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- ナノ -
01
リーシャは自らの評価を町人F程度だと思っている。
なのに、何故大佐と呼ばれねばならないのか。
部下が優秀なので彼女等を昇格させれば良い物を。

「リーシャ大佐。この町にトラファルガー・ローが上陸しているとの報告が上がっています」

真正面に眼鏡をクイッと上げるのは優秀な部下の一人であるマイ。
彼女のメガネは伊達で、つい最近「補佐官みたいに見える」とヨーコと話していたのを知っているので、その影響だろう。
マイから聞かされた報告にげんなりする。
新人の海賊なんぞを相手にするなんてやっていられない。
命が幾つあっても足りないだろう。
自分が正義という名の物事をするにあたって、不幸な目に遭うのを日々延々と悩んでいるというのに。
グッと拳を握り、海軍だからというプレッシャーに後押しされて海賊が居るという酒場に向かう。
私服で行けとヨーコに言われたので止む無く向かう。
彼女は上官に対して不敬過ぎである。
ヨーコもマイも優秀だから自分は今の地位にいるのだという事を常々思い、余計な重圧を増やされている事に悩む。
彼女達が自分を高い地位に押し上げようとしているのは分かっている。
だが、別に必要ともなりたいとも思っていない。
酒場に入るとカランと音がした。
ロー率いるハートの海賊団が座っている席は嫌と言う程賑わっていたので目に付き易い。
見つからないように帽子で顔を隠してカウンターへ向かう。
鬱蒼となる心情でジュースを頼む。
お酒を飲みたい気分だけれど、今は我慢だ。
自棄酒したい。

「うううー、帰りたい」

ブチブチと愚痴っていると隣の席に誰か座る。
独り言が聞こえてしまうと黙ってジュースをチビチビ飲み、ハートの席をチラ見。

「ていうか、居ないし。帰ったのなら居なくてもいーかなあ」

船長の姿が見あたらない。
適当に酒場の女と洒落込んでいる可能性もあるので、待つのも気が滅入る。

「どうぞ」

「え?あの、カクテルなんて頼んでませんが」

バーテンが徐に差し出してきたお酒に疑問符で返すと「お隣の方からのものです」という発言におっかなびっくり。
そんな事されたのは初めてだ。

「あー、その、どうも。お気遣い感謝しま……す」

飲むつもりはないけれど折角くれたのでとお礼だけでも。
顔を上げて言うとその最後が途切れる。

「それを飲んで俺と夜の散歩に来てもらおうか」

もう殆ど脅しである。

「トラファルガーさんじゃないですかー。お久しぶりですう」

「くく、お前がこんなとこに来るとはな。あいつらにおれ達の様子を監視してこいとでも言われたな」

全てお見通しのようである。
彼とは島で別れ島で再会するくらいには再会率が俄然トップという謎の関係であった。
敵同士ではあるが、敵対しているつもりもなく、そもそも平海兵レベルのリーシャがローに勝てるという前提が存在しない。
冷や汗を流して会話に徹していると彼は飲めと催促してきて酔わせようとしている魂胆が透けて見えた。
酔いたいけれど、手中にハマりたくない。
泣きたくなる状況で辞退しようと考えているとローはまるで逃がさないと言わんばかりにこちらの膝を撫でてくる。
厭らしい手つきに背筋がゾワッとなった。
わざとだとは分かっているが、防ぎようがない。
不快というより不可解という言葉がしっくりくる彼の行動。
どう見ても一海兵、はたまた敵に対する態度ではない。
まあ弱いと知れているので敵認定されて攻撃されるのは嫌だが。
敵とも、戦う価値も無いと思われているのだろう。
ビクつく頬を押し殺してローの手を剥がしにかかる。
彼は何とも余裕のある顔でニヤニヤと笑ってこちらの反応を見て楽しんでいる事が分かった。
こんな所をあの子達に見られたら憤慨してリーシャとローとの間に割って入ってくるだろう。
その時、ローを呼ぶ声が聞こえてその声の主を理解して冷たくなる背筋を伸ばす。

「船長。その女は仮にも海兵。話す事は損すると思います」

ローの船に長く乗っている所謂古株の女船員『エレスティン』。
僅かな差ではあるが、リーシャとローが初めて会った時とタッチの差で入ってきた女の戦闘員である。
今や億越えのルーキーであるローの次に懸賞金額八千万ベリーという値段が掛かっている犯罪者だ。
真面目な性格で潔癖な質らしく、頭は良い方であるが、真面目な所が頭の良さを発揮させれないという残念な部分がある。
真面目なのに海賊の一味という矛盾を毎回感じているものの、彼女のローに対する忠誠心は関心していた。
そして、何より、こちらをとても敵視していて、リーシャに対してとても辛辣だ。
対峙する度に攻撃されてはマイ達が攻撃の反撃をするというお決まりのパターンが出来ている。
今も睨んできていて、苦笑せざる終えない。

「そう言うなエレス」

エレスティンの愛称はエレス。

「どうせこいつ単体には何の戦闘力もねェ」

(一応海楼石所持してるし剣も携帯しているのに……はあ)

