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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
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何が起きたのかを説明………したいがぶっちゃけ覚えていないので説明出来ない。
しかし、ローと犯人の男が戸惑った様子で言っていた。

「まさかガラスになった人間が話せる等………前代未聞です………」

「その前に言うことがあんだろ。殺すぞてめェ」

ローは額を青筋で埋め尽くし男を鋭く睨み付けると男は震え上がる。
何だか記憶が暗闇になる前の事をあまり思い出せない。
気付くとマイ達に抱きしめられていた。
ごめんなさいと涙ぐんだ声で言われて困っていると船員達が助け舟を出してくれたりと、何を謝っているのかを理解してマイ達が無事で良かったと嬉しくてこちらも抱き締める事となる。
それにしても、ガラスになっても話せたとは正に信じられない眉唾ものである。
ローの見解と推理を聞くと、彼は能力者達の数々のレパートリーに富んだものを今まで沢山受けてきて耐性が生まれつつあるのだろうと談。
此処に来て耐性とかかなり遅い覚醒だな。
もっと早く開花していてくれていれば六分の一の割合での能力者達による被害が抑えられただろうに。
それよりも能力者はあまり居ない筈なのに結構な遭遇率だなと遠い目になってしまう。
能力者に何かされると抗う術がほぼ無いので出来れば会いたくないのだ。
そういえばアリサの姿が見当たらない。
辺りを見回しても居ないので首を傾げるとマイ達が居るけれど部屋に居るらしい。
こっちが戻ったのに此処に居ないなんて自由な女だと納得と諦め。
まあ別に激動を送られたい訳ではないので構いはしない。
いつもの事であるし、また不幸が起きたというだけ。
ローには感謝しなくては。
わざわざ助け出してくれたし、声も聞き届いたらしい。
そんな記憶はないけれど。
でも、ついに力を付けつつあるのは良い兆し。
嬉しさに頬を緩める。
浸っていると拘束されている男が何やら慈悲やらと命乞いをし始めた。
それを聞いてもちっとも心が動かない。
もっと冷えていく気持ちに歯止めはないのである。
何故慈悲を与えなければいけないのだろう。
なにか良いことをされたから?
ローに脅されて元に戻したから?
商品を油断させる為にガラスにしたから?
謝ったから?
人間だから?
許すような事をされたと思っていないから?
疑問が溢れてどんどん暗い感情が出てくる。
商人はガラスにして売ろうとした。
現にマイが目玉商品として出されていたというのだから許せる訳もない。
既に何かしらの罰を受けたのだろうが、今回やったことがバレたからというだけなのだ。
バレなかったら売られていたし、この男はそれ以降も人をガラスにしていただろうと想像に難しくない。
拳を握ってツカツカと回れ右をして自船へ行く。
呼び止められるが何も言わずに武器庫(極小)へ赴きメリケンサックを手に取り薄いタオルを巻きつける。
殴っている最中に破けて棘が露出してもそれは不幸な事故なのだ………。
足を踏み出すとぎしりと船が揺らぐ。

(よし、天気は明日も未確定)

平行線の海を背に商船へ乗り移った。




ガラス化事件(某船員命名)の後、ローの船に暫くご厄介になる事になった。
一応社交辞令として断ったのだがローが船長のせいでノーが通らないのはお察しである。
ガラスになっている時の記憶が無いのであまり被害者だと実感がない。
大変だったなー、と船員達に言われるものの、そんな気持ちも無いので曖昧に笑うしか出来なかった。
彼女達も同じような感じで「まあね」とぼかしている。
そんな事件の後としては合格レベルなのほほんとしている時間。
こういう日常が欲しいのだ。
こうやって甲板でのんびり日向ぼっこが出来るようなほのぼのとした気候の下で眠くなってくるような静けさ。
背筋の筋肉を伸ばして解して伸びをすると近くにリスが近寄ってきた。
この子はガラスとして購入したリスの置物だった動物だ。
リーシャの部屋でお腹を好かせていたので木の実を上げて少しだけ一緒に過ごしたら少しは信用してくれたのか近付いてくれるようになった。
まだ撫でさせてはくれないのは野生だったせいだろう。
そんなのは気長に接すれば良いので構わない。
只近付いてくれるだけで嬉しいのだ。
伸び伸びと背中を椅子に預けていると膝裏にモフっとした物が乗っかり目を開けるとリスがこちらを見て首を傾げてクリクリした目が見えて頬を緩める。
可愛いな、と目を細めて視線で愛でていると後ろから何か気配がして振り返る。
けれど何もないので前を向くと目の前にローが佇んでいて驚きに息を呑む。
気配があったのに反対側に居たのはまるでサスペンスな展開。
驚いたと顔と身体で表現しているとローが一歩二歩と距離を詰めてきた。
何だかいつもよりも雰囲気が禍々しく感じ、そこに生気というものを感じ取れず戸惑う。
何か落ち込んでいるのかもと予想して優し目に気遣った声音でどうしたのだと訊ねると彼は何も言わない。
ここまで無口でいるのも違和感だらけで首を傾げる。
徐ろに彼の手首が持ち上がりこちらの首筋をスルッと撫でてきた。
誘惑されていると普段ならば羞恥心と恥ずかしさからの赤面が起こるが何故か鳥肌と得体の知れない恐怖を覚える。
どうしたのだと二度目を問うが表情すら変化しないのは流石に奇妙だと感じた。
少しくらい反応を示すのがローなのだ。
全くの無感情で見ながら撫でてくる行為に知らずの内に椅子から立ち上がろうと身体が準備していた。
だが身体を持ち上げようとした途端に力強い力で押さえつけられる。
痛くないのに動けないのがもっと恐怖を助長させた。
危機感を胸にローを見上げるとまるで顔の筋肉の緩め方など知らないような態度でこちらを見つめて、その琥珀にコーヒーを数滴垂らした色の中を自動的に覗くハメになり、自ずと見つめ合う。
そこに劣情でも愛情でも情欲もなく、何の熱もなかった。
これは誰なのだろう。
これはローではないのだと本能が確信していたがそれを言うと彼が何を仕出かすか分からないので様子見としてジッとしていた。
相手がこっちを傷付けないというのならば差程焦るでも悲観する必要は無い。
黙って成り行きを見ていると指先を唇に当てられて唇を薄く開ける。
艶めかしい行動にジワジワと熱にやられていくのと同時に冷静な部分を持ってこのドッペルゲンガー(推定)を観察していた。
やはり雰囲気と無口以外に違う点は無いようで恐らく近付いてこなかったら見抜け無い程巧妙に真似られている。
相手は唇から指先を頬に移動させて顔を接近させてくるという手段に出た。
避けるべきか偽物だと言うべきか、甘んじて身を任せて流された方が良いのか。
ドッペルゲンガーは本人と出逢えば死ぬと言うのを知っている。
このローはドッペルゲンガーという存在ではないかもしれないという不確かな確証だけで判断する訳にもいかない。
周りに誰も居ないのはお昼が近付いていて皆食堂へ居るからかも。
今はそれを間が合わないと気落ち。
どうしようと気を張り巡らせていると頭上から声が降ってきた事により思考は中断される。

