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シュババッと物陰、もといクローゼットの片隅へ隠れる。
ガクブルと揺れる身体を押し込めてそろっと相手に居るだろう場所を見ると長身の陰。
男なのだろう。
手とか声で分かっていたが勝ち目が余程無くなった。

「まるで猫みてェ」

くつくつと喉を震わせて述べられた言葉にカッと顔に血が登って身体を戦慄かせる。
言わせておけば。
一言言ってやる。

「てめーざけんなよどついてやろかクソやろうおめーなんてコッペパンみたいに潰してやんよペコペコでへなへなにしてやろうかああああああああん?」

ノンブレスで言った。
良くやった、良く言った自分。
褒め称えようと己を燃え滾らせる。

「くくくく、笑わせるなっ、くくくくく!」

爆笑してきたのでムカっとなる。
笑わせてないし。
何故こんなに笑われなければいけないんだと口を開こうとするが先に遮られる。

「っ、はー、お前は頭に血が登ると周りが見えなくなるみてェだな。前もあったが、ちゃんと顔を確認しろ」

息を整えた男がまるでこちらの事を知っているような口振りで語りかけてくる。
声だけで誰か当てるのはとても無理で、苦手なのに。
でも、男の言葉に騙されて見ると襲いかかってくるかもしれない疑心は当然ある。
易々と相手の思惑に乗るものか。
前にもこんな感じの事があったと些細な事だったが思い出し頭の隅に引っかかる物が出来る。
オチが読めそうな、読めないような。
唸って優柔不断な思考に気を取られていると腰をツゥー、と撫でられるこそばゆい感覚に背筋も身体も微弱に震える。

「っ〜〜〜!」

意を現実に引き戻すには過激なやり方。
下がるように離れようとするが、相手の方が上手だった。

「考えことが出来るなんて余裕だな」

「え!ローさん!?何故ここにっ?」

ここに居る筈が無いからこそ候補として外していたのに。
呆気に取られていると唇を塞がれて酸欠にされる。
色々と思うところのあるキスにちょっとだけ悪かったかもしれないと思う。
でも、巻き込みたくはなかったから言わなかった。
それにしても先回りし過ぎやしないか。
どうやら此処の人間に持て成されているらしい。
どうやら例のマーマンの姫(姫プレイの方の意味)に気に入られてお呼ばれしたらしい。
顔だけはやたらルックスが上なだけに出来た事だろう。

「折角だ。お前も泊まれ」

でも、勝手に良いものか。

「おれは一言だってフリーだなんて言ってない。勝手に向こうがこちらを引き止めただけだ」

「此処に悪女がおる」

悪男は言いにくいし語呂悪いから。

「煩ェ。良いから泊まれ」

「でもでもマイ達がまだこの場所に居るんです」

「いや、それは別に差したる問題でもねェ………スキャン」

「え!」

「………きゃっ」

ドサッという音に振り向くと話題の二人が何が起きたんだという混乱した顔で座り込んでいる。
此方を見た時に目が合うとローを見て驚愕した。

「どうして此処に貴方が?」

「てか、リーシャ!居なくなったから探してたんだけど!?」

「ごめん。ローさんに引き込まれて……」

言い訳の仕様は幾らでもあったので全てローに擦り付けよう。
擦り込んでいるとローはそれをスルーして二人に事を聞く。
それはアリサが攫われたというのと、それにより潜入したウマだ。

「へェ。女同士の喧嘩なんて白けるが、それは面白そうだな」

ローも興味津々なご様子である。
野次馬根性は誰にでもあると説に唱えられるような物言いだ。
方向性も一致したことによりローが手筈や手引をしてくれる事になった。
頼らないつもりだったのに結局ローにおんぶ抱っこされてしまう。
それはそれは楽しくなるとマイ達はその余興を楽しみにしている。
それを削ぐのもなんだか悪いような気がして、今回はローの実力を計算に入れながら、自分もしっかり周りを見ようと念を入れた。
自分だけでも冷静に見ていれば何かの危機に及ぶのも多少は少なくなる、かもしれないし。
夜に行われる宴会まで各船員達が泊まっている部屋へ匿ってもらう事となる。
その際に変装とまではいかなくても船員という肩書を仮に得る為にツナギを着用する事となる。
女でもツナギを着ていれば下手にツッコまれまい。
戦士達には顔バレしているからヨーコ曰く眼鏡を掛ければバレる可能性が少なくなると言われたので三人はメガネもした。
伊達なのだが、いつの間に買っていたのだと内心問いたくなったが別に聞くまでも無いかと聞くのを止める。

「バレるんじゃねェか?」

「ヨーコ達はバレないって確信してるみたいです。四人も居たのにアリサを選んだのですからお察し、との見解なので私も納得です」

きっとあの戦士達には女を見る目が無い。
何故ならあのアリサへんたい を選びご丁寧に攫ったから、という。
ヨーコの無駄のない説得力には今回かなり心を動かされた。
変態を選ぶなんて普通に生きていれば見分けられるのに、目利きが機能していなく、余程女に触れる機会がなかったのだろう。
この島を支配するエセ女王に上手く利用されているのを知っているので更に説得力は強くなる。
ローはちらりと会ったらしい。
ローの顔を気に入ったようだというのは自他共に確信している、らしかった。
ローはとても自信家だからか、それはブレない。

