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ローside




ハートの海賊団の船は一つ船を見つけたのでローに指示を仰いだ。
ローは自室で医学書を読み耽っていた。
船員が船長室に来て聞かされた事に眉間のシワを寄せる。

「あいつらの船?」

「可笑しな事に動いていなくて停留している様子で。今から船を近寄っても宜しいですか?」

そんな事を煽らなくても行きそうな全員の様子に苦笑して(こいつも他の奴らも世話焼きだな)とつく尽く感じ、許可を出すと走って出ていく。
余程船の様子が可笑しいのが気になるらしい。
ローは医学書を閉じて自分も厄介な性格だなと船員の事を言えないなと口の端を上げる。
甲板に向かうと船員達が集まってザワザワしていたが、良い空気ではなく戸惑いと不穏を肌に感じた。

「一体何の騒ぎだ」

「それが………居ないんす」

「………誰がだ」

あのM女か、それとも不幸を呼ぶ方か。

「………全員です」

非常に言い難いという雰囲気を出しながら言われた言葉に凄まじい疲労感。
またか、とかはァ?だとか色々考えてしまいつつも内心は混乱している。
ローは己の目で見ないと信じきれず(いや、本当は船員達が嘘を付く等塵にも疑う余地は無い)船内へ行く。
中はそれ程広くないからこそ直ぐに居ないと分かる。
もぬけの殻という真実はローに二重のショックを与えた。
フラつくという肝は持っていないが頭痛はジクジクと感じた。
きっと何かに巻き込まれたんだな。
荒らされた形跡は無く、きっと外で誘拐されたのか、それとも追跡か深追い。
リーシャが攫われてもその他が攫われてもどちらにせよ四人居ないのは当然なのかもしれない。
それか《全員》攫われたかだ。
そんな稀有な事態が起こるのか些か疑問だが、もしそうならば助かる見込みはほぼ無い。
縄などで縛られているのならあの二人でどうにか事態を変えられるかもしれないし、それに期待するのも殆ど祈りに近い行為であろう。
口を噛み締めて拳を握り締めてそのまま外へ出れば気遣わしげな視線とどうするのかという声がちらほら聞こえてくる。

「どうも何も………何もしねェ」

その発言に驚愕に揺れる全体。
自分達が海賊だとすっかり忘れている顔である事に内心何言ってるんだと呆れる。
慈善事業ではないし、自分達は義賊でもない。
列記とした海賊で、今は海軍でもある。
しかし、海軍だから慈善をしようだなんて楽観的な思考は全く持ってもいないし、持つつもりもない。
船員達にもう一度放置しておくと宣言して船内へ戻る。
その背中に「どうしてですか?」という疑問の声が投げられたが答えを聞こうとせずに少しは考えろと弾き返す。
何でもかんでも聞かれても、ローとて丁寧に答えているばかりでは彼等の為にならない。
刀を置いてベッドに沈み、時計の針の音を聞き、心臓の鼓動が聞こえる。
薄っすらと目を閉じていると瞼の裏の暗闇に彼女の声と顔が投影された。
ジットリと膿みかけている何かを抑える様に息を吐いて思考を無にする。
見捨てたってこの海に居る限り覚悟の上だと割り切っているだろうと、女達を想う。
リーシャだっていつでも諦めた目をしていた。
今は僅かに目が生き生きしているが。
ほんの僅かだが、それでもローの望んだ展開だ。

(どこに居る、あの馬鹿)

