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73
以前浚われた島を無事に出航した後、違う島に降り立った。
今度は宝石が盛んに売っていて、相場も安い島である。
ローが無表情で何か買ってやろうかなんて気のきいた言葉を言ったのだが、たかるような図太い神経は持っていないので首を振った。
ローは欲のないと顰めっ面をしていたが別に貰っても無くしてしまうかもしれないという考えからいらないし、買われても困るという思考に至っただけだ。
この島は別に鉱山が有るという訳でも無いのにレートも安く仕入れも怪しい。
前にちょこっと調べた時にそう思ったので、それも含めて此処に有る宝石に手を出すのは躊躇する。
海軍が乗り出さないのは、この島は天竜人を筆頭に様々な貴族が御用達の島らしいからだ。
下手にガザ入れしようとしたら貴族からクレームが来て権力に懐柔されるのは目に見えているからだろう。
世の中、お金で回っているのだから何もかも思った通りにいかない。
リーシャは町をぶらりと歩きながら宝石を見る。
見るだけなので百パーセント冷やかしだ。
周りを見ても皆手や服に宝石を付けている。

「……帰ろ」

暇なので歩いているのだが、もう宿に引きこもろうと宿へ方向を変える。
その際、ハートの海賊団の船員Cが見えた。
勿論名前は知っているがオリジナルキャラを作るつもりはない、特に意味はないのでこの発言は忘れてくれ。

「お、リーシャじゃん。買い物か?」

「うん。ウィンドウショッピング」

「ははは。まあお前はビンボーだもんな」

「貧乏なんじゃなくて慎ましやかな生活してるのっ」

図星だがそうだね、なんてあまり言いたくない。
マイ達に言っていたのは只単に火の車という実状を一番体験しているから見繕う必要もないと思っているからだ。
当初は二人養うのは本当に大変だった。
今というか、少し後になって二人も働き出したので楽になったが。
船員Cと話しながら町を闊歩し出すと一人の男に話しかけられる。

「すいません。今少しお時間良いですか?」

特にこれといった特徴のない顔をしている人だ。
それに頷くと相手は安堵した顔をして地図を取り出す。
島の狭さ的にこの島の地図っぽい。
その様子を観察してからこの島の人間でないから聞かれても教えられないと先手を告げる。
相手は申し訳なさそうに聞いてすいませんと謝ると去っていく。

「私ってこの島の現地人に見える?」

「さーな?」

彼は同じように首を傾げて分からないと告げた。
後々思うとこの出来事は完璧な布石だったらしい。
一時間後、リーシャは物言わぬ鉱石へと成り果てていた。

「見つけ次第俺が吐き出させる。何もかもな」

青筋を浮かべマジ切れしているローの手にはオニキスという宝石が握られていた。
握られているが、とてもソフトな触り方なので抱擁されているに近い。
ことの次第は、リーシャが路地裏に引っ張りこまれ、それに気が付いた船員Cが慌てて路地裏に駆け込むと何かの不思議な能力で宝石に変わる瞬間のリーシャを目撃した。
相手が見られたその経緯に不味いと判断して数人の男達をけしかけて襲ってきたので返り討ちにしてオニキスになったリーシャを何とか奪い返したらしい。
後手に回ったのは次々と人が現れたから。
相手を返り討ちにしながら船に急いで帰って電伝虫に各自連絡した船員Cが帰ってきたローを含めた全員に詳しい事を説明して今のローが青筋を浮かべているという結果。
実は意識もあってはっきり周りが見えているけれど、話せないし動く事も出来ない。
もどかしさにヤキモキしながらも犯人に宝石として売り出されなかった事に安堵していた。
なんせ宝石にされるという事はカットされるという事でもある。
市場に出回る前に原石は形が歪なので研ぎ澄まされるわけだ。
そんな事をされていたらと体が震える。
いくら悪運に好かれているとしても勘弁願いたい。
この島の宝石の販売が一部不明な理由が垣間見えたお陰で鬼も食わない恐ろしい事を知ってしまう。

(つまり、この島にある一部の宝石は、人間?)