「嗚呼。そうだ。今回は流石に恋人の扱いはしないで下さいね。お気に入りのローさんが粉掛けてたら矛先はこっちに来ますし」

目を付けている男に恋人が居ると知ったらどんな真似をしてくるか分かったもんじゃない。

「まァ今回は仕方ねェ。が、万が一向こうが妙な真似したら首を取るから安心しろ」

別の意味で夜も寝られなくなるけどね。
夢見も後味も最悪だ。

「それはそれは頼もしい」

白々しく棒読みなのはお察し。
そういうエグいのは流石にノーサンキューである。
ローは後から楽しめなくなると言って背中から覆い被さるように抱きしめてきた。
首筋に唇が押し当てられリーシャはキョドる。
何度されても慣れない。

「お前がツナギを着ているところを見るのは何気に初めてだな」

楽しそうな声音で囁いて後ろにあるジッパーをジジジと下げる。
恥ずかしくなり身を捩ってみたが離す気はないらしい。
試しに喉が乾かないかと聞いてみた。
ボトルやお酒を持ってくる口実だ。
彼は唇を離して指を向こうに向け、あそこにあるからと持って来るように言ってきた。
逃れられる、と期待に頷くと瓶を時間を掛けて持ち寄る。
後ろを振り返るとベッドに座っていた。
そこには座らないで欲しかった。
なし崩しって抗えないから。
嫌々という雰囲気でグラスをローに渡して立ったままグラスにお酒を注ぐ。
リーシャにも進めてくるが変な風に酔うと困るから断る。
彼は氷の入ったグラスを回すと上目でこちらを見る。
ドキリとなって顔を背ける。

「こっち向け」

「………………ローさんが見ないのならば」

俯いて返す。
ローがどう見ても狙っていて言っているとしか思えない。
もじもじとなるのは性ではないが、それでも落ち着かなくなる。
こういう色気に免疫が切実に欲しくなるというものだ。

「恋愛の駆け引きが恐ろしく下手か、わざと下手に見せてるのか」

「え?駆け引き?」

「どっちだ?」

「どっちでもありません」

白けた眼を向けて無関心に徹する。
駆け引きなんていう高度なお遊びはしないし今後もない。
只ローに転がされるだけで終わる。

「そんなにお酒飲んで明日の作戦に支障を来しても知りませんからね」

「酔ったら介抱してくれんだろ?」

「真面目に返させてもらうのなら、ローさんは重たすぎて文字通り荷が重くて運べませんから……」

引きずるのだって無理だ。
隣に座って弁論していたらローが屈んで唇を合わせてきた。
直ぐに離れたが酷く決まりが悪い。
相手の目を見れなくて俯く。
手をキュッと握り拳を作る手だけを見つめて早くこの時間が終わってくれと祈る。

「!」

グラスをテーブルに置く音に過剰に反応してしまった。
誤魔化すように息を顰めて視界の端に写るローのアザラシ柄のズボンをチラリと見る。
そのアザラシ柄のズボンが微かに動いたと思ったら耳にアルコールで焼けた吐息が掛かった。
ヒュッと息を吐く音は自分のもの。
元々この部屋に入った瞬間から逃げ果せると思っていなかったが、それでも足掻いてみせたのだ。
自分にしては上出来な戦果。
上を向いてローの顔を覗き込むと琥珀とブラウンを混ぜた色の瞳とかち合う。

「最近色気づいてきたんじゃねェのか」

「そんな事を言われても自分では分かりませんよ」

勇気を出して見上げたのに。
ムスクれて反論するとローは「大歓迎だ」と掠れた声で言う。
くっ、そのテノールの声音で掠れ声とはあざとい。

「お前から攻めてこい」

「………?」

物理的に攻撃してこいと?
ローが言うのならと拳を作った。

「おい、誰がヤれって言った。膝に乗り上げて雰囲気を作れと言ったんだ馬鹿」

雰囲気をぶち壊す馬鹿発言。
無理だそんな高度な技術は。
反抗心が起きてローと距離を取ろうと動くが腰を絡め取られている為に前後に動くのは不可能になっていた。
ん!と力んで唇へぶつけた。
あまりの勢いにローが後ろへ傾く。

「これで、良いですか?良いですよね?もう行きますね」

二人一部屋で取った部屋だが恥ずかしくて一秒でも居たくない。
そう思って言うとローがお遊びじゃねェんだよと意味の分からない事を言う。
いや、キスはお遊びだと思うけれど。

「おれが教えてやるからしっかりと覚えていけ」

と言うや否や顎を固定して唇を重ねてきた。
ああ今日もきっちり翻弄されるコースが決定したと最早諦めの境地で受け入れる。

「っ、は」

「………………!」

少しだけ積極的に応じてみたら何故か凄く反応を示したローはガッツクように攻めを激しくさせてきた。
何かに触れてしまったのかもしれない。
恥ずかしさで後悔が巡る間にも、ローがいきなり身体を抱きしめるように足を動かすとクラリと目眩。

「あ、もう無理で」

息苦しさに顔を離そうとする。

「駄目だ。もう一回さっきのしてこい」

駄目だとか子供みたいな言い方されても。
アレをもう一度とは羞恥心で死ねる。
ローはトドメを刺したいのか。

「嫌です無理」

「無理じゃねェ。さっきやれただろ」

それはその場の勢いという物だ。

「無理む」

言葉の途中で啄まれて飲み込まれる。

「ふ、う」

「ほら」

合図を持ち出される。
何かツボったのかそれを数回足されることになるのであった。
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