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自分は一つ、嘘を持っている。
一人だった時は、一人だったからこそその嘘を抱いて暖めて眠れば後は何でも良かった。
既に肩書きは無くなったのだと自覚するには、この世界は辛すぎたのだ。
だがしかし、今はどうだろう。
嘘を抱いて眠らなくても眠れる。
これほどまであっさりと感じるのはマイやヨーコが居てくれた。
リーシャは一つ、嘘を持っていた。
過去形である。
笑いたくなる程、何とも思わなくなっていた。



潮風に当たって日光浴をしているとマイがお茶を入れたと言って渡してきてくれた。
彼女の入れるお茶は雅で美味しい。

「凄いですよ。船長さんがまた新聞に載っています」

「期待の新人七武海だもんねえ」

戦い方を習った相手を敬う気持ちはヨーコ達に根深くある。
毎回記事が出ているとまるで自分達の事のように嬉しそうに見ているのが分かった。
ローは二人を一喜一憂させる罪な男であろう。
本人に言ったら鼻で笑われるレベルの事を抱いていると、ヨーコから前方から船が見えると報告を受けた。

「どれどれ?」

ヨーコの居る見張り台へと向かい双眼鏡を覗き込む。
黒煙が上がっている。
そして、片方の二隻目の船へと動かすと口元が引きつった。

「あれは!直ちに方向転換!ほら、早く!」

マイを急かすと彼女は慌てて下へ降りる。
ヨーコは何処かで見た事があるような無いようなと唸っている。
確かにあやふやな記憶になるのは致し方ない。
船は徐々に方向を変えて真横へと向く。

――ガコン!

しかし、突如船が真正面へと動く。

「あれ?マイ、何やってんのよ!」

ヨーコは運転の不手際を叫んだが、これは恐らくマイによるものではない。
そのまま中型船は黒煙の上がる船の方向へと進み出す。
マイは操縦が可笑しいと嘆いているが、最も混乱しているのはマイだと思う。
スイスイと進んでいく船を騒然としながら見ているしかない。
どうにもこうにも何も出来ないという訳だ。
やがて船が接近して目と鼻の先となる。
警戒しているマイとヨーコを見ながら内心(どうしてこうなるかなあ)と頭が痛くなる。
もしかしたら、この船を何かの商船か何かかと勘違いしているから引き寄せているのかもしれない。
あの仰々しい船は一度見たら忘れられない。
この船は−−。

「女?女が居るぜ、頭ァ!」

「……マイ、行くわよ、三で」

「うん」

二人が囁き合うのが聞こえて咄嗟に後ろを向く。
行かない方が、と口にしようとしたら横を二人が駆け抜ける。

「ふ、二人ともストップぅ!」

止めても彼女達は止まらない。
既に相手の船に乗り込む姿に慌てて追いかける。
二人がド初っ発で猛攻してきたので相手も驚いて防御をして、相手の男達が剣を抜き出した。
そこでギョッとなりリーシャは慌てて前に出て庇うようにする。
マイとヨーコは咎めるように退いてくれと言われるが落ち着けと宥めた。
二人は納得していない顔でムスッとしている。

「随分腕の立つ女だな」

足音を響かせて出てきたのは殺戮武人キラー。
彼は髪は靡(なび)かせて颯爽現れるとこちらを見るや「嗚呼、誰かと思えばお前か」と言ってくれた。
これで敵と認識されなくなると安堵。
息を吐いて「お久しぶりです。今回は覚えていて下さったのですね」とにこやかに笑う。
印象を良くしときたいし、切りかかったのはこちらの不手際でもある。

「元を辿ればキッドが無理矢理引き寄せたせいだ。警戒しても何ら不思議ではない……だろ、キッド?」

後ろを見たキラーに吊られて見ると赤いキッドが居た。

「知らなかったんだ。しゃーねー」

「しゃあねえって……」

マイが不服そうに言う。
引き寄せたのに悪気も何もない。
そう運悪く出会してあまつさえ、船を能力で引き寄せた男、ユースタス・キッドである。
今や新世界の勢力と恐れられる海賊の船長であった。
ひとまず知っている相手だったのは不幸中の幸いであろう。
キッドの方を向いて「お久しぶりです。その節はどうも」と言うと何とも思っていない顔で「偶然やった事だ」と言われる。
マイとヨーコに一度助けられた事があるから攻撃をする必要は無いと伝えると彼女達は納得顔で武器を構えるのを止めた。
これで取り敢えずは安心だ。
仮に戦うにしても負け戦同然の結果となる。
今や億越えの中でも最も力を付けて、着々と懸賞金を上げている新世界での真の実力者であるわけだ。
キラーはキッドに何やら言うと面倒そうな顔で額を皺だらけにする。

「あの女を出て行かせる為………仕方ねェか」

何やらムズムズと胸が騒ぐ。
何か厄介事を押し付けられそうな予感にマイとヨーコに船に戻ろうと小声で言う。
コソコソと船へ戻ろうとすると、むんずと腰に太い腕が巻き付く。

「リーシャさん!貴様ぁ!その手を離しなさい!」

マイが再び武器を取り出してヒュッとこちらへ走る。
だから、勝負にならないのに!

