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目が覚める前に彼女らの叫び声が聞こえて本能的に目が開いた。
部屋に飛び込んできたのを見てから落ち着くようにと言い含める。
でも、全く落ちつかない様子に話しを聞いた方が良いだろうと判断してどうしたのだと相手に問う。

「海軍がっ、リーシャさんに………懸賞金をかけたんです!」

んな馬鹿など唖然としていると、目の前の手配書が目に入り、そこには二千ベリーとデットとドライブの文字。
生死問わず。
酷く現実味のないもの。
ははは、と乾いた笑いが出てきて、涙が溢れる。
何もしていない、何をしたというのか。

「これ、夢だきっと、夢だ………」

自我が消沈して、夢を覚ます為に頬を引っ叩いた。





「てぇ、夢を見た訳です」

「夢の内容よりも夢で頬を叩いて覚めた事にびっくりだなおい」

暇だったので今朝の話をするつもりでローに話しかけたらそんな軽快なツッコミを貰った。
ローって奴は天然かと思えばある程度のツッコミも出来る器用さんなのである。
リーシャはローと居る時は大抵ボケて、三人娘と居る時はツッコミが多い。
これも役割というものだろう。
ツッコミが居るととてつもなく安定した気持ちでボケられるんだな。
ローは優秀なボケだから、安心して会話が出来る。
うんうん、夢の内容に偽りがないものの、現実味を帯びそうだ。
めっちゃ怖い。
追加のお話しであざな 、つまりは二つ名もご丁寧に夢に出ていたと伝える。

「よし、当ててやろう」

「いやこれクイズとかじゃあ」

「弱腰」

止める前にさっさと言ってしまうローに違うと叫ぶ。
弱腰とかもうそれ嫌味とか悪口の類だ。
そんなレッテルみたいなものを二つ名にするのなら四皇は『大悪魔』とか『勢力独占するな』とか言われてしまう。
なんて嫌な手配書なんだ。
なまじ、海軍の手で作られているのだから、悪口の宝庫だろうし。

「不幸体質か?」

「惜しい、不運体質です」

「道化のバギーも悪運とか言われて海軍にスカウトされてた。お前にもきっと何か良いことが起こるさ」

「権力に眼を付けられるって時点で不幸ですよ、それ」

ジト眼で見るとローがまあまあと宥めるからイラッとした。
もうちょっと慰めにきて欲しいのに遊ばれているのが不服だ。
ローみたいにカッコイイ二つ名が良い。
もし、仮に二つ名が付けられるのならば。
その話しを三人にもしたら皆で皆の二つ名を考えてみようという会話になって、今は何故か自分を含めて四人で集まって顔を突き合わせている。

「あんたの不幸体質は外せないわよね」

「外せなかったら私考える意味無くない?しかも外してよ。普通の、せめて極一般の付けて」

ヨーコの言葉に反論して懇願する。
ローならそれで良いとでも言いそうな気がするが、自分も出来ればマシな名前にされたいと思うのが人の性だ。

「幸薄」

「あまり変わんない」

ヨーコに突っ込むとマイも言う。
絶対二人共楽しんでるな。

「じゃあ、指導者は」

「指導者?そんな大逸れたものはちょっと」

只成り行きで集まったのに指導も何も無いと思う。
大体、リーシャに何も言われなくても自活出来るので指導も必要ない。
ある意味独り立ち出来る程の戦闘力があるからリーシャなんて精々プライベートの纏め役みたいな物だ。
まあこの中で戦闘力が無いのは自分とアリサなのでバランスはドッコイドッコイである。
おんぶ抱っこの状態だが二人は嫌々ではないので助かっている。
ゆっくりではあったがこの生活が板に付いたのは、イコール、生活が比較的楽になったということ。
最初は二人を食べさせるのに気を回して自分のことがおざなりであったが、今は余裕を持てている。
こうやって嗜むものもやや水準が良いものだ。

「うーん、じゃあリーダーとかはどう?」

「手配書でそれは小物臭が………」

間抜け感が凄まじい。
次はお菓子やスナックが出てきた。
いつの間に持ってきてたんだ。
しかもお茶まで出てきている。
これは会話が長引きそうだ。
楽しいのは周りだけで、こっちは変な二つ名を否定したり突っ込んだりする。
大変であった。
次々と出てくる割に結局これといったものは決まらなかった。



