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ゲームボードの上に鎮座する駒を見て顔をテーブルに半ば崩れ落ちるように突っ伏させた。
「やっぱり負けたあああ!」
うおおおと泣くリーシャの背中を慰めるように擦るベポ。
船員達も終わった余興にバラバラと部屋を出ていく。
その際に「ご愁傷様」やら「頑張ったな」などの言葉が聞こえ自分が負けたと更に思い知るだけであった。
シャチも相手が悪かっただけだと言うがそれをもっともっと早く言って欲しい。
目の前には悪魔の顔をするローがまた貸しが一つだなと言うのでそろりと顔を上げる。
他に貸しがあったかと疑問を投げ掛けると周りは呆れたように笑う。
「何回お前の遭難や不運を助けたと思ってる。こっちは慈善事業でやってんじゃねーんだ。タダだと思うなよ」
「頼んでないのに来る時もあるのにですかあ?」
「はァ?……この船に乗ってる時点で俺がルールだ」
そう言われグッと喉に反論が押し留まってしまう。
海賊の長がルールと言うにはかなり説得力はあるが自分は船員でもないのにと不満が残る。
「じゃ、じゃあ次から……助けないで下さいよおお……自分で何とかできますもん」
「どーだかな」
めちゃくちゃ信用していない返しに次こそは絶対自分の力で乗り気ってやると意気込んだ。
島に着くとすっかり体調も改善しており下船した。
もちろん社会人としてちゃんとローにも降りる前にお礼を言うのは忘れない。
賭けの何でも言うことを聞くのは機会がある時に使うと言うので無茶なことを今日明日に言われなくて済むと安堵。
町へ繰り出すと取り敢えずバイトを探した。
「で……何で彼等が……不幸だ」
この島には幾つも酒場があるのに依りにも寄ってこの酒場を貸し切りにしてきたハートの海賊団ご一行。
今回も狙ったわけではないと感じたのは島でも指折りの美女達が揃う酒場だからと納得。
規模が大きな酒場は自ずと給料も高額なのだが次からは小さい場所を選ぶ方が良いかもしれない。
そしてこの店は酒場と夜の店を伴って運営している。
自分は短期であくまで酒場のみのバーガール。
オーナーにもオンリーで良いと言われているので夜の店は美女達に任せる。
そう思いながら美女を数人両脇に侍らすトラファルガー・ローの写真を何となく撮った。
弱味を握りニヤリと笑みを浮かべると鞄に写真をし舞い込み厨房の仕事を手伝う。
こうなればずっとここにいようと決めサクサクと進める。
「ジャガイモ洗う……と」
頼まれた事をする為に裏に行けばそこには地に膝を付けて正に下戸真っ最中なシャチとばったり出くわす。
相手がこちらを向く前に顔を背け移動した。
「危な」
もう少しでバレる所だったと胸を押さえつつ芋を洗う。
その作業を終えて戻ればそこで何故か美女達が怒っていた。
「私が先よ!」
「後輩のくせに生意気よ」
ここは店員の通る通路で、そこで言い合っているということは何かトラブルなのか。
それを内心苦笑して見ていると取っ組み合いが行われどうしようと慌てる。
騒がしさに他の店員も何事だと見に来て止めようとした。
「店の中で揉めるな!」
ついにオーナーが現れ二人を止めにかかるがあまりの気迫と勢いにオーナーも弾かれ、それに巻き込まれる勢いでオーナーがリーシャとぶつかる。
「うぶ!」
ドンと押され弾き飛ばされると地べたに這いつくばる形で転ぶ。
「え!リーシャが飛んできた!」
声に上を向くとベポが居てローとも目線が確実に合わさった。