ひょっこり出て来ればこんなに疲労を感じずに済むのにと歯をギリギリ鳴らす。
目を閉じてから次に目を覚ましたのは船内電話が鳴った時だ。
電話を耳に当てて応対すると何やらガラス細工の商船が来ていて売り込んできているらしい。
値段はかなり張るらしいが、綺麗だと後ろで他の者達が騒いでいるのが聞こえて最初は断ろうかと思ったがリーシャのプレゼントにどうですか、という船員の提案に心が揺すられて、そちらへ行くと伝えてだるさを残す身体をベッドから引き離す。
冷酷と巷で呼ばれている自分にしてはメルヘンなプレゼントだなと他人事の考えで船を出る。
結構大きめの乗船で商人は良くローの船を見掛けて逃げなかったなと関心した。
船員達が近くを通ったので敵意は無いと言って呼び止めたのだのだと自慢げに言う。
船に乗り移る為の木橋を渡る時に自船に繋いでいたリーシャ達の船が見えて焦燥に駆られる。
パッと見てプレゼントを決めてしまおう。
思考を何とか切り替えて商人の元へ行く。
その商人はとても脂汗をかいていて緊張している様子だ。
彼も七武海の船に呼び止められて何とも不遇な己を嘆いていているに違いない。
折角此処まで来たのだから帰るという気にもなれず、適当に船内を探索。
ガラス細工に囲まれて、小さいものから人型の大きめのものまで随分と品揃えが良いなと思えた。
眺めて品定めしているとベポがワタワタとやって来て急かすように声を発する。

「マイによく似たガラス細工があるぞキャプテン。凄い匠な加工だ!見てみて!」

なんて力説されるがそんな似たものは探せばあるだろうと思いつつ、ベポが引く様子も無いので仕方無しに付いていく。
案内されて見に行くと確かにマイに似ていた。
但し、マイと言われてやっとまぁ似ているなと言った具合だ。
ガラス細工は全体が透明で髪の色も透明だし、目も真ん中に眼球等無い。
服を着たマイに似ている只のガラス細工である。
ベポが似ていると興奮する程ではない。
これ以上ここに居ては選べないと判断してゆっくりベポから離れて違う方向へ向かう。
天幕のある部屋の近くを通った時、僅かに掻き消えそうな音量で聞き逃しそうな声らしき何かが聞こえた。
生活音かと思われたが繰り返し同じ一定の発音をしているそれを確実に声だと認識出来るまで眉間に皺を寄せて更に聞こうと耳を澄ませるとその声は「誰か居ませんか?」という切羽詰った様子で導かれるように天幕の中へ行く。
周りに商人の男が居ない事を確認して天幕を手で上へ捲ると薄暗い。
月の光りで辛うじて見えるそれらは商品のようだ。
しかし、この耳に今も絶えず聞き難い声音を辿りそこへ向かう。
辿り着いた時、ローは驚いた。

「おいおい………何の冗談だ………!」

声を発しているのはリーシャの姿に似ているガラスの人形。
見ている分には只の変哲も無い彼女に似たものだと思うだけだ。
声を発している事を除けば。

「誰か、居ないんですか?」

また同じ問いを繰り返す声音はくぐもっているが、只のガラスでないのは一目瞭然。
ガラスを抱えて万が一割れてしまったら大変だ。
ローは素早く天幕から離れてペンギン達の元へ向かう。
ペンギン達なら事情を話せば商人をこの天幕へこさせる事を阻止させるように出来る筈だ。
ローは商人に気付かれぬように商人と共に居ないペンギンを外へ呼びつけた。
ローの行動に疑問を持たない様子で付いてくるペンギンに天幕での事と見張り、それと商人の気を他の船員達で引けと言うとペンギンは納得していても渋々といった風に従う。
天幕の中を見ればその疑問もなくなると放っておく。
ローは船員達を新たに船から呼び付け商人から目を離さぬようにと命令を下す。
船員達は何故只の商人に、とか何かあったんですか?と聞いてくるが後から説明するとやる事を後回しにする。

