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そうして、ローの隣に座ったままご飯を食べていると、未だに船員達の視線が身体に突き刺さっているのを感じて居心地の悪さに身体を揺する。
それに隣の海賊の長がどうしたと嫌に渾身的な声で聞いてくるのでジト目で見返して、拗ねた様な声音で言葉を選ぶ。
「周りから凄く見られています、凄く凄く」
「そりゃ、俺達が派手な登場の仕方をしたからだろ」
きっと扉から飛び出してしまった件の事か。
考えれば確かに目立つが、今でも不躾な視線を浴びるには大したことのない中身にしか思えない。
彼等は何事にも興味を抱くがそれでも可笑しい。
「本当は何なんですか?」
「疑り深い奴。でも俺は何も知らねェ」
ニヤリ顔で告げてくる言葉にどうにも煮えきらないリーシャは船員達に向かって何で見るんですか、と大胆にも聞く。
そのいきなりの問いかけに彼等は大袈裟にびくりと肩を揺らし目を泳がせる。
「や?俺等何も知らねーよ?」
「そーそ!何も聞いてねェぜ?」
「船長とリーシャが同じ部屋から出てきた事なんて聞いてねーよ」
「おい!」
「言うんじゃねー!」
「バカ野郎!」
そんな罵倒を聞きながらそんな事かと肩透かしを食らう。
でも説明が面倒だ。
「ローさん、誤解を解いて下さいよ」
「いいんじゃねェか、別に」
別にって、こっちが困るんだけど、と内心放任主義なローに説明してくれと再三頼む。
「こいつとは何もなかった、以上。変な勘繰りは止めろ」
ローの一言で彼等はそうだったのか、とあっさり納得したので威力が有りすぎだと内心苦笑。
ご飯も食べ終わった所で食堂を出るとマイとヨーコが追ってきた。
足音に後ろを振り返るとマイがその、あの、と口をもごもごとさせて何かを言おうとしている。
ヨーコも下を向いて言おうとしかけているのを感じてリーシャはきっかけを作った。
「昨日は部屋から出ていったまま帰らなくてごめんなさい。帰るつもりだったけどローさんに呼び止められて」
「い、いえ!リーシャさんは悪くないです!」
「あたし達があの話で黙り込んじゃったのが悪いのよ……」
「じゃあ……仲直り、です」
手を前に出して仲直りの握手を催促すると二人は互いに目を合わせてリーシャに抱きついた。
「わっ」
握手ではなく抱擁に驚き数歩よろめくと二人の泣きかけの声が耳に響く。
「バカっ。あたし達、昨日どんだけ悩んだと思ってんのよっ。あんたは帰ってこないし!」
「不安でした、なかなか寝られませんでした……リーシャさんはマイペースですね、本当に」
マイは泣き笑いをしていて、リーシャは眉を下げて「怒ってても良いことなんてないからですかね?」と秘訣を二人に教えてあげた。
仲直りしてから、ついに島に辿り着いた。
予めロー達には二人の少女が島に住むという事を伝えていたのでシャチなんかは号泣していた。
「マジで降りちまうのか?」
「ログが溜まるのが一週間らしいから、その間はあたし達もここに出入りするわよ」
「船長さんも良いって言ってくれましたから……」
船員が女が一気に居なくなるからか、残念だと嘆くのがとても賑やかだ。
二人の様子を甲板の端で眺めているとローがいつの間にか隣に来て話しかけてくる。
「お前もこの島であいつらの面倒みるのか」
「アルバイトを見つけるとか、住むとこを探したりするだけです……それより、あの二人から聞きました。お金……餞別を渡したらしいですね」
マイとヨーコから聞いた話しによれば、ローが二人に一週間の生活を保証出来るお金を渡してきたらしい。
どういうつもりなのだろうと不思議に思い話題に出してみれば答えは簡単だった。
「お前だってなけなしの金を渡すつもりだっただろ?そんな事をすればお前の面倒が更に増える、イコール……俺の手間が余計にかかる……そういう事だ」
納得いくような違うような言葉にもう迷惑はかけません!と宣言してみる。
鼻で笑われた、解せない。
「ここに新聞社の支部でもあんのか?」
「いいえ、そうじゃなくて……二人には危険な船旅じゃなくて……安定した陸地で働いてもらうだけです」
真実の八割を述べると彼はへェ、と興味がなさそうに二人を見た。
リーシャだけでいい、危険な旅をするのは。
けれど、その旅にも限界が近付いてきた。
「私、サウスブルーの故郷に帰ろうと思ってます」
突然の報告にローの目が見開かれるのが見えた。
ベポから事前に聞いていた筈だと思っていたので驚いた顔をしたのが意外だった。
「あ、今すぐにって訳じゃありません……もう少しくらいは行ってみようと思います」
一応付け加えると彼はそうかとだけ述べて船の中へ戻った。
見送りをするような性格ではない事を知っていたので、特に気にする事はなく、二人にもうそろそろ行こう、と催促すると頷くのを確認して島に降り立つ。
事前に前の島で治安が良い事を確認していたのでこの島が安全という事は調査済みだ。
そこそこ賑わう市場で、これなら問題は無さそうだと細かく確認していく。
住むのなら住み込みの方が良さげだと思い、酒屋ではなく小さな食堂へと赴いた。
直接交渉ではなく、前から電話で話をきちんとつけていたのでそこも問題なく進む。
二人は不思議そうに最初は見ていたが働くと紹介した時には緊張していながらも頭を下げて真面目ぶりをアピールした。
二人にそのつもりがなくとも店主からすれば真面目に写っただろう。
世間にも疎いのだということを話していたので店主は気遣わしげに二人へ笑いかけていて、初日にしては上々だった。
まだ目が離せないと思っているので、ログが溜まるまではここで二人の近くに居るつもりだ。
「あんた、手際良いわね」
「すぐに働く場所が確保出来た事に驚きました」
「結構前からあの店に電話して働けるように話をしてたんです」
二人の疑問にサラリと答えると高校生の二人は感心した表情でリーシャを見た。