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して、外へ出る許可を貰い、四人は島へ降り立った。
なかなかに活気の有る島だ。
はしゃぐアリサは随分と監禁生活が窮屈だったらしく嬉しそうである。
こっち行こうあっち行こうと連れ回される事二時間、ヨーコがストップを掛けた。
助かった、止められそうにない猛攻だったから。
息を吐いて疲れを僅かに出しているとアリサが不満そうに言う。

「私のボーイフレンド達は一度も休憩して欲しいだなんて言った事なかった」

「私らあんたのボーイフレンドじゃない。リーシャも疲れたのなら言って。私達は鍛えてるから良いけど、あんたは鍛えてないし、普通の買い物は体力があっても疲れるものだからね」

ヨーコとマイは確かに疲れていなさそうだ。
恐らくアリサは外へ出られたのと買い物出来た喜びで今は疲れを感じないだけだろう。
アリサは不満そうにこちらを見ている。
何故赤の他人にそんな目で見られなくてはいけないのかとこっちもストレスを溜めた。
そんな不満我慢大会みたいな状態で買い物は進む。
それにしてもそろそろキッドに貰った予算から配分した彼女のお金がなくなりそうだ。
お金は彼女に渡してあるのだが、この世界のお金の価値を知らないだろうからとマイ達も付き合っている。
マイもマイで不服そうにしているのを見ると本意ではないのだろう。
当然だ、好きな友達でも何でなく、面倒を見なくてはいけない義理もないが、仕方なくこの世界の事を教える為に付いているのだから。
マイも不満だけれど、ヨーコもヨーコでアリサの我が儘を何とか押さえようと気を揉んでいる。
このままでは負の連鎖で二人の精進状態は良くない。
そう思ったリーシャは早速気分転換にでもと分かれる事にしようと提案する。

「分かっているとは思いますが、もう直ぐお金がなくなります。これを出費し過ぎると次のお金はあまり払われなくなります。あまり無駄遣いしないように気を付」

「あー、もう!煩いわねっ。パパだって言わないわよそんな事!」

「いえ、これはあくまでも注意喚起なので、使いたければどうぞ。明日のご飯がない状態で過ごす事になりますけど」

「そんなの子供じゃないんだから分かってる!てか、解散するのなら早くしてよ!」

駄目だ、聞く耳を持たない。

「またキッドに貰えば良いし」

(多力懇願だ)

呆れて物も言えないとは正にこの事。
そんなの、無理に決まっている。
リーシャはそんな事をしていないけれど、キッドはあまり彼女の事を良く思っていないし、頼まれてもサラッとやってくれる訳もないので、身体を張らねばなるまい。
いや、それすらも駄目かもしれない。
一度味を占めて寄ってこられると厄介だから回避するかもしれない。
キッドに向けてお疲れ様ですと手を合わせておく。
解散してから三人でジェラート屋へ行く。
気分転換には持って来いの場所だ。
リーシャはハチミツキャラメル。
マイはヨーグルトパンチ。
ヨーコはマカロニグラタン。

「……って、え?マカロニグラタン?」

「ヨーコの舌って変わってると言うか……」

「良いでしょ別にっ、マカロニグラタン好きだしっ」

少しバツが悪そうにしている。
どうやらプラカードに書いてあったからつい興奮して頼んでしまったようだ。
それはもう置いといてあげよう。

「ところで、今後の方針についてだけど。アリサさんの事で」

「ちょっと考えさせられる」

「私は断固反対です。今日みたいな事を閉鎖空間の船でされるともうきっと駄目ですね」

宇宙船の中で生活するのと何ら変わらないのだ。
そんな中で険悪な空気になると後々の航海にも影響が出る。
とて正論を言われて確かにと納得。
航海の途中にそんな空気の悪さが継続されるのならば断ろう。

「じゃあ、今回は無し……という事で」

満場一致で決まった事に二人は少し気掛かりそうだ。
キッドの所へ置いていく訳で。
アリサの選択は実にシンプルで『この島から出ている定期船に乗る』『キッドの所へ戻る』である。
キッドの所へ戻っても良い暮らしが出来るとは思えないが、此処は、もう賭けでしかない。
アリサには悪いが船には乗せられないと断る方法を三人で相談し合う。
そして、時間が経過した訳だが、集合時間になってもなかなか来ない。
電伝虫に掛けても出ない。
心配になってきたと二人が良い始めると同時に声が聞こえて向こうを向く。
見ると、男に荷物を持たせているアリサがこちらへ歩いてきていた。

「は?何ですかアレ」

マイは心底失望したと顔に苦渋を浮かべて述べる。
もしかして荷物持ちのバイト男なのかもしれないと嗚呼、と嘆きたくなった。

「待った?あまりにも楽しくて時間忘れててさあ」

悪びれていない様子にさすがのヨーコも少しキレ気味に電話くらいしなさいよ!と怒鳴る。
その声音にアリサは「仕方ないじゃない忘れてたんだから」と眉を顰めて返す。
返してくる時点で全く反省の色無し。

