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05
船から担がれて出て行くと交戦する音が淡々と聞こえていた。
乱戦している訳では無さそうなので安堵。
外へ出てきたローが見えたらしく船員達の声が聞こえて、マイとヨーコに名前を叫ばれる。

「病人に手ぇ出す何て、この卑怯者!」

「その人を離しなさい、トラファルガー・ロー」

マイとヨーコが怒気を含ませて言う言葉に彼はクスクスと喉で笑う。
嫌な予感がする。

「お前等、いくらこいつ主義っつっても、限度はある筈……こいつの病は只の咳から始まる風邪じゃねェ……んな事も確認しようとせずに大切に扱うのは主義なのか?」

ローが一から十まで話してしまう。

「!、風邪じゃ、ない?」

「トラファルガー、貴方、リーシャさんの病を治せるの?」

マイの査定と判断が早過ぎて脱帽。
海賊に託すというのか。
この船を人質(無機質であるが)にされている以上、おいそれと拒否出来ないというのもあるだろうが、彼女達が自分達で対処できないと判断したからこそ彼に望みを掛けているのだろう。
喉から金平糖が出る奇病なんてそもそも治せるのかという疑問が湧く。
借りを作るにしても治せないのならば意味が無い。

「こんな聞いた事のない病気……治せないのなら放っておいて下さい……余計なお世話です」

一応確かめる為に聞くと彼は鼻で笑ってこちらを見てくる。
治せるか治せないのかは船で検査してみないと分からないから今は何とも判断出来ないと言われて確かにそうだけれど、そう言われたらこちらも無碍に出来ない。
なので大人しくなるしかない。
暴れるのを止めると厄介な女がローに抗議をしてきた。
彼女はロー信者なのに珍しい。
しかもいつもよりも怒っている様子でローに文句を言っている。
何故助けるんですかや、その女は敵ですとお馴染みになっている言葉から始まり、可笑しいです、今直ぐ息の根を止めるべき等レパートリーは尽きなさそうだ。
海兵でおまけに対した実力も無い女を構うローが許せないのだろう。
それか、海兵だからこそ助けるなと抗議しているのかもしれない。
ローは彼女の文句の羅列を聞き終えると溜め息を付いた。

「俺だって海兵は嫌いだ」

「ならっ……」

「だが、こいつは俺達の嫌いな海兵と同じ腐り方をしてるのか?」

「……でも。海兵は海兵」

何かを耐えるように言う。
確かに敵だしと例を上げたらキリがない。
けれど、海賊には海賊のプライドというのがあるのも一応は理解している。
彼女のプライドが今回の件に引っ掛かっているのならば、こちらから断るしかない。

「あの〜、別に、ゲボぉ!無理して私を治療してもらわなくても良いんですよ?ゲボ!」

「お前は黙ってろ」

「菌が飛んだら困るので喋らないで下さい」

最善策を述べたのに二人の反応が辛辣過ぎて泣きそうだ。
というか、この船には敵しか居ないから相当アウェーなのではないか。
二人には肩身の狭い思いをさせているとマイとヨーコに悪く思い、不甲斐なく思い、ゲホゲホと咳を繰り返す。

「想像してみろ。こいつが死んだ後の航海を。何が面白い?ぽっかりと何かの穴が空いたみてェに感じるぞ」

「それは、船長だけですっ」

ローはエレスティンの言葉を無視して船員達にも聞く。
彼女の意思はローの前では無意味に散るのだろう。
せめて部下の意見も参考にすれば良いのにと見ていると楽しそうに海兵のこいつらが居なきゃつまらなくなるなー。
という抜けそうになる空気に唖然となる。
そこまで親しまれていたとは驚きである。
セレスティンもこの周りの反応には困った様にして口を挟むのを諦めた。
マイとヨーコはローが医務室に向かうと告げると付いてくる。
お見舞いでもしてくれるのかなとほんわかと和んでいるといきなりローに向かって治療費の事を尋ねてきた。
二人共現実的過ぎてお姉さんついて行けないよ。

「何だ?別にそれが欲しくて治療する訳じゃねェ。こいつを少し貸してくれりゃァ文句はない」

「手を出したらこの船に放火しますよトラファルガー」

マイが牽制を唱えてくれて(天使だ)と嬉しくなる。
しかし、それを聞くかはロー次第。
というより、能力を使われたら何も手出し出来なくなるのは誰でも分かるので手の打ちようが無い。
ローはクツリと笑うとマイに向かって保証は出来ないと言う始末。
嘘でも良いから逆撫でするのは止めてくれ。