引き続きローの船へ滞在している最中。
今日も平和に過ごせるんだろうなー、と漠然と感じているとそういう一日にはならなかった。
結果的に自ずと滞在せざるおえない状況を作り出してしまっている自覚がある為に静かに目立たないように過ごしている。
しかし、そこを放っておいてくれないのがローという男。
一人でゆっくりまったり本を読んでいるといつの間にか部屋にやってきて担がれ、船長室兼ローの自室に連れて行かれた。
ローも物好きな性格だな。
わざわざやってきて連れてくるなんて几帳面な所がある。
本もついでとばかりに己の手の内にあるから持っていても良いらしい。
この本はファンタジーで魔法のある世界のお話しだ。
所々悪魔の実が登場するので現実と空想が融合した設定。
勿論印刷技術はこの世界にある。
しかし、海軍や大きなバックがなければ印刷なんて簡単に出来ない。
これは手書きのようだ。
ローの自室に連れて行かれた後、ローもソファに座り医学書関連とお見受けする本を手に読み出した。
只傍に居ているだけで良いらしい。
物好きだな、とまた思う。
そう思いつつものんびりとした時間を過ごした。
漸くローから開放される時、彼からあまり外には出ないようにと言われて首を傾げる。
別にローの言う内容に対して反発する理由もないが、何かしらの不確定要素が外にはあるのかと深く考えてしまうのは知恵のある生物故の業だ。
性質とも言う。
顔にありありと疑問が浮かんでいたからかローがククク、と喉を震わせる。

「そういう所はおれ達と似てるな。好奇心が強い」

「いえいえ、ローさんが出るなと言うような事があるのかと思うのは当然ですよ」

強いローが言うという事はそれだけ重要な筈。
というのが、普通の摂理である。
弱いからリーシャに警告してくれるローは優しい。

「なんだその生暖かい眼は」

怪訝そうに且つ、不服そうに指摘してくるローに何でもないと首を横にして誤魔化す。
此処でお仕置きされたくないのであった。

「まァ良い。これからアクティブという海域に向かう。そこでは不思議な成分で出来ている霧が発生しているらしい。それに触れると何が起きるのかは知らないが、触れない方が賢明だ」

「それって、外に居なくても意味がないような」

霧って事はつまり、気体な訳だ。
部屋の隙間を通るから部屋に充満してくる。
苦笑しながら言うとローは薄っすらと笑みを浮かべて「まァな」と言う。
え、それって良いのか?
でも、言うということはそれなりに脅威であるという事だ。
彼は本を開けると読み出す。
この空気が変わる前に部屋を抜けると自室として宛てがわれていた部屋に入る。

(ねむうい………)

眼がショボショボしてきたのでベッドに潜り込んで睡魔のままに意識を手放す。



眼が覚めると部屋の外の騒がしさに脳がフル稼働し始める。
覚醒しだす脳にのそりと起き上がるとベッドから降りた。
まだ少しふらつくが何とか扉へ向かい廊下へ行く。
どうしてこんなに可笑しい程騒がしいのかと疑問を抱きながら廊下を進むと騒動の源を見付けて、そこを開ける。
テンパっている声音が聞こえた。
それと同時にヤケに声の質がソプラノだな、と内心疑問になる。
女性でも上げてハーレムパーティだろうかとローが許可しなさそうな事を考えていた。

「………………!?」

暫しの無言を経て、思考は最高に混乱。
まるで夢でも見ているようだ。
女達がこの船の正装であるツナギを着ている。
それに、見覚えのある帽子も。
扉を開けたこちらを一点に、つまりはリーシャを見ている。
その視線に耐えかねて扉へとUターン。
待て待て待てぇ!と呼び止められる事に恐怖した。
言葉遣いまでも真似ている。
危機に恐る恐る後ろを向く。

「も、もしかして………リーシャ………か?」

「!、な、何故私の名前を!?」

見覚えのない女に名前を当てられ、警戒が増す。
こんなに大量の女性達に囲まれてこっちだって頭がこんがらがっているのである。
警戒するなと言うのも無理な状況。
左右を見渡していると一人の女がこちらへ闊歩してくるので観察。
というか、その帽子とアザラシの模様をしたズボンに海賊船の自シンボルの服はローの物で、もしかして本人から盗んだのかと信じられない可能性が過る。
彼から道具一式を盗むなんてどんな強者?
ヒヤリと嫌な汗が落ちる。

「今、この船では男が女に、女が男になるという意味不明な自体が起きている」

「………………はい?つまり、貴方は男?だったんですか?」

「嗚呼。そして、お前も男になってる」

指摘されて手や胸元をマジマジと見つめる。
胸元をスラー、と触り真っ平らとはまた違う堅さ、及び女には無い器官が太腿の間に感じられる。
起きたばかりで脳があまりに動いてなかったせいで今まで全く気にしてなかった。

「お、男になってるうー」

半眼になって呟くと目の前の美女はふむ、と顎に手を当てる。

「やっぱりお前は冷静だな」

「いやいやいやいや、全く冷静なんかじゃ、凄いパニクってます。逆に冷静になったって感じですよ」

「そうか。取り敢えずは暫く様子見になる」

何となく彼女がロー本人なのだろうと確信した。
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