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キラーの話しを聞いていく内に全く聞く耳を動かさなかったマイとヨーコの顔色が変わっていく。
内容はこうだ。
ある日、拠点(城)でいつものように過ごしているとキッドが退屈だと漏らしたらしい。
その途端、天井から(落ちた本人から言わせるとアスファルトから落ちた)女が落ちてきたという。

「そいつ、此処が漫画の世界だの、おれの事を見て興奮したりして気味が悪ィったらねェ」

確かにいきなり現れて「貴方の事知ってます」と言われたらそれ以外に感じる人は居まい。
リーシャだってそんな事を言われたら距離を作る。
キッドの気持ちを少しは理解出来るのでキッドに「可哀想に」と視線を投げ掛けるけれど、彼は同情される為に語ったのではないと言う。
でも、この話しはかなり同情され易いとは思うが。

「って!その女、天井からって言った?もしかして、トリップしてきたんじゃ!」

ヨーコが耐え切れ無い様子でキラーに聞く。
それにキラーは嗚呼と言って肯定するのを見てマイも歓喜と戸惑いの様子で「その人は今……」と居場所と安否を確認。
海賊の上に落ちたとなれば生きていても普通のままである等、あまり考え難い。

「今は軟禁してる。別に何もしていないが煩くて迷惑している。持て余している状態でな……同じ民間人のお前達ならばどうにかしてくれるかもしれないとおれ達は思ってる」

「どうして持て余しているのですか?キッドさん達ならねじ伏せてでも大人しくさせておけると思うのですが」

リーシャが疑問点を指摘するとキラーが無駄に情報を知っているから放つに放てないと述べるので嗚呼、と納得。
ヨーコがこの世界の物語があると言っていて、この世界の知識を知らない人間は少ないと前に言っていたので『知識有り』の人間がこの場所へ飛ばされたという事だろう。
簡単に理解し終えるとキッドに尋ねる。

「貴方達はその人に何を望むのですか?私達にどうして欲しいのです?具体的に言ってもらわないと私達の手にも余ると思いますよ」

「やっぱ賢いなリーシャは。くくっ」

キッドは更にお気に召してしまったのか上機嫌に笑っている。

「笑ってないでさっさと言いなさいよ!後、何度も言ってあげるけどっ、離しなさいよ!」

ヨーコが焦れったく催促するのを聞いてキッドはキラーに説明しろと丸投げした。
船長とはこんな風だっただろうか。
傍若無人であろうその性格は器があるようだが、知識の方面はキラーに任せているようだ。

「キッド、争いの元になる事をするな……説明は向こうへ行きながらで良いか?その女は住処の一室に居るから案内する」

「待って下さい」

キラーが行動に移そうという時、マイが待ったを掛ける。

「その女性と私達の相性が悪い場合、負の連鎖が起きます。先ずはその人について詳しく教えて下さらないと行けません」

「マイ?もしかしたらあたし達と同じ……人かもしれないのよ?」

「ヨーコ。確かに親近感を持つのは何ら不思議じゃない。けど、その人が私達の知る民間人みたいな人じゃなくて……裏の人間だったらどうする?」

ヨーコの息がゴクリと鳴る。
先程までマイも同じトリッパーかもしれないと期待に歓喜していたのに、見事な切り替えの良さだ。
リーシャとてそんな事態は流石に想定していなかった。
そうか、そっちの世界にもそういう類の人間が居る。
しかも、この世界の無法者のような話しの通じる人間かどうかも考えものである。
下手をしたら警戒されて怪我をしてしまうかもしれないし、変に関わって、こちらがトリッパーだと知られでもしたら、情報を売られる可能性も捨て切れない。
マイの予感は侮れ無いので気を引き締める必要がある。

「でも、マイ。そんなポンポン一般人じゃない人が来る何て滅多に無いと思うけど。トリップものの話しだって、普通は一般人が基本だけど」

ヨーコの言いたい事は分かるが、この世界のイレギュラーと人の構想の中の常を一緒くたにするのも危険だ。

「ヨーコ……そもそもトリップというもの事態有り得ないんだから。私達の常識を混合したら失敗する」

マイはヨーコの構想脳に呆れた声を出して再び注意をする。
ヨーコは分かったと渋々頷き立ち上がろうとした腰を下ろす。
それで良いのだと見ていたリーシャはキッドに目隠しさせてから来させるように頼む。
彼は楽しそうだとそれを呑むとキラーに命令する。
一室に案内されて五分経過後、まだ来ないのかと聞くと地下に監禁しているから時間が掛かると言われた。
軟禁していたんじゃないのかと聞くと海に出る時は万が一を期して監禁するのだと述べられてそれならば仕方ないと言う。

「ははは、随分冷たく言うな。お前、記者より海賊の方が性に合ってんじゃねェのか?」

高笑いしたキッドにそう誇示されてとんでもないと首を振る。
もしも海賊になった場合インペンルダウンに一瞬で入れる自信がある。
そう言うと彼はそうならないように俺がクルーとして入れてやると言われたが、もしも、の話しであって成る気は一切無いと断言。
キッドは残念だと肩を竦めてまた腰をスルリと撫でた。
軽いセクハラに黙っているとヨーコ達がキッドを睨んで小声で「呪ってやる」と言うので止めようと心に決めた。
呪いはやった本人、つまり自分にも帰ってくるので彼女達を呪いに巻き込むのは勘弁願いたい。
それに、呪いのやり方何て知らないだろうに、呪うとは良く言ったものだ。

(もしかしてマイとか知ってるのかな?有り得るのが怖い……)

呪いよりそっちの方が危ない。
彼女達の堪忍袋の緒を切れさせない為にはキッドを先ずどうにかせねば。
根本さえ退かせば彼女達の気に触る事もない。
キッドの手を退かしても離れないので軽く抓ってみた。

