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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
99
朝起きて顔を洗い終えると廊下を進む。
途中で船員達と出会うのだが、その男達が何かを含んだような顔をして声を掛けてくる。
その中に「気を病むなよ」とか「あれに深い意味はない」等と述べてくるので嫌な予感がして、昨日の最後のローの意味深な笑みを思い出してむず痒くなった。
もしかして、キッドと張り合っていたから何かしらやらかしているのかもしれない。
もしかしたら張り付けにでもしているのか、地下牢に閉じ込めてしまったのか。
ローならばやっても可笑しくない所業だ。
恐る恐る食堂へ行くとソロソロと扉を開ける。

「…………あー」

呆けた声音が出てしまう光景を見てしまう。
二人がイチャイチャしている。
その一言に次ぐ。
どうしよう、としか思えない。
ローとアリサが恋人をやっているのだが、船員達の忠告はこういう意味だったのかと納得。
そして、昨日のローの言動を思い出して何となく事の末が分かったような気がする。
恋人みたいな真似をしているのを見るとキッドがやったデジャヴを感じて「嗚呼」と嘆いてしまった。
というか、アリサはキッドから何も学んでない事が分かった。
この結末がどうなるかリーシャは簡単に分かるし、きっとマイ達も理解しているからあんな隅っこに居ながらに無関心を装っているのだろう。
だったらこちらも同じように何ともないようにしとこう。
ローがうっそりと微笑んでいる。
どっちかと言うと楽しんでいるか、からかいが含まれている類のものだ。
とてもではないが甘やかな雰囲気も気配も顔もない。
一見恋人に笑みを向けているように見えるけれと、アリサのように今日昨日でローが本当に嬉しくて笑っているのかは判断出来ないから、彼は楽しんでああして隣に居ると推測。
彼はアリサが見ていない時にこちらはチラチラ見てくる。
これで万事上手くいくと目が言っているのでソっと目を逸して勝手にやってくれと思う。
キッドで二度目の試練なのでもう慣れたものだ。
というか、アリサもそろそろ色々気付けばいいのにと思わざるおえない。

「リーシャさん。今日のご飯は美味しいデザートがオススメですよ」

マイが癒やされる笑顔を浮かべてフード情報を教えてくれる。
デザートが美味しいのはとても楽しみだ。
デザートに目を向けるとタルトだった。
しかも桃である。
上に桃が乗っているし、見ているだけでもゴクリと喉が鳴った。

「もう食べたの?二人は」

既に紅茶を飲んでいるので食べ終わっている気がする。
思った通り二人は食べ終わったようでニコニコと笑って雑談を始めた。
お題は『飲み物』らしく盛り上がり出す。
飲み物は基本紅茶を多く飲むが、甘いココアやジュースも普通に美味しいと味覚を共に共有。
お菓子に合うのはあまり甘くないのが良いという意見が三人中三人というものだったので同じ味覚のようだ。
でも、合わないものもあるから普段は食べないものを各自が持ち寄って食べるなんて事がある。
例えばアイスクリームなんていうのが良い例だ。
話が良く変わるのももうお約束な展開なので話題は『冷たい好きな食べ物』へとなる。

「アイス繋がりですが、やはりカキ氷は夏の風物詩ですよね」

マイが得意気に懐かし気に言う。
それにヨーコも元の世界に想いを馳せているのか顔が緩まって目が遠くへ行く。
序(つい)でにリーシャも違う次元へ想いを馳る。
アイスやカキ氷も良いけれど、リーシャのサウスブルーでの思い出深い食べ物は何と言ってもスイカである。
冷たいとは言えないが、あれを食べてこそ夏なのだ。
夏島なので夏の季節しかないが。
それでも故郷の味なのでしみじみとなる。
三人で和んでいると視線を感じて横を向く。
アリサの目と合う。
何やら勝ち誇っている顔をされているので内心溜息を付く。
もしかしてローとイチャイチャしているから勝ち組なのよ的な気持ちで優越感に浸っているのかもしれない。
もしもこれからの未来が決まっているのならばきっとその優越感とローとの相瀬も続かないだろう。
アリサは目の前にある偽りの現実から何も汲み取っていない。
ローは恐らくキッドと同じ手法で痛い目に合わすのかもしれない。
男はもうゴリゴリとなれば多少は何か試みるかもしれないという計画だと想像。
ローは今アリサがこちらを向いているのを後ろから見ている。
無表情で冷めた目で僅かに怒気を含ませている。
それが見えないアリサはローがどんな顔をしているのか検討すらしていないのだろう。
ローは見ていた目をアリサから剥がしてこちらを見る。
絶対に楽しんでいる、ゲーム感覚であるだろうと予期。
こちらを見た表情は穏やかで挑発的だ。
クスクスと心の中で笑っているのが透けて見える。
アリサはこれで懲りてくれれば良いが。
ヨーコとマイの方を向くと夏談義をしている。
話しは移って怪談物になっていて心無しかマイの目が輝いているように見えた。
ヨーコの肩が震えていて怯えを隠している。
幽霊系等が苦手らしい。
初めて会った時の強気な態度はもう塵にも感じない。
今では進んで魚釣りをし、戦いにも身を投じさせる。
ヨーコは乙女ゲームなどを好むゲーマーだったという秘密を知っている。
乙女ゲームというのは男の人と恋愛出来るゲームと教えられた。
と言ってもよく分からなかった部分が殆どだけれど。
この世界の事を知っているのが何よりの証拠だ。
彼女達曰くこの世界の物語を知っている人は溢れる程居るらしいが。
わいわいと盛り上がっていると急にマイの額に皺が寄る。
どうしたのだろうかと思っていると後ろから声を掛けられるのでマイの理由が分かった。
後ろを向くまでもなくアリサだ。

