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露店を宛もなく彷徨いていると前から少し前にも見た事がある私服を着込んでいるペンギンが見えて慌てて無意識に横を向き商品見る姿を取る。
何故一人なのかと聞かれたら理由を言うのが面倒臭いのであまり聞かれたくない。
それ故の逃避をしているととても横から視線を感じてきっとペンギンが見ているんだなあと苦笑。
横に女性を伴わせているようで「ペンギン?」と慣れた声音で甘えるような発音をする。
まさかの女連れに内心デートか何かだろうと思っているとペンギンが歩き出したのか女の方の声でペラペラと話している様子で距離が遠くなっていくのが分かり安堵。
良かった放っておいてくれて。
これがローだったりベポだったらそうはならなかっただろう。
彼が来たという事はもしかしたらローに電話をしてしまうかもしれないので早めに此処から去ろうと歩き出す。
「あっれ?お前何で一人何だ?」
「う………何で皆此処に集中してるの」
小さく唸ると声を掛けてきたシャチに向き直る。
ペンギン同様に隣に女が居てこちらを見てにこりとしているが、微かに上から下まで見たかと思えば鼻で音もなく笑う。
それに今は腹の虫がざわついていたのでムカムカしてやつ当りも含めてやり返す。
「シャチさん。お金払ってないのなら彼女はオススメしないなー。今私を見て見下してきたし。性格悪いから下手したら寝首掛かれるんじゃない?お金払ってるのならドンマイ」
にっこりと女に笑みを与えてシャチの肩に手を置く。
あはは、と笑って歩き出すとシャチが慌てた声で「おいっ」と呼び止めてくるので止まると彼は何か言いたそうに言い淀むとまた歩幅を進めて人の波に沿って紛れる。
何だかスッキリとして清々しいので息抜きにちゃんと声にだそうかな、とスキップしたくなった。
こんなに発散させたのは久しぶりだ。
また適当に時間を潰しておく。
色んなものを見ていると隣に誰かの気配を感じて横を向くと人の良さそうな笑みを浮かべた男性。
こちらに気付いた男性はにこりと更に笑みを深めて話しけてくる。
「こんにちは。とても良い品ばかりですね」
「こんにちは。そうですね」
にこりと笑みを返して猫を被る。
余所行きの顔と声で話しを続けると彼も連れが居たが画家の男が彼女だけをご所望して一人で寂しく店を回っていたらしい。
同じ境遇だったので勝手に親近感を湧かせて盛り上がって話していると既に数分も時が経っていて男性が腕の時計を見てからもうそろそろ彼女の所に戻ると言ったので別れを告げて後ろ姿を見送る。
リーシャも皆を迎えに行こうと先程の道を通り画家の元へ行く。
昼の時間だし何処かへ食べに行きたい。
お腹も空いてきた。
特に何かをした訳ではないが歩いているだけでもエネルギーを減らしていくのできっとお腹がエネルギーを求めているのだろう。
画家の居た広場に行くと、なぜか複数のキャンバスを立てている画家らしき者達に囲まれてデッサン人形のように円の中でポージングをさせられている三人。
えええ、一人だけだったのに視線を集中させて、あまりにも公開させすぎやしないか。
美術の島とは理解していたがもうかなりの時間を使っているので休憩させなければ。
彼女達がこちらに気付いてヘルプと顔が言っている。
今助けに行くからね。
「あのー」
最初に声掛けしてきた画家に話しかけると邪魔をするなと言わんばかりの形相でこちらを見てきた。
頼んだのはそっちなのにいつの間に酷使していたのだろう。
「そろそろ時間なんで。此処までにしといて下さい。お昼の時間ですし。ほら、皆行こう」
有無を言わせる前に先手で声掛けして彼女達が安堵の表情でポージングを解く。
その時、目の前に居た例の男がガッと立ち上がる。
いきなりこちらに対して怒鳴りつけてきた。
「被写体を無断で動かす事は許さない!勝手な事をするな!」
「えーっと、お昼までなら構わないと初めに言いましたよね?貴方、それで構わないって言いました」
「予定が変わることだってある!そんな事も分からないのか!?」
画家ってこんなに癇癪持ちなのか?
耳を塞ぎたくなるレベルだ。
一々大声で言わなくても聞こえてるってーの。
「予定はこちらにもあるんで。では失礼します」
皆が集まったので行こうとすると「部外者はすっこんでろ!」と肩をドン!と押される。
痛みに顔を顰 めて後ろに倒れていく。
受け身を取れる筈もなく尻餅を付いてしまい手首にビリリ、と神経痛を感じた。
(あちゃー。捻ったかも)
モロに地面に手を付いてしまったからだろう。
「何すんのよ!こんな真似してタダで済むとか思ってんの!?海軍に連絡してやる!逮捕されろ!この変人共っ」
ヨーコが電伝虫を取り出し掛けてそれをアリサに押し付ける。
「リーシャさん。大丈夫ですか?こっちが何も言わないからってちょっと調子に乗ってますか?最低な人でなしですね」
マイはこちらを気遣ってから底冷えする笑みで前に居る集団を睨む。
恩を仇で返すとはこのこと。
「もしもし、海軍さん?」
アリサは特に感想がないらしく本当に海軍に連絡している。
慰謝料取ってやると一発触発の雰囲気だ。
「海軍?はっ、残念だが、我々はこの島では重宝されている。よって捕まるのは貴様らだ」
違う画家が自信たっぷりに言う。
いやいや、流石に傷害事件だろうから海軍だってこの男を捕まえる。
と数分前は思っていたのに、尋問されていた。
海軍の駐屯所にて。
なんでだあ!?