「もし性欲処理が必要ならば…………私が………」

「お前はいらねェ」

「「ちょっ!?」」

あまりにも無慈悲に断るローに思わず叫ぶ。
断られたのは良かったが、懸念が残る言い方が駄目である。
お前はと言うが、ローの基本的な好みを知らない。
それをヨーコも思ったのかじゃあどんな女が好みなんだと聞く。
聞いてはいけない事を聞いてしまっているような気がする。
嫌な予感を感じた。

「こいつ」

担がれたまま示された言葉にシーン、となる。
何とコメントしたら良いか分からない。
ありがとうと言うべきか、恐れ多いと言うべきか。
それとも恥じらいを持つべきか。
それとも無心になったまま流すべきか。
どれを選べば。

「えー、あー、えー」

「別にわざわざ何か言おうとしなくて良いぜ。何も求めてないしな」

すっぱりと言われて黙秘するしかない。
このまま医務室に連れて行かれて診察される。
マイ達は扉の向こうで待機だ。
診察や問診、質問を経ての結果、病の名を調べる為に二日期間を要すると言われてそうですかと答える。

「リーシャ、あと何日生きてられるんだろうな………フフフフ」

「縁起の悪い事を言わないでくだ、ゲホゲホ!」

海賊を貶して侮辱するように、また海賊に嘗められたりする事には慣れているけれど、それとこれとはまた違う。
ゲホゲホと咳を繰り返しては金平糖を食べる。
それをしているとローが食べるなと眉を下げるので美味しいのにと思って、彼に止める理由はないと伝える。
この部屋が金平糖まみれになるのが良いのならば構わないが。
埋め尽くされると脅してみるけれど、ローは眉間に皺を寄せて顔をガッと掴まれる。
ふぎゅう〜と空気が抜けると何をするのだと言う。
彼はそのまま担ぐと何故かどこかに運ぶ。
運ばれた先は何とロー自身の部屋であったので暴れる。
誰だって男の部屋に連れて行かれたら暴れるのは必須だ。

「離ーしーてーっ」

「断る。目ェ離したら逃げるだろ」

「こここ、こんな事して、た、ただで済むと、お、思ってるんですかっ」

ワナワナと唇を震わせていると鼻で笑って「済むと思っているが?」と言う。
心の中の自分は膝を付いているけれど、それに気付かない相手は笑って抱き締めてくる。
せめて身体を触るのは同じ女であるエレスティンが良いと要求すると何言ってんだと明らかに馬鹿にしている顔で忠告された。

「二人っきりになったらお前、タダで済むと本気で思ってんのか?あいつ、お前の事を良く思ってねェのは俺だって分かる」

これには何も言えなくなり静かになってしまったこちらに視線を向けてからリーシャを寝かせてローもモゾリとベッドへ入った。
感染しても知らないですよ、と言うと空気感染はしていないと言われてもう何も本当に言えなくなる。
手持ち沙汰だし、海賊船の船というイレギュラーな事態に枕が違うから眠れないという可愛い理由も飛び越える緊張感。
ローはもう寝息を立ててこちらを向いているものの目は閉じられている。
器用に早寝するなど関心すると同時に顔を観察。
こんなにじっくり見た事がないので良い経験だ。
眺めていると先程のローの好みの件を不意打ちで思い出してしまい頭を抱える。
起きたらどんな顔で話せば良いのだろう。
というか、ローはあんな大胆な発言をしておいて恥ずかしくないのだろうか。
流石に見つめている所を見られるのもバレるのも後からからかわれるだろうし、意を決して目を閉じた。
夢を見ると良いのにな。



海のさざ波の音で目を覚ます。
実は寝起きが良くなくて、数分間は寝ぼけることに定評がある自分。
ぼんやりしながら起き上がるとキィ、という音と共にカツンカツン、という音も耳に入ってくる。
ぽややー、としていると視界にほんのりと輪郭が見える。

