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96
アリサが船に乗ってから三日が過ぎた頃、マイの青筋が爆発してしまう。
我慢の限界を超えてしまったのである。

「ヨーコだって釣りくらい不服だったけど、やりましたよね!?なのに、あの人と言えばっ!もう耐えられない!」

「さり気にあたしにも嫌味が被弾したわよね、今」

半眼になって冷静に突っ込むヨーコであるが、マイの憤りを理解出来るので止める事はしない。
マイはアリサを次の島で降ろそうと言ってくるのでそれもそうだと納得。
このまま相性の悪い人間達が共同生活なんて出来っこない。
身体にも衛生にも精神にも宜しくないので潮時だろう。
その方向で三人で話し合い、アリサには船から降りて出ていってもらう事にした。
本人に言うときっとゴネる確率があるので、こっそり置いていく事に決まった。

「あ、電話」

この船に電話となると、その相手はとてつもなく限られる。
恐る恐る取るとローではくシャチの声がした。
少し久しぶりなので互いに元気か、と尋ねてから要件を問う。
何となく嫌な予感が漂うけれど。

『んでなァ、そっちの船、視界に見えてんだわ』

「トラファルガーさんに私達距離を置きましょうと伝えておいて下さい」

『え"、ちょ、は?』

ガチャリと何もなかったように切る。

「ふう………よし、これで」

息を吐いて一難去ったと胸を撫で下ろしているとプルプルプルプル、と電伝虫が鳴る。
しかも、長い。
傍に居たマイ達がその気迫に怯えている。

「ちょ、鬼電!?海賊が鬼電とかっ」

いくらなんでも反応が過剰である。
出るのが途端に怖くなるレベルだ。
もう絶対に取らないと心に決めていると船が地割れのように揺れる。
まるで、何かに衝突したような。

「げ!何してくれてんのよーっ」

ヨーコが慌てて外に出たら、次いで叫び声が此処まで聞こえてくる。
どうしたのだろう。
怖くて、出たくない。
なので、隠れよう。

「私、隠れるから。悪いけど……後、宜しくっ」

バビューンと走って隠れられる所に身を隠した。
風呂の桶の中に入り、身を縮めて息を殺す。
まさか、こんなところに隠れているとは思ってもみないだろうと笑う。

(それにしても、ローさん達を見て余計な事をしなきゃ良いけど、あの子)

アリサの反応の船員達の反応が気になるけれど、というか、何故リーシャは隠れているのか。
良く良く思えば別に何も無いのに。
もしかしたらシャチにノリで距離を置くことを言って、それがローに伝わった可能性を恐れてしまったのかも。
我ながらなんと軽はずみな事を述べてしまったのか。
今、出ていってもお咎め無しで許してもらえるだろうかと思考を回す。
いやいや、そもそも、そんな事で一々怒るローも問題有りだ。
少しくらい冗談を流してくれたって良い筈。
段々、自分は悪くないのではと思うようになってきた。
そうしていると、向こうの扉側の外から何やら騒がしい言い合いが聞こえてきたので、この声はローとアリサだと思わずしまったと衝撃を受ける。
キッドにだって知っているやら何やらと投げかけて第一印象を悪くしている子であるので、ローにも同じように接してしまうかもしれない可能性を失念していた。
きっと、ローの心は荒れて激怒に寄る。
そうなれば彼の鬱憤を晴らすために使われてしまう。
そこまで結び付き、サァ、と青白くなっていく顔色。
どうか、どうか余計な事は言うな、と祈る。
いや、きっと言うのは避けられないだろう。
もう手もかじかんできているし、心なしか血行も良さげではない。
お風呂場意外と寒いのだ。

