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三人となって集まると諦めると思っていたが、全くそんな素振りはなく寧ろもっと懇親的に話し出した。
三人だけの女で出歩くのは危ないのでローの偽物は一緒に付いていくと言う。
そこでふと思いついたのだが、彼は別に本物ではなく偽物。
つまりは七武海という意識もなければ、彼は七武海並に強い訳もない。
という事はこの厄介事を退けられるかもしれない。

「あの、私達急いでますのでもう言っても宜しいですか?」

リーシャは笑顔を張り付けて完璧スマイルを向ける。
相手が少したじろぐのが窺えた。
ロー偽物がそんな感じなのでマイとヨーコも援護射撃してきた。

「私達、こんな感じですが腕には覚えがありますのでご心配なく」

マイがお淑やかに言う。
ヨーコはヨーコでそれに加えて「じゃあね!」と言ってバビューンとその場から逃走。
追ってくる気配もなく、後ろを見ても人影はなく、死角の曲がり角で二人は止まる。
息を吐いてはいるものの荒ぶっていたり息を乱している事もない。
それに比べてリーシャは走っている途中で既に荒い息を吐き出しては空気を吸って、懸命に呼吸を繰り返していた。
二人との体力の差はこの通りである。

「船長さんに電話してからもうすぐ一時間ですよね?それまでは宿屋にでも身を隠しておきましょう」

「私達が居ない間に何があったのかはしっかり話してもらうわよ」

二人に言われてトホホとなる。
その流れで全て言うとなると二人のお説教が一割と過保護九割になる事は間違いない。
それにロー達への黙秘も視野に入れておかなければ後々苦労するだろう。
偽物ローにタイプと言われたりしたと言うだけで二人に猛追求が来た。
それにコクリと何度も何度頷いていくと首が痺れてきた。
序でに肩も凝ってきたので白旗を挙げて二人を宥める。
確かに、今回はあまり関わり合いにならない方が良いだろう。
そうして部屋でだらだらして寛いでいると外が何やら騒がしい。
窓から見ても騒がれている相手は分からないが、もしかしかたらロー達が陸に降りたから噂が広がっているのかもしれないと頬が緩む。
その時、部屋に備え付けられている電話が鳴り、手に取るとフロントからであった。
何でも七武海がリーシャと会いたいと言うので降りてきてはくれまいかと泣き声寸前の様子で言ってきた。
ローか偽物ローか。
どちらか分からない。
見なければ判断出来ないと思うと少し時間を稼いでおいて欲しいとフロントに無茶を言う。
フロントの人間だって自分の存在を知り生け贄として言って欲しいと言っているのだからこれくらいはするべきだ。
仮に本物でも、フロントの人間は彼の探している女のリーシャを隠そうとせずに教えた可能性だってある。
下手をしたら部屋番号を言ってこの部屋へ向かわせているかもしれない。
急いで二人に簡潔に言うと荷物を直ぐにまとめて外へ出る。
相手がローのように壁を抜けられる能力ではないのが救いだ。
窓から逃げるとベランダを伝い隣のベランダに移る。
やっている事はまるで大泥棒の逃走劇だなあ、とぼんやり思う。
下に降りるとコソコソと入り口を窺い遠目に見えたのは。

(ガチ偽物)

確かロー達には宿を教えといたが、何故偽物は此処に居るの分かったのだろうか。
もしかして付いてきたから場所を知っていたのかもしれない。
沸々と湧く疲れが溜息を吐かせた。

「あの、お客様?」

外にいたフロント係が声を掛けてきた。
コソコソやっているとそりゃあ不審者だろうけれど、無理な話しではあるが空気を呼んで声を掛けないでいただきたいものだ。

「もしかしてリーシャ様でございますか?」

「違います」

此処で肯定したら生け贄決定だ。
濁った目で言うと相手は怯んだように笑う。

「あの七武海様は何時頃までこの島にいらっしゃるのですか?」

マイがナイス質問をする。
それにフロント係は今日の夕方には出て行かれるとの噂ですと答えた。
この宿の個人情報取り扱いについて一日完徹で問い詰めてから上書きしてやりたくなる。
ついでに五発くらいは殴らせて欲しい。
人間が施設を運営している限り完全に情報は守れないのだとヒシヒシ感じた。

