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マイ達の視線に気付いたアリサはこちらへ来て「どう?私が嫌われてるなんて事、なかったよね?」と優越を感じている表情で言うので流石のリーシャもウザいなと思った。
折角忠告してあげたのにその上から目線は何なのだ。
もう彼女と居る理由も此処に留まる理由もないので明日出発するとキッドに伝えて、マイ達にも伝える。
近くで聞いていたアリサはもう帰るの?また遊びに来てね。
と近々あるだろう出来事を予測もしていない。
ムカムカしたので笑顔で機会があればとおべっかを言っておく
まるでこの島を自分の物みたいに言ってしまう事から、恐らくキッドの女になったのだからこの島も自分の所有物だと誤認していると思われる。
二人は馬鹿な発言をしたアリサに絶句していた。
見切ってしまったのだろう。
ヨーコも流石に擁護出来ないといった風に忌々しく唇を引き結んでいる。
マイは心底飽きれていてもう知らないといった態度。
リーシャも同意見なのでさっさとこの島から離れようと二人に行こうと進言。
二人は返事をしてからもう此処に居たくないというオーラを纏っているのでキッドに予定を繰り上げて今から出航すると伝える。
すると、もう少し居とけよと言われたが、断る。
恩のある男であるが、それとこれとでは違うのだ。
こんなに皆が楽しくない旅行なんてもう真っ平御免である。

「出ていくのなら、おれも行動に移さねーとな」

ガリガリと頭をかいてキッドは意味深な事を漏らす。
聞かなかった事にしよう。
キッドが行動に移す等、こちらにも飛び火していかないようにフォローしなければ。
リーシャは密かに計画を練っているとキッドが電伝虫に電話を掛けてアリサを呼び出す。
直ぐ近くに居るのに呼び出すなんて、どれだけ面倒臭がり屋なんだ。
どうしてその扱いで喜べるのか。
タタッとかけてきたアリサは上機嫌にキッドへ笑顔を向ける。

「後でおれの部屋に来い」

「分かった」

アリサは返事をするとこちらを向いてドヤ顔を見せてきて、心底(馬鹿だなー)と感慨深く思う。
そんな優越感を感じている場合でないのに。
人に見せる前に色々学べば良い。
手遅れ感があるけれど。
触らぬ神に祟りなしとそこから離れる。
マイとヨーコの所へ行くと、二人はキッドとアリサを見て半眼で怪しんでいた。もう放っておけば良いと二人の背中を押して船へと誘導。
出発するよと告げて催促すると二人は切り替えて船へ乗り込む。

「ううっ、ま、待ちなさいよお!」

これから出航だという時、涙でぐちゃぐちゃなアリサが走ってきた。
如何にも手酷く捨てられてきたという雰囲気だ。
見送りに来てくれたキラーが仮面の奥で息を吐いたのは見なくても想像出来た。
苦労人は健在である。
アリサは飛び乗れないのか、止まりなさいよ、待ちなさい、と煩い。
涙で顔が荒んでいる。
その顔は鬼気迫っている割には悲しさと怒りで一杯一杯であるという感じにリーシャ達には見えるし、止まれと言われて止まりたくなる要素がない。
船は今でも進んでいるのに、それでも走ってきている。
そのままいけば助走して船に飛び乗れるのではないのか。
飛び乗ればいいのにとマイ達も言い合っている。
荷物も服しかないし、と思っていると服を持っていない。
服くらい持参してもらわないと困窮してしまう。
貸し合うのは今回服を買ってもらったから良いのだが、彼女は選り好みしそうで嫌だ。
そう思っていると袋が飛んできて船に落下する。
ドスンと音がして袋が落ちてきたので二人も驚いて袋を見てから服が入っていると騒ぐ。
放り投げられたのはどうやらアリサの服の類らしいし。
どこから放り投げられたのはのかと周りを見ると城の中に赤い色が写る。
キッドだ。
彼は口角を上げて赤いファーを翻して奥へ去っていく。
去り際が格好良かったけれど、アリサをどのように泣かせたのか経緯は酷そうだ。
アリサの為か船が停止する。
今船を動かしているのはマイだ。

「えー、乗せるの?」

ヨーコは外に居るので話し掛けると彼女も苦笑して応える。
マイは極力避けていたのに、やはり同族だからのよしみで止まるのかもしれない。
止まった船は次に後ろへ旋回してまた陸に着く。
その間にアリサは希望を見出した顔で乗り出してくる。
そうしてから船は動き出す。
キラーが手を挙げてさよならを示してくれるのでリーシャも見張り台から手を振る。

「う、ああ!」

泣き喚いているのでそろそろ泣き止んで欲しい。
ヨーコに目で合図を言うとヨーコが心得たという風にアリサの所へ行く。
彼女はどこか歳をとったというか、老けたというか。
兎に角、何か人生でも経験のした事がない事に見舞われた。
それを経験したからこそプライドの高そうな女が乗せろと懇願してきたわけだ。
アリサは今もグジグジと泣いている。

「キッドが、えぐ、で、出ていけってぇ。お前なんて、好きでもないし、邪魔だし、うう、出ていかなかったら、こ、殺すとか、い、言われて〜」

「あ、ああ」

「そ、そう……ま、まぁ、服、あるし」

船を一旦ゆっくりの進行にして三人はアリサの周りに集まる。
事の末を聞き出してみるとキッドは部屋で何やらお前の事は好きじゃない、寧ろ出ていけ、殺してやろうか、等と言う言葉の数々をアリサに投げかけたらしい。
全てはキッドの手の内というのをアリサだけは知らなかったけれど、他の三人は予期していたし、こうなるのではないかと薄々感じていた。
アリサは一頻り泣くと水道はどこにあるのだとか、顔を洗いたいというので、今回はまあ貴重な水を使うのを許す。