――ガラッ

蓋をしているからと油断していたが、くぐもった扉の開く音が聞こえてもしかしてマイら辺だろうかと耳を澄ませる。

「覇気を使える事、忘れてるのか」

「……はっ!」

そうだ、彼は覇気を使えるのでイコール居場所を特定出来る。
この船の広さなんてほんの僅かだし、見付けやすい事間違いなしなのだ。

「んな事より、聞きてェ事が幾つかある」

彼はナチュラルに話しつつ風呂の蓋を外して普通に覗き込んできた。
出るにも出れない状態なのに、脇に手を入れてヒョイっと上に持ち上げてそのまま風呂を出る。
ぷらんとなっている奇妙な体勢で連れて行かれたのは甲板。
まだこの船に留まっていたのかと周りを見る。
というか、あまりこちらに人を移さないで欲しい。
下手をすると重量を超えて船が軋む。

「なんですか、聞きたい事って」

何となく、察しつつも聞いておく。

「四人目の女についてだ。煩いし黙らせろ」

不機嫌な表情で命令してくるローはとてもではないが、アリサに良い印象を抱いていなさそうだ。
そう言われてもと困る。
彼女と生活して何より迷惑だったのは共同生活をしようとしてくれない所だ。
出すご飯に文句は付けるし、お皿をキッチンに持っていかない。
掃除を振り分けてもしないし、洗濯物もしないのだ。
マイが切れたのは冷蔵庫を漁っていたという事もあった為。
その時の言い訳に「お腹空いてた」というだけで謝罪なし。
リーシャも冷蔵庫を漁られるのは海の上では致命的なので、鎖を掛けて冷蔵庫の鍵をマイに渡した。
この鎖は本来敵に使用する為に持っていたので、使い道が増えて良かったと思っている。
そんな回想を頭に描きつつもローが今も血管を吹きそうなので凄く怒っているのが手に取るように分かった。
彼を宥める為には彼女をどうにかせねばどうにもならなくなる。
というか、彼女はどこに居るのだろうかと目を巡らせているとローが船に勝手に入っていったと言う。
しかも、ヨーコがついて行き、マイは不貞腐れていて船員達やローに彼女について説明をし回っているらしい。
割を食わせているのは心苦しいのでリーシャもフォローしよとローへ具体的にあった事を説明。

「はァ……お前という奴は。まァ、良い」

頭が痛いとさぞ感じている事だろう。
余計な事を次々と抱え込んでしまうのは星の元に生まれた定めか何かである。
今回は今までと違って、悪党でも天災でもないのでやり難くはなると思い、もう一度謝っておく。
迷惑をかけるのは必須になる。
この船も船長もローなので、船員達の不満が溜まらなければ良い。

「というか、彼女をこの船に乗せずとも、今回は直ぐに私達から距離を取ったって怒りませんよ?ローさんが抱える案件でもありませ、いだだい!いだい!」

いきなり鼻を抓まれて後ろへ引っ張られる。
鼻声になるのも気にせず彼は眉を寄せてこれでもかとぎりぎりと力を入れた。
酷い、ロー達に迷惑を掛けないで済む提案を言っただけなのに。
彼は手を話すと不機嫌な声音で述べる。

「おれが、おれ達があんな小娘一人どうにかされると?引っ掻き回したらそれはそれで良い教訓、はたまた思い出に変わるだけだ。お前達みてェに持て余すかよ」

それに、と続けられる。

「仮におれが医者じゃなくてもお前らがかなり疲労で目が充血しているのは分かるくらいは目に見えて分かり易い」

「そ、そんなに疲れてませんってば………はは。マイ達は若いし知り合いなので気苦労はきっと感じているでしょうからこの船で良ければ寝させてあげてもらえると嬉しいです」

「あのアリサとか言う女は地下牢だな、分かってる」

いやいやいや。

「私何も言ってませんが!?というか、もしかしてユースタスさんの方法を真似てます?張り合う気持ちは最悪の世代としてあるのでしょうけど……此処で張り合うのは止めて欲しいです」