切りかかるつもりはないが、こうも言われたら不甲斐なく思う。
こんなヘタレで弱い大佐なんて全く威厳など無い。
大差という肩書きと戦力が合わないというのが先ず間違いなのだ。
部下の二人の方が実力もあるし、しっかりしているし、戦力的にも解決なのだが。
リーシャはもう帰ろうかなと思えてきた。
正直、エレスティンは苦手だ。
無駄に敵意の籠もった目で見られて、殺気も向けられている。
あまり長居したくない。
椅子から立ち上がるとそそくさと店から出ていく。

「おい、帰るのか?あいつらに報告する事なんてねェだろ」

「船長。その女は敵何ですよ!」

とても帰りたい。
外の空気を吸ってこの雰囲気から脱却したいと強く願った。

「胃が痛い〜」

キリキリする。
立ち上がって中途半端な所で止まっているとベポが「大丈夫?」と心配してくれる。
ハートの海賊団の良心であろうベポにうんと頷き抱きつく。
とてもではないが五百ベリーの懸賞金が掛かっているようには見えない。
けれど、こんな可愛い成りでも正真正銘クルーで戦闘員なのだ。
この外見と喋るという二重の意外性で相手の隙を突き、次々と技を繰り出す姿を何度も見ている。

「明日頑張れば明明後日から有給なんだー。眠るだけ眠りたい」

「そのまま永眠すれば良いんじゃないですか?」

空かさず割って入ってくる皮肉に女船員に対して無視を慣行。
慣れれば大丈夫だが、彼女はやはり辛辣で聞いていて胃が更に縮む。

「大佐になんてならない方が良いよ。昔よりも結構忙しくなったしさあ」

ベポに愚痴を聞いてもらう。
これくらい、聞いてもらっても支障は無い。
海軍による機密は流石においそれと話せないが、私生活については平気だとはリーシャの価値観での判断だ。
後ろでエレスティンが言っているが無視だ無視。
ベポの毛をふわふわと触って癒される。
実は明日、この町に居る海兵と共同でロー達ルーキーを捕縛する作戦なのだ。
リーシャは特定の町に駐屯している海兵でなく、各海軍の駐屯地に赴き、それを海軍本部に報告するという武道派な仕事でなく、デスクワーク系の仕事である。
今もそれをやっているのでロー達と良く遭う訳なのだ。
一時間程シャチ達と居て、外へ向かい泊まっているホテルへ帰った。
ふかふかなベッドと優秀な部下二人が待っている。



トラファルガー・ロー捕獲作戦となった今日、誰が一番息巻いているのかというと、同じ大佐の地位である男の中年男性である。
実質的なこの町の海兵のトップで統一しているが、何かとこちらを女だからと下手に見ている節があるのが面倒であった。
マイ達もその事に気付いており「あの中年本当頭堅いよねー」と言い合っていた。
基本、彼女達はリーシャ本意で慕ってくれている故か馬鹿にされたりすると代わりに憤慨して気を悪くしている。
宥めはするが、溜めているとストレスが溜まるので放置して好きに言わせている。
勿論、こっそりとだ。
二人は年齢的にも若いから気分が顔に出やすい。
今日も中年悪顔大佐に失敗を擦り付けられたりしないよう注意しておくようにと釘を刺されたばかり。
遭う度に女である事を侮辱している目で見られているので、きちんと自覚しているし、揚げ足も取らせるつもりはない。
持ち前のポーカーフェイスと鋼の心を武器に相手の男性へと話しかける。
相変わらずの見下した視線だ。
これを本部に告げた所で何がどうにかなる訳でも無いので我慢するしかない。
もし、危害を加えられたり直接的な言葉を言われたら闇討ちして上げますと綺麗な笑顔でマイが言っていたのでそうならないように気を引き締めていこう。
常識ありのマイが何気にヨーコよりも怒っているらしい。

「今日は改めて宜しくお願いします。私はデスクワーク専門なので貴方方の協力にはとても感謝しております」

お世辞はいつの時も疲れる。
相手の大佐は笑みを浮かべながらも無能な女だという目で見てから「ご期待に添えられるよう頑張らせていただきます」と嘘だろうその言葉を吐く。
この感じは野心家のそれだ。
きっと大佐なんかに収まっていられるかと内心思っているタイプの人間なのだろう。

(性格悪いよねーこの人も)

こんなのが大佐で上司で町を守る海兵なのだから、この町の人達は可哀想である。
引っ越す事を推奨するレベルだ。

「では、参りましょうか」

先を足すと部屋を出て海兵達に指示を飛ばしていく。
リーシャは細かく言うと討伐隊でなく誘導、又は監視隊だ。
マイとヨーコは遊撃隊で、本陣が崩れたら戦いに参加する。
リーシャがマイとヨーコを遊撃隊にねじ込んだのは偏にロー達がとても強い実力者で、下手をして乱戦にでもなれば怪我をするから。
二人を知っていながら負け戦に投じさせる程リーシャは自信家でも強者でもない。
では何故討伐する作戦を立てたのかというと、これを発案したのは中年大佐だ。
早く地位を駆け上がりたいのか、ロー達が上陸したと知ると、直ぐにその作戦を立案してリーシャ達もそれに参加せざる終えなくなった。
ルーキーともなれば、勝手にどうぞ、私達はもう行きますともならないせいだ。
全く余計な無駄を増やしてくれる。
恐らくこの町の海兵が殆ど使い物にならなくなるだろうから後で本部に人員増加を申告しておかないと人手不足になるだろう。
後の事を考えると胃が再びキリキリと痛んだ。
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