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暇なのでベポとお絵かきをしていた。
取り敢えず初めはお互いの絵を描き合い感想を言い合う。
ベポの書いた絵は……うん、まあ、ベポらしい。
それしか言いようがない。
強いて言うなら獣らしい絵だとしか。

「お前も案外絵が苦手なんだな」

横から覗き見るシャチに言われる。
大体そんなに絵も描かないし、描くのが好きな訳でもないので下手でも気にしない。
それならとシャチも絵を描く。

「猫描くの俺結構上手いんだぞ」

自慢げ描き描きするシャチを横目に、ワラワラと暇を同じく弄んでいる船員達も我もと紙に絵を描く。
そしたら何故かローを描こうというお題を各自出して、描いて見せ合うという遊びが始まり、何故か自分も参加させられている。

「ぶ!おい、リーシャっ。おまっ、これはないだろっ」

何故か船員達から抗議が出てきた。

「でも、これもローさんだし」

バンっと紙を見せられながらまくし立てられる。

「だからってなー!帽子しか描いてねェのは駄目だろおお!」

船員達が必死過ぎるので適当に聞き流す。
彼等のロースキーには流石に共感出来ないので一人アウェイを味わっている。

(絵一つで大人気なさ過ぎ)

彼等は確かにロースキーだが、今回こんなに猛抗議しているのはローがリーシャを好いている事も、実は付き合っているのだろうと薄々広まっているので扱いが酷いと嘆いているだけなのだ。
別にローが神様だと思って言っているのではないが、それが伝わる事はない。

「じゃあ髭でも付け足したら良いの?」

「違う!」

「そういう事を言いたいんじゃないっ」

「俺、もし彼女にこんな絵描かれたら自信無くす」

「俺も」

「船長マジ可哀想」

(絵だけで、本当大人気ないなあ)

どれだけ想いをぶつけてもその不憫さを教え込められないのは必然だ。
途中でローが来たら船員達が紙を隠そうとしたが、先にリーシャが見せたので全員の目が飛び出した。

((止めろー!))

船員達の想いは届かない。
紙を見たローが初めは怪訝に眉を寄せていただけだったが、これをローだと言われ口元が引き結ばれる。
怒っているのか、それともこんな風に写っているのかと考えているのかは誰にも分からない。

「もしかして人の顔を描くのが得意じゃねェのか?」

「はい。ベポはパーツが単純だから描きやすいけど人はパーツ多いし。特にローさんは濃い顔してるから描くの面倒でした」

素直に言うリーシャに取り敢えず船員達は胸を撫で下ろす。
そういう事なら怒る必要も落ち込む必要もない。

「あれ?でも帽子だけしか描いてないのに得意とか関係あるのか?」

一人の船員の言葉に全員ハッと気付く。
ただ顔を描くのが面倒なだけなのだとリーシャを再び見る。

「たかが絵で、拘る事もないと思います」

うんうんと頷くリーシャに何を言っても無駄なのだと理解するのは簡単だった。
対するローは別に不満はない。
別に絵に対して特に何か興味があったわけでも、描かれても描かれなくてもどっちでも構わないという無関心さからくる反応である。
ある意味似ている二人なのだと数人は思った。



停泊した島へ降りたので、兼ねて観光と買い物を楽しもうと決めていた。
お付きはベポだ。
前の宝石事件の反省を生かしてボディーガードを付けられてしまった。
確かに誰かが居ると助け易いし異変に気付き易いが誰かが居ても結局は何かに巻き込まれてしまうのは前の島でも経験済みだ。
しかし、それでも懸念が残るよりマシだとロー達は思ったのだろう。
その時、考え事をしていたせいでドンっとぶつかってしまう。

「っ、すいません」

「い、いえ」

相手も謝ってきたので互いにすれ違おうとすると声をかけられた。
相手は白衣に身を包んだ人で如何にもな研究者っぽい出で立ちをしている。

「あ、あのっ。ひ、一目惚れしました!」

「え」

唖然としながらも相手は顔を赤く染めて俯いた。
空気がしんとなる。
沈黙が周りを包むとベポが手を引いて意識を拾ってくれた。

(こ、告白されてしまった)

別に平凡なのに何故一目惚れされたのか。
いや、平凡だからこそなのか。
少し混乱している頭で可笑しな方向へと思考が流れる。

「あの、私、行きずりの旅人ですので……」

「あ、わ、分かってますともっ。付き合うなんておこがましい事は考えてません。あの、少し、だけ……で良いのでお話ししたいだけなんです……駄目、でしょうか?」

相手のウルルとなった目にチラッとローが過ぎる。
別に付き合っている訳でもないし、ローが勝手に自分の物だとか言ってるだけなので別に問題はないかと思う。
ローが相手に対して消し炭にしようと考えなければ。
けれど、ユースタス・キッドの時は明らかに嫉妬していた。
だが、たった一度、しかも話すだけならば別に良いんじゃないかと思う。

