08
その後、数日熱を出して落ち着いた頃には完全な病人と化していた。
「……んむ」
「熱くないか?」
「うん。ちょーどいいよベポくん。おかゆまで絶品なんてコックは天才過ぎだね……ん」
只今身体を動かすなとローに強くキツく言われているリーシャにおかゆを食べさせているベポに申し訳なく思いながらも美味しいので遠慮なくモクモグと口を動かして咀嚼中。
本当のところかなり数日前よりも動けるようになったのにこの扱いはそろそろ勘弁してほしい。
でないと腕が退化してしまう。
「ベポくん、ローさんはいつになればこの船から出してくれるのか知ってる?」
「聞いてないな」
ハッキリ言うベポにがっくりと肩を落とす。
全て平らげるとタイミング良くシャチが入ってきて元気か、と声をかけてきた。
もう元気なんだけどと恨みがましく訴えてみても知らぬふりをされそうかと流される。
人生ゲームを今日も手に持っているのでしようということかと意思を汲み取るとわくわくと胸が踊った。
それを見てお前は好きだな、とベポに言われ頷く。
(人生ゲームとかやる機会なんてなかったし)
こういう類いのボードゲームは好きな方なのだと初めて知ったのは四日前で、シャチが暇をもて余しているリーシャにと持ってきてくれたときに発覚した。
やればやるほどハマリ飽きは来ない。
「昨日終わったから一からだねっ」
「俺は銀行員でベポは漁師でお前は」
「海賊ね。見事に可笑しな人生だった……」
「そうか?俺は違和感なかったぞ」
ベポにそう言われ複雑な顔をする。
「私程……似合わない人間はいないよきっと」
落ち込みながら述べれば励ますようにシャチが人生ゲームを始めた。
「やったあ!二十万ベリーゲットっ」
「たった二十で満足してたら金持ちになれねえぞ」
「えー?……確かに億万長者にはなれない……」
考えたらすぐに分かる結果に萎むが次はベポの番になり今は本屋として働いている彼が本を売り付けてきた。
「相変わらずラインナップおもしろー!エロ本?」
「本の種類が少なくて面白味ねーって言い出した奴が自分達で種類増やそうって言った結果俺等の趣味が詰まってるんだぜ」
シャチが得意気に紙に書かれた本の名前をヒラヒラと見せた。
本当にたくさんある。
「じゃ、エロ本で」
「おま、仮にも女がエロ本を選ぶな!」
「女だって、エロ本を選んでもいい筈ですー。男女差別をゲームに持ち込むのはどうかと思いまーす」
「ぐ」
最もな正論に彼は敗けを認めリーシャは初のエロ本――と書かれた紙を手にいれる。
やっほーいと掲げるとそれを後ろから浅黒く指先一つ一つに刺青を彫った手が掠め取った。
「私のエロ本!」
「……楽しいか?」
「うん!だから返却!」
呆れた顔でそれを眺め心底馬鹿にするような事を言うローに頷き手を出す。
それに乗せた彼はテーブルを覗き込み納得したようだ。
「だからそんな紙切れがあったのか」
「ローさんもやるー?」
「キャプテンはこういうのしないんだリーシャ」
ベポが口に出す言葉にそっかと項垂れる。
「いや……してやるよ」
「え」
「え」
「ほんとーですか!?じゃー皆でもう一度初めからしよ!」
リーシャが声に出す前に固まってしまったシャチとベポを無視して空いている椅子に座るロー。
「何ぼんやりしてる」
目で早く準備しろと二人に言う彼に二人はフリーズしていた身体を慌てて動かしいそいそと回収とそれぞれの必要なものを配る。
一応自分もと手伝おうとしたのだがローにお前は動くなアホと罵られ手を引っ込めた。