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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
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今の経過を報告しよう。
アリサが攫われた。
うん、これにつきます。
全く、プロポーズされて殴って満足している間にヒョイっと攫われた。
不覚であるがコレも運命。
果ては、すわ、置いてくか助けに行くか。
会議をしている。
助けに行く一票、助けなくても幸せにしているだろう二票。
三人居て一票の差は辛い。
説得も難しい人数なのに、助けに行くのを断念。
というか、そもそもどこに居るのか分からないのだ。

「あ、場所なら分かりますよ。あの人のビブルカード作って一片千切って持ってます」

用意周到な有能女子マイが告げる。
因みにビブルカードは全員念のため作ってある。
悲劇と不運に見舞われる回数が多過ぎて作るのは必然であった。
リーシャの場合ローに一片を千切られた過去を持つ。
マイとヨーコの内の誰かが告げ口したからローが知ってしまったのを知ってるんだぞっ。
告げ口は、そういうのはいけません。
千切った時の彼の言い分は「交換してやる」というノリで押し付けられたローのビブルカード一片。
ローも作ってたんだな、という気持ちは置いといて、持ち逃げされたらそれこそ隠れた時に不利じゃね、とこっそり思いました。
隠れてもどうせローの見聞色とかいう離れ技で見つけられるとは思うけど。

「なんか、また来やがった!」

ヨーコの悲鳴に近い叫びが聞こえて慌てて向くとそこにはニヤッと笑う男達。
さっきの戦士達とは違うゴロツキ感。
無法者の気配がする男達は笑みを保ったまま「上玉」と言う。
どこの世界の男でも言う内容は差が無い。
今度は戦士と違ってフォームも人数もバラバラで少ない。
あっという間に蹴散らしてマイが怒る。

「こんなに馬鹿にされるって事が許せません。万死に値します。壊滅させるべきかと」

マイが何に怒っているのかというと甲板は水浸しで小さくても暴れた場所には傷が付いて慰藉料請求したいという理由。
乗り込んだらそれこそ相手の思う壺なんではないだろうか。
でも、助けにいけるという口実にもなっているので行こうとなる。
案内役はのしたゴロツキ系の男だ。
ボッコボコな顔面で声も絶え絶えだが、案内されて行く。

「っ……!再会の因果が強いなあ」

目の前に突如海がボコッと盛り上がり次いで黄色い潜水艦が姿を現す。
今回は手を借りずにいようと思っていたのに。
悔しい気持ちだ。
ガコンっと扉が縦に開いて陰が見える。

「もっと嬉しそうな顔くらいしたらどうだ?」

ニヤッとした顔のままローは歩みをこちらへ寄こす。
貼り付けた笑みを薄っすら浮かべて歓迎の言葉を掛ける。
スマイルスマイル。

「偶然ですね皆さん」

「ああ。今回も何か厄介事に見舞われたんだな……あれは魚人?」

マストに括り付けられた男を見て眉を下げるロー。
眉間にシワを寄せて思案した風に見ている。
当たりだ、と頷く。

「で?」

「襲われたけど撃退しました。もう終わった事です」

苦笑の笑みを作り浮かべて困ったものだという雰囲気を出す。
これで帰ってくれたら良いのだが。
自分達はもう行くと言ってロー達を船から出そうと動く。

「そういやァ、アリサって女が見当たらねェな」

見聞色で居ないのがバレてしまう前に島に置いてきたと嘘を付く。

「遂に降ろしたのか」

納得顔で船に戻っていくロー達を見て安堵。
海の中へ戻っていくのを見送り船はアリサの居る場所へ行く。
少し離れていたが、目的の島へ着いた。
男には襲わないという契約書にサインさせて、もし同じ事をしたらマリージョアへ直接持っていくと脅す。
マリージョアはこの間新世界へ移動し本拠地を移しつつあるのだから行き易い。
島に降りるとそれ程大きくない事が判明。
これなら戦士達が居る場所へ直ぐに着けそうだ。
因みにその人達の場所には地図にバツを捕虜に付けてもらっているので分かっている。

「なんだか、変な島ですね」

マイが目を細めて周りを見てから感想。
何処を見ても寂れていてガタガタな印象だ。
何年も放置されている家のような島。
入り口の歩道は整備されている。
無法地帯もびっくりの荒れ具合。
そんな場所を女三人が歩いているとぞろぞろとどこに潜んでいたのかマーマン達が姿を現し警戒度はMAX。
怠らない、一歩でも気を抜けば何をされるか分からない状態でいれば、一番歳を取っている男、老人が前に出る。
何か変なことをするのだろうかと身構えていると彼は話し出す。

「もしかして、貴方達は今回連れてこられた花嫁様のご友人ですかな?」

「なぁにがご友人よ!攫っておいて開き直ってるの?」

蔑んでいる目で周りを睨みつけるヨーコ。
呑気に友人かと問われたらそりゃあ文句も出る。
マーマンは困ったように声を小さくして「申し訳ない」と何故か謝ってくる。
というか、結婚の災難多いな最近。

