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- ナノ -
03
鎖を回して勢いを付け、投げる動作をしてから絡めては避けられるを四回繰り返した。
体力がもうないと力なくうなだれるとローが近付いてくる足音に視界から靴の爪先が見える。
目の前に立っているらしく、きっと体力がないと思っているに違いない。
このまま只単に捕獲されるのを待つような可愛らしさは持っていないので這う。
出口のノブに手が届くか分からないが、試してみる価値はある筈。
うんしょうんしょと高速ハイハイで向かう。
足もそれとなく動かすけれどあまり良い感じはなく、じたばたとするだけ。
敵前逃亡である。
何故こんなにも躊躇なく出来るのかというと、単に自分の能力と億越えの海賊との能力差を理解しているからだ。
大佐程度の地位で狩れるか馬鹿野郎とあの嫌味を言ってきた大佐に文句を言う。
今頃きっと後悔しているだろう。
気付くのが遅いし、リーシャをこの部屋に閉じこめた事はきっちり報告させてもらう。
もし、閉じこめてローを捕まえられたのなら褒められたし、ほら見た事かと言われていたが、そうはならなかったので立派な違反行為である。
きっとリーシャが許してもマイとヨーコは許さないと思う。
這っているとローの呆れた声音が聞こえた。

「潔過ぎだ」

「何とでも言うが良い!私は弱いんだー!」

悪魔の実の能力者というだけでも土俵が違い過ぎる。
加えてこの男の狡猾さと賢さには叶わない。
身体を賢明に動かしているとローが行く手を阻む。
それに対抗するべく海楼石の鎖を投げつける。
避けられるがその隙に前進。
しかし、これではキリがないと思ったのか、ローがROOMを展開してスキャンと口にしたら手にあった鎖が忽然と消えた。

「私の鎖いい!」

「只邪魔でしかねェ」

邪魔じゃない。
寝るときも寝る前もどんな時でも一緒に居た相棒だ。
もらってから一ヶ月ちょいだけど。

「鎖!どこ、ふぐあ!」

左右を見回していると不意にローが上半身を持ち上げてネチっこいキスをしてきた。
その次は上半身をテーブルに置くと下半身に向かう。
嫌な予感がして血の気が引く。
彼はペロンと背中の布を捲って、そこを厭らしく撫で出した。

「くすぐったい!止めて!下さい!」

懇願しているのに止めない。
目を閉じて触られている感覚を我慢していると、滑った様な湿った何かが這うのを感じて悲鳴を上げる。
見てみると見せつける様に背中を舐めていた。

「なっ!ひあ!」

ぴちゃりと音がしてジワジワとくる羞恥心。

「止めてぇ!本当にっ」

半泣きのまま頼むとやっとこちらを向くゲスい外科医。

「このまま下半身とお楽しみ……っうの、やってやろうか?」

恐れている事をケロッと言う男に首を千切れそうな程振る。
首って振り過ぎると痛いのか、初めて知ったなあ。

「くく、なら……」

下半身から離れた事にホッとする暇もなく上半身に歩み寄ってきたローは顎を摘まむと上に向かせてくる。
手でバランスを取っているので反撃も何も出来ない。
そんな事をしたらバランスが崩れて倒れる。

「舌出せ」

「!?……む、無理です」

首を振るが、間もなく口内に指をねじ込まれてグッと喉が鳴る。
舌を摘ままれてそのまま引っ張られて痛さに呻く。

「いひゃいん!」

「くく」

痛い顔がそんなに好きなのか、この人エスだ、ドエスだ。
いや、サドだ。

「痛いのが厭ならもっと出せ」

言われて怖ず怖ずと舌を伸ばす。
何をされるのか分かるような、分からないような。
ローは舌を出させるとその場所を滑らかに撫で出した。
一体何がしたいのかと疑問に思っているととある場所を撫でられた途端にピクンと肩を揺らしてしまう。

「此処か……」

「??」

「お前の感じる所」

「!?、ふぐん!ぶぐあ!」

慌てて引っ込めようとするとローの低い「下半身……」という声の脅しに動きを止める。
奴は本気だ。
目を濁らせて耐える他ない。
これって何気に拷問なのでは。

「とっとと、失態犯してこっち側に落ちてくれりゃあ楽なんだがな」

指名手配されるような事はやらないし、そんな度胸は無い。
非難の目で抗議をすると彼はクスクスと笑みを作り顔をズイッと近付けた。
その勢いに気圧されて自ずと背中を反らしてしまう。