「なに惑わされてんだ馬鹿……!」

ヒュっと風を切る音も聞こえて上を見上げると太陽に照らされて反対に陰のように黒く見えるものがこちらを見下ろしていた。
なんだろうかと良く目を凝らしてから前に居るローに直ぐ目を移すとニセローが三つに細切れになって身体が落ちていくのが目に焼き付く。
いや、先程の焦れた声はローのものだったはずなので目の前の彼を攻撃したのはロー本人だというのは理解出来た。
攻撃されている細切れのをそれを眺めていると横にスタンと音を立てて飛び降りてきたのだろうこの船の本物の船長。
ローは忌々しげになんだこいつと呟いてからリーシャの頬を抓られる。
痛い、涙目が出るくらい。
ビヨンビヨンと伸ばされる皮膚にもうそろそろ止めてくれと頼むと漸く離された時にはその物体が形成され直されている所だった。
気持ち悪いしまるで粘土のようにウネっていたので人間ではないのが丸分かりだ。
気持ち悪い、うえぷっ。
これをローだと錯覚したくても、もう出来ない。
顔を引き攣らせているとそのニセ宇宙人的な何かはウネウネとやってくる。
思わず生理的に受け付けないソレから逃げる為に後退るとローが舌打ちした。

「おれの真似をしている割に正体を晒すのが呆気ねェなこいつ」

冷静に言っている場合ではない。
叫びたいのを我慢してこちらも冷静にならなければと繰り返し自分に言い聞かせる。
ローは見下ろして扱き下ろし、更にブーツの先で蹴った。
得体の知れない物を無闇に蹴るのは止めた方が良いんじゃ………。
後々にペンギン達が近くの島の島民に聞いた話しではドッペルゲンガーが現れる海域があるのだそうな。
良く怪談や七不思議はあるが、そういう島特有に怪奇な場所があると知られているのもまあ珍しいと思う。
それ程までに有名で当たり前の事という訳なのだから、今回の事が別に不幸だとかハズレだとかいう事ではないと知り、少し嬉しかったのは秘密。
誰だって不幸な事はなりたくないし起こしたくないのだ。
リーシャも一生不幸とお友達など嫌である。

「此処の名物は美術館らしいですよ」

「周り見たら分かるよねー」

マイとヨーコの順番に話しているのを聞いているとアリサに声がかけられるのを聞いてなんと物好きな、やら、中身を知らないから当然、やら好き放題マイ達はお互いささ き合う。
仲が良いよね本当と和んでいるともっと口説かれているのが聞こえて、どんだけ飢えてんだと呆れてくる。
無視でもするのかと思いきやアリサが断りを伝えてから声をかけてきた男はこちらを向いて笑顔で手招き。
行くべきかと悩んでいると、アリサが芸術の歪んだ島と有名な島の町で絵描きを外でしている男から離れ、こちらへ寄ってくる。
何だかカモにされないか不安だ。

「モデルになってくれ、て頼まれちゃった」

笑顔で自慢してくるアリサにヨーコは呆れた声音で「そりゃさっきから色んな絵描きに声をかけられてるしもううんざり。断るわよね?」と尋ねる。
予想に反して彼女は乗り気だ。
伝言を預かったのを聞いてから絵描きの男がマイ達もモデルにならないかと誘う文章を羅列。
渋々向こうに向かうと男はリーシャの一点を見て顔色を変えた。
どちらかというと嫌な顔付きで心底ウザったそうな顔だ。
心を読めるようになったのかと察する事が手に取るように分かる。
つまりは、彼は目の保養じゃない奴は邪魔だと暗に言っているのだろう。
どう見ても及びではないと目と雰囲気で言われているので此処は遠慮をするべきかなと年長者の振る舞いをする。
この男は赤の他人の初対面だから怒っても構わない立場であるというのは分かっているが、何かにまた巻き込まれるのを危惧したらそんな事も喉の奥へいってしまうというものだ。
好きに好きなものを描くのは自由だから好きにすれば良い。
こっちも離れておこうと皆に少し買いたいものがあるからまた後で広場に集まろうと言うとさっさと前へ行く。
後ろから止めてくる声が聞こえるが振り切った。
止められて理由を聞かれても気不味くなるだけだ。
知らない方が幸せというのも世の中にはある。
そう彼女達に心の中で伝えて露店を冷やかし暇を潰した。
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