「あ、あの変態こっち来る」

ヨーコの発言にマイとリーシャは納得してまう。
確かにあの男は変態の称号を上げても良いくらいの粘着質男だ。
わざわざ宿まで探して呼び出すなんて、そこまでする事は無いだろうと高を括っていた自分も悪い。
そして、今後はもっと警戒しようと決めてから二人に言う。
今日行ってしまうのなら、ロー達が来るまでの時間稼ぎをするので後は任せてくれと。
それに反対する暇も無く彼はこちらへ近付いて来たので私は平気だと気丈に振る舞った。
彼女らの納得していない視線を交わして正面へ挑む。

「あの、こういうの凄く困ります」

先ずは一番初めに困っているアピールをする。
そして次は相手の出方でやり方を変えていく。
バイトで身に付けた臨機応変である。
こんな所で役に立つとは、経験とは何と素晴らしいのだろう。
ロー偽物は謝ってから今日出発するから一目会いたくてと言い訳にしても悪い気はしない。
好意も慣れないが、此処までストレートだと言葉に詰まる。

「今日お発ちになるのですね………此処では何ですから何処か個室で話しませんか?」

周りからの視線が焦れったくてまどろっこしい。
フロント係の一人に目をやると待っていたのか鍵を持ってこちらですと先導していく。
ヤケに手際が良い事を見るとフロント係も盗み聞きしていたようだ。
中へ通されると個人的に商談とかに使われていそうな部屋で、スペースは他の部屋と違わない。
椅子に座って正面を進めると相手は刀を脇に置く。

「で、具体的には私と会ってお話しする為に此処へ来た。で合っていますか」

自分優位に話しを進める為に自分から切り出す。

「嗚呼。その………俺は本気だ。もし、貴方が良ければ………俺と一緒に来て欲しい」

「………海賊船に、ですよね?」

ローにだってそんな事を言われた事もない。
というか、色々理由があるが、絶対に乗らない。
彼一人という旅で、一ヶ月くらいはまあ何とかやれるだろうが、彼の仲間を思い出すととてもでは無いが大切なものを失ったり奴隷にされる予感が至極する。
そんな治安の悪そうな沈没船に乗りたくない。
リーシャが渋っている(心底嫌悪している)ように見えるのか、彼は少し慌てたように言う。

「勿論、危険な目には絶対に遭わせない」

と、言われても。
彼は守ると言うが、彼の周りに居る性格が良くなさそうな人達相手に上手く立ち回れるとは思えない。
男なら暴力で済み、女だと捨て身のレベルだ。
無理だと答えると彼は緊張のせいか、手を堅く握る。
何かを決意して実行に移そうとしているという顔だ。
それに女の感というか、脳内に危険だと信号が送られる。
相手は徐に立ち上がるとスッとこちらへ寄った。
本能的にリーシャは立ち上がるとドアへ向かう。
しかし、腕を取られて反動で相手方の身体がある方向へ向かう。
グッと握られる腕に目をしばたかせるしか出来ない。
何をされるのか、襲われるのか、告白されるのか、誘拐されるのか。
どれか起こるというのは辛うじて理解し、警戒し身構える。
此処に自分の味方は居ない。
自分の身は自分で守るしかないのだ。
彼女達に教えられた護身術(初級編)をやっと本格的に実践する時がきた。
ローには喉潰しをしたが、彼は一般人に比べてタフだから対して効果はなかった。

「無理矢理、連れて行く気はない」

「っ………何故腕を捕まれているのか説明を求めても?」

聞くと彼は俯き、更に顔を寄せてくる。
これは、顔が近い。

「あ、あの?」

どうしようかと脳内でグルグル回る。
もう目と鼻の先の距離にあって、冷や汗が出た。

(どうしよう。殴るべき?蹴るべき?)