これ以上アリサが騒ぐ要因を増やされると困る。
日に日にヨーコ達の疲れが目に見えて酷くなりつつあるので、余計な刺激は与えたくない。
懇願するとローは「本人次第だが、今は様子見しといてやる」と口角を上げる。
お礼を言おうとするとズイっと彼の顔がズーム。
目をパチパチとさせていると「けど、タダってわけには、なァ?」と意味深な発言に顔が赤くなってきた。
これは、期待されている視線と台詞。
キッドの所での滞在やアリサとの辟易とする旅でこういう雰囲気もすっかりご無沙汰なせいで気恥ずかしくなる。
久々にローと会ったし、此処で拒否すると後々に響くだろう。
断る理由を持ち合わせていないので、ギュッと手を握って奮い立たせ、彼の唇にガツン、と軽くぶつける。

「いってェ」

「はい、終わり。やりました」

唇を合わせるのを世の中ではキスと言うのだから何も間違っていない。
自信を持って言える。
赤くなりながらも平気なフリをして言い終えるとガッと頭を掴まれ、上を向かされ、ロー自身が迫ると瞠目。
終わったと、二度目を言う前に言の葉を塞がれて音も出ない。
こういうのを世間では俺様的行動と言うのだが、ローはそれを自覚しているのだろうか。
別に俺様というより、ドS的思考を持つのが正しいのかもしれない。
今も現にリーシャな口内というマイテリトリーを踏み荒らしているのに、この嬉しそうな楽しそうな顔。
恍惚としているようにも思えた。
腰を抱かれて足が浮く。
酸欠になってきて唾液が口の端に流れると彼は一旦口を離して舌先で掬い取る。
色々エロいし、やっても無意味な事であるので止めて欲しい。
じわじわと赤くなる身体に離そうとすると、彼の握力が強くなり、抱きしめてくる力が強くなる。
ねっとりと相手の下が喉を這う。
ゾワゾワと背中が仰け反りそうになるのを我慢して耐える。
ローに何かを悟られないように気をつければ楽しくないと思われて、きっと行為を止めるかもしれない。
という期待を込めて抵抗を続けているとローの目が笑った。
こんなに嫌な予感がしても抵抗は止めない。
いつ人がこの場面を見てしまうか分からないし、何より恥ずかしくて堪らないので兎に角彼を止めさせようと足掻く。
抵抗に漸く意味が出てきた。
ローが眉を寄せて不機嫌になってきた。
不機嫌になって欲しくはないけれど、誰かに見られずに済むようになれば別に構わない。
そのまま離されるかと思いきや、彼はリーシャをグッと抱き上げてきたので「きゃあっ」と女の叫び声を僅かに上げてしまう。
それにローは微かに瞠目して、それから嬉しそうに笑う。
これは喜んでいるのか。

「へェ……女みてェな声出るんだなァ?」

「で、出ませんよっ」

自分でも恥ずかしくて赤くなって、爆発しそうなくらいに羞恥心が湧いてくる。
誤魔化そうと嘘を吹くとローが吹き出す。
それに益々バツが悪くなり身体を震えさせてローの笑いを止めようと手を振る。
抱き上げられている事もすっかり忘れて身悶えていると彼はスタスタと歩き出す。

「――時だって……まともに甘えた声出さねェ癖に」

「煩いです。黙ってもらえますっ?」

誰も聞いていないか周りを見回してあたふたと彼の口を塞ぐ。
息苦しいと言われるが馬鹿な事を言うこの口が悪いのだ。
ローはこちらの言い分に答えつつも歩くのを止めない。
器用だ。
歩くのを止めてくれと言っても止まらない歩行。
誰かに見られたらスキャンダルになってしまう。
認知されている事は知っているが、それでも目撃されるのは快く思えない。
ローは楽しそうにルームと唱えると薄い膜が広がり一気に彼の寝室に進んだ。
色々展開が早い。
リーシャはローを見てから諦めの心境に達した。
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