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01
今日もカモメが煩く鳴いていると頭上で眉間に皺を寄せる。

「ぬうう……どうしたもんか……」

「何アホ面晒してんだ」

突然居ない筈の声が聞こえ体を起こす。
すると間近に見知った潜水艦が見え慌てて船の方向を変える。
もう少しでこっちの船が微塵に粉々になるところだった。

「ちょ、私を難破させる気ですか!?」

「するならもっと派手にやる」

ちっとも悪びれていない態度の男はこのグランドラインに入ったばかりのルーキー。

「皮肉やーっ!」

「バラすぞ」

「す、すいませんでした……じゃなくて!」

トラファルガー・ローはリーシャの突っ込みにくつりと笑う。
二人の関係は言うなれば敵というか、追う相手とも言うべきか。
リーシャは記者で相手は長年のスクープ狙いの海賊。
悪態と悪評を記事にしてやると意気込む。

「その悪どい笑みを写真に収めますよ!」

「くく……やれるもんならやってみろ、万年下っぱ記者」

グサッと気にしている事を言われ言葉に詰まる。
ショックを受けているとベポがローの横から顔を出して手を振ってきた。

「ベポくん!私の癒し!」

「もうすぐ昼飯なんだ!リーシャも一緒に食べない?」

ベポのハニーフェイスにうっとりしていると嬉しい申し出があった。
隣にいるローは飽きれ顔を浮かべる。

「ベポ、こいつには生魚で十分だと言ってるだろうが」

「えー?」

「え!?聞き捨てならんですよ!生魚ってお腹壊すよトラファルガー・ローさんよーっ」

ここ最近まともなご飯を食べていないので生魚でも焼けばマシだ。
きっと無人島でも暮らしていけると自分でも思う程昔に比べれば逞しくなった。
染々と思い出していると上から何か降ってくる。
ポコッと頭に直撃。

「あだっ」

「ああ、手が滑った」

ローがそう言って確信犯の笑みを浮かべてロープをベポに渡す。
どうやらロープを投げたらしい。

「これでこっちに来られるねリーシャ!早くおいでよ」

楽園もといベポがにこりと笑みを浮かべて手招く。
しかし、こう易々と敵陣に侵略してしまってよいものか。

「その問いを何回繰り返すんだアホ。とっとと来ねーと船を破壊するぞ」

「ひえええ!暴力反対……!」

ローがジロリと睨んでくるので渋々ロープへ掴まればベポが物ともせずに自身を引き上げてくれる。
こういうところも男らしいと関心すると同時に海賊には勿体無いと思う。

「ベポは男前だねええ」

「もちろんだ!あ、メスグマの情報はあるか!?」

「……滅多にないな……ごめんねベポくん」

でもメスにしか興味がないのが残念だ。
げんなりしていると頭上でゴンッという軽い衝撃があって上を向くと無表情と対面。

「いてて、ローさん……別にベポくんとくらいゆっくり話させて下さいよ……ケチですね、いててててて!」

グリグリグリと刀の柄を頭にめり込まれる。
弱いもの苛めはよくない。

「ごめんなさい、はい、すいませんー!」

謝ると腕を引かれ食堂へ連れていかれる。
本当に毎回ここの食堂にはお世話になっていて感謝しているのだ。
くん、と匂いを嗅ぐと香ばしい香りが鼻孔を擽る。

「この香りは……魚系?」

「おう!マグロだ!」

ベポも同じように鼻を引くつかせた。
そうして食堂の扉を開けるとこれまた見知った顔の男達と目が合う。
またか、という顔で見られるのは慣れっこだ。

(や、慣れちゃダメなんだけどもね)

苦笑しているといつもの席に着かされ船員達が親しげにからかってくる。

「ほい、お前の分だ」

シャチが慣れた様子で専用のお皿とコップを目の前に出してきた。
ありがとうと言えばお前も懲りないなと笑われる。

「船長の悪口を記事にしたら即バラされっぞ?」

「それでもスクープを狙います!新聞が、事件が私を呼んでるので!」

「耳を船長に見てもらえ……」

もう何度も口にしている事を述べればシャチがははは、と乾いた声を出す。
近くに居たローがどれ、と耳を本当に診察しようとしているので結構ですと断る。

「私は本気なんですからねえ!」

「はいはい」

「相変わらずの記者気質だな」

ペンギンが横から言ってくるので勿論だと豪語する。

「その割りには随分厄介な事に巻き込まれるな」

ローがリーシャの伸びた鼻をへし折ってくるのでそんな事はないと言う。
だが、自分でも厄介な出来事に巻き込まれ易い事をひしひしと感じていた。
例えばハリケーンに巻き込まれるだとか、島の人間の喧嘩や夫婦喧嘩等。
上げれば切りがないがそれでも記事になることは沢山ある。
ので……我慢だ!

「我慢の方向を間違ってるぞ」

ペンギンに突っ込まれたが敢えて無視だ。
ムシャムシャとマグロを租借しながら次の島の情報を思い出す。

(金欠をどうにかしないと)

そう、自分には記事よりも差し迫った事がある。
それは金欠という言葉ただ一つ。
所属する新聞会社には一々労災など降りないので自分でお金を工面しなければいけない。
いつも工面する方法は決まっているので特に思い悩むものではなかった。



***



「ようこそ!」

来る客来る客ににこやかな笑顔を送る。
そう、ここは女の戦場……酒場。
手っ取り早く、かつ短期間でお金を手に入れられる職業等相場は決まっている。
きらびやかなドレス。
露出の高い服を着ることは好きではないが慣れた。
こうして惜しげもなく谷間も見せている。
正直自分に他の女性のような谷間は望めないが女である事は一緒なのでオッケイだ。
朝まで笑顔を作るのにも慣れ客を喜ばせお酒を頼ませればこちらのものだと意気込む。
この島は発展しているのでいつもよりも高額の給料を望める。
そこも俄然やる気を起こさせるというものだ。

「リーシャちゃん、新しい氷頼める?」

「はい、只今」

働く女達のヘルプに入るだけでいいと雇い主に言われお客の相手はしなくてもいいという条件付きなのはこの上なく嬉しい。
鼻唄でも歌ってしまいそうな気分で氷を持っていけばすでに新しいお客でお店が賑わう。

「お待たせしまし……た……!?」

前を向けば、

「え、リーシャ!?」

「なんでここにっ」

ハートの海賊団ご一行が酒盛りをしていた。
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