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船員達が情報を集めてきてくれてあの男の居場所を捜し当てたという。
この島には一見普通の民間人が住んでいる只の島だが、この島の正体は非小国、ブリッツ。
勝手に名前を付けて、勝手に住んでいて我が物顔でいる男がマイとヨーコを攫ったペトリナ。
彼が納めている国。
彼は近くにある島から貢ぎ物を寄越せと言い、彼の脅威に怯えた人達は生け贄に花嫁の女を相手に渡す。
そうしてペトリナは六人の妻を持っているらしい。
という事は七人と八人目の花嫁にされるという事だ。
それに、この小国に放送で二日後に花嫁が嫁いで来たので結婚式を挙げると国民に告げられたらしい。
結婚式と聞いたとき、全身の血がグツグツと煮られるような感覚に息を吐く。
それをお首ににも出さずに冷静に聞いていた様に見せかけるのは大変であった。
リーシャは先ずハートの海賊団の船に繋がれていた中型船を確かめてからハートの船にある武器倉庫にある手榴弾を手に掛けて息を深く吸い込む。

「チャンスは、一度切り」

心の準備も特効の用意も出来た。
後は、走るだけだ。
手榴弾を括り付けたロープを見えないように服で隠して船を降りる。
もしかしたら船員が気付いて後を付けてくるかもしれないが、後を付けられたからといって何かが変わる訳ではない。
やることは只一つだ。
船を降りるとこの島の地図を買った。
店主はどこにでも居る民間人である。
この島で花嫁が式を挙げて、無理矢理結婚させられそうだと知っているけれど、どうでも良いのだろう。
悲しい事実だが、人は時として無関心というものが一番身近な感情なのだ。
店主の居る店から出るとデカデカとある大きな建物が聳えているのが分かる。
使用人やメイドが居そうな所だが、年数はそこまで経過していないのを見ると新しく建ててまだ少ししか経っていないらしい。
にんまりと口元が弓なりに描かれる。
自分から何を取ったのか、あの男は何も分かっていない。
どんなに大切な仲間であるのかを。
相手には打撃や弓があまり効かないらしいのでその場でやるしかない。
失敗してリーシャだけ生き残り、のうのうと旅に出るなど出来る訳もないのだ。
建物に近付く前に正装を整えた。
執事か建物の関係者に扮して相手を騙せるならば儲け物だ。
燕尾服に着替えてブティックから出て、建物に近付くと護衛を確認する。
男は相当手強かったのに、住んでいる所には警備を雇っているらしい。

「っ!」

見えない所から様子を窺っていると後ろから腰に圧迫感を感じて息を詰めた。
見つかった、と相手の顔面に目掛けてグーをお見舞いする。

「いつもこんなのだったら苦労しねェんじゃねーのか?くくく」

「な、ローさんっ!?」

驚くと突然唇をぶつけられて目をぱちくりとする。

「おい、何やってる……!?おい、此処でいちゃつくなっ!」

どうやら今の声で警備に居場所がバレたらしい。

「どこでキスしようが俺の勝手だ。命令するな」

そうローが返すと警備の男は憤慨して去っていく。
ローはそれを見据えるとこちらに向いてまたキスをし出してヌルリとディープキスをしてきたので押し返す。
その折、カチャリという音に下を向くと重みが無くなっていて、慌ててローを見ると手に手榴弾が握られていた。

「なっ、気付いて、たんですね……」

「嗚呼。お前には不釣り合いなもんだ」

「はは。お返しします。それ、ローさんの船の武器庫から拝借したので……持ってって下さい」

「お前は丸腰で行くつもりか?……死ぬぞ……いや、死にに行くつもりか」

「彼女達だけ、置いていく事は有り得ません」

「お前を死なせるつもりも、死にに行かせるつもりもない」

「私が貴女に好きだと言ったから、情が移ってしまったのですか?すみません。伝えるべきではありませんでしたね」

俯くと彼は顎に手をかけて無理矢理上に向かせてきて、こちらもその力で向かざるおえなくなる。
彼はジィと見てきて、瞳を覗き込むように目を合わせてきた。
とても綺麗な澄んだ色だと思う。
ビー玉のようにコロコロとした目の形に吸い込まれそうだ。
彼を見つめ、見つめられている状態で口を開く。

「焦がれるそれの何が悪い」

「え?」

「お前はその程度かもしれねェが、おれは中途半端に好きだとは言わねェ質だ。お前なんかよりもずっと想いは上だ、お前を守りたいと思うのもな。それと、お前の命は俺のもんだ。おれのものになった瞬間から」

