28
宿で一攻防を経てから朝ご飯の時間とお昼ご飯の時間をついでに取ろうと宿を出た。
その際にローも付いてきたのは言わないでもいいだろうか。
最早付いていく理由すら言わない。
昨日の記憶は酒場で飲んでいる途中でブッツンと見事に切れているのでローに聞きたいと思っている。
タイミングを逃してさっき聞くのを忘れたので、お昼前の混んでいないレストラン聞こうと決めた。
ボーイがやってきて何名様でしょうと聞かれ、答える前にローが二名だと言う。
確かに相席してもいいかな、と思ったが、がっつりローがその気なので苦笑。
「で、私に何かご用で?」
「あ?」
「だって、何か言う為に私の所に来たんですよね?」
昨日の事は殆ど覚えていないが、ローが居てるということは何かしら言う事があるという事だ。
そう推測してみて訊ねたのだが、ローは暫し黙ってから口を開く。
「昨日の事は何も覚えてねェのか」
「はい。昨日は飲みすぎて……あれ?二日酔いしてない?私」
昨日の今日ならば苦しんでいる筈の頭痛がない。
ローが薬を飲ませたからとサラッと言う。
ちょっと怖い、助かったが何となく怖い。
「それはご迷惑かけました。でも、ローさんのこと、まだ許してませんから私」
「あ″?」
凄く睨まれた。
だって彼女達の事を黙っていたし、リーシャに隠していたのだ。
「許すもなにもあいつ等は自分で決めたんだ。お前の許可が必要か?」
「……彼女達は普通の子です。何故貴方は良しとしたのですか?貴方さえ断ったら……!」
つい感情が乱れてしまう。
声を荒げないように責める。
ローはくつりと嘲りを浮かべた。
背筋が凍った、何と冷たい目を向けてきた事か。
「俺が乗せなくても商船を使ってお前を追ったと思うぜ?」
「そんな推測……!」
無駄だと口にした。
「二人は落ち込んでた」
それがとうしたと思った。
落ち込ませるのではなく諦めさせたいのだ。
「お前が生きようとしないからこうなる」
見透かした様子でローは突きつけてきた。
「私の勝手です」
ローに対して憤りを感じたのは初めてかもしれない。
「もういいです。これからはローさん達とはもう会わないでしょうし」
「故郷に帰る話しか」
「ええ。お世話になりました」
彼女達には追わせはしない。
「全員手ェ上げろおおォ!!」
何というバットタイミングだろう、レストラン強盗だ。
ローに「尽くお前は不幸に愛されているな」と嫌なお墨付きを貰えた。
折角見納めだと思って別れを言ったのに台無しだ。
強盗は店員を脅しつけて客に動くなと言う。
お金が目当てらしくレジに詰め寄っている。
「助けてやるよ」
「結構です」
最後の最後までお世話になるつもりはない。
楽しそうに笑うのはローが海賊で、あんな強盗なんて一捻りだろう。
その強さを持っている故の余裕。
食べる手を止めたまま十分過ぎた。
もしかして強盗は海軍にでも身代金を要求するつもりなのだろうか。
なかなか立ち去らないので怪訝に思っているとバリーン、とガラスが割れる音と何かが強盗の男の前に転がるのは同時で眩い光が店内に広がる。
「ぐあ!何なんだ!?」
目くらましだと気付いた時には二人の人間が強盗を囲んでいた。
強盗は銃を所持していたのだが手には既に無くて、身柄を拘束される。
「マイ、縄!」
「うんっ」
ぎこちなくはあるが女子高生に出来る筈がない縄結びが行われていた。
あれよあれよと終わった強盗劇に店内はポカーンとしている。
かく言うリーシャも目を白黒させた。
「お前が思う程あいつ等は弱くなかっただろ?」
ローが勝ち誇った笑みでそれ見たことか、とドヤ顔をして言った。
納得、したくない。
ただただそう思った。
「ヨーコ、蹴飛ばす?」
「そうね、お仕置きしなきゃね」
何て勇ましい会話だろうか、本当に蹴り出した。
脅威が去ったと理解した店内に居る人間達はポツポツと拍手をし出す。
(こんな事をさせる為に私は……二人を届けたんじゃない)
依存されたくないし、して欲しくないから降ろしたのだ。
唇を噛むとローがこちらを見て指をリーシャの口元に当てた。
「二人はもう選んだ。お前も諦めろ」
ちゅ、と羽のようにキスされてあっという間に離れたロー。
「フフフ、精々足掻いてみればいい」
憎たらしい笑みを残して彼は店を去る。
海軍が来るから去ったのだと気付いたのは足音が聞こえたからだ。
やってくるのが遅い。
溜息を付くと目の前に陰が出来た。
見なくても分かるが、取り敢えず前を向いて顔を合わせる。
「っ、あ……」
「…………け、怪我してないわよねっ?」
マイとヨーコ。
気まずげに見てくる、こちらが聞きたい。
「二人こそ、間違えれば大怪我してたんですからね」
「……分かって、ます」
「自分の限界くらい分かってるっての……ふん」
二人は船員達に鍛えられたのだろうか。
手際良く犯人を拘束していたし、訓練を積んだのだろう。
「私は今日から、貴女達に敬語使わない」
「「え?」」
これは一線を引く事を止める為だ。
「私は貴女達の望むような人間じゃないよ」
善人でも悪人でもない、普通の人間だ。
「分かってます」
「私達だって褒められた人格じゃないからね」
「それはヨーコだけですから」
「ちょ、そこは同意しなさいよ!」
言い合う二人に自然と頬が緩む。
「あ、笑った……」
「リーシャさんが笑ってくれた!」
ただ笑っただけなのに大袈裟な二人だ。