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三人に当てがわれた部屋で密接に会議を開く。
アリサをどうするか。
という話題だ。

「二人はどうしたい?」

「リーシャ、あんたはあの子が乗っても良いの?あの子、我が儘だし。絶対疲れる」

ヨーコが眉を顰めてこちらを気遣ってくれているのかそう言われる。
確かにあの子は何か引っ掻き回しそうだ。
それは確かにありそうだけれど、それでも彼女達とは知り合いであるから無視出来ないのではないのだろうか。
連れて行きたいと言われたら断るつもりはないけれど。
マイとヨーコはまだもう少し判断材料と考慮する期間を設けて少し待って欲しいと頼まれて、彼女達に気負いしないようにと言って、もう暫く滞在するウマを伝える為にキッド達の居る場所へ再び向かった。

「と、言う訳でして、宜しいですか?」

「嗚呼。別にアイツがどうなろうとこっちの関知する事もねェ。まァ、お前が残るってんなら、アイツも役に立ったんだな。なァ、キラー」

キラーは肯定せずに無言で返すとこちらを見てから「キッドがすまない」と謝ってきた。
あのセクハラ発言とお触りの件だろうかといいえいいえと首を振る。

「悪いのは誰かさんなのでキラーさんが謝る必要なんてありませんよ」

「てめェ……肝が据わり過ぎやしねェか?」

「ええ。まぁ少しメンタルは鍛えられていると思います」

素直に認めると「変な奴」と言われる。
そんな変な奴を誘惑しようとするキッドは人の事を言えないと思う。
というか、そもそもこの問題を押し付けてきたのに恩着せがましさというものはないが、好き放題に触れてくるのは可笑しい。

「キッドさん、夜這いしてこないで下さいね」

「おれがそんな真似すると思うか?あ?」

「風呂に堂々と入りそうな風貌してますよね?入りませんか?約束出来ます?」

「事故は起こるもんだろ」

「言ってる時点で駄目ですよ。キラーさん、見張っていて下さい。お願いしますね」

そう言うと快く頷くキラー。
その対応にキッドは「どっちの見方だキラーっ」とガーッと吠える。
セクハラに味方するのは気分的にもキラー的にも同意出来ないだろう。
そのやり取りを眺めてから退室して部屋へ戻った。



翌日からマイとヨーコによるアリサの静かな査定が始まった。
海を航海するにはそれなりの覚悟と連帯性が必要だ。
素人だから、一般人だから、異世界から来たから、という理由であっても海は何人たりとも厳しさを緩めてくれる訳もない。
死ぬときは死ぬし、死なない時は死なない。
強くても弱くてもそこは平等というのが新世界なのだ。
だから、彼女達は吟味して判断をしようとしている。
それにアリサは気付いていないようだが。
やはり、マイを下手に見て顎で使おうとする場面を見る。

「マイ。この服貸してよ。ここの人達、全く女物の服とか用意してくんなくてさあ」

「その服は駄目です。今日は寒いので私が着ようとしてました」

マイは何の感情も乗せない目で言い切る。
それにマイは少し怯んだが、やがてみるみるうちに勝ち気な目を宿して突っかかる。
内容は「私が頼んでるのに貸さないとかどういう事よ!」というものだ。
ヨーコによればアリサの父親はそこそこ金持ちで頼めば買ってもらえる環境と甘やかされてきた我が儘でこういう風になっているのだと聞いた。
成る程、確かに令嬢に良くありがちな性格をしている。
キッド達もこういう所が嫌で厄介払いしたいのだろう。
よくまあ押しつけてくれたものだと今にして思う。
知らなければ知らぬまま彼女達も余計な気負いを背負わずに済んだだろうに。
これからまた少しばかり勝手の違う疲れや胸騒ぎを覚えつつ、二人のやり取りを見続けた。
途中でヨーコが二人の間に割って入りアリサを宥めている。

「あんたもう大学生なんでしょ?だったら我慢するのも社会勉強じゃないの?確かに服はあまり沢山船に置けないから着る服っていうのも限られてくんのよ」

「そうなのか?服が少ねェのか」

「まあ、元々買い漁るタイプでもありませんし、お金もそこそこ節約して遣り繰りしなければいけないのであの二人には贅沢させて上げられていませんね……はぁ……」

ついつい溜息を吐いているとキッドが買ってやるよと言い出す。
それに驚いて上を向くとドヤ顔の男が居た。

「あの子達に買ってくれるんですか?」

「あいつらだけじゃねェ。お前にもだ」

そう言ってもらえて、少し甘んじようかなと今回はその言葉に頷く。
今回の件はキッドから持ち込まれたし、それに、丁度そろそろ服を処分しなければ使い回しも難しくなってきたのだ。
タイミングは良好である。
キッドはやっと強請ったかと口にして重そうな重量のある腕と共に立ち上がると船員を呼びつけて荷物持ちに抜擢した。
いくら何でもそこまではと断ろうとするとニヤッと笑うキッド。

