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「またか」

「オキャクサンハジメテミルネ、ダレカトカンチガイシテルヨ」

「……下手くそな」

ペンギンが小さく呟いた言葉にムッとなる。
しかし何か言う前にローが美女達に席を立てと言う。
それに近くにいた船員が残念な声で意見を言ってきた。

「え!船長ー。ここの店は指折りの美女を揃えた酒場なんすよ。なのに勿体無い!」

最近入ったばかりの船員が洩らす反対の言葉にリーシャもそうですよ勿体無い、と加勢。
美女達もそうよと言うがローは額に皺を刻み低い声で告げる。

「俺に命令するな。早く退かねーとこの店を潰すぞ」

「やめてローさん!潰されたら私凄く困っちゃいます!」

その本気の脅しにさすがの美女も怯えてそそくさと店内の奥に去る。
ぽつんと残されたリーシャはそれを見送った。
そして、空いた場所を指して彼は座れと言う。
自分はそういう接客はしない契約なのだと言うとローは軽く舌打ちし能力でツマミとリーシャを入れ替えた。
ドサッと高級か不明のソファに強制的に座らされるとあれよあれよと周りをローとベポで固められる。
ならば後ろからとソファから降りようとすればベポが話そうと腰を掴み身動き出来なくなった。

「す、少しだけなら……だから手を離してベポくん」

已む無く座り直し隣のローは嘲笑うように笑い酒を煽る。
悔しくてこうなればとベポに提案した。

「ね、ベポくん。この店で一番高いお酒頼まない?」

「フフフ……開き直るのが早ェな」

からかわれている声音で言われるが関係無いと好きなだけ言わせておく。

「頼んで欲しけりゃこれくらいさせるもんだ」

と太股の服を上に押し上げながら撫でてくるローに小さく飛び跳ねる。
セクハラだと言うが酒場じゃ普通の事だと言われ、だが自分はそういうのは担当していないと押し切った。
しかし、太股を這い上がる手は止まらない。

「っ」

「ベポ。一番高い酒頼んどけ」

「アイアイ」

ベポは真横で何が行われているのか気付いていないようで、呑気に店員に頼む。
微弱な弾力を付けながらやわやわと触る手に変な感情が胸を支配する。
そろそろヤバイと手を止めさせると手も掴まれ帽子で普段見えにくい黄色と茶色の交ざる瞳に射ぬかれた。

「さっきお前が巻き込まれた女共の争いは俺が原因でな」

「えー。ないわあー」

「俺もうんざりしてた所だ」

「うんざりとかないわー。それを言える男の人は希なんですからねー。ハーレムしたくても出来ない人が世の中には沢山居るんですからねえ」

そう口にするとローはクスリと笑い太股から手を退ける。
やっと離れ安心すると、彼はいきなり腰を掴み引き寄せてきた。

「わ、ちょ」

「いい女が離れていった責任取れよ」

と言われてもローが進んで退かしたくせに。

「お酒は注がせていただきますよーだ」

もうここまでしてしまうと逃げられないと悟り、ひたすら彼等に酒を注ぎ続けた。




翌日二日酔いで寝込んでいると、突然ローが音もなく部屋に侵入してきた。
驚きはするものの頭の方がガンガンと痛くて吐き気も催すので反応は難しい。
いつもの能力を使い入り込んだことは明白でジト目を相手に向けるとそ知らぬ顔でこちらへ来て白い小さな袋を取り出した。

「それは、裏で……入手した、ヤバい粉ですかっ」

「んな訳あるかアホ。頭痛役だ……てめーに粉飲ませて何の得があるんだ」

「いやはい最もなご意見ですね……生意気、言って、すみ、うぷ!」

吐き気に洗面器を引き寄せると近くで袋のカサカサと言う音が聞こえローがそれと水の入ったコップを渡してくる。
受け取り苦そうな粉を口に入れ水で流し込むのを経てベッドに倒れ込む。
ううう、と唸ればローは無計画な奴と罵り去っていった。
せめて労りの言葉が欲しかったと涙をほろりと流し、起きる頃にはこの地獄が終わっていますようにと祈りながら眠りにつく。





次の日は昨日の痛みがなくなりいつも通りの朝を迎え本気でローに感謝した。
彼はとても残忍と言われ実際もそうなのだけれどリーシャにとっては、根は悪い男ではないという認識だ。
昨日もあれこれ言いながらも頼んでもいないのにわざわざ様子を見に来て薬をくれたし、遭難や事件に巻き込まれると助けてくれる。
自分の不甲斐なさが生む問題が圧倒的に多いのにローは見放しはしなかった。
最近はそれが当たり前になってしまったがリーシャの今の力では一人でこれからも生き残れない。
やはりグランドラインを去る方向で検討した方が良いだろう。
露天や店のウィンドーを見ながら歩いていると夜が迫った通り道でベポを見掛ける。
向こうもこちらに気付き手を振ってくるので可愛さにキュンとしながら振り返す。
ドタドタとリーシャの方へ駆けてきた白熊が昨日の一昨日の酒場と昨日の二日酔いについてもう平気なのか、と聞いてきて涙がちょちょぎれそうになった。
ローもベポのこの優しさを少しでも別けてもらえばいいのに、と本人がいたら確実にシバかれることを考える。

「お前は弱いからな」

「ぐっはー!ベポくん言葉のナイフが刺さったんだけどっ」

痛がる演技をして傍にあるベンチへへたり込む。
それにベポも座り並ぶ形で二人はお喋りする。

「分かってるよおお……弱いことくらい。だから故郷に帰ろうって思ってるくらいだし……」

身の程を知る、それがこの海で、この世界で自分のような弱者が生き残れる術なのだから。
それを話すとベポはビクッと巨体を揺らす。

「え!故郷に!?じゃあグランドラインから居なくなるのか!?」

「うん、自分の力ではこの海は渡れないから帰るよ……」

「でも、キャプテンの記事……」

「私よりも良い記者なんてゴロゴロ居るから……それに特に宛てもない船旅だったし」

そう言い終えるとベポはあわあわと挙動不振になり、最後に「俺は、お前の事気に入ってるんだーっ」と惚れそうな言葉を叫びベンチから向こうへ走り去ってしまった。
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