「今日の二時からなら……カフェとかでも良いですか?」

付き合うとかではなくただお喋りするだけという意味で言うと、相手は顔を明るくさせて大きく勿論ですと喜ぶ。
そこまで喜ばれては無碍にも出来ない。

「では」

相手が去っていくとベポが慌てた口調で言う。

「駄目だろリーシャ!」

「具体的に何が駄目なのか教えて欲しい。何か不味いの?」

ベポに言うと彼はごにょごにょと小さく呟く。

「だ、って……キャプテンと付き合ってるんだろ」

「付き合ってないよ」

「え!?」

発表も公表もしたことはない。
船員達の勝手な思い込みだそれは。

「でも、毎日じゃないけどキャプテンとリーシャからお互いの匂いする」

「!……それ、誰かに言った事ある?」

そう言えばベポは獣の嗅覚だった。
迂闊だ。
ベポは首を振る。

「他の奴らも同じような匂いするけど、そういう時は黙っておくものだってキャプテンに言われたから」

「あ、そういやそうだね」

船員達だってお忍びだったり遊んでいたりするのだから当然ベポは分かる。
だとしたらリーシャが誰かと関係を持ったら確実にベポには分かってしまうわけだ。
ベポの立ち位置の悪さに彼へ励ましを送る。

「ベポは沢山苦労してるんだね、偉い偉い」

よしよしと頭を撫でようとするが彼は背が高いのでお腹を撫でるしかない。
ちょっと予想外の事もありながらも買い物は無事終えた。
部屋に戻るとふと、鏡に自分の姿が写る。
男装を意識した服装にこれで会うのは流石に失礼かもしれないと柄にもなく思う。
着替えようかなと服が幾つかあるタンスを漁る。
別に漁る程はないが。
一番女っぽい服装を選んで来てみると嗚呼、似合わないと苦笑。
マイとかなら似合うだろうそれはとことん似合わないと自己評価せざるおえない。
二人は良く女なのだから似合わない訳がないと言っているが自分は別に男装で良いのだ。
でも、今日だけは女になろうかなと鏡の前で笑った。
待ち合わせの時間になったのでカフェに向かうと彼は居たのでホッと密かに安堵。
もしかしたらあれは嘘かもしれないと思っていたのでやってこないかかもしれないと不安だったのだ。
嘘というか、あれを無かったことにしてくれとでも言われそうでドキドキした。
相手は普通にこちらに笑いかけてくれたのでまだ印象は悪くなっていないようだ。
リーシャは元から自己評価は高くない。
よく見てみたら別に普通かも、何て思われても可笑しくないと思っている。
ローから好意を寄せられているのだって未だに何故だか分からない。
他の異性よりも長く知人として付き合っていたからかもしれないと何となく思う。
それで近くに居ても楽に晒け出せる相手だとも思っているのかもしれない。
取り敢えず今はお話しをする事だけを考えよう。
島を出てしまえば二度と会う事はないだろうし、そう考えても別に悪い出会いではないだろうと思えた。
頼んだジュースとバナナのタルトがやってくるのを確認してから彼は微笑んだ。

「来てくれないかと思っていました」

こちらの台詞だというのは内心だけに留めておく。
どちらも思う所は一緒だったという訳だ。
ふふふ、と笑って「お話しだけでもというのは悪い話ではなかったので」と言っておく。
相手はとても嬉しそうに笑うと目尻がキュッと寄る。
タルトを口に入れると相手は小瓶を取り出した。
このタルトにこれを掛けると美味しくなるというフルーツのジャムだと説明されて見てみると確かに美味しそうだ。

「私も良くそれを掛けて食べるのですが、なかなか美味しいですよ」

お勧めされれば試したくなる。
瓶の蓋を開けてドロリとした半透明のジャムを掛けた。
一口食べてみると確かにフルーティーな味がする。
租借していると得意気に彼は言う。

「私は見た目通り研究者ですが食べ物には特に気を付けてきます」

愚かにしそうなイメージを持たれている事を理解している発言だ。
良く言われているのだろう。

「とても美味しいですね。食べる事、お好き何ですか?」

「ええ。研究だけし続けるのも精神的に辛いですからね」

辛そうに聞こえないのは穏やかな顔をしているからだ。
きっとそれ程研究が好きなのだろう。
それから二時間程ポツポツと話してから外へと散歩に誘われた。
歩きながら話すのも楽しそうである。
それからベンチに座り話していると気温の穏やかな町だからかうつらうつらと眠くなってきた。
それを見た彼は「そろそろお開きにしましょうか」と宿へ送ってくれると進み出てくれたのでお願いする。
眠いのでボーッとしてしまって誰かにぶつかるのは困るので助かった。
本格的に眠くなってきたので目を擦る。

(?……何でこんなに眠いの?)

脳も休み出す始末で、あまり思考が働かない。

(ええと、今は散歩中で)

相手が居るのに寝てしまうなんていけない。
慌てて覚まそうとするがなかなか瞼が開かない。

「眠ったか。随分と睡眠薬が効くのが遅かったな。耐性でも持っているのか?」

意識が途切れる瞬間、そんな言葉が聞こえた気がした。
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