凄いプロポーズの言葉に赤面する。
これは流石のリーシャもシリアス抜きで身体をのた打ち回らせたくなった。

「もう、止めて、下さい!」

耳を物理的に塞ぐとズボンに彼の手が無遠慮に突っ込まれるのを感じて、耳から手を退かして彼の猛進を止めた。
攻防している間に船員達が来たのか、茂みの間から見慣れたツナギが見えた。

「よ、呼びましたね、彼等をっ」

そう言うとローは悪役様のようにニヤリと笑った。

「おれのクルーは優秀だからな」

自慢げな顔が悔しさを増幅させる。

「てか、行ったらどうですか?優秀な船員達の所にっ」

「ズボン中に手ェ突っ込んだままか?そんなに見せてェとはな」

「見せたくないですよ普通に!」

彼は下着に手を掛けている状態で手を離して「身嗜み直しとけ」と言うとさっさと立ち上がって彼等の元へ行ってしまう。
時間稼ぎをされた事に、相手の狡猾さに歯軋りする。
ローが離れて直ぐに燕尾服をしっかり整えて入り口に向かう。
手榴弾を取られてしまった今、身一つで飛び込むしかない。
勇気なんぞを溜めている暇も時間も対して残っていないので警備の男達の前に何食わぬ顔で行く。
予想通り相手はこちらの燕尾服を見て納得顔で聞いてきた。

「用件は?」

「二日後に結婚式をなさるとの事で、ウエディングコンサルトとして派遣されてきました」

かなり事実に有りそうな内容に男達は確認すると言って中へ入っていく。
しかし、それを止めて言い訳を述べる。

「実はまだペトリナ様には連絡を頂いていませんのでアポイントは取っておりません。どうか有無を聞いてきては貰えないでしょうか?」

嘘なので確認を取られてもバレる。
そしたら助けられなくなるのは理解出来るので此処は真実を混ぜつつ慎重に言葉を選ぶ。
確認する男が一人向こうへ完全に行くのを確かめるともう一人に尋ねる。

「して、貴方にはご結婚のご予定は御座いますか?」

「あ?んな事関係あんのか?」

「ええ勿論。我が社はウエディングコンサルトですので。このパンフレットは如何ですか」

と用意しておいた文字しか書かれていない用紙を読もうと相手が前屈みになる。その瞬間、相手の身体が痙攣して後ろに倒れた。
実はこの日の為に簡易のスタンガンを作ったのである。
ローのカウンターショックにヒントを得た。
残念ながらマイとヨーコの世界の様に電池式やボタン式とはいかず、一々作らなければいけないので万能ではない。
なので、使うのもタイミングがいるし、使いどころが難しいのでなかなか使えないのだ。
危険な所へ向かうと分かっていれば使えるのだが、前に宝石にされたりいきなり誘拐されるという相手が複数人の場合対応不可である。
倒れた男を引きずっていそいそと茂みに隠す。
後ろを見ると間抜けに口を開けた船員達が見えたが、何かを聞いている余裕は無い。
もう一人が戻って来ないうちに建物へ入る。
人は特に居ない様で行き交う声も聞こえない。
スススッと出来るだけ足音を立てないように中へ入ると広い部屋の一角に矢印の看板があって式場と書かれていて目を点にする。
こんなに分かり易く書いてあるとは思わなかった。
運が良ければ二人が居るかもしれない。
バッ、と顔だけ出してウエディングドレスの並ぶ試着室に入る。

「居ないか……」

舌打ちを押し隠すと溜息を付く。
その際、ドスンと音と振動を感じて冷や汗がタラリと流れる。
ガチャリと扉が開かれる前に慌ててドレスの中に紛れ込んで息を潜めた。
ブフォ、と息が聞こえるのが何とも嫌だ。
攫った相手だから尚更向かっ腹がヤバい。
相手がとても強いので特攻しても無駄骨であるし、無駄死ににもなる。
すると、男はスンスンと鼻を鳴らし出して嫌悪感に鳥肌が立つ。

「何か汗臭いな」

(まさか嗅覚が使える!?)