「なァ、お前の所の作品気に入った」

「光栄です。七武海様に褒めてもらえるなど」

アセアセとしている割には目が欲で濡れている。
どうせ金払いの良い客が釣れたとか思っている事だろう。
やっている事は無法者並にゲスいが。
これが見知らぬ誰かならば面倒なので放置している。
ローは別に善人という性格ではないし、正義を掲げるつもりもない。
押し付けるつもりも無ければ気紛れに助けたり助けなかったり。
弱い者は虐げられ、強い者の力によって潰されるのは世代を超えても変わらない。
ローは潰したり潰さなかったり。
高みの見物だったり偶に手を貸したり。
そんな気紛れが許される程には強くなり力も付けた。
他人の為に命を賭けるつもりはないが、これとそれとは話しが違ってくる。
無抵抗なローの女に手を出したのだ。
許されるべきではない。
青筋を出来るだけ浮かせないように気持ちを宥めて押し付け、商人の元へ行く。
船員達は上手い具合に商人を囲んでいる。
恐らく彼は能力者だ。
という事を推測して船員の一人ににこっそり海桜石の鎖を用意させておいて隙を見て捉えろと指示を出しておいた。
ガラスに出来る人間に安易に悟らせてミイラ取りがミイラになる未来を回避する為だ。
商人は驚かながらも冷静に何をするのだ、やら私は政府の人間と親しい間柄何です、と言っているが、それが本当だろうと今は関係ない。
ローが知りたいのはガラスに戻せるか否か、とマイ達の安否だ。
リーシャは声があるものの、心身の状況は全く分からない。
船員達に聞こえる様に尋問していく。

「先程、ある中型船が無人のままだった。女が四人乗っていた。さて………何か言うべき事は?」

「いきなり捕縛なされたと思いきや………濡れ衣にも程がありますよ。海軍の方にお電話させていただきますよ?」

剥奪されると脅している。
肝が座っているがタイミングが頂けない。
ローは刀を商人の横に刺すと地面にワザと大きな音を立てる。
先ずは小手調べ。
相手は躊躇なく人をガラスにしてしまう奴だと前提。
ならばこちらも躊躇なく威圧感を放つ。
しかし、少しは度胸が備わっているのか顔色は変わらない。
なる程なと笑みを浮かべて相手の鼻面に顔を寄せる。
相手は僅かに動揺して身じろぐのでその隙を見逃さない。
年齢的にも向こうの方が上かもしれないが危険な橋を渡った数も場数もこちらの方が上である。
こういう駆け引きも負ける気すらしないが、こっちにも引けない理由があるし、船員達はローが諦めても引き下がらないだろう。

「お退き下さい。今回の件を海軍に報告させていただきますよ?」

あまりにもチンケで陳腐な脅しにくつりと喉が鳴り笑いを引き出した。
馬鹿なのだなこの男。

「七武海は確かに海軍の所属。だが、懸賞金の廃止をされる前は何だったかお前は知ってるか?」

不穏な言葉と共に男はローの言葉の中に潜む駆け引きに気付き喉を鳴らしてツバを呑む。
そうだ、そういう反応を期待していたのだ。
彼女達を助ける為ならばこの男がどうなろろうとどうでも良いし、男がそれに関連して何かをされてもなっても知らない。
男はぬるりと動き出してガラスを持ってくるように言ってくる。
馬鹿みたいに素直な反応に怪訝に思うがここは能力者の解く方法を実践した方が手っ取り早い。
いざという時は能力を解く為に最終手段を取るのだし。
ローは船員達に連れてくるように言って此処へ置く。
変な事をしないように見張ると程なく離れる。

「お前が此処で変な真似をしても他の仲間がお前の事を海軍へ報告する。解ったら速やかにやれ」

怒気を込めて言うとローは腕を組み壁へ寄りかかる。
船員達の一人に海楼石の鎖を持たせておいて相手の能力を無効に出来る様にしておく。
いつローが行動不能になるのか不明な為に保険である。
我ながら能力者の対処として良い線を行っていると思った。
男はでは始めますと言うと手をガラスに当てた。
少しでもヒビを入れたら肉片にする。
パァ、と僅かに光るとマイのガラスが立体の人間に戻っていく。
見事に色付き出した肌色に船員達はホッとしていく。
マイは最初はボーッとしていて周りを見回すと顔を傾げて「えーっと?何故皆が?」と言って必死に思い出しているようだった。

「お前はこいつにガラスにされていたんだ」

マイはそれを聞くとみるみるうちに開いていく瞳。
どうやら思い出したようだ。
そして、眉間に皺を寄せると男に寄る。
男には既に素早く手枷と海楼石を付けているので能力は今使えない。

「思い出しました。貴方は………私を………私達を………!」

マイは力んだ声で悔しさを滲ませた声音に拳を握り締めると拳を突き出して男に星を散らせた。(以下略)
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