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次に向かったのは自船。
何かあったときように様々なことが起こったとしても、直ぐに行動に移れるように、倉庫へ向かう。
倉庫と言ってもこの船の倉庫なので小さい。

「これ、これ?いや、こ、これ?」

海賊船から貰った(本当は戦利品)お宝やわけの解らないものがある。
ある程度は質屋に売ったりして品数は少ないが、それでも武器や武具の類いは置いていて、それは敵対した人達用にある。

「変なの。うわ、何この瓶」

色がアレなものは無理。
付けたら焼けるというのは、民間人には後々問題になるから排除。
幾つか適当に見繕うと外へ出る。

「!………え?」

太陽の元へ出るとそこに居る筈の無い男が居て、驚く。

「何をしているのかと思えば。何だその腕の中にあるものは」

睨まれている気がしないでもない視線。
というか、本当に何故こんな所へいるのかと疑問符を頭に浮かべるしか出来ない。
電話してから幾分も経過していないのに、どうやってこんなに早く来れたのか。
もしかして悪魔の実を使ったのかと推測し、そうだとしたら驚愕である。
あれは体力を消耗する云々と日頃から溢している。
それくらいは知っていたから余計にローがここへその体力を削って来た事実に動揺する。

「これは、反撃出来る物ってやつです」

簡潔に言わねば、他に言いようがない。
もごもごと欲しがっているだろう事を告げるとぺちょっと音がするヌルヌルする液体の入った瓶を見たのか、男の目が嫌そうに歪めた。
仕方ないじゃないか、そういう為にあるものなんだから。
相手を太陽の光を浴びていると、ローが一歩距離を縮めてきてキョトンとなる。
別に何か相手の機嫌を悪くさせるような事はしていないと思うのだが、ローのスイッチはどこにあるのか知らないから、何かを踏み抜いていたとしても、全くこちらは感知出来ない。
何を言うのだろうと待っていると彼は溜め息でなく舌打ちをかましてくる。
首を傾げると「おれはお前のなんだ?」と今更何をと言いたい事を問うてくるので、暫し唖然として、ハッとなって、気を張る。
こういう類いの事を聞いてくるときは正解に近い事を言わなければ不機嫌が頂点を突き破る。
神妙になり、必死に頭をフル回転させた。

「恋人、とか?」

「………まァ、良い」

ホッとした。

「恋人に頼むときは、対価がいる。今回はキツくない駆け引きでやってやっても良い」

「あ、はいっ」

それはあれか、もしかして、遠回しに手伝ってくれると言っているのかも。
それを直に感じとると頬に朱がさす。
言葉に詰まると胸に熱いものがグッとせり上がってくる。
吐き気じゃない、ムネアツな感情。
ボケてみたよ。

「ありがとう、ローさん」

「………ん。ほら、持ってくるんだろ………下に降りるぞ」

フイッと顔を背ける。
こういう空気は苦手だが、恋人になったのだから少しは身を委ねる時は作るべきだろう。
それがそういう仲の義務なのだから。
下へ降りると船員達も見当たらないので一人で来たのだと知る。
でも、これからどこへ行くのだろう。
受け身で起こす何かはどこで起こるのか解らない。
寧ろ、起こるのかも疑問がある。
まぁ今回は一般人に敵意を抱かれているから、襲撃されるのは殆どパーセント的にはゼロに等しい。
二人して歩いていると町中へ入るのか、ローが先導して先を行く。
自分だと変な憶測を呼びかねないし。
妥当な距離感を保ち町を練り歩く。
何をしたいのか解らなくて彼を仰ぎ見るとクスッと音になら無いものを浮かべる。

「種を巻いている。刈り取るのが楽しみだ」

何か企んでいるのは分かった。
そのままカフェへ入るのでこの人正気かと思った。
そんな威圧感とか引っ提げてどこへ入ろうとしているのか自覚しているのかと。
カフェとはオシャンティで女ばかりが割合を占める空間。
浮きまくるのは目に見えている。

「ここの店は止めておいた方が」

「人気のチョコケーキがあるって誰か言ってたから」

「え?え?」

「お前は嫌いなのか?」

「い、いいえ、私も好きですが」

どうしてか会話が一向に進まない。
誰か幹事とか進行役の方はいらっしゃいませんかあー。

(ローさんってこんなんだっけ)

なんというか、一話、げふんげふん。
危ないメタ発言するところだった。

(もっと、こう、なんというか、解らないけどさあ)

刺々しいとかでなく、そう、堅かった印象があった。
距離があった、心の距離的なもの。
それがいつの間にかプライベートスペースなるものの近さが危ういくらい近い。
土足厳禁な場所にグワッと入ってくる大胆さ。
甘ったるい場所に連れていってくれる気持ちは大変嬉しいので大人しく入る。
当然お店へ入るときに前方から視線が飛んできて、ローへ集中。
色んな意味の視線を受ける中で堂々と歩く。
そんなローを羨望の眼差しで見る。
椅子に座ると色彩豊かなパッションでなく、落ち着いた色のメニュー票が渡された。
チョコレートケーキとやらを頼む。
ここにわざわざ来て他を頼むのもなんだかなぁ、と思ったし。
ローはケロリとした顔でバニラケーキを頼んでいる。
オイオイ、チョコレートがオススメなんじゃなかったのかい。