「あの女は煩いくれェ言ってきたが、逆にお前は言いなさ過ぎだ。ちったあおれも株を上げねーとな」

その後に「あの女には何も買い与えていないがな」と嘲られる口元。
彼は我が儘タイプはお気に召さない様だ。
それにしても、そんな状態で良く今までキッドの逆鈴に触れずに過ごせた物だ。
もしかして閉じ込めていたから聞く機会もなかったのかもしれない。
彼女はそれで命の長さが延びたのだから運が良かったのだろう。
少し哀れに思えて、また駄目だ駄目だと内心と首を振る。
彼女は人を見下すタイプの人間なのだ。
決して同情なんてしてはいけない。
今だってまだ不満そうにマイを見てから服を投げつけた。
嗚呼、マイも少し怒りの表情をしている。
ヨーコがヤバいと心の中で言っているだろう顔をしているし、雰囲気は最悪。
此処は全く関係ない自分が介入していかなければと三人の間に入る。

「マイ、ヨーコ」

呼んでいないアリサもこちらを向くのでにっこりと言う。

「こっちおいで」

彼女に聞こえないように部屋を一端出てからキッドが購入してくれる事を伝えると嬉しそうに言ってからマイは笑顔でサラッと言う。

「でも、あの子だけには私物は触らせたくないので死んだって触らせません」

「確かにあの子のあの我が儘はこの世界ではあまり良くない部類よね。あの子、島に降りるとして、住んでいけるの?無理っぽい」

この世界の衛生基準も労働基準も元の世界とは違うし、発達しているのはあるものの、アリサには耐えられないだろうとヨーコ論。
向こうの基準が高いのならば、それに適用しようと思うのは難しいかもしれない。

「ねー、ねー、どこか出掛けたい。出来ればショッピングしたいな。此処に来てからまだ出たことないしさあ」

「ショッピングって……貴女、お金は?」

「バックにあった財布のお金、此処とは違うって言われたし使えない。てか、出してくれるよね?」

二人に何の疑問もすまなさそうな声音も無くスラスラと出てくる厚かましさ。 流石にお金となると黙っていられない。
無駄遣いされると出費が痛すぎるので先手を打つ。
後でキッドに頼もう。
服を買ってくれると言っていたし。

「私達もそこまで蓄えはないので……ちょっと買い物はもう少し待ってもらえますか」

「ええ。勿論」

まるでお金を貸してもらえるのが当たり前みたいに笑って言うアリサに内心眉を顰める。
どうしてこうも厚かましいのか。
人の生活に無理矢理入ってくるしと良い所が今の所見つかっていない。

「キッドさん。居ます?」

マイとヨーコには自室に帰ってもらったりと自由にしてもらい、自分はキッドの部屋へ赴く。
この城はどの部屋も似たような造りなので迷いそうになる。

「おう。居るぜ」

外から返事を聞いて入っても良いかと聞いてから入室。
中へ入ると結構ゴテゴテしている。

「何だ」

「さっきの服を買うというお話ですが、追加で聞いておきたいのですが。アリサさんの服も購入するという事になりましてね。それについて、キッドさんのお金を少し割り増しにしてもらえます?重ね重ね、すいませんけど……あ、無理なら無理で言ってもらっても構いません」

「何だ、そんな事かよ……てっきりおれを夜這いしに来たかと思ったじゃねェか」

「キッドさん。私が絶対受けないと思ってるのに毎回言ってます?」

もうそろそろキッドのエロ発言に苦笑いというか。

「いいや?おれはいつでも本気だ」

その言葉が言い終わる前にいつの間にか近くに来ていた。
何故見えなかったのかと絶句しているとスルリと腰を厭らしく撫でられて声にならない悲鳴を上げる。
口をパクパクとさせているとキッドが艶のある笑みを浮かべて笑う。

「お前はおれが見てきた女の中でなかなか肝が座ってて、その上謙虚さを持ってる。それだけなら別に興味なんてねェがな」

「で、ではどんな理由で?私、本当に普通のどこにでも居る人間ですよ?」

口元を引きつらせつつ言うと彼は暫し考えるように目を横に動かす。
その間にソロッと距離を開ける。

「……あー、きっと追ったら逃げるからかもなァ」

「私はネズミか何かで……?」

あはは、と空笑いしつつ言うと相手はそうかもなと楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
何故そんなに楽しそうなのだと思うと、これはこれでローに性悪な部分が似ていると思った。
最悪の世代の特性か何かであろうか、いや、麦藁一味はこんなに精根が悪くないので断じて最悪の世代の特徴では無い。
色々と現実逃避する為に考えているとキッドの眉間の皺が寄せられていく。
何か癪に触る事でもあったのか。
疑問に思って眺めていると違う事を考えているだろう、とか、男の事を考えている目をしていると言われてびっくり。
麦藁一味の事を考えていたので性別の違う人間の事を思い浮かべていたのは認めよう。
けれど、キッドはきっと、ローの事を指摘したとしか思えない。
ローだとは思っていないだろうけれど、多分ぎくりとなっている内心。
キッドには成るべく冷静にそんな事はないと宥めに掛かる。

「気が変わりそうだ……今日は見逃してやるよ」

「え、嗚呼……それはどうも?」

何だか前にも同じ様な事を言われた覚えがある。
あれはローの台詞だっただろうか。
またローの事を思い出しつつも、キッドの件を聞くのを忘れている事に気が付いて慌ててアリサの服も込みでの許可を訪ねると渋られる事無くイエスを貰えた。
新世界で新勢力として活躍しているのに、懐の深さは変わらないようだ。
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