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バイオレンスもとい、ドM娘のアリサは特に何か問題を起こすような事はしなかった。
冷蔵庫を漁るという真似もしなかった。
飴と鞭の定理が逆なのでリーシャなりに統率するにはと考えた結果、アリサにもしも可笑しな行動をして雰囲気や風紀を乱した場合、とっても平和な島に置いていき海軍に保護させると告げておいた。
正に破格な待遇ではあるが、アリサにとっては心底つまらない人生を歩む。
なので、了解という返事が即帰ってきた。
アリサがこんなに素直なのは航海の途中に海王類に襲われたり海賊船に大砲を打ち込まれたり、ご飯が何気にどんどん質素を加速させていっているからだと思われる。
今にも飛び上がりそうな程嬉しそうな彼女はきっとしぶとく生きていけると思う。
そんな四人旅となった航海の先に無人島があった。
降りる前にマイがアリサに首輪を付けてリードを手にニッコリと笑う。

「アリサさんは我先に不幸へ飛びつきそうなので防止の意味を込めてこうする事になりましたが………ダメでしょうか?」

マイが滅多にしないお強請りをしてきたので渋々程々にね、と苦笑いで言った。
首輪という倫理的に問題がある光景に首を拘束されている方からも異論はなさそうだったので、もう何も言う事はない。

「人間の扱いを受けてない〜」

ヘラヘラと赤みの差した頬で満足そうにしている女から目を逸らして探検を始めた。

「ねぇ、私………お花を摘みに行きたい」

アリサがケロッと言うので三人は顔を見合わせて木の陰を指す。

「「「行ってらっしゃい」」」

リードを外したマイは淡々とリードを巻いていくのを見て、アリサはサクサクと進む。
三人は見ないようにして、これからどうするのかプチ会議を開く。
その結果探索を進めて、何かあればさっさと退散するという手順。
話し終えた丁度その時、アリサの小さな悲鳴が木の陰から聞こえて慌てて向かう。
例えアリサがどんな状態でも助けに行く所存である。
というのは依然として前提だから、とツラツラと羅列を脳内で並べて整理していて、その場に到着すると何と、ホラー映画さながらの展開が待っていた。
説明を言うならばナメクジに似た何かの生物がアリサに伸し掛かっていて、彼女に何かを吐きかけていた。
凄いホラーな光景に僅かな間、唖然とする。
あれは只のネバネバかそれとも酸的な危ないものか。
こちらがボーッとしている時にアリサは藻掻いている。
マイとヨーコが走り出すのが見えて、自分はどうしようと考えた。
助け出されるのを見ているしかない。
しかし、ナメクジの削除は塩等が良いと脳裏を過る。
船に戻って塩を持ってきたら良いのか、彼女達が倒し終えるのだと信じて待っているべきか悩む。
うーんと悩んでいる間に事態は良い方向に収束していったらしく、アリサが助け出されていた。
もし、行っていたら無駄足だったなー。
ナメクジは弓矢によって簡単に倒されてしまった。

「大丈夫?……じゃあなさそうだけど」

恐る恐る三人の所へ寄り、聞くとアリサが熱に浮かされたようにうっとりとした表情で悦に浸っていた。
これは何かネバネバにあった作用だろうかと不安になり始めるとアリサが唇を震わせる。
何を言うのだろう。

「これが不幸体質のお溢れ………ふふふふ」

「あ、普通だわこの子」

ヨーコが直ぐに言ってからリーシャ達は納得。
というか、心配して損をした。
とてもげんなりした気分になった。
ナメクジモドキに変な液をかけられたのに喜ぶなんて、最早デフォルトである。
はいはいという白けた空気になったのでリーダー(仮)として此処は素早く対応してこの場を収めねば。
取り敢えずアリサに付着したネバネバを洗ってもらわないと船に安易に歩き回らせるのは難しい。
三人にその事を言うとアリサが残念そうにまだこのハプニングに浸りたいと言うのでリーシャは首を振ってピシャリとダメにと告げる。

「私の言う事が聞けないの?」

こうなったら王女様風に命令口調で言う。
病む終えないと血反吐を吐く程ではないが、己が我慢して言い終える。
そっとアリサの様子を伺うとポカンとしていたが、みるみるうちに目を輝かせて「薄味だけど、まあまあね」と言われた。
薄味って何だ、薄味って。
げんなりするのを必死に隠してさっさとついて来てと良い付ける。
アリサはルンルンとした顔付きで付いてくる。
ヨーコは疲れた顔をしていて、マイは「リーシャさんを困らせるなんて」と呟いた。
気にしてないよと言ってから船に戻る。
その道すがらマイ達が木の枝に付いている実を取ってきた。
今回はローから貰った物やニョンガ島の人達から貰った本を見てから食べられるか食べられないかを判断しているので大丈夫らしい。
これで食卓が多少良くなるなと嬉しくなる。
頬が緩むのを抑えられない状態で船へ乗り込んで帆を張った。
ススス、と進むと青い海が一面に見えた。