「ねぇー、島に着くって。私これから降りるんだけど、誰かお金貸して」

「「……」」

黙るマイとリーシャに代わりヨーコが応える。
答えは勿論決まっている。

「前に島で渡したので最後って言ったでしょう。貸す余裕のあるお金もない」

「えー。ほんとに貧乏」

(だったら船から降りれば良いのに。てか降りてもらうけど)

その予定で敷き詰めているので予定の消失はない。
マイはローにでも頼めばと言えばアリサはニコニコと上機嫌に笑って「そーよね」と初めからすれば良い行動をする。
それに腹が立っているのは三人共通だ。
お互いに目配せすると三人の心が通っているのが分かる。
アリサは自慢したかっただけなのかあっさりする程ローの元へ去っていく。
会話が聞こえてくるので一応聞いてみると「何で〜!?」「悪いな」というものが聞こえてきた。
断られたのかと内心(ふふふ)と清々しい気持ちになる。
ローに袖にされているのを見ると流石に気付くだろうなと思っていたのに全く懲りない。
それどころか頬を赤らめている。
あのぞんざいさなのに嬉しいなんて物好きだ。
それにしても良く何か欲しいものはないのかと聞くのだが。
それはどうなのか。
思案しているとこちらに射抜かれる二つの視線。
前を向くとニヤニヤとした顔が見えてきっと二人共ども同じ事を考えているに違いないと確信。

「良かったわね。特別扱いされてー」

「ふふふ、ですねっ」

「否定も肯定もしない」

フイッと顔を横に向いて恥ずかしさで逆に無表情になる。
その顔の筋肉をそのまま突き通す。
このまま表情を保たないとからかわれるから絶対に隙を見せない。
でも、絶対に二人にはバレているだろうけれどそれでも追随を許さないように頬を引き締める。
そうすれば船員達の方に向く事になる。
全員一致でニヤついて見ていた。
どこを見ても自分の味方が居ないのはきのせいじゃない。
ローはというと呑気にコーヒーを進んで飲んでいる。
自分のやった事を分かっている癖に、回収もしないままこちらに丸投げしているのが癪に触った。
普段こういう空気が苦手だと理解しているのにわざとやってくるのはどうかと思う。
リーシャは一通り文句を垂れると一息付く。
アリサは幸せそうにしているのを尻目にデザートを食す。
デザートは流石のコックの作ったものである。
美味だと楽しんでいると横から「ですよねー」と賛同の声。
モグモグと口を動かしていると横から掻っ攫っていかれ、デザートを目で追う。
食べかけなのにと見ていると奪ったのはアリサだった。
食べかけなのに食べるつもりなのだろうかと疑問に思う。
それを見て呆気に取られていたマイとヨーコが状況を理解してガタン、と立ち上がる。

「いー加減にしなさいよ!」

「人の物を取るなんて最低!この人でなし!それはリーシャさんのだから返して!」

「何で?まだ食べ足りなかったし、別にまた作ってもらえばいいでしょ?」

些か横暴な論に二人の眉間に青筋が浮かぶ。
船員達も今の光景には批判的に思っているのか視線でアリサを咎めている。
リーシャは別にもう良いやとそのデザートを上げるつもりで思っていたが、もう止められるような雰囲気でも言い出せる雰囲気でもない。
咎めたら咎めたで雰囲気も更に炎上してしまうのは目に見えていたのでどうしたものかとローの反応に期待して見てみる。
庇うのか捨てるのか。

「もう、皆神経質過ぎるんじゃない?」

「なっ!」

周りが絶句してしまう。
早く場を執り成せよとローに念ずるが先程から静かに傍観している。
いやいや、気取っている場合じゃないし。

「あーもう!煩い!」

アリサが苛々した声で周りに油を放り込んで炎を燃え上がらせた。
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