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72
アメー島と言う一年中雨が降る太陽の見えない島に降り立った。
ジメジメしていて、ムシムシしている。
慣れない人間にはかなりキツい島だ。
現にシャンバールという一番新しい船員が居るのだが、その人が暑そうに半裸になっていた。
水でも持ってこようかと訊ねると頼もうと言われきびす を返してキッチンへ向かう。
彼は何でもかつ て海賊の船長だったらしい
紳士的な態度からはそうは見えないが滲み出る威圧感からは相応かもしれないと思った。
キッチンに入って水を探しコップに入れると後ろから音が聞こえたので振り向く。

「あ、ローさん。ローさんも水飲みます?」

「貰う」

了解と水を汲んでローに手渡すと彼はそれをゴクゴクと飲み干す。
喉仏がエロいなあ、とぼんやり眺めていると飲み終えたローが空のコップを持ったままニヤリと笑う。

「視線がよこしま だな」

「いえ、ただ男特有の喉仏を見ていただけです」

女性にはない代物なのでそれが上下するのは少し見ているのが楽しいというか、観察していて不思議だなと凝視していたのだ。
ローは自分の喉仏に触れて、次はリーシャの手を掴み己の喉へ誘導したかと思えば指先を喉仏に触れさせた。

「どうだ?」

「喋ると凄く震えます」

「お前の喉も声帯機関が有るから震えるぞ」

笑っているような顔でそう言うローに対してそう言えばこの人は医者だったと思い出す。
ローは未だその声帯機関に手を当てさせたままなのでそろそろ離してもらえないかと頼む。

「この水シャンバールさんに届けたいのですが」

「嗚呼、それあいつの為だったのか。そりゃ阻んで悪かったな。後、後で部屋に来い」

「え?あの、何故?」

「お前が読みそうな本を本屋で見つけたから渡す」

「そうでしたか。なら後で寄らせてもらいます」

ローに部屋へ来るように指示されたら何かやま しい事があるのではないかと勘ぐってしまう。
それは杞憂だったらしく本をくれると言われ、それならと答えた。
外は雨だが、雨の日は甲板にそれなりの大きさのテントが張られる。
泊まる時に使うテントとは違い、別の世界の言葉を使うと、運動会に張られる保護者や先生達や何とか委員が居るテントだ。
何の世界の話しやら。
そのテントがあるお陰で彼らは濡れずに訓練も出来るし寝る事だって出来る。

「シャンバールさん、どうぞ」

「嗚呼、有り難い」

コップ一杯じゃ足りないだろうと沢山持ってきた。
シャンバールはとても大きく、ベポよりも大きい。
巨人族なのか、それともそれ系統の血が混じる人間なのだろう。
シャンバールが飲み干すのを見ていると視界の端に水を欲しそうな顔をして自分達を見ている。
五杯目の水を飲んだシャンバールが残りは彼らに渡しても構わないからと言うので、言われた通りに彼らの元に御盆を持っていく。
彼等は水が運ばれるのを知るとワラワラと集まってきた。
バンバンと無くなっていくコップに皆平等に喉が渇いていたのだな、と気付く。
次からはもっと多めに入れてこようと密かに心にメモった。



シトシトと雨が降るのは相変わらずの光景で船の中に居るから音は全く聞こえ無い。
潜水艦というのもあるだろう。
新聞を広げるとローの七武海入りの記事が載っていて眺める。
何というか、昔からの知り合いが七武海に入るなんて今でも実感しない。
まさか海賊で七武海に将来なるなんて夢にも思わないだろう普通。
七武海の審査の基準がどんなものかは知らないがどうやって海軍に乗り込んだのだろうと思う。
その場に居たかった気もする。
皆はあまり七武海に入った経緯を話さない。

『いや、絶対普通の奴は引くレベル』

の内容らしい。
一体何をしたのやら。
雨というのは外出をする事を躊躇ちゅうちょ させるものがあるが、今回は目的があったので降りた。
誰も付けないのは自分が世間から見ると平凡容姿なのを理解しているからだ。
誰にも告げずに出てきたならば良かったが、帰ってきたら機嫌の悪いローが仁王立ちしているのは見たくない。
よってそこら辺りに居た船員に伝言を伝えた。
ロー本人を探す時間に宛てるならば降りるし、何より本人に言ったら確実に付いて来るだろう。
近くのカフェがお勧めだと船員の一人に聞いていたので行きたいな、と疼いて仕方なかった。
見つけた事が嬉しくて店の扉を開けると…………人が全く居なかった。
意味が分からない、どうなっているのだ。
船員の情報によれば少しだけ列が出来ても居たと聞いていただけに違和感がある。
店の奥に行こうとすると店員らしき人が青白い顔でストップをかけてきた。