「何故貴方が謝るんです?」

謝るのなら攫った張本人達に土下座してもらいたい。
それが無理なら数発殴らせろと言いたい。
老人は謝った理由を語り出す。
正直聞きたくもないし、時間が惜しい。
こういう場合の会話って長いし。
彼の言い訳という名のお話を要約すると、何でも島に唯一の女であり人である巫女様が自分の世話係の女を連れてきて欲しいとマーマンの親衛隊に命じたから花嫁という名の拉致を行ったのだという。
話を聞いている間にぶん殴らなかった己を誰か褒めて。
そんでもってこの男達はボコボコ決定だ。
この島の地下断層に火薬詰めたって許されるよね?
地震起こして天変地異で滅ぼしたって良いよね?
どんだけ自分勝手な自己中巫女様?
死ぬの?ねぇ。
ふつふつと殺意的なものが芽生える。
船を襲ったという下らない理由にこめかみが引くつく。
この人達に命を語る資格なんて一回も存在しない。
だから、案内してもらおう。
少しお話して、ね?
にっこりと笑みを浮かべたリーシャに許してもらえると勘違いした男達。
女という生き物を知らないようだ。
巫女とやらに上手く手の平で踊らされているような男どもだから仕方ない。
だが、これならこっちだって利用してやる。
王女の支配する島の脆さを、欠点を突き付けてやろう。
楽しくなりそうだ。
撒いた種が上手く芽吹きますように。

「巫女様とやらがこの島に居る経緯が聞きたいです」

ちょっと笑みを浮かべたらころっと騙される老人。
ペラペラと良く話すこと。
お陰で遠回りになったが、良い情報を得られた。
彼女は陸で生きていたが親に身売りされ背負わされて生きてきた。
はい、それ完全に詐欺られる手口〜。
なになに?
今回は悪女VS悪女の回なの?
内の元悪女さんは普通の悪女じゃないから簡単に負けるとは思えない。
純粋なドMに勝るものってなかなかにお目にかかれないと思う。
それは是非近くで見てみたい。
観戦したい、めっちゃ見たいです。
言ったら見れるとかないかな。

「私それ見たい!」

「私もみたいです!」

二人も同じ気持ちだったようだ。
そうと決まれば乗り込むのは決まったよう。
二人も戦う気で、勝てる計算をしている。
言われた場所に向かうと遠目からあの戦士の姿をした魚人が槍を立てて立っていた。
門番のつもりなのだろうか。
人を攫っておいて門番が一人なんて油断し過ぎである。
これを気に暴れさせてもらおうではないかと二人も意気込んで、その意気で城へと進む。
門番がこちらに気付いて慌てて中へ入って知らせようとしていることから、自分達の情報は知っていると見た。

「行きます」

マイが颯爽と走って門番を気絶させる。
騒がれたら城に入れなくなるからという判断が素晴らし過ぎて拍手を心の中で送っておく。
ここで音を立てるのは得策ではない。
順調にその後も上手く門を通過でき、スルスルと中へ入っていく。
姫とやらはどこに居るんでしょうね。
多分一番上だと思う。
身分が上の人間って上階好きだもん。
という訳で上を目指すことになった。
幸い警備は少人数のおかげであっという間に着いた。
手薄にも程がある。
その人間の女には海軍でお縄に掛かってもらう予定だ。
そう言えば、行く時に気になった言葉が聞こえてきた。
何だかVIPな客が来ているらしく城の中が妙にてんやわんやしている。
なんなんだろう、雰囲気や言葉からアリサの名前が出てこなかったので彼女の事ではなさそうだが。
三人で顔を見合わせて作戦続行する。
なんだが某泥棒アニメみたいだ。
わくわくドキドキする。
二人が先にある部屋を偵察しに行くからちょっと待っていて欲しいと言われ素直に頷き見送った。
そうして、二人が見えなくなった時、ニュッと出現した何かに口元を抑えられ、目隠しされる。

(く、見つかった!?)

暴れるが相手の方が力が強くあからさまに抵抗しても無駄になった。
あぐあぐと唸っていると浅黒い手に噛み付こうと口を捻る。

「静かにしてろ」

「む、ん?」

どこかで聞いたことがあるような。
うーん、どうしたんだろうか。
何なのだろうか、頭の隅にモヤモヤした物がモヤつく。
思考を回しているとズルズルとその間に引き摺られる。
一つの部屋に連れて行かれてパタンと扉が閉められるので絶望した。
このまま好きにされるのは嫌だ。
また思い出したように暴れるが、全く訳が分からないまま状況は飲めない。
ググググ、と腕を外そうと頑張るが駄目だ。
項垂れる訳にもいかない。
うーんうーんと唸って離せと言うが全く通じない。
くそう、とムカつく腹で複雑な気持ちになる。
弱いなあ、やっぱり自分は。
はぁ、と息を吐き出すとズルズルとした振動が止む。
もしかしてベッドに付いてしまった。
のかもしれない。
きっと、あれこれ好きにされるんだ。
甜められたもんだ。

「もう話しても良いぞ」

話してもというは喋っても良いという事なのだろうか。
バッと離れて反射神経を必死に削ってグルンと旋回した。
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