「あんたお金まだあるの?いくら何でも貸すなんて無理だからね」

釘を刺して言うヨーコの発言に分かってるわよと分かっていなさそうなアリサ。
この遣り取りは今日で終わるのだから別に最後の最後まで世話を焼く義理もない。
二人は色々悟ってしまったのか、もう文句を言わなくなった。
どんな人間であれ無関心に晒されてはもうお終いだと思う。
それすらアリサは気付いてなさそうだが。

「キッドさん達が来る前に言っておきたい事があるんです」

リーシャが合図の代わりにそれを言うとヨーコ達が船に乗せられない事や選択肢を告げる。
最後通知に近いだろう。
それを聞いたアリサは不満そうに乗れないの?と聞いてくる。
だから、決めるのはアリサだと最後に締め括る二人にアリサはふうん、と特に危惧した様子も見られないままキッドの所へ戻ると言い出す。
二人が止めといた方がいいと言うのを聞かずに「服のお金だって出してくれたし」というのを聞いて三人で顔を見合わせた。
それはかなりズレた見解であろう。
彼はアリサが服を欲しがった時に買わなかったと彼本人から聞いた。

「あんたが服を買えたのは何もユースタスさんが優しいからじゃないのよ」

彼がそもそも追い出したがっているのを知らないアリサ。
説明しても無駄だと思う。
此処はもうストレートに言ってあげた方が本人もキッド達にも精神的に良いと思うのだが。

「ユースタスさんのところに居たら死ぬよ、ツジシマさん。彼は貴女を追い出したいから引き取ってくれって言われた」

「はあ!?何それ!デタラメ言わないでくれる?」

マイがハッキリと告げても全く信じないアリサは彼女に突っかかる。
突っ掛かる相手をかなり間違えているけれど。

「マイさ。私の事好きじゃないの分かってるんだよ?私も嫌いだけどさあ。キッドはこうして服も自由もくれたし!」

「今日は……でしょ?それまでの監禁生活を思い出してから庇ったらどうです。あと、勝手に名前呼ばないでくれます?私にも呼ばれたいか呼ばれたくないかを決める権利ありますし」

久々にマイの毒舌を全開で聞いた。
マイにキツく言われた事がなかったのだろうアリサは口をワナワナと動かして何も言えなくなる。

「あと、決めるのは勝手ですけど、絶対に付いて来ないで下さいね」

「そ!そんなの当たり前よ!言われなくても付いていかないんだからっ」

もう修正不可能な程の溝が生まれてしまった。
フォローする気はない。
リーシャとしても居てもらわなくとも何ら不都合は無いからだ。
キッド達が来る頃には冷戦状態になっていて首を傾げていたが、面白そうに見ていた。
後で教えろよと目で言われて仕方ないと息を吐いて淡々と言う。

「キッドさん……彼女の事、どうします?」

マイ、ヨーコ、アリサは各各部屋で寛いでもらっているので今は船員達しかいない。
こっそり聞いてみようと夜の時間に温かな飲み物を飲みつつのんびりしているのだ。
キラー達もそれぞれの飲み物を抱えている。

「お前達でも手を焼いたのだろう?おれ達の手に負えるとは思えん」

キラーが淡々としみじみと言う。
そう言われてしまえば無理矢理負わせられない。
それに、キッドもあまり乗り気で無いし、良い兆候はなさそうだ。
アリサにも良い事はなさそうだ。
彼女はキッドが服を買ってくれたからキッドに気に入られている事を予め伝えると彼は面倒だと忌々しげに述べた。
言うだろうとは思っていたし、相変わらず反応の悪さに密かに残念に思う。
きっと数日後に海の藻屑となっているに違いない。
それをマイ達も気付いているだろう。
それを理解してくれる頭をアリサは持ち合わせていないので余計に悩む。
キッドが俺に良い考えがあると悪魔みたいな企み顔で言う。

「あの女は見るからにプライドが高ェ。それを刺激すりゃあ簡単だろうな」

怒って出て行くだろう。
それなら生きられる確率が高くなる。

「逆上したらビンタされるかもしれませんし、避けてあげて下さいね。避けれるならですが」

「おれを誰だと思ってやがる」

ワザと避けるかもしれないから言っているのだ。
キッドの計画とやらを聞いて不安が残るけれど、掛けてみようではないか。
と思って就寝してみたら、翌日、何とこの城の中にカップルが現れた。
いや、現れたというより誕生したという方が正しい。
どうしてこんな事になったのか、多分例の計画とやらかもしれない。
だとすれば嫌な予感がする。
もしも想像する嫌な事が起こりうるのならば、多分荒れる、色々。

「キッド、ねぇ、街に行こうよお」

「仕方ねェなァ(うぜェ、面倒臭ェな)」

という感じだ(一部心の声が漏れている)。
リーシャには確かに彼のそこはかとない煩わしさが聞こえてくる。
イチャイチャしている二人を怪訝そうに見ているのは何も自分だけでなく、マイ達も可笑しいと思っているようだ。
そうだろう、だって、キッド本人は最近までアリサを追い出したがっていたのだ。
そんな男が自分の女に据えるなんて有り得ないと考えるのは容易である。
アリサはそれを疑いもせずにキッドに甘えている声を出す。
絶対にこれは捨てれるフラグだとしか思えない。
けれど、彼女がこの島を出ていくには手酷くされた方が今後の生活にも役立つだろうし、監禁生活を強いられる運命は回避されるだろう。
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