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冷静になろうと深呼吸をしたり己の身体と向き合い、また混乱して。
やっと落ち着くのに1時間と二分を要した。
自分のことには折り合いがついたものの、皆の女の姿にはまだ混乱を極めている。
ついでにマイ達はどうしているかというと、男の身体になったのだったらと、組手をしているらしい。
もう一時間も姿を見ていない。
だが、きっとまた困惑したりするから今はまだ心の準備で忙しかったり。
次はロー達と向き合う。
ベポを見ると睫毛がバサバサとなってどこからどう見てもメスグマである。
お目目がパチパチしているのでプリチー(死語)だ。
毛もいつもよりふんわり仕様である。
心無しか耳の近くにリボンという幻影が見える。
テディベアもびっくりな可愛さ満載。
女子三人セットはもうベポに会ったのか。
是非その可愛さを語り合いたい。
ベポに眼を奪われてローに声を掛けられ、ハッと意識を戻す。
いけない、メルヘン突入間際だった。
気を取り直し、ローを見る。

「………ローさん、どうやら私達は相容れない運命のようです。今までありがとうございました。さようならっ」

ダッと走って去ろうとするとガッチリ後ろの襟を掴まれた。
女の身体のくせにリーシャよりも怪力だ。
羨ましい。

「なにいきなり意味が分からない事を言う?ちゃんと説明してからせめて去れ」

「こ、こういう時は知らないフリをして見送るところなんですーっ!」

ブウブウと愚痴を告げる。
だがローは顔色を全く変えない。
胸元を恨めしく見続けると、ローも何故逃亡しだしたのかと合点がいったらしい。
いやいや、もっと早く気付いて欲しかった。
惨めったらしいったらありゃしないのだ。

「こんなの只重くて邪魔な脂肪の塊じゃねーか」

心底理解出来ないという声音。
それにピクリとなるのは女だからという他無い。

「こんなの?脂肪?重たい?」

リーシャの負のオーラが漂いローも己が失言したと自覚し口元を閉じる。

「私は今まで重たいとか邪魔とか思った事ははいですねー。良いですねー、思えて。つまりは、ローさんは胸なんて必要ないってことですね?分かりました。じゃあ金輪際私の胸には指一本触れないで下さいね?」

自分はあまり胸だとか顔などに頓着しない。
だからと言って、羨ましくないとは言い切れないわけで。
女なりに、大きかったら大きかったで嬉しかったのだ。
周りの女性が一人も洩れず巨乳。
だから、それなりに落ち込む事もあれば、別に気にしなくても良いかと、思う時もある。
でも、男だったロー達ですら巨乳なのだ。
羨ましさはいつもの五倍。
眼が冷ややかに細くなるリーシャの発言に狼狽するのは目の前の男。

「なんだその理屈は。別に自分の今までなかった部分に違和感を持ってるから邪魔に決まってるだろ」

ローの言う発言は理に適っており、しかし、だからと言ってそれもそうですね、なんて言わない。

「え?別にその胸はローさんのなんで好きに言えば宜しい。私だって好きにしますから」

プイッと横を向く。
それより何故ローの方が慌ててるんだか。
普通はシレッとしているだろうと予期していたからこそ逃げ出したのに。
こんなに反応されるなんて意外である。
それとも、胸に触るな発言が核心を揺らしたのだろう。
だとしたら呆れる根性である。
そもそも今は男だし、この身体の仕組みに慣れなくてはいけない。
トイレとかも色々大変そうだ。
その後、運が良いのか悪いのか………島が見えたと見張り人から報告さられた。
その見張り人も例に洩れずガッツリ女だ。
この船は現在海賊達にだってヨダレ必須の天国である。
しかし、その実、女として襲えば無残な死体の仲間入りになるだろう。
ローなんてプライドが刺激されて余計に悲惨な結末待ったなしだ。
鏡を見たら平凡な待ち人Gら辺の容姿だった。
別に勇ましくも美しくもない。
くうう、でも、別にそれでいいや。
色々な感情がせめぎ合う中、どうにもこうにも納得する他なかった。

「おい」

そろそろ外に出ようと服を吟味しているとノック無しにガチャリと扉が開く。

「その男言葉は止めたほうが」

「んな事出来るか」

「強気美人男勝りですね分かります」

そういうキャラとしてやるならば止めない。
頷くとローはそんな会話をスルーし、本題を言う。
可愛い顔なのに。

「デートするから来い」

「嫌です」

きっぱり。

「なんだと?」

ソプラノ声が怖い。
ちょっとビビるが、こっちだってそんな余裕はないのだ。

「やめて下さい。只でさえこの身体慣れていない上に、貴方と行動するなんて………無理です」

正論をぶっ飛ばす。
疲れるし、多分精神的にも辛い。
外に出るには出るが。

「成程」

ローは暫し考えた後また述べた。

「おれが手解きしてやる。手取り足取り」

「あ、良かった。腰云々言われなくて」

ホッとしたのもつかの間。

「分かってるんなら言う必要もないしな」

ニヤッとその美が邪に歪む。
どっちの分かってるって意味ですか。
え、もしかしてそういう?