「なァ、落ちろよ。汚せば勝手に落ちてくるか?」

「しやっふぁいひあ!(絶対厭)」

拒否の意で答えるとローは背筋の凍る微笑みを浮かべた。
ダラリと汗が伝う。
それさえも舌で掬って舐め取る男。
十分屈辱的ではあるが、まだ足りないらしい。

「はぁ、はぁ」

舌を出し続けるのは意外と疲れるらしい。
息が上がってきた。

「舌はもう良い」

と言われたので引っ込めた。
乾いていた舌を唾液で潤しているといきなり顔を捕まれて舌をねじ込む無茶苦茶な口付けをしてきた。
ガッとされてガッと終わったものに呆然としているとローが満足げに息を吐いた。

「っ」

唇を首に押し付けられてキスマークを付けられた。
唐突だ、何もかも。

「痕、付けないで下さいよお」

部下にどやされる。

「俺のモンに印付けときゃ、馬鹿な虫も付かねェだろ」

「そんなにモテませんが……」

ローと美女のツーショットなら何度か見た事はある。
よくよく考えれば理不尽であった。

「ローさんだけモテて、私はモテないって狡い……」

「………………じゃあ、お前も俺にマーキングしろ」

じゃあの意味が分からんですが、と言う前に首を差し出してきた。
海軍に対して首を出す何て。
驚いていると焦れったくなったのか無理矢理押し付けられて息がヤバい。
離す気がなさそうなローに仕方ないと軽く付けてみた。
うん、付いていない。
付け方をほぼ知らないせいだ。
ローは痕が付いたか確かめてからやり直しを要求してきた。
勘弁してくれと思ったが、また首のせいで呼吸出来なくなる方が苦しい。

「吸い付け。思いっきり」

「私には難易度高いですよ〜!」

泣き叫んだら噛みつけと言われた。

「噛みつけ?冗談です、よね?私、ローさんの息の根止めたらどうします?」

「監禁と冒涜。二度と海軍に帰れなくする」

「怖い!チビる!」

「チビったら換えてやる」

「パンツをですか!?流石にそこまで女捨ててませんよっ」

「さっさと噛め。痛くても今回は許してやる」

「ひえぇ……」

早く誰でも良いから来てくれ。
ローの肉質な首筋を見てから思いっきり噛み付く。
ビクッと珍しく肩を揺らすローに心配になる。
痛かったかと聞くと「痛くなくて逆に驚いた」と言うので間抜けな顔をしてしまう。
自ずと弱めに噛んでしまっていたというらしい。

「やり直せ。もっと強く噛め」

またやり直せと言われてううう、と噛ませられ、この身体を治されたのは三時間後の話し。



ローを捕獲する作戦が失敗に終わり、リーシャを部屋に閉じ込めた大佐は重い刑を喰らった。
マイとヨーコがきっちりと本部に監禁した事と作戦の撤退に従わなかった事を告げたのだ。
戦いに置いて大切なのは力や能力とされているが、集団戦において大切なのは判断力である。

「ゲホッ、カハッ」

マスクをして憂鬱であるリーシャは中くらいの軍艦で海を渡っている最中であった。
三人しか居ないので役割を分けている。
大佐だからと言われて何もしなくて良いと当初は言われていたのだが、絶対に暇になるし、何より、何もしないというのが出来ない貧乏性であったので手伝いをしている。
しかし、今は熱のない咳を出しているので軽く謹慎であった。
菌を移すと大変なので今回ばかりは二人の言う事を聞いて自室にて休んでいた。

「可笑しい……咳止め飲んだのに。ゲホッ」

咳が止まらない。
悪化している。
不安がせり上がってくるが、病は気からと言うし、気を取り直さなければと息を吐く。

「ぐ、ゲホッ!」

次に出てきたのは咳だけではなかった。
コロッと唇に当たったのでマスクをズラしてそれを手に取る。
キラキラしていて、まるでそれは。

「こ、金平糖!?」

此処最近食べた覚えもなければ買った記憶もない。
また咳が出て、マスクの中に金平糖っぽい物が溜まっていく。
マスクの中から出すと、色とりどりの金平糖が出てきた。
とても恐ろしくて、手が震えてきた。

「な、何、これ……金平糖っ、て」

奇病である事は病気に詳しくない自分でも理解出来た。
こんな病気が世の中にあるのかと初めて知って、それでも咳をする度に出てくる金平糖を捨てるしか今は考え付かなかった。
マイとヨーコには出来るだけ咳を言い訳に入ってくるのを遠慮してもらい、必要最低限の接触に抑える。

「どうしよう……!く、ゴホッ」

コロンとまた金平糖が出てきた。
慌ててそれをゴミ箱に捨てる。
ゴミ箱が金平糖で一杯になってきた。
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