えば火事場に居た子供を救おうとして飛び込みローに強制的に助けられたり。
それでローに借りを作ったり。

「何それ。よくそんなので今まで生きてこれたわね。確かにシャチ達からあんたの不幸武勇伝は聞いてたけど」

ヨーコの台詞に船員達はそんな事を伝えているのか、と恥ずかしくなる。
今度会った時は遅いだろうが口止めしとかなければいけない。
特にお喋りなシャチやわざと言うであろうローら辺を特に。
赤くなる顔を隠してひたすらモグモグと口を動かして残りは見張りながら食べようと二人にまた後で、と逃げた。
マイは微笑ましく笑みを浮かべ、ヨーコはニヤニヤと笑みを浮かべている。
二人の性格がよく反映されている、と密かに可愛く思った。
扉を開いてマストへ行くと編み目になっているロープをお皿を持って上る。
首に掛けている望遠鏡をまた掲げると周りをグルリと見回す。

「…………ん?」

(あれって……ローさんの船じゃ……)

ご飯を食べる前は何も無かった海の地平線に目立つ船が見えた。
ただそこにあるだけならば良かったのだが、ハートの海賊団はどうやら海戦中だった。
どうしようと悩む。
戦いが収まってから近寄る、此処へ船を停めておく。
脳内で予定を組み立てておいて、二人の意見も取り入れようかと一旦望遠鏡を降ろして下へ降りる。

「ねえ、海の向こうにローさん達の船があって今敵船と戦ってるみたいなんだけど」

二人に向かって声を掛けると彼女達の目が好戦的に光るのを見てしまい「あ」と言わなきゃ良かったと後悔した。
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