「ヤケに静かだな?」

「………………………」

聞いていなかったというか、寝ぼけているので聞けれない。

「………熱でもあんのか?」

相手の声音が怪訝そうに低くなるのだが、そもそも相手が話していることを認識していないので応え等無い。
ぼんやりしているの舌打ちした音の後、ギシリとした音が聞こえる。
身体が若干揺れて前のめりになると音はそのまま近くに来た。

「………………………、」

口から音が出ること無く、ベッドのシーツを見続ける。
一点見つめ。

「もしかして、寝ぼけてるのか」

相手が正解に辿り着くとこれ幸いだ、と頬を撫でる。
僅かに触れた感触に身を引く。
反射行動だ。

「へェ、可愛い寝ぼけ方だな」

ニヤッと笑う相手は悪戯に首筋へ指先を踊らせ、鎖骨へと滑らせる。
擽ったさに息が洩れた。

「…………う」

ごくり。
どこからか息を呑む音。

「………はあ」

短い溜息、そして、頬に当たる温かな温度。

「てめェの責任だなコレは」

唇にふにっと押し当てられた。
それら全ては忘却、はたまた男が一人のみぞ知るもの。




ぽちり。
目が覚めた。
どこだここはと周りを見渡すとそう言えばと、ここに居る経緯を思い出し頬を一つかく。
呑気に寝られるのは褒められたことではないが、いかせん、自分は緊張を持つと極度に根を詰めすぎて他の事が出来なくなる質だ。
たから、寝てしまうのは良い選択なのだと納得させる。
マイやヨーコはどうしているのだろうか。
一度気になりだしてしまうと外に出たくなる。
しかし、感染する危険性を思うと無闇に会いに行けない。
どうしようかと悩んでいるとふとした事に気付く。
金平糖がどこにも転がっていないのだ。
もしかして眠っていて意識が無い時は発病しないのかもしれない。
起きたら金平糖に埋もれていた経験を三日間感じた事が一切なかったようなと思い出し、治療の助けになるか分からないような情報を得た。
暫くぼうっとしているとノック無しに扉が開けられて、見てみるとトレーを持ったローが入ってきたところだった。
トレーの中から湯気が見えて、良い香りが漂ってくる。
お腹からキュルルルと音がなってお腹を擦った。

「食え」

「どうも………ほおお、美味しそうですね」

まともに食べられない。
咳のせいで、となっていたが、食べやすい飲むタイプの何か。
スープ系だ。
野菜は入っていないが、ミキサーで混ぜたと思われる。

「ふうー、ふうー………あ、普通に美味しい」

「当たり前だ。その前にもっと食う以前に毒が入ってないだろうかとか、フリでも良いから確かめろよ」

「え?え!もしかして毒を入れんです!?酷い!治療するとか豪語してといて!」

「おいおい………例えだろうが。俺じゃなかったらお前今死んでたな」

「私死んでたよ〜!」

アンビリバボーな顔をして再度飲む。

「誰が悲痛なフリしろっていった。最初に確認しろって意味で言ったんだがなァ」

ねっとりとした語尾にビクつく。

「毒味ですよね!分かってますよ、ええええ」

「たくっ、なんでお前よりあいつらの方が地位が下なのか疑問だ」

「いや、私の地位が上なのがそもそも不相応だと………」

「祭り上げられるってのも大変だな」

全く同情していない顔で言いのける。
え?咳してないって?
それはね、してるけど会話の邪魔だから咳の音はミュート扱いになっているだけです。

「咳止まんねェな」

え?もっと前にミュートにしとけと?
読みづらいって?
それは言わない約束でしょ。

「別に治らなくても構わないんですから気にしないで下さい」

丁寧に断ったのに鼻を抓まれる。

「馬鹿か。あいつらが俺に託した思いも無碍にするのか?」

それを言われると呻くしかない。
この外道め、人の良心を突きやがって。

(外道も何も純粋な犯罪者だよこの人)

悲しくなって膝を抱える。
何だか犯罪者に人道説かれるのは解せない。

「解せぬ」

「解せろ」

なんだその生きる!死ね!みたいな会話。

「トラファルガー・ロー信者達はきっと反発しますよ。知りませんからね」

「下克上されるような付き合いじゃねェからな。無駄な心配だ」

「あの唯一の紅一点は私を殺しに掛かるのがオチで見えてるんで、暗殺されますよ私!」

「あいつはな、新入りだしな」

ベポよりも新入りなら結束がまだ低いのではと懸念が残ってしまうのだった。
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