新世界の人間ならば有り得る。
嫌な汗が出てきた。
このまま留まれないかもしれないと意を決して飛び出る。

「ペトリナ様」

「誰だ?」

「ウエディングコンサルトの者です。二日後に花嫁様とのご結婚と聞いてやってまいりました。花嫁様はマリッジブルーになられておりませんか?」

相手に考えさせないように言葉責めにする。
ペトリナはそれに暫し考えると「そうなんだよ」と悩みを打ち明け出した。
お前に悩みに打ち明ける権利等ないと怒鳴りたいのを我慢して聞く事に徹する。
どうやら花嫁がまだ結婚する事に対して納得していなくてサインもしてくれない。
そこまで聞いて彼は電伝虫を胸元から取り出した。
どうやら鳴っていたらしく全く聞こえなかった事にどれだけ肉の壁何だと目を眇める。
ペトリナな受話器を取ると話し出す。

「何だ?」

『第四奥様がフルーツを所望しておりまして、今すぐ食べたいと……』

相手の声は男性らしく狼狽というか、とても疲れている声音で言う。
奥様という事はつまり、結婚した各島の貢ぎ物という訳だが、何故だか聞いていたものとは違うような気がする。
人質が我が儘宜しくフルーツ食べたいとか言うだろうか。
ペトリナは頭をボリボリとかいて誰かに買いにいかせろと言って電話を切る。

「僭越ながら、第四奥様のお話し相手としてお時間を稼ぐお役目を私めに下さいませんか」

「役目……頼めるか?おれの四番目の嫁は普通に我が儘だが」

「私の成せる所までやらせていただきます」

ペトリナはそう口にすると嬉しそうに頷く。
まるで子供のような空気に内心青筋を立てる。
例え嫁が我が儘だろうが無理矢理浚った事に変わりは無い。
ペトリナにその女の居場所を聞くとわざわざ連れて行ってくれるらしく後に付いていく。
やがて見えてきた部屋からは愉しげな声が聞こえてきて眉を顰める。
人質のものではない態度で空気だ。
部屋に入ると沢山メイドらしき人が居て、彼女を扇いでいたりマッサージをしていたり満喫していた。
お金持ちの娯楽を直視して固まる。
どう見ても亭主関白には見えない。
相手の第四奥様はペトリナを見つけると笑顔で言ってきた。

「ペトリナ様!私、フルーツが食べたいの!……もぎたてをね」

うっすらと笑った奥様にペトリナは顔を赤くして嬉しそうに答える。
勿論だ、待っていろと。
確かに先程は誰かに頼んでいたにしろ、直ぐには無理だろう。
我が儘なものにペトリナは嫌な顔をしない。
もしかして女にはデレデレで男には暴力を振るう男なのだろうか。
リーシャの顔も覚えていないらしいのでこちらを見てもその時の船に居た男とは気付かなかったようだし、ペトリナはかなり抜けている。
ペトリナを見ていると奥様はこちらに気付きどなたとリーシャの事を聞いてくるのでウエディングコンサルトだと言う。
第四奥様もそれを信じた顔でそう言えば結婚をまたするのだったわねと笑う。

「随分と若い子達だったわね。かなり嫌がっていたけれど。素直に結婚したら楽な暮らしが出来るのに、ねぇ?ペトリナ様」

「嗚呼。楽な暮らしをさせてやる」

それも嫌だし結婚も嫌だから嫌がっているのに押しつけるその言葉に腸が煮えくり返ってきた。
此処はまだ我慢だ。
ペトリナに少し宜しいでしょうかと言うと彼はこちらを向く。
お手洗いを借りたいと言うと彼はあっちだと指してそこへ移動する。
どうやらマイとヨーコはあそこら辺には居ないようなので居続ける理由はない。
溜息を吐いて汗を拭うとペトリナに声を掛けられた。
いつの間に傍にやってきていたのだと驚いていていると彼は真顔でスンスンと鼻を動かす。

「お前、やっぱり少し違和感があるな」

「違和感で御座いますか?」

素知らぬ顔をして聞き返すとこちらに無遠慮に寄ってきたペトリナが徐に燕尾服の襟を引く。

――ブチッ!

少し引っ張ったつもりなのだろうが、向こうは慌ててすまないと謝ってきた。
どうやら手加減が出来ていないらしい。
燕尾服をどうにかしようとしているのか更に服を引っ張ってしまっている。
もっと服を破いてしまい、最終的にはビリビリになっていた。
どんだけ不器用なんだと叫ばずにはいられないが、仕方ないといった顔で隠す。

「お前、女か?……服破いてゴメンな。謝罪としておれの嫁にしてやる!安心しろ」

「は、は、はあ!?」

別にコンサルトとして男とも女とも言ってなかったが、だからと言ってお詫びとして結婚してやるとは飛び過ぎである。
リーシャはそこでハタと思い直し暴れるのは止めておこうと決めた。
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