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船員達も遂に言葉で凶弾し始めて流石にこれはヤバイなと危機感を募らせた。
下手をすると海に放り投げられる。
しかし、冷静な思考をしてしまう自分も居る。

「何か……引っ掛かる」

その呟きは騒動にかき消されてしまうけれど、言葉にすると更に違和感を強く感じてしまう。

「分かった。皆、落ち着いて」

一旦その違和感を置いておくとして、この騒ぎを収められるのは一番被害を受けたこちら側だ。

「私が彼女を制裁する。それで良い?」

後半はローに向けて言った言葉。
仮に、もしも本気でローがアリサに惚れていたらという保険と確認。

「お前にその権利がある。俺はこの件に口を出す気はない」

ローが色恋で腑抜けになるのは有り得るのかと思ってしまう程アッサリと許可が出た。
それに異論を唱えるのは制裁に対して批判してくるアリサ。

「は?ちょ、ロー?な、何言ってるの?私何も悪い事してないけど………は?何?何なのこれ」

周りを見てから最後にこっちを向いて睨み付けてくるアリサ。
そんな睨みには屈しないし、全く怖くないのでどうでも良い。
アクビが出てきそうである。

「ブスが調子乗るな!私を誰だと思ってんの?モブにもならないアンタに制裁?はっ、笑える」

有りがちな負け犬キャラの台詞にこっちが別の意味で笑えてくる。
それは敗北宣言と差ほど変わらない。

「マイとヨーコに慕われてるからってリーダーぶってるよね?私、そういう女嫌い。あと、ローに色目使わないでよね。釣り合うわけないでしょ」

「そうだね」

どれに答えたのかは周りに好きに邪推させておく。
ローの眉間の皺が怖いのは無視。
肯定すると劣勢だと判断したのか更に罵って蔑んでくる。

「おまけに弱いし貧乏だし。負け組で可哀想。髪の毛もキューティクルしてない。貴女本当に女?だとしたらもう一度生まれ直してきたらどう?」

「アリサ!あんたって子は!いい加減に口を閉じたらどうなの!?」

「……今すぐボコボコにして美容整形やってあげる」

マイがいつの間にか武器を構えて前に出てきていた。

「そんなもので脅しているつもり?どうせそんなのこけ脅しでしょ。バッカみたい。中二病?」

「それは私がじっくり体感させてあげるよ、ふふふ」

「マイ……!」

止めようと思い、マイより先にアリサの前へきてから手を振り上げて彼女の頬へ打つ。
勿論アリサ(手加減無し)にである。
パンッ、という音ではなくバシコーン!という一撃。
次いでもう片方の頬に加減無しの一発を打ち込む。
平手両頬制裁。
カッコイイ風に完結させたものの、人を女の力で全力というのは何気に始めてだったので少し心が動揺している。

「そんな事言っちゃいけません。折角綺麗な顔してるのに、心を歪ませるなんて勿体ない」

唖然として頬に手を当てているアリサに言う。
頬は見事に手形がしっかりと付いている。

「……これ……そっか」

「叩いてごめんね。痛かったでしょ」

頬を撫でようとしたら言葉がはっきりと聞き出せた。

「遂に……あは……やった」

「え?あの、大丈夫?」

叩かれた後の反応にしては可笑しい。
頬を叩きすぎて脳に何か異変が起きてしまったのかと思うくらいに。
手をゆるりと元の位置に戻そうと降ろす。
しかし、ガッシリと握られる。
周りはアリサが反撃に出たと気色ばむ。

「もっと、もっと」

「な、何?」

アリサが何か言おうとしている。

「もっと……………………………………私に今のをキツめにやって!」

(うん?え?何?キツめ?何の事?)

「……な、何の事?」

辛うじて絞り出せた質問。
それに彼女は恍惚とした顔をして言った。

「何って……私の此処をもっと痛く叩いて!」

耐えきれない様子でアリサは言う。

「え、まさか」

ハタと何かに気付いた船員が嘘だろ、と言うと他の船員達もこの結末にぶち当たる。
アリサは頬を付き出して顔を赤らめると待つ体勢になった。








「アリサさん……M?」

「違う!私は生粋のドM!中途半端な痛みを最も嫌うね!」

何だか凄いカミングアウトが到来した模様。




そんな嵐が巻き起こってから五時間が経過して周りは漸くアリサの発言を微かにではあるものの、甘受し始めていた。
ギャグ展開となったので船員達もアリサの今までの我儘を全てはドS、つまりは酷い凶弾や物理的な暴力を期待してやっていた事が公になったのである意味色々問題が終わったのだ。

「ねぇ、ぶってよ。ねえねえねえねー!」

「……私にそっちの趣味はないんだけれど」

「私が代わりにやります」

アリサからしつこく言われているとマイが拳を作って腹にボディーブローを入れ込む。
それに嬉しそうに「あ、なんて痛いの!」と悲鳴を上げる声。
ナニガ間違っていたのか。
どこから選択が歪んでいたのか。