末恐ろしい。
寒気と悪寒。
そんな事を平気でしてしまうのが人間なのだ。
それにしてもやはり巻き込まれてしまった事態に最早諦めが思考を占める。
今すぐ謝ってしまいたいが声の出せない身なのでうんもすんも言えない。
元に戻れたらお礼を言ってローから見返りを求められる前にとんずらしてしまえばいい。
見返りを与えるくらいなら共に居なかったら何も助けられる事もない筈。
兎に角、今は手も足も文字通り動かせないのでロー達頼りだ。
暫く船員達が総出で犯人を捜してくれているらしく、ローは自室にリーシャと一緒に居る。

「意識はあんのか?」

(あるよー)

暇なので答えてみるが当然聞こえない。

「石ころになったら何も出来ねーだろうが、馬鹿」

罵られた、今の状態では文句も聞こえないけれどこれは不可抗力だと凄く言いたい。
猛抗議したいのを我慢。
後で幾らでも言えるのだ、多分。
相手は恐らく悪魔の実の能力者で間違いないだろう。
宝石を人に変えるなんて魔法じみたそれは最早人のなせるものではない。
だとしたら能力者であるローにとっても厄介な相手だろう。
負けるとは思っていないが、この島は相手のテリトリー。
何が起こってもどんでん返しをされても可笑しくない。
不安という表情すら宝石のままでは気付かれないので、慰められないままその方が気が楽だ。
彼はぶっきらぼうな言い方を毎回するが、その実は励ましていたりするのだ。
かなり曲がった言い方が多いが。
宝石だと泣いたらどうなるのだろう。
きっと何の変哲も変化も起こらないだろうと予期。
もし、涙を出して宝石に何か異変があるならばとっくに宝石にされた人達の異変に所持している人間や売っている人間が気付くに決まっている。
リーシャがオニキスになって早一日経過。
お腹が空いたりするという現象は無かった。

(お腹空かないって便利)

お金も使わないで済むし空腹の苦しさも皆無。
極楽である。
貧乏記者には空腹が一番の敵なのだ。
空腹にならないのならば一年くらいはこの状態のままでも良いかも、なんて呑気に考えていると電伝虫が鳴って船員達から犯人を捕まえたと連絡が寄越される。
嗚呼、ついにタイムリミットかと肩がガックリと落ちた。
犯人だと連れてこられたのを待ちかまえているロー達の目に映ったのは、キラキラと輝く大きな五カラットくらいありそうなダイヤモンドだった。

「何か途中で宝石になって、叩き割ろうとしても全くヒビも入らないんです」

船員の一人が悔しそうに言う。
確かにこの世に存在する鉱石の中で一番固いのはダイヤモンドだ。
確か賞金首の中にもダイヤモンドに変身する人を見た事がある。
かなり有名な海賊だったが名前は忘れた。

「別に割れなくても問題ない。手はある」

ローは底冷えする視線でダイヤモンドに笑いかける。

「本当に怖いのは何か知ってるか、お前」

オニキスのリーシャに話し掛けるローに暫し考えるが特に思いつかない。
そもそも怖さの限界を知らない。

「人、知恵のある生命体だ」

くくく、と笑うロー。
次にダイヤモンドに向かって喋る。

「確かに石は固い。さぞ口も固いんだろうな。けど、お前は紛れもない人間だ。つー事は、感情もある」

ローはダイヤモンドに語る。

「どちらか選ばせてやる。一つ、こいつを元に戻して二度と面を見せないか」

目を細めて補食者の如く殺気を放つ。

「もう一つは、天竜人にお前を献上して俺の糧となるか」

選択肢のバランスがゲシュタルト崩壊している。
一つはとても普通だが片方はもう地獄だ。

「俺に出来ないと思ってるのか?もし舐めてるのなら今すぐマリージョアへ送ってやる。俺は別に何も困らないしな」

今や七武海になったローはマリージョアへ立ち入る事が可能だ。
ローがダイヤモンドを掴もうとした瞬間、一瞬で一人の男が現れる。

「や、止めてくれ!それだけはァ!」

もう泣いている男は土下座していた。
ローの圧勝だった。
ここまで特に手も足も出していないのに見事に話術だけで相手を降伏させたローの手腕に宝石のまま拍手を送る。
その時、体がチッと熱くなっていつの間にか目線が高くなっていた。

「あ、ローさん。皆……お、おはよー」

皆の視線に気恥ずかしくなって取り敢えず何か言っておく。
ローがそのままお姫様抱っこで何処かへ向かう。

「そいつに何か副作用がないか問い詰めろ」

ローは仲間達にそれだけ告げて部屋を去る。
無言でツカツカと歩くローにあたふたとならない。
今回は流石に心配させ過ぎたかと自覚している。

「あ、あの、ありがとうございました……戻してくれて」

「一時はどうなるかと思った」

「はい。でも、宝石になるとかなかなか良い体験になったかなーって思います」

人生の中で宝石として暮らすなんて早々ないだろう。
ローはまァなと同意して部屋へと入る。
もしかしてと思って緊張に体を強ばらせると「今日は何もしない」と言うので呆気に取られた。

「俺も何だか疲れた」

そう言って寝息を立て始めたローの頭をゆるりと撫でた。
感謝の気持ちである。

「お疲れ様でした」
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