傍らにある刀を抜かれても堪らない。
でも、好きにさせるのも嫌だ。
動転する程ではないにしろ、この真面目な人の対応に悩む。

−−ズバァン!

轟音に耳を塞ぐ暇も無く目を閉じる。
もしかして賊でも侵入してきたのか。
それくらいはあり得るくらい運が無いのを自覚しているので可能性はある。
目を開けて情報を入れ出した途端、ぽかんとなった。

「あ、え、あ………え?」

(確かに私が呼んだし、居ても何ら可笑しくないけど………派手な登場だなあ)

刀を抜いている姿勢で剃刀(かみそり)の如き視線でギロッとこちらともう一人を見据える。
これは相当頭に来ている顔だ。
扉が横に向けて真っ二つになっている。
それだけでもう静かな激怒を胸に秘めているのが窺える。
偽物ローはリーシャの腕を掴んでいる状態で呆けていた。
目の前でこういう事が起きると普通はこんな感じなので仕方がない。
状況を呑み込めずにいる相手をローは見て、更に額の皺をギュッと寄せる。
のこのこ此処に付いてきて話しを聞いた事か、一緒に居ている事についてか。
それともローだと本人を差し置いて偽物が横暴的に行動している事に怒っているのか。
ロー(本物)は偽物に向かって「その女を渡してもらうぞ」と言う。
流石に模しているからかローだと認識しているらしい男は彼の言葉に掴んでいる腕を更に強くする。
此処は離す所ではなかろうか。
怖くて離すに離せないのかと思っていると、果敢にも(しかし、無謀でもある)偽物は彼に「この人はおれが見つけたんだっ。お前には関係無い。渡す事は出来兼ねる」と言う。
渡した方が身の為だと感じるが、此処は黙れば良いのか、進言して自分から行くと告げる方が良いのか。
こちらとしては機嫌が悪いローの相手を後にも先にもしなければいけないのだ。
少しでも機嫌を良くしてもらいポイントを稼ぎたいと思うのは当然。
というか、今は取り敢えずこれ以上彼を怒らせるままにさせてはおけない。
相手が彼の王下七武海であり、こちらは単に純粋な偽物。
勝負をするまでもなく負け戦になる。

「あ?関係あるに決まってんだろ?おれのもんを横撮りしてんのはてめェだ。頭の悪い言葉を無駄に撒き散らすな」

一瞬で目の前に移動したローはリーシャと位置を入れ替え、ハッとした時には既に彼は男を長い臣足で蹴飛ばしていた。
数秒の間の出来事に騒然となる。
その直ぐ後にマイ達も入ってきて、地に伏せっている偽物を見て安堵すると同時に何もされていないかと言ってきた。
ギリギリセーフだと心の中で呟くが、結局はどうともなかったので大丈夫だと報告。
無駄に心配させたりする必要もない。
壁に亀裂が走るくらいは強く蹴られた偽物の心配を少ししてしまうのは、駄目だろうか。
気になってチラチラ見ているとそれを阻止するかのように立ち塞がるロー。
そう言えば少し、忘れていた。
うっかりしていた自分に呆れつつもローに礼をする。

「本当に反省してるのか?男と二人っ切りになっておいて。これじゃあいつもと変わりやしねェ」

怒気を僅かに含んだ声音で咎めるローに今回ばかりは反省する。
言う気は無いが、彼が来なかったら何かをされていただろう。
マイとヨーコにも心配を掛けてしまったという罪悪感にごめんと謝る。
次からはリーシャ一人ではなく三人で行動して欲しいと言われて頷く。
緊急性が高かったから無視だが。
内心こっそり思うとローがこちらの頬を無遠慮に引っ張ってきた。

「いひゃ、いひゃいれす」

涙目になりかけているとローは二人にこいつから目を離すなとまるで心の中を読んだような絶妙なタイミングで言った。
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