「チョコよりバニラな気分なんだ」

そうですか、と返す。
店員を待つこと数分、ローと頻繁ではないがぽつぽつ話していると運ばれてきた。
どうやらチョコレートケーキが先に到着したのでお先にぱくりと食べさせてもらう。
フォークで割るとしっとりした感触。
なるほど、こっちのタイプだったのか。

「どうなんだ」

意外にローが感想を聞いてきた。
聞かれるとは思っていなかったが、慌てる事なく美味しいと言う。

「へェ。情報網はしっかりしてるな」

ローはもたらされた情報を確かめるためにもここに来たような口振りだ。
食べているとバニラケーキもやってきた。
ローはフォークを手に取ると一口でケーキの半分を食べてしまう。
雑だ。
もうちょっと味わわないのかとびっくりしたではないか。
そういえば他の料理でもこんな風であったな。
ローを見ながらケーキを食べると先に食べ終わったのは彼の方で、コーヒーを啜り出す。
リーシャはまだケーキを食べている。
飲み物を飲みながら味わうようにする。
だってローと違ってお金が無駄になるような大雑把な食べ方はしたくない。
折角の甘味なのだから。
甘さに舌鼓を打つ。
それも遂に無くなってしまい、最後の一口は名残惜しく食べた。
ローはリーシャが食べ終わると椅子から立ち上がるので見ていると腕を引かれるので必然と付いていき出ていく。
次はどこに行くのだろうと付いていくとあの雪合戦の試合場に近い所へ来た。
そこを練習場として使っているのが見えた。
色んな人が雪合戦の練習をしていて、そこにはマイとヨーコ、ハートの船員達も居る。

「あいつらが船に来て練習相手としてやってくれって、頼んできた」

目をぱちくりとさせて見ているとローがホロッと口を開く。
えっ、そんな事聞いていない。

「どうしてって顔してんな」

だって、そんな事言われてもないし。
ふて腐れた顔でローを見るとまた隠して彼女達に協力していたのだと詰る。

「お前は反対か?これは戦いだ」

「彼女達は一般人だと言うのに………」

怪我をしたらこの世界の人間のように直ぐに治るか分からないのだから。
ローに分かって欲しくてジイッと見つめると彼も同じように見てくる。
これではバカなカップルみたいに周りから見られるからそろそろ止めよう。
ツィィ、と目を逸らして彼女達を見学。
凄く一途なアスリートに思える。

「そろそろ諦めて認めてやれば良いと思う」

「認めるも何も、最初から認めてます。でも、彼女達が強くありたいと思うのは自分達の為ではなく第三者の為なんです」

「別にそれでも良いだろ」

「優先順位が彼女達は可笑しい。間違えている。私は何もしないからといって、守るというのは違います。ローさんにも言えますけど。私はただのんびりな生活をしたいだけなのです」

「お前は何も分かってねェな。第三者だからこそ頑張れる奴だっているんだ。おれもそうだしな」

「船員達の為、とかありきたりな事を言うんですか?」

「どうだろうな。あいつらはおれの為に鍛えている。あいつらの為に鍛えるのも可笑しな話しになってくるけどな」

「なんですそれ」

ふふっ、と笑みが溢れてローのあやふやな物言いに珍しさも感じた。

「彼女達には傷とか付けて欲しくないワガママな理由なんです。只」

「可愛らしい理由だ」

「ぷ。可愛らしいとかミスチョイスな発言はちょっと」

「お前こそ笑うなよ」

ローとほっこりするのかもしれないやり取りをする。
いつの間にか終わっていた練習。
マイ達がこちらへやってくるのが見える。

「リーシャーっ」

声を掛けられて手を振ってくるのでリーシャも振り返す。
このトラブル体質はまた厄介な事を運んでくるだろうから、皆が近くに居た方が良い。
ローを見ると瞬間、マフラーを引き寄せられ、いや、引っ張られてチュ、と小さな音を立てて頬に唇を当てた。
ぱっと離れるが、いつもより軽めなスキンシップに逆に痒くなる。

「じゃあ、大会楽しみにしてるぜ」

ローはサクサクと音を立てて去っていき、その後ろを船員達が自由に付いていく。
ヨーコ達も傍に来て暖かいところへ入りたいと言うので向こうの建物を指す。
寒い寒いと言う子達が我先にと暖を取る為に早足で追い越す。
ふ、と頬に雪が付いて、ぽっぽ、と降りだした雪が空から見えた。
上を向くと灰色の空があって、目を細める。

「早くー」

呼ばれて前を向くと沢山の足音がある地面を踏みしめ直して返事をした。
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