92
一旦キラーに部屋から離れた所にアリサを隔離してもらい、二人に話しを聞く。
意見を出し合って決めねばならない。
けれど、恐らく、二人は反対所か、保護するとでも言い出しそうである。
アリサの名を聞いて反応したので大方の意見は聞かなくても分かる。
でも、一応キッドの手前だから聞く。
「あのー、キッドさーん?」
二人の反応は異世界の事と明確に判断出来なくても、同じような事を体験した人間と思わせるような態度ばかりであった。
二人にそれをフォローする気持ちの余裕が無かったとは言え、キッドに知らぬはぜぬをお願いしとかなければ。
猫撫で声でキッドを呼ぶと彼はスッと目を合わせてニタリと笑う。
「はっ!言わなくても分かってる。そっちに厄介者押し付けようってんだ、こっちもそれなりに約束してやる。」
おお、太っ腹である。
「ま、別に知ったところで言う奴なんてそもそも居ねーしよ。海軍とも仲良くなりてェとも思わねェ」
「ありがとうございます。絶対に秘密でお願いしますねっ」
「ああ」
「キッドさんのお株が上昇中ですよーもう〜」
にこにことしながら言うと寂しくなったらいつでも空いてるぜ、と宣伝してくるキッドに「それはお株も大暴落なのでー」と避ける。
彼はそういう会話が好きな人種なのだと悟ってしまったので扱いが楽だ。
ローみたいに言葉より先に口が、というのではないから。
「さて、二人はどうしたい?」
「……引き取りたい。だって」
「あの人、私達の高校の同級生でした」
ヨーコが何か言う前にマイが説明した。
ヨーコはその言葉に頷くが次の言葉には首が固まった。
「そして、私の嫌いな人、です」
「へぇ、うん、成る程。つまり、マイをいびってた人って事だねえ」
「!……そうよ。私の友達……って程仲良く無いけど、まあつるんでたわね」
ヨーコが知っていたのかという顔をする。
知っていたとも。
「でも、異世界に落ちたのなら、私達の方が先輩で……もう、怖くないです」
マイは強い瞳で言い切る。
「今は、私の方が強いですからね。岩だって砕けるのに、あの人が怖いなんて気持ち、自分でも笑えてしまうくらい無くなってます」
マイの言葉にヨーコがクスッと笑う。
確かに岩も砕けてしまう力を手に入れたのだから現代の人間何て敵ではない。
彼女のグレートークを聞いて自分も頼もしいと笑う。
引き取る事が可決されて、その意向をキラーに伝えると間もなく彼女が目隠しされていないまま姿を現した。
今は大学生となった同級生との再会。
そこでリーシャはふと、向こうではマイ達はどういう事になっているのかと思って、アリサの態度を観察。
アリサは二人を見た途端に、最初は目を細めて、段々と見開いていく。
「も、もしかして、マイ……?ヨーコ?なの?」
確かめるように呟き名を出すと二人は頷く。
それは例えるならば幽霊を見たような顔。
二人が元の世界で失踪扱いになっている可能性が出てきた。
異世界あるあるの向こうの世界では存在も忘れられてなかった事になっている可能性は消えたも同然。
覚えているという事は存在は認識されているから、次に心配なのは異世界での年月の差だ。
「失踪したんじゃっ……嘘!」
失踪したという事ならば少なくともかなり年月も空いている。
恐らく彼女達がこの世界で過ごした期間イコール失踪期間と見て間違いなさそうであった。
アリサの反応に二人はどう説明すれば良いのだろうかと悩んでいて口を引き結んでいるようだ。
少し助けてみよう。
このままでは平行線である。
「取り敢えず、二人はこうして生きてる。二人が向こうではどんな扱いになってるのか教えて欲しいです」
そう口にするとアリサはニュースや噂を纏めて教えてくれた。
誰だこの人と言う視線は無視。
神隠しにでも逢ったんじゃ無いかと言われて、高校生二人の失踪事件は随分と騒がれたと後に二人は聞かされる事となる。
大凡、そんな風にリーシャは纏めて整理した。
もっと説明は長くて五分以上を要したけれど、未知の世界に同士が居た安心からか口がかなり緩んでいる。
まあそれも仕方ない事だろう。
キッド達には話しが長くなるから四人で過ごさせてくれというと直ぐに退室してくれた。
リーシャも出ようかなと概要を知ったので後はプライベートな会話しかしないだろうしと空気になっていたが、そろそろ出ようかと腰を上げる。
「あ、ところで、この人は?」
「この世界に来た時に初めて会った人で、今も一緒に旅してる。ね、マイ」
「うん」
「ヨーコは兎も角、マイも?」
怪訝そうに言うアリサにまだ見下している節があるなと感づいていた事を考察。
マイもヨーコもそれとなく感じているが、今はまだ特に顔には出ていない。
「じゃ、私は出とくね」
一声掛けてから歩き出すと扉の外側に耳を付けた。