「動きは悪くねー。けど」

「わ、き、キッドさん!」

彼が動くから自分も揺れる。
突然の激しい動きに吐きそうだ。

「っう!」

避けたキッドに悔しげな顔のマイ。

「惜しいな」

したり顔で言う男。
人質抱えて言われてもと溜息を吐く。
好い加減挑発するような態度は止めてくれと頭を抱えたくなる。

「キッド、あまり機嫌を損ねると頼まれてくれなくなるぞ」

キラーが執り成してくれた。

「そもそもこいつらが帰ろうとしたから止めたまでの事だろ」

「だって、厄介事を押し付けられるような予感がしまして」

「はっ、何だァ?鋭いじゃねェか?」

ニヤッと笑うキッドは顔を寄せてくる。
それにまた憤慨するヨーコ達。

「ていうかさっさと離しなさいよ!あんたと違ってリーシャの身体はか弱いんだから!折れたらどうしてくれるわけ!」

ヨーコの言葉にそこまでか弱くない、と内心苦笑い。
彼女の叫んだ内容にキッド本人は胡散臭さそうに抱えている人間を見つめた。
そんな人間ならば海に流されていた時点で死んでいるだろうと声を出したくなる。

「じゃあ、そんなにか弱いんだったら何で新世界に来てんだ」

「んなの私達の勝手!ていうか、リーシャを話しなさいよっ」

ヨーコの言っている事は最もだが、短気なキッドにはご名答でもなかった。
眉に皺を寄せて少し不機嫌そうだ。
このままでは平和な時間ではなくなる。
頭脳をこれでもかと回転させるとパァ、と閃く。
妙案でも明暗でも無いけれど、険悪な空気を変えるにはこれだ。

「そう言えば、ユースタス・キッドさん。貴方、さっき厄介事を否定しませんでしたよね?」

「あ?嗚呼」

肯定したのでその先へグイグイ行く。
話しだけでも聞くから話し合いの席を設けて欲しいとキラーに頼む。
変わらずビクともしない太腕に抱えられているので自分の身体を無理矢理捻る。
仮面の見える方向に頼み込むと頷いてくれた。

「キッド、此処で話していてもラチが明かない。一旦冷静に話し合ってみてはどうだ?」

流石は右腕。
身体を浮かしたまま運搬されていくリーシャを追う形で二人も付いてきた。
後はキラーがその後ろから。
キッドだけでは喧嘩になると踏んだのだろう。
キッドの事を良く理解しているからこそ成せる行動だ。
キッドは部屋に着くとソファーにふんぞり返るとリーシャを膝に乗せた。
乗せる理由が分からなくて居心地が悪い。
身体を捩って何とかせめてキッドの膝から降りようとするが腰に回っている腕によって退かそうとしても動かせない。
その内、無機質な腕に腰を抱かれて、生身の腕が肩に回されて髪をクルクルと絡めて巻き出す。
キッドのその行動に青筋を立てて睨み付けている少女等全く気にする素振りはない。

「その手を今すぐ離して下さい」

「っていうか、頼まれても断るからね、私達!」

完全に嫌われたなぁ、と内心仕方ないと頷く。

「こいつの黒髪、好みだから遊びたくなるんだよな」

「私の髪だって黒いし、ヨーコの髪だって真っ黒ですが?」

マイがキレている。

「お前等は真っ黒過ぎんだよ。こいつの髪は太陽に焼けて少し茶色い。これくらいがおれには良い。後、お前等は若過ぎて全く食指が湧いてこねェ」

「キッド!」

最後の言葉に立ち上がる二人。
キラーが彼を咎めたくなるのは同然だ。

「リーシャさんを厭らしい目で見てるなんて不潔!最低!」

「てか、若過ぎって何?あんた二十二でしょ!?あたし等の方が歳近いわよ!!てか、好い加減手ぇ離せ!このパンク系ギタリストモドキ!」

二人がやいのやいのと言い初めてキッドは面倒そうに息を吐く。
いやいや、こっちが吐きたいんですけど。
貴女のせいで二人の心は大荒れだよ!

「あー、えっと……キッドさん。貴方とそういう関係になる気は一ミリも無いので、あと予定も……てな訳で話しを聞くというお約束なので、話してもらえます?」

「んなもんヤッてみねェと」

「はい、ブーです、キッドさん!」

「あ?何がだ?」

「私もこの子達もそういう下世話なお話は好きではないのでー、控えてもらいましょうかね」

「ちっ、前にヤッときゃ良かったぜ」

リーシャだけに聞こえる音量で言うキッドの発言を無視してからキラーに催促をする。
キッドに話しを聞くには時間が無駄に掛かるだろう。
キラーは視線を理解してくれた様で頼みたい事の概要を言い始めた。
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