悪いのは完全に向こうなのに。
「だから、向こうが突き飛ばしてきたんですって」
好い加減捻挫した腕もどうにかしたい。
腫れてきたようで地味に痛くなる。
「悪いのは君だ」
何言い含めようとしてんだこいつめ。
賄賂でも受け取ってんのか?
痛みで口調が荒々しくなってきた。
「何を根拠に」
「彼は普段から人の良い、市民からも信頼が厚く」
それから無意味につらつらと話す海兵に苛ついてくる。
挙句の果てに。
「君だって若いうちから犯罪歴を背負いたくはないだろう?」
脅して来やがりましたぜ。
腐ってるよここ。
ここに腐敗した物があるよー、臭い臭ーい。
うんざりだと仰け反り海兵の男に諭されては脅される。
汚職塗れにも程がある。
頭真っ二つに割れてくんないかなこの人。
そしたら脳味噌とそこら辺に居る虫の脳を入れてあげられるのにな。
思考を現実から引き離しているとバタバタと足音が聞こえて扉が外れそうな勢いで開き、海兵が入ってくる。
「今直ぐそこの、ええっと!彼女を外へっ」
言っている事が単発で何言ってんだと神経を更に疑う。
尋問していた男もどうしたんだ、落ち着けと言うが、静まるどころかテンパって収集がついていない。
兎に角と急かす男に尋問海兵は渋々といった感じで立ち上がってリーシャの腕を乱暴に掴む。
腹が立ったので声を出して痛いと言ってやる。
呼びにきた海兵が焦って乱暴に扱うんじゃねェ!と海兵を叱るので乱暴男は恐縮していく。
ざまあって感じ。
怒られてやんの。
いっそ罪悪感を生み出して増幅させてこの男に植え込みたくなる。
報復してやろう、絶対。
実は、捕まる一寸前に四人共々捕まるかと思われたが、何を思ったが画家達が被写体は残しておけと海兵に言ったので自動的に一人だけが尋問される事となり今に至る。
なあにが残しとけだ。
完全に海軍とグルだと馬鹿でも分かる絵図というか構図というか。
はあ、と連れて行かれながら回想をして、改めて息を吐く。
自体は深刻だと受け止め、ここはもう泣き付く事しか選択肢はなさそうだ。
「やっと出てきたか。金で腐った奴らは流石に自分達の立場を心得ているようで何よりだ」
嘲笑が聞こえて横を向くと、ソファに座って足を悠々と組んでこちらを見ているローが居た。
きょとんとしていると隣に居る尋問野郎の息を呑む音と緊張に孕む汗の匂いに嗚咽を感じた。
近いから汗臭い。
離れたいと嫌悪感を隠さずに眉を顰めていると、遂にローがクスッと笑う。
笑われるとは思わなかったのか、海兵達はヒッと情け無い声を出し、また部屋の温度が変化した。
「拷問はされてねェか?」
「そんな真似はしていません」
「てめーら無能になんて聞いてねーよ」
海兵が先程の押し付けがましさとアウェイと脅しの数々だった尋問を棚に上げてそう言い腐る。
けれど、それもローがバッサリと切り捨てた。
七武海だからこそ言えるその猛威に海兵は尻込みしたのかそれ以上言うことはなかった。
「で?勿論慰謝料は貰えるんだよな」
「「慰謝料!?」」
「いや、ローさん。私は別に」
「お前は黙って見てろ」
こちらもバッサリ言われて閉口する。
助けてもらった身だ、敢えて言うことを聞こう。
そこまで何かを無くすまでの事でもないし。
ローに任せておけば良いかもしれない。
前に王族のプチ泥沼陰謀に巻き込まれた時も良く立ち回ってくれたと聞いている。
「そうだ、慰謝料。一度言うだけじゃ、足りねェってか?」
相手が上手く成り行きを掴めていないのを察知して言葉を重ねる。
やはり、海軍にお金を支払っているからか、譲らない様子だ。
「捕縛の際の免罪。尋問内に寄る人権侵害。及び、精神の苦痛による名誉毀損罪。さて、いくらになるのか楽しみだな」
(お、おおー。凄く海兵っぽい)
海軍の駒としての権力をフルに使っていると窺える。
ローは手をフラッとこちらに近付けて肩を掴んできた。
そのまま引かれてローの居る方向へ体が傾く。
こちらがたたらを踏むと確認して直ぐに向きが変わり扉が視界に見えてローは先導しながら海軍の駐屯所を後にした。