「うん。この壁分厚くて聞こえないなー」
何となく分かっていたけれど。
見聞色の覇気とやらをキラーが持っていないだろうかとキラーを探す為に城を散歩する事にした。
道成に進み、けれど船員が居ない。
迷子になりそうだ。
「あ、えっと、確か……」
「名前か?ワイヤーだ」
「そ、そう。ワイヤーさん。キラーさんを探しているのですが、場所って知ってますか?」
「キラーさんなら映像が見られる部屋に居るぜ」
「え!この城にそんな設備があるので?」
「ああ。便利な電伝虫も居るものだ」
「わー、私も欲しい電伝虫です。映像が見放題ですものねえ」
「だな」
話しが盛り上がって八分くらい経過した後に別れてキラーの居る映像の部屋を目指す。
聞いた場所から見えた扉に向かってノックをすると入れと聞こえてきて扉を引く。
「終わったのか?」
「いいえ。私だけ出てきたんです。その事でキラーさんに聞きたい事がありまして。見聞色の覇気って使えます?」
「ああ、少し」
その期待していた言葉に頼んでみようと困っている顔で言う。
あくまでもフリである。
「あのー、三人の会話を盗み聞きして欲しくてですねえ。あ、決して下らなくなんてありませんよ?あの子達が心配で……」
本気で本望と言うのをしかと伝えるとキラーが喉で笑う。
クツリと聞こえて面白い事なんて言ってないのだがと思う。
「過保護だな。お前よりも強いあの二人を心配だなんて」
「確かにあの子達は強いですけれど、言葉に対しても強いかというと違う訳ですからねー」
鍛えても精神が鍛えられるのはなかなか難しい。
「あの子達の当時の関係と今の関係は確実に変化している筈です。それで、あのアリサという人はどうにもマイを傷付けるのではと感じています」
「……分かった、協力しよう」
「!、ありがとうございます」
キラーは常識人なので女同士の会話を聞き取るのを渋るかもしれないと思っていたので頷いてくれた事に安心した。
本当は聞き耳を立てるなんていけない………と思うような超真面目な性格は持ち合わせていないので躊躇しない。
二人が大切で好きだから何か知らない間に不足の事態に陥るのは絶対に嫌だ。
そうなると、こうするしか方法が思い付かない。
キラーは情報収集をする事に重きを置いているので見聞方面が強いらしい。
キッドは色々武力派なのでそういうのは無理だという。
聞く前から何となく悟っていた、とは言わないでおこう。
「……で、何と会話しているのですか、キラーさん」
ソワソワしてしまう。
キラーだけが頼みの綱である。
「……知らない言葉を使っているようだな……そのまま言う」
知らない言葉とは、彼女達の世界にある言葉の事かもしれない。
リーシャも時々何を行っているのか聞く。
例えば『スマホ』なんて物があるらしい。
「もう帰れないのか。分からない。何年此処に居る。二年くらいだ。じゃあ、私も失踪扱いになってるの?泣き声がする……慰める言葉をかけているようだが、何故か怒っているようだ」
「……続きをお願いします」
キラーにまた頼んで内容を吟味していく。
どうやら怒っているのはマイが慰めたからで、弱い癖にだとか、私達に怯えてた癖にとか、そんな事。
昔の事をその場に持ってくるなんて、よっぽどあの子は心が荒れている。
マイは冷静に返していて、ヨーコも何を言っているのだと窘(たしな)め、アリサは動揺しているらしい。
昔、共にマイをイビっていたヨーコの態度に驚いているのだと分かる。
それに、マイがもう昔の事だと言う。
格好いいな、マイ、と応援。
それに、またアリサが怒って立ち上がる音が聞こえたとキラーが言うので慌てて部屋から出て彼女達の居る部屋に向かい乗り込む。
キラーに口止めはきちんと頼んでおいたので多分安心であろう。
バレてもはぐらかすけれど。
キラーにお礼も言ったし、彼は常識人の筈なので期待を込めておく。
さて、此処のフラグの回収に向かうとしよう。
リーシャは何でもないフリをして部屋へ入ると物音がしたけれど、何かあったかと聞く。
すると、二人は何でもないと苦笑して返してきたのでやっぱり隠すのかと内心溜め息を吐く。
後で話してもらえると良いのだが。
今は兎に角今後どうするかを聞くとアリサと言う女性は眉を下げて「私もヨーコと行く」と言い出す。
それは初耳だったのかマイ達は彼女を仰ぎ見て困った様な顔をする。
そんな二人にお構いなくアリサはマイを見て「勿論乗せてくれるよね?」と威圧的に言う。
「………リーシャさんと話し合って決めます。私一人の事じゃないので」
マイのきっぱりとした声音にアリサの額の皺が寄せられる。
それに(よくぞ言った!)と拍手を心の中で送ってから了解と二人を退室させて三人でキラーの所に向かった。
アリサは放置してあげた。
心細さに泣き叫ぶが良い!