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- ナノ -
04
三日目となると二人が部屋に入れろと言い出してどうしようと考える事が増えた。
このままではいけないと分かっているし、隠し通せないのも理解してはいる。
しかし、心の準備も、部下に移す危険があるしと悩みが心を弱らせていく。

「!……マイ!前方に敵船よ!」

見張りをしていたらしいヨーコの言葉にマイが緊張の声音で今行く!と言う。
リーシャには直ぐに片付けてくるから部屋に居といて欲しいと言われたが、危ない事をしにいくのを知っていて自分だけ部屋で待つなんて出来る訳がない。
マスクを装備して鎖と小型剣のクレイモアを手に持つと部屋を出る。

「ゲホッ、ぐ……はぁはぁはぁ!」

日に日に咳の出る感覚が狭くなり多くなってきている。
息をするのもかなりしんどい。
重症だなと一人ごちると体勢を立て直して廊下を進む。
小さな船なので少し歩けばあっという間に外へ出られる。
また咳が出てしまいマスクが金平糖で埋まるとマスクをズラして手で掴む。
そして、それを口に入れて噛み砕く。
金平糖が出ている事を知られない為には口内でこれを処分していく他あるまい。
咳をする度に口内で金平糖を噛み砕いていくのを繰り返していると目の前に蔭が出来て、目の前に人が居るのを気配でも感じた。

「風邪か……どうりで居ねェと思えば」

「ああ、貴方でしたか。ゲホッ……マイとヨーコは?ゲホッゲホッ」

「おれの仲間達が適当に相手してる。にしても、息も絶え絶えだな……リーシャ大佐」

「……貴方には、ゴホッ。関係ありません」

ローが今回の敵船の事だったらしい。
マイとヨーコは今、きっと対戦している最中なのだろう。
怪我をしてしまう前に止めさせようと腰を真っ直ぐにして歩く。

「おいおい……その体たらくで戦うつもりか?」

「ゲホッ、ゴホッ……ゴホッ……」

話すのも億劫で咀嚼しつつ無視をして進むと後ろから重みがのし掛かってきた。
そのせいで前から倒れる。
腕を付いて顔面強打は免れる。
後ろを見やるとローが足でリーシャを踏みつけていた。
正義の文字を踏みつけている。

「止め、何するんです!?ゲホッゲホッ」

「おれの仲間が適当にやってると言った筈だ。怪我なんてしてるわけねェ。行く必要はない」

いつリーシャが怪我をしているかもしれないから行かなくてはと口にしたのか、していない。
ローに読まれている事や同じ事を二度言われた事が理解出来ないので、そんな事を言う理由が分からなかった。
というか、いつまで踏んでいるのだろう。

「そんな状態で俺達と戦えると?随分と舐められたモンだな」

ローの挑発とも取れる発言に違うと反発。
リーシャはマイ達を助けに行くのだ。
舐めてないし、それをローに言われる謂われは無い。
首を突っ込んで来ているのはローの方だ。
苛々として、酸素の回り難くなっている脳で必死に今、ローをどうにか出来ないかと考えて、クレイモアを手に掛ける。
鎖を振り回してもきっと当たらない。
後はこのクレイモアだけだ。
牽制しようと抜き上げてローの足に向かって刃の先を振り下ろすと足が退かされ、その隙に起き上がり甲板へ向かう。

「フッ……背後注意」

−−ズバッ

空気が切れる音と足が切れてお尻から下が無くなる。
能力を使ってきた。
その折り、船も切れた。
その光景を見て苦々しく思う。
この男の攻撃を防ぐ手立てが思い付かない。
切られた船の片割れが崩れる前にローは片割れを動かして重ねていく。
まるでオブジェのように遊んでいる。
船を好き勝手にされていくのを只見ていくしかない。
足をくっつけようと頑張って、くっつけると立ち上がる。ローが動く前にダッと走って彼の攻撃範囲から出ようと力の限り走る。

「頑張るな……そこら辺の海兵共とは違うようだ……クククッ」

そりゃそうだ、ローとの因縁(?)は昨日今日の期間ではないからローの能力を使われたのは初めてではないから、くっつけるのも慣れているし切られるのも慣れている。
何故笑っているのだと余裕ぶっているローが少し気に触った。
いや、少しどころではないが。
切られて踏まれて追われているのに反撃も満足に出来ない事が悔しいけれど、仕方ない。
弱いのは分かっているから逃げ一択。

「近付いたらゲロってやる!」

警告として言うけれど、ゲロるのは汚物でなく金平糖なので出せない。
けど、相手はそんな事を知らないので嫌がる事を平気で言う。
手段なんて選んでいる場合でないし、このまま居続けると不都合が起きそうで怖い。

「フフっ、怖ェ怖ェ」

怖いなんて塵にも思っていない顔だ。
言葉にする前に咳が出て、その勢いのせいでマスクから金平糖が溢れ出して一粒落ちる。
それが何か見えたローは「何菓子食ってんだ」と鼻で笑う。
まあ、理由を知らなければ職務怠慢に見えるのは仕方ない。
この金平糖は食べていたのではなく生成されて口から出てきた等普通は想像も出来ないだろう。