「腹黒マイのグーパンもなかなか容赦ない」

アリサはお腹を擦ってから言うとマイが「腹黒?」と笑みを浮かべて彼女の顔面を手でわしづがみギリギリと握力を加える。
何かが形成されてきたような。

「どうしよう、凄く痛いっ(ハート)」

「女四人だと誰が何を言っているのか分からなくなるのでこのメスイヌに何か特徴的な語尾の口癖強制させません?」

「メッ……あ、うん。だ、だね?」

メスイヌ発言に驚いているとメスイヌはメスイヌという己を指す言葉に恍惚としていた。
四人寄ると発言元が分からなくなるなんて有り得ないのに何を言い出すのだろう。
あだ名を付けたいが為の口実なのだろうか。

「じゃあこの犬の名前はペペロンチーノで。とても良い名前」

適当に考えたとしか思えない。
思わずそれで良いわけないだろうとアリサを見ると少し不満そうだった。

「えー、普通。もっと生物に付ける訳がない名前でお願い」

「ペペロンチーノの癖して難癖付けてくるんですか?」

「わ、わんっ……」

喜んでいる。
蔑まれているのに。
しかもマイが「わんじゃなくてネコに決まっているでしょう」と犬と連呼したにしては可笑しな事を要求。
それに対してドMの心が揺れたのか「犬なのに猫を強制される私って……」と打ち震えていた、嬉しそうに。

「じゃあペペロンチーノの『ペ』で」

「名前の原型がなくなってる!」

近くに居たヨーコが突っ込んだ。

「リーシャさんの事は様付けですよ。駄犬」

「にゃ、にゃあ(ハート)」

(私は別に望んでないけど……ま、本人達がそれで気が済むのならいいや)

というか、アリサの処遇は結局どうなるのか。
何だか島流しし難くなっている。
恐らく残りの二人も同じ事を思っているのだろう、意味深な視線をこちらに寄越した。
判断を煽られて已む無くアリサに言う。

「実は貴女を島に置いていこうって計画していたんだけど」

おずおずと言うとアリサの顔に笑顔が咲く。

「無人島?誰も居ない?未開拓?」

「いや、違う。人が住んでて」

「あ、そう。そんな優しさいらないし」

サバイバルを望んでいたのか目に輝きが無くなり据わってしまう。
なんてドMなんだ。

「私が今まで周りを苛つかせてたのは死ぬより悲惨な不幸を味わって舐め尽くしたかったからなの。分かる?」

(そんな台詞が私にも言えたらな……不幸体質喜んで受け付けてあげたい。いや、受け付けてやりたい)

凄く腹の立つ贅沢な事をアリサは言っている。

「本当はキッドのところであんな事やこんなこと、強いては奴隷になれるかと思ったのに、ガッカリ感は半端なかったよ本当」

本当に口には出せない不幸をむしゃぶり尽くしたかったのだなと懇願している事は良く伝わってきた。
彼女の人生は生まれた時からイージーモード。
怒られるなんて全くなく、どれだけ我儘を言っても通せてしまう。
でも、彼女はそんな甘々な人生を望んでいなかった。
いつしか彼女の願望は偏った真逆の刺激を欲したのだ。
アリサが語るのを聞き、へぇ、と適当に相槌。
その素っ気なさが良かったのか嬉しそうにそうなの、と念押し。
不幸は蜜の味、という言葉があるが、意味は違うものになってしまうがアリサにとっては一蓮托生(いちれんたくしょう)も同然の切っても切り離せない意味を含んでいる。
そして、ここからがメインだと言うと当時のマイとヨーコという現役女子高生失踪事件は社会を震撼させ、社会を沸騰させた。
色んな憶測が飛び交う中、アリサは二人を心底羨ましがり、自分も同じ所へ行きたいと願ったらしい。
勿論異世界なんて塵にも思考になかった。
友人、級友二人が行方不明という己の不幸に恍惚として背筋が痺れる程その悲劇に震えたが、まだ足りなかった。
アリサは二人の失踪を喜んだのではなく、自分の周りの不幸に同調したからドMがヒットしたのだとそこを強調。
いつの間にか異世界というお約束と海賊の膝の上という絶望的な状況になったと知った時は思わず興奮したというので「へー」と上の空で答えるとアリサはこちらを口元を緩めて見つめてきた。
ドMが満たされているのだろう。
アリサはニヤついた顔のままモジモジしてきた。

「マイとヨーコから聞きまして、その、リーシャ様が……不幸体質と」

女が恥ずかしそうに言う内容じゃないのは確かだ。
白けた目を向けていると嬉しそうに鳴いた。
犬なのか猫なのか統一して欲しい。

「ああっ、この世界に来てからそんな目を受けたのは初めて!女の嫉妬の視線も良かったけど、これはこれで」

「話進まないからちょっと落ち着こうか……えと、ペペロンチーノさん?」

「さん付けなんて痴(おこ)がましい!ペペロンチーノのでもミトコンドリアでも好きに呼び捨て、強いては『お前』『メス』と読んで欲しい」

「えーっと、じゃあ、アリサさん……貴女は結局付いてきたい訳?この海はいつ死んでも可笑しくないけど」

「本望ですマイマム!」

いつから貴女のマスターになったんだと突っ込むのも止めた。
無視してそのまま話しを継続するとスルーされたという存在な扱いに震えていた。

「服は……どうする?私、リーダーぶってて悪いけど、それだけは聞きたい」

前に言われた内容を掘り起こして言うとアリサは「罪悪感って良い!」と己の出した発言に溺れていた。
バリューが盛りだくさんだな。
今日は濃い一日なりそうだ。
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