リーシャ達は普通に海を進んでいても何かにぶち当たる。
海賊船(純粋な略奪を楽しんでいるだけの海賊付き)だとか。
マイとヨーコが対応出来る海賊達ならば何も言う事はない。
今回は勝てそうな船だったらしく、次々にのしていく。
何と頼もしいと思っていながらアリサと共に丸くなっていた。
彼女も自分も微力な女で、見つかったら良い結末にはならない。
それを分かっているのかアリサは先程から出たがって、見つかりたがっている。
それを阻止して待っていると攻防している最中でマイとヨーコが戻ってきた。
マイは磨いた直感で何かあったというのを把握したらしく、アリサにビシ!としなるムチを当てた。

「私達に迷惑をかけるのならば、今直ぐ船を降りて。そして、二度と朝日が拝めないようにしてあげます」

かなり怒っているマイは本気で真顔。
確かにアリサの行為は自分だけで収まるものではない。
見つかるともれなく全員が危険に晒される。
人質に取られたりなんてすればいくらマイとヨーコでも降伏するかもしれないし、見捨てられる性格でないのだ。
共倒れも良い所である。
マイの怖い顔を見たからかアリサはボケッとした顔をして慌てるとマイに寄った。

「ごめんって!だから置いていかないでっ」

「貴女は只単にリーシャさんの不幸にあやかりたいだけでしょ?さっさと元の世界に帰ればいい」

冷たく言われてアリサは嬉しそうな顔をしたが、ヨーコの睨みに引き締める。
そんな風だから彼女達の不安が更に上がるだろう。
リーシャももしこのままならばアリサと共に航海出来ない。
そう判断して決断しなければと気を引き締める。
こちらもちゃんと決めないとマイとヨーコも巻き込まれてしまう。
取り決めをする気があるのかと聞くと彼女は過剰に頭を揺らして肯定。
前もこんな感じで同意したのは忘れていない。

(次なんてあったら困るしな……)

ちゃんと約束させなければ。
キュッと手を握って目を閉じてから開くと懇願するように膝を付いている。
彼女は今にもどこかへ行きそうな雰囲気を出している。
でも、嫌な目に合いたい筈なのに此処まで執着される理由があまり考えつかない。
けれど、何かを目指して此方を頼っている事は分かっているので何か策を投じなければ。
ヨーコもマイも違う意味での苛々を漂わせているのだから精神的にも宜しくない。
デジャブを感じる。
前にもアリサがこんな風に厄介だった時に不調を作り出して、策は島に置いていく事であった。
今はもう我儘という訳でもないし、性格が悪いという訳でもないから程々に良い人間という認識をしている。
少々難がある部分が否めないが、旅をしている以上ちゃんとルールを守らなければ命に関わるのだ。
マイとヨーコの監修の元、アリサに幾つかルールを約束させた。
一つの項目が目に着いたがどう反応すれば良いのか分からなかったので目を逸らして知らぬふりをした。

【リーシャさんの不幸を吸いたければリーシャさんの言う事は絶対であれ】

……………好きにしてくれ。

そこまで行かないと融通がきくのであればそうするしかないのだろう。
苦い何かが胸に迫り上がってきたがグッと飲み込んだ。
不幸を餌にされるなんて思ってもみなかった。
ロー達には迷惑をかけるし、自分は被害を多大に被るしで良かった試しなんてなかったのだが、ここに来て漸く一つの利点を見出だせたのだから喜ぶべきだろう。
そう思い込む事にした。
これにて一見落着であると頷いて己を納得されて胃から何かが込み上げてくるけれどゴクリと飲み込む。
また船を進める。
水が波打つのを見ると気分が落ち着く。
これから何かの癒やしグッズを購入しよう。
それよりも敵船との戦闘は大丈夫かと聞くと平気だったと言われて笑みを浮かべる二人に笑みを向けた。
また何分後かに襲撃を受けませんようにと祈る。
祈ってから半日後、夜になろうという時間にとある船が通り掛かった。
商人だというその船は様々なガラス細工が売られている船商。
三人は見張り担当ではなかったのでそれぞれの自室に声を掛けていくと全員が行くと答えたので四人で商店に向かう。
商人は気さくな人で如何にもな店の人だ。
よく喋る人で商品の詳細を説明してくれる。
特に人型が多い。
船の先端に良く居るビーナスという彫刻の物も見掛ける。
小さな動物の彫刻も多々。
リーシャは猫よりもリスが可愛いと思う。
これなら船に置いても重くないし毎日見られる。
手にとって是非見てみて下さいと言われてリスの置物をクルクル見た。
各自、彼女らも気に入った様子で違うガラス細工を手に取っている。
お金を考えた結果、マイとヨーコが割り勘でヒヨコのガラス細工を買い、リーシャはリスの置物を諦められずに買った。
そのまま出ていこうとすると商人の男性がもっと凄いものがあるから後で来て欲しいと言われて肯定。
部屋に行くとリスの置物をベッドの小机の隅にコトリと置いた。
言われた通りに船へ乗り移ると商人さんはこちらへと違う部屋へ通される。
その瞬間、視界が暗転した。
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