「お前…………握力、弱ェ」

逆に憐れまれた。
こんな筈では。

「海賊は無理だな……ま、おれの下でなら沢山ヤる事はあるから別に暇にはならねェ」

やる、の言葉のイントネーションの差が決定的にある様に思えるのは気のせいではなさそうだ。
絶対に何があってもキッドの所へは助けは求めないと決めた瞬間である。
きっと、碌でもない事をさせられるであろうと悟る。
キッドにもう直ぐ人が来るから離してと言うと、名残惜し気に離された。
リーシャの腰にそこまでの魅力は無い筈だけれど。
疑問と疑惑に駆られつつ前を向き、少し、耳を傾けると足音が聞こえてきた。
二人分。
その前に一旦立ち止まった足音はきっと目隠しをしているのだろう。

「何で!?――ちょ――」

騒いでいる。
きっと目隠しする理由を聞いていないのだ。
明確な説明も無しに目隠ししたら己とて騒ぐ。
けれど、此処まで相手の神経に触る騒ぎ方はしない。
下手をすれば煩いと殺される危険性を考慮したら、騒ぐという選択肢も消える。
扉の向こうに居る女は恐らく自分の今居る立場を良く理解していないと見た。

「やっぱ煩ェな……猿轡(さるぐつわ)もさせるべきだな」

キッドの発言に動揺したのは二人で、リーシャはキッドの性格上そう言うのではと予期していたので衝撃という衝撃は特に無かった。
海賊と言うのは気分屋な人間も多い。
ルーキーと嘗(かつ)て呼ばれていたキッドもその性格で、その時の気分で決まる消える命も多いだろう。
その中で、噂のトリップ女性が生きていられたのはある意味幸運だ。
彼が死ね、もしくは殺せ、もしくは殺す、という言葉を口に出していたらその瞬間彼女は命を散らす。
良く無事だったと感心さえ起こる。
だからローよりも、キッドが好きにリーシャの髪を弄んだり、抱き抱えたりしてもあまり反抗せずに甘んじて受け入れたのだ。
出来るだけご機嫌を取っておこうと。
マイとヨーコの同じ異世界の人間を助けたいという想いが少しでもあるならば、もしくは仄かに感じていた場合、交渉し易いように。
幸運だったのはキッド達から厄介者をどうにかしてくれと依頼された事。
これがもしこちらからどうにかするから会わせてくれと頼んだ場合は手札を相手に握られて対価を何か渡さねばならない確率が上がる。
今回はキッド達の頼みなのでこちらがどう行動してもこちらで預かる事だって出来る。
手放したがっているというは即ち執着していないけれど、存在を持て余している訳だ。
彼女は実にラッキーな人なのだ。
しかし、それもキッド達が只生かしておいたというだけで、何も殺さないという訳ではない。
もう少し賢かったら良かったのだが、そこだけは大きく期待外れである。

「随分ガッカリしてんな……ついでに手足も奪っておくか?」

リーシャの心を少しばかり汲んだキッドに指摘されて「それをされるとこちらが困ります」とノーサンキュウを伝える。
良心が痛む、というのもあるが、それもあるし、それをされるとマイとヨーコに多大なるトラウマが植え付けられてしまう。
それが心配だ。
三人のケア等、こちらの精神が擦り切れる事間違いなし。
起こる可能性の無いトラウマは生まれなくて良い。
入ってきた人は、一言で言うと『捕虜』の姿がしっくりきた。
目隠しされているので顔は知らないが、姿はボロ布の服に髪はパサパサしている。
彼女を連れてくる前にキラーと相談して、こちらが筆談した事をキラーに読んでもらい、全てこちらの情報を与えずにやっていくという手筈だ。
色々考えて、相手が一般人であれ、違う場合であれ、それが確認出来るまで声だって相手に与えない。

「お前の名を言え」

紙に書いた順に質問していくキラー。
すんなり答えるのがこういう場面でのテンプレートだが、彼女は逸脱していた。
やはり、あまり頭が宜(よろ)しくない。

「真っ暗だし、なんで今更名前なんて言わないといけないの!?外してよ!」

「聞かれた事に答えろ」

キラーが言っても彼女は「キラーってこんな人じゃないのに……」と発言。
それにキラー本人は「お前が俺の何を知っているんだ」と少し呆れた声音で返す。
この会話を何度かやっているらしいやり取りである。
確かにこれはキラーやキッド達を警戒させるには十分だろう。

「名前を、言え」

「…………コジシマ、アリサ……ほら、言ったわ!」

「「!!?」」

名前に反応したのか、彼女の態度に反応したのか、マイとヨーコが立ち上がる。
直ぐに彼女達の肩に手を置いて座らせた。

「年齢、性別、生年月日」

キラーの質問に答えていくアリサ。
アリサの言葉の途中でマイが紙にサラサラと何かを書いてキラーに手渡す。
それをキラーはカタコトで述べた。

「出身地、県から言え」

見事にカタコトで、此処では言い慣れない「県」という言葉。
その言葉にアリサは淡々と苛々という感じの声音で答える。

「前に県って何だって、意味の分からない事言うなって言ってたのに何でまた聞くの!?」

不可解であろう数々の質問。
キラーは綺麗にそれを無視し、次の質問を言う。
ヨーコが渡した紙を読み出す。

「高校?の名?を言え……?」

綺麗にカタコトで言うと、アリサが息を呑んだ。

「……っ」

彼女の紡いだ言葉に二人の緊張が高まる。

「最後の質問だ。お前は何という場所からきた?お前の住む世界の名を言え」

「ち、きゅう……青い惑星、地球から、来た……」

この子はどうやら普通の子だと判断するのはリーシャでなく、二人のようだと首をもたげた。
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