「折角だから診察してやろうか?患者」

「結構、で、ゴホゴホ!」

断ってからまた進もうとするとガッチリ腕を掴まれる。
腕を乱暴に振り解こうとしたら足を掛けられて膝から崩れ落ちた。

「うわっ」

ドスンと尻餅を付くとローが腰の位置に跨がってきて刀を滑らせて手首をスライス。
また切り離されたとエンドレスに見える攻防に辟易。

「っ、う!」

「ほら、先ずは診察だ……口開けろ」

「ゴホ!……駄目!」

マスクを取られてしまう。
咳を必死にしまいと息を止めるとローは怪訝に見てくる。

「っ、ん」

鼻でゆっくりと息をして、咳が出掛かると息を殺して押し込める。

「何をしてる」

「…………………………」

「おい、聞いてんのか」

ひたすらそれに集中する為に黙る。
ローの話しなんて聞くような暇はないのだ。
いきなり無抵抗になったこちらに痺れを切らしたのか顎を急に掴まれる。
集中が切れると目を閉じて視界に何も写さぬようにすると次は耳に吐息が掛かり、ローが何か良からぬ事をしようとしていると感じるが、それでもどうする事も出来ないと諦めているのでされるがままだ。
ぬるりと湿った感覚に意識が混濁。
耳の中を這う感覚に背筋がゾクゾクとする。
流石に集中出来る訳もなく、スルリと咳が出て金平糖がポロリと零れた。
運良くローの顔は耳の横にあるから金平糖が出た所は見られていない。

「咳を何故我慢したんだ」

「か、関係、な、あ、」

咳が出そうになって声が途切れる。
耳をやられてしまい身体も意図せず過敏になっていく。
嗚呼、絶対にバレる。

「や、離して、」

身を捩りローの体から出ようとするも、手足を執刀されて芋みたいにしか動かずウネる。

「今日はいつになく反抗的じゃねェか……背徳心でも湧いてきたのか?くくく」

ローに会うと、彼は偶にこういう異性にするような真似をしてくる。
いつもは捻じ伏せられて抵抗する間も無く襲われるけれど、今回はそんな空気等ぶち壊してしまう。
何と思われても逃げねば。

「あ?なんで金平糖……」

ローが視界の端に見えたものを見て、眉を寄せる。
大方、隠し持っていたのだろうと思われるだろうけれど、彼は鋭いからちょっとした違和感で気付くかも。

「おい、持ち歩くくらいこれが好きなの」

「ゲホ、」

「か……、……?」

ニヤツいていた口元が引き結ばれる。
口から入るのではなく吐き出された所を目撃したら誰だって驚く。

「今、口から出てきたのか?……口に含んでいたにしては手が使えない筈……おい、答えろ」

そう、手首が使えないから口に金平糖を入れて食べるのは不可能。
ローが理由を知りたがるのは目に見えていたので説明なんてするものかと首を横に動かして拒否。
三日間隠してきたものをサラリと白状するのは納得出来ない。
あと、説明してどうこう何か進展するの期待していない。
よって、言う理由はないと判断。

「アイツ等の前で鳴かせられてェのか、ああ?」

(ひぃ!)

「言え」

胸を鷲掴み吐かそうとしてきたローに声にならない悲鳴を上げる。
それをして困るのはリーシャだけだと言いたいらしいが、ローの部下であり紅一点の女クルーが黙っていないような気がする。
酷い現実だ。

「…………関係ありません。貴方に」

「公開がそんなにお好みか」

「奇病にかかりました」

言ってしまった。
目が、だって目が本気だ。

「奇病、だと」

「咳をすると金平糖がゲホっ、出てきます。ゲホ、このようにっゴホッ」

我慢していた咳を我慢から解き放つ。
沢山出てきた咳から金平糖がコロコロと出てくる。
それを見たローは少し絶句すると直ぐに喉へ手をやって触診してきた。

「それが出てくる時、違和感は感じるか?痛いのか。頻度は増えてるのか。これをアイツ等は知ってるのか。そもそもいつから発病した」

沢山質問されてゼェ、と息を吐きつつ答えていく。
黙っていたらまた脅される。

「と、いう感じで……ゴホッ!」

「……船に戻って病名を調べる」

「そ、ですか。ではご機嫌よう、ゴホッ」

帰ってくれるのなら大歓迎である。
手放しで喜びつつ見送ろうと相手を見ると無茶苦茶睨まれていた。

「馬鹿か。お前も来るんだよ」

「は?」

「お前が治るまでこの船は元に戻さねー」

「は?マイとヨーコも居ますし、誰も納得しません!」

「お前がその病で死ぬと聞いても、果たしてアイツ等は海軍に良く有る屈しない精神を貫くと思ってんのか?くく、無いな。お前の為なら海軍だって裏切るだろうな、あの二人は」

あの二人の事を熟知しているような物言いにムッとなる。
反論しようとしたら咳が出て不発に終わるので勝利の女神も勧めていないのだと察して何も言うまいと誓う。
二人に関しては言われてみればそれらしい傾向はある。
でも、大切な部下なので汚名返上してやると意気込む。
と、気合いを入れ直している時にローがいきなり米俵担ぎしてきたので肩に腹が食い込むので苦しい。
苦しいと悶えてからローがその事に気付いて少しお腹を浮かす。
おんぶで良いと思うのだが。
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