***



アリサ side

アリサはこの世に生まれてから不便というものを感じた事はない。
過去に高校時代で二人の同級生が失踪するという珍しい事を体験したけれど、特に何か変わる事なく父に頼めば何でも手に入れられるというのは、やはり何の代わりもなかった。
それから大学生になったりと順風満帆の生活をしていたのだが、どう変になったのか、落ちた、アスファルトから。
なのに、この漫画の世界に来てから一変した。
最初は手放しでユースタス・キッドの居る場所へ落ちた事に喜べたけれど、それはそれで、それ以降の扱いは最悪であった。
ただ、キッドの事を知っていると言って驚かせたかっただけなのに、そんな話しを取り合ってもらえずに部屋に監禁じみた事をされるわでもう帰りたいと何度も歯噛み。
そんな生活を暫し経験して、やっと部屋に出られたと思えば目隠しされた。

(何で私がこんな事されなきゃなんないのよ!)

「これ、取ってよっ」

「黙って歩け」

アリサを案内しているのは原作で少し前まで超新星と騒がれていた一人である殺戮武人キラー。
彼の印象は知的で少し戦闘好き、しかし、キッドの右腕である。
という筈だったのに、紳士的な部分すらない。
どこに連れて行かれるのか、何故歩かされていないのか。
そんな事よりもうかなりの期間にお風呂に入っていないのだ。
自慢のキューティクル使用である髪質がボロボロで、もう耐えられない。
やっと出られたので、嬉しさに話し掛けるけれど、全く取り合ってくれもしないし、どんどん不安になって、どこまで行くのかと耳を澄ませても足音が聞こえる。
それだけだ、それが永遠に思われたけれど、扉が開いた音がして、通された。
少し空気が緩くなった。
何故か分からないが、喉を飲む音が僅かに聞こえたかと思ったら、キラーから質問を受けるので混乱して反射的に返す。
しかし、反応はとても冷たくて素っ気ない。
そんな態度では出るものも出ないと不貞腐れていると、低い声で答えろと再度言われて背筋が凍る。
何故こんな風に尋問されなくてはいけないのかと理不尽さに憤るものの、本能では口を動かす。
心では強がれるのに、身体は怯えている。
素直に答えていくと、前にアリサが言っていた大学やら地球といった言葉がついに出てきて、やっと話を信じてくれるのかと喜ぶ。
それにしてもキラーの言葉は棒読みである。
言い慣れない言葉をまるで読んで言っているようだ。
でも、アリサは彼らに県の事や高校の事を話しただろうか。
覚えがないけれど、興奮していたから口をついて話していたのかもしれない。
そう納得してから数秒待たされてのち、あの冷たくて良い部屋とはとても言えない地下に放り込まれた。
また此処に戻ってくるなんて、と目頭が熱くなる。
泣くと目が腫れるし、みっともないのでアリサは無くという行為が恥ずかしく思えて今までは泣いた事なんてなかった。
フッた男が泣いたり少し突付くと女は直ぐに泣いたりというのは光景に良くあったけれど、アリサ自身にはなかったのに。
此処へ来て途端に涙脆くなってしまい、今だって喉を引きつらせてむせび泣いている。
みっともないのに、止まらない。
泣いていても、時間は過ぎていて、泣いたせいでウトウトしかけていたらまたキラーが現れた。

「ね、ぇ、お腹、空いた」

泣いたせいでエネルギーを消費してしまったせいで空腹になるのが早かった。
頼むなんて本当はみすぼらしいと思っているのでやりたくはないが、背に腹は変えられない。
頼みを聞いてもらえるように危機感を意識して伝える。
キラーは少し間を置いて持ってくると告げると外へと出ていき、足音が離れていくとドアを開けてみた。
望みはなく、無情にも鍵はきちんとかけられていた。
出られるかもと思っただけに落胆はデカイ。
溜息を吐いてガツンと壁を蹴る。

(むかつくむかつく!どうして私がこんな目にっ)

癖で爪を噛んでしまうも、ネイルも剥がれてみすぼらしくなってしまっているのに気付き改める。
もう少しでキラーが来るから印象を良くしておかなくては。
最も、服も汚れていて、効果は発揮出来ないだろう。
こんなのでは自分の輝ける所がなく、メイクもなく、残るは声に女っぽさを賭けるしかない。
今、出来るとすればそれだけ。
足音が近付いてきてキラーが戻ってきたのだと知ると姿勢を正して座る。
開口一番に声を出そうとしたが、ご飯の香りに喉が一瞬止まり、目はホカホカとした物に釘付けになった。
目の前に焦がれた物があるせいで出鼻を挫かれたが、気にならない。
彼はこちらにご飯を置くと直ぐに去って行くが、引き止める余裕なんてありはせず、飛びつくように目の前にご飯を持ってきて、久々の物に喉を鳴らす。
ごくり、と喉を上下させるや、一気にかき込むように食べるとその味に目頭が熱くなるけれど、泣かない。

(そうよ、本当はこんな風に言えばご飯が出てくるのなんて、当たり前なのよ。私のパパはお金持ちなんだから。私も選ばれた人間なんだわ)

アリサの傲慢を取り戻させた瞬間であった。
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