「お、お客様。あまり奥には行かれない方が、よ、宜しいかと」

あまりの顔色の悪さに来る店を間違えたかと思った。

「あの、ここのお店ってパンケーキが美味しい店……ですよね?」

確認を取ると頷くのを見て、じゃあこの閑散とした光景は何なのだろう。
もしかして定休日、と思うがどう考えてもそれは正解ではなさそうだ。
ちゃんと店員も居るし、ドアにもオープンと書いてあった。
店員は真っ青な顔で入り口に近い席へと誘導してくるのでどこでも良かったリーシャは案内された場所に座る。
メニュー表を見ると数が豊富な内容に此処で間違いなさそうだと確信。
取り敢えず違和感とこの異常な空気に首を傾げながらも注文して店員が足音をさせないようにユルユル動くのを見送る。
何故お店であんなに足音や声を殺そうとするのかと怪訝に思っていると店の奥の仕切りから一人の男が現れ、納得した。

(そりゃ人が居なくなるな)

「お前も来たのか」

「ローさん、貴方は有名人だからせめてサングラスとかマスクとか付けたらどうです?」

つい前までは知る人は知る海賊だったが、今では政府公認の略奪を行える海賊となった。
それも含めて蜘蛛の子が散る客達がありありと想像出来る。

「何でんな面倒臭ェ真似して店に来なきゃなんねーんだよ。カフェで飲んだら逃げたのはあっちだ」

「私だってローさん以外の七武海が居たら迷わず撤退しますもん。逃げます普通。それが正常の反応ですし」

ローに言っていると突然ローが目を細めてニヤッと笑うのでびっくり。
何なんだと混乱していると「じゃあ恐がらないお前は特別だな」と言ってくるのでそれは慣れだと突っ込みたくなる。
そろそろ店員がやってきそうな気配に店を去るのなら早めにしておくれと思った。
多分此処にローが立ち止まっていると店員が皿を割ったり悲鳴を上げたり恐縮してパンケーキが食べられないと簡単に予想出来る。
帰ってくれと念じていると正面にある椅子を引く。

「あれれローさん何やってんの、何で座るの」

メニュー表を見るローにまだ居座るつもりなんだと肩を落とす。

「コーヒーしか頼んでなかったからな。何か食おうかと」

「パンケーキばっかですよ」

「パンケーキ?」

首を傾げて何だそれはと言うローに船員達から情報を貰った内容を説明。
ホットケーキではない焼いたパンで甘いのだと言うと「へェ」と言う。
ローが甘党なのかは知らないが、見た目はブラックコーヒーが好きそうなのでパンケーキは好きじゃないかもしれない。

「お前も頼んだのか」

自分が頼んだメニューを指差すとローはズラッと並ぶメニューに目を凝らす。

「一つだけか?」

「一つが結構な量らしくて」

お腹がいっぱいになる量だと聞いていたので一つだ。
ローは暫し眺めて、飲み物を持ってきた可哀想かわいそう な震える羊になった店員に注文。
その数二つ。
そんなに食べれるのかと思ったが、普段のローは割と沢山食べると思い出した。
出来上がるまでお時間を頂きますと今にも崖から飛び降りそうな顔をしている店員が告げると逃げるが如く奥に引っ込んだ。
彼女の頭の中は何となく理解出来る。
きっと待たせたら斬り殺されると思っているに違いない。
リーシャだってバイトをしている時に悪名高い悪党がやってきたら『今日が命日か』と腹を括っている。
だから、彼女も命日なのだろうかと不運に嘆いているだろう。
可哀想にと思ったが、実際のローはその程度で斬り殺すような男ではないので別に止める事もしない。
この男は最早誰にも止められないのではないのか。
海軍に通報したって免除されているし、そうなるようにお金を工面して貢いだのだろうし。
そう言えば以前にマイとヨーコが船に現れる前、確か銀行強盗に襲われた事をふと思い出し、そのお金を横取りした理由を何となく察した。
あの頃には既七武海の事を思い描いていたのではないか。
だとすれば今までの謎の行動の伏せんが回収される。
最近は特に忙しそうだったから七武海のニューフェイスとして動き回っていたのかもしれない。
ローに七武海の権力を使ってオークションハウスに売りつけた誘拐犯を捕まえるかと聞かれたが、判断に困る。
ただの記者にはその選択肢はかなりシビアだ。
もし、うんと頷いてしまったらローは海軍に頼るという事になる。
海軍の中には海賊なのに七武海というだけで略奪行為がある程度無罪となる事は許し難いものだろう。
逆に言うと海賊の方もそこまで条件を突き詰められなければ所属しよう等とは思わないので線引きが非常に難しい。
話しが脱線したが、つまりは何が言いたいかと言うと『保留』にした。
この船は今からあのさら われた島に降り立つのだ。
ゲームならば同じ町、村を使い回しているような感じである。
まだ少し怖いし、また連れ去られるかもしれないと考えると降りる気にはなれない。
ローには船に残って留守番しているように言われたので、甘んじさせてもらう。
もう競りに掛けられたり買われたりするのも真っ平御免であるので大人しくしておこうと決めた。
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