「ささささ最低!近寄るな〜!」

ササッと枕を前に盾にして言う。
叫ぶとローはクスッと笑ってシナを作る。
くそう、似合ってる。

「優しくしてあげる」

「うっ!」

目と耳に毒。
でも、女言葉なんてプライドが許さないと思っていたのに案外あっさり言う。
ローはまた笑うとじゃあな、と去る。
また男言葉。
直すにも一時なものっぽいのでそんな必要もなさそうだ。
それにしても女になっても色香は変わらない。
あんな真似は自分には出来そうにない。
悔しいけど納得なレベル。
ローにされるがままなんて………抗ってみせる!
というのも時間の問題だろう。
うぬぬぬ。
絶対に負けない。
彼女(今は男)達に相談したってどうせニヤニヤされて終わりだろう。
有耶無耶うやむや に出来ないだろうかと期待。
そんな気持ちと裏腹にローと出掛けるように船員達もグルになられた。
セコい、セコ過ぎる。
攻め立てる間もなく、引き摺られた。
こっちの身体は男なのに女のローに負けている。
引き摺られるのは変わらず、ローに渋々ついて行かざる負えない。
筋肉付けようかなあ、と思う。
でも、ぶっちゃけ凄く面倒なのでやっぱり止めた。
思考から終了まで僅か十秒の短時間での会議。
鍛えたとしてもローに敵うようになるのは想像も出来ない上に、絶対に三日坊主で根を上げる事になりそうだ。
なので、諦めた。
なすがままローと外に出る。
町に入ると目が幾つも突き刺さるので、頬がピクッと引き攣った。
男の恨みがましい視線に身体が緊張に蝕まれる。

(こええー!)

助けて、とローに縋る。
しかし、ローはきょとんとした顔で首を傾げた。
いやいやいやいや!何首傾げてんだ!
と叫びたくなる。
分からないの?この禍々しい目の数々に、男達の歪んだ鬼気迫る表情がっ。
可笑しい、可笑しい。
この男は何でこう………ケロッとしていられるんだろう。
疑問に思ってローを見ているとそこでローが男ではなく、今は女になっていた事を思い出す。
うわわ、もしかして……………ローが女だから自分がこんな理不尽極まりない視線をグサグサ刺してくるんじゃないか?と推理してみる。
良く良く見てみると、ローは所謂美人だ。
しかも、ボインだ。
体型はモデルの比にならないナイスバディな物だ。
それを傍目から見て、つまりは、彼は今リーシャを伴ってデートしていると思われる。
うう、そうと分かっていたら初めから腕なんて絡めなかったのに。
苦々しく思うと同時に項垂れた。
ローに男達の視線とそれが辛いと伝えるとニヤニヤと笑って、それから、ギンっと睨みつけた。
それを周囲に撒く。
ぼんやり周りを見ると男の眼光に怯えて情けない声音を上げた。
ざまああ、と敵を取ってくれたローに有り難うと言う。
スッキリした気持ちになった。
ローに連れて行かれる場所はサーカスのような大道芸をしていたりするのを見た。
彼はちらりとそれを見て直ぐに何かを考える仕草をする。
何を考えているのだろうか。
そっちが気になって自分もローにいつ考えている内容を聞くかタイミングが掴めない。
ウィンドウショッピングをしているとローが徐ろに店の一つへ入っていき、一緒に行く。
腕を掴まれているので行くしか無い。
あまり行かないのに、ローが吟味していく。
服を当てるローに声を恐る恐る掛ける。

「何をしてるんです?」

「服を選んでるが?」

淡々と楽しそうに言うロー。
服を選ばれているのだと知り、別に欲しくないと言うけれど、相手は構わずに選んでいく。
そして、ポイポイとカゴに入れていく。
値段を見ていない。
簡単に入れていく様にオロオロとなる。
しかし、彼は入れ終わるとカゴをレジに持っていく。
止める間もなく。
あっという間にレジで精算された。

「いつ女に戻るかも分からないのに………」

暗い顔で言うとローは笑う。

「女物だって買っただろ」

ドヤ顔で言う。
そうだけど………と詰まる。
ローが楽しそうなのでまあ良いかと投げやりに外へ出た。
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