09
だらだら。
ゲームをしているのにこの異常な緊張感は何なのだ。
周りには野次馬な船員達で部屋は満員状態。
正面には妖しく笑いこちらの様子を見ている死の外科医。
横にはもはや自分はどこかへ行きたいとでも思っているのだろうシャチ。
その正面には既に何故か鼻ちょうちんを製作している爆睡した白熊。
そしてリーシャはこの呪縛じみた勝負を今すぐ放り出したくて仕方がない。
「あのお、私もう降り」
「いい度胸だ。この俺に背を向けようってのか」
「ただのゲームにそこまで言いますか!?」
「それに賭けをした。お前が降りれば自ずと俺が勝つ」
「理解してま」
「お前の命を救った、恩があるのは……誰だ?」
「ううううう、分かりましたよ〜……ほんと鬼畜の申し子」
「……勝つのが楽しみだ」
最後の方はボソッと言ったのに地獄耳だったローは末恐ろしい発言をした。
身震いしながら先程まだゲームが始まる前に彼が突然賭けをしろと進言してきた事を思い出す。
『俺が勝ったら言うこと聞け、なんでもな』
『わ、私が勝ったら?』
『はっ……万が一そんな奇跡が起こったらお前の言うことなんでも聞いてやるよ』
鼻で笑われたので悔しくて勝てる確率はゼロに近いくせに受けてしまった馬鹿な自分に辟易。
(私一応病人なのにこんな扱い……酷い)
泣く泣く勝負することになる。
しかし、やはりゲームは楽しくて継続していくとどこからかローがゲームに参加しているという情報を得たハートの海賊団の船員達が続々と部屋に集まってきてから全てが変わった。
楽しかった時間も後半になりいつの間にかローとリーシャの二人の勝負のような空気になったのだ。
汗をだらだらと流す自分に対し彼は余裕を表すように涼しげにマスを進めていく。
人生ゲームがいつの間にかデスゲームになっていると気付けないまま着々と進む。
人生ゲームに運は付き物で、ポーカーとは違いイカサマをして勝つようなものではない。
だからいくらなんでもローが勝つ可能性は五分五分。
(人生ゲームなんかで負けるわけない)
先にゴールした方が勝ちなのだが今は半分と言ったところか。
ローはサラリーマンでリーシャは花屋だ。
(ていうか)
「何かベポの進み具合が早い?」
四人でゲームをしているのだからローと自分以外が勝つ可能性もあるんじゃないかと内心猛烈にガッツポーズする。
このまま行けばゴールインするのはベポだ。
そうして喜んでいるとローが飽きれ果てた声音でお前はバカかと言われブーイングする。
「何がですかあ」
「俺とお前のどちらかがゴールするまでが賭けに決まってんだろ」
つまりベポがゴールしても何の意味もないと言う。
それにショックを受けるとローはまた一つサイコロを転がした。
そして、先程から嫌に六が多い。
イカサマでもしてるんじゃないかと疑う。
「何回か振れば目くらい好きなの出せるだろ」
「だ、出せませんよ!それ狡すぎやしません!?」
「狡くねェ……イカサマじゃあるめーし」
このままでは負けてしまう。
ローの言うことを聞く事になりリーシャはローに命令出来なくなる。
「うう〜、負けるううう」
「くく……気が早ェ」
「余裕だからって……」
その笑みがシャクで恨めしく感じた。