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春の島に着いたらしくとても良い気候で過ごし易いようだ。
さわさわと風がそよいでいて髪を撫でる。
歩いていると人の囁きが聞こえてくるのが耳に入ってきた。
どうやら新七武海のトラファルガー・ローがこの島に居て色々素行を行っているらしい。
その行動が些か可笑しいのだが、真相をとても確かめたくなった。
どうやら人を集めているらしい。
何故人を集めているのか分からないし、何故素行が悪いのも可笑しいのはやはり気になる。
しかし、海賊の同盟でもなく、只の助けられている側として首を突っ込んで良いものかと悩む。
二人にローの元へ行くのが良い事か、止めといて行かない方が良いのかと二択を天秤に掛けて意見を聞く。
二人は様子を見てから声を掛ければ良いと言うのでそうする事に決まった。
募集を掛けているというお店へ赴くとそこは一つの酒場でついでに面接へ行こうと思って取り敢えずリーシャだけ行く事になる。
音を出来るだけ立てないように扉を開けるとそこは宴の様に盛り上がっていた。

「………………意味が分かんない」

ソファの真ん中に居る男が居るのだが、出で立ちはローの者を真似ているのだが、その顔はどう見ても。

「おら!もっと酒持ってこい」

傍に居る男、恐らく部下を模した人達がそう店に居る従業員に飛ばす。
店の人間達があの席に座るのはローだと言い合うので今直ぐ訂正して町に触れ回りたくなる。
どう見ても−−別人だ。
その身体付きはほっそりしているが背丈はローの半分より少し高い程度で百九十一センチある背はかなり高いのを比べると低く感じる。
船員達の柄も良くない。
本物の人達はもっと柄も良くて店員に対してもこんなに乱暴ではないのに。
ムカムカとする気持ちを押し込めて観察を進める。
まだ酒場なので女が居てもそこまで目立たないのが救いだ。
ローの偽物は両腕に女達を侍らせて鼻の下を伸ばしている。
何てだらしのない。
あれが七武海だと思われていて、揚げ句ロー達ハートの海賊団の評判もだだ下がりだ。
ローの性格ももっと冷静で女を口説く時だって手慣れていてやり方も駆け引きが上手い。
それよりも全く全く全く似ていない。
有り得ない、鬼哭でもないし安物の刀らしく「嗚呼安そうだ」と誰でも分かるレベルのものだ。
ローがこの島に上陸したら色々問題が起こりそうだと思った。
ロー(偽物)を引き続き観察していると相手は酒をゴクゴクと飲む。
その豪勢さはロー並であるけれど、全く品が皆無である。

「ローさんは七武海だぞ……!もっと女を持ってこい!」

ローはそんなに強欲ではない。
女は一人で十分だと心の中で怒る。
しかし、お首には出さずにジュースを飲みながら気付かれないように見た。
偽物ローは女の身体をお触りをし出したらしく下世話な言葉や楽しげな声がする。
取り敢えず今は此処から出ようとジュースをグビリと飲むと息を吐いて椅子から降りて出口へと向かう。
外に居た二人に何があったのかや偽物ローが我が者顔で居座っている事を詳細に説明するとマイ達の眉間の皺が寄ったり目尻がキツくなっていく。
戦いを教えてくれて助けてもくれているローには恩も感じているだろうし、ローを知っている二人にはとても許し難い所行なのだろう。
しかし、相手の力量を何一つ把握してもいないし、危険に突っ込んでいくのも危険だ。
此処は荒波を立てずに無視をした方が良いのではないかと二人に言う。
納得はしたが、やり切れないのだろう二人は悔しげに顔を曇らせていた。
二人の気持ちは察するが、反撃にでもあって怪我をするよりはずっと良いと判断。
二人には違うバイト先に行かせてこのことに関わらないようにさせてからリーシャはローに初めて電話を掛けた。
あんなに電話しろと言われても掛けなかったものを掛けるのは何と気恥ずかしいのだろうか。
海軍にも助けを求められないのはかなり苦痛だ。
偽物だからと言って来てくれるかも分からないし、来たとしても討伐してくれるかは甚だ疑問である。
それならば直接風評被害に遭うであろうローに言った方が早い。

『珍しいな、お前が電話してくるなんて』

電話から出てきた相手の言葉は掛けてかないリーシャへの皮肉にも聞こえたが、今は聞いている場合ではない。
ローに手早く偽物が闊歩して好き放題していると言うと電伝虫は眉を寄せて険しい表情を作る。
気に入らないと聞こえてきてから彼はどこの島だと聞いてきてクックッと笑う。
その島なら後三時間程で着くと言うので安堵した。
そこまで来ているのなら別に何かを焦る必要も無さそうだ。
胸を撫で降ろすと電話を切る。
やがて、酒場の扉が開かれると偽物ローが単体で外へ出てきた。
仲間は置いてきたのだろう。
興味があって見ている島民と同じように見ている少しだけ長身で細身の男が刀を担いだままこちらを見る。
あの時、一言も話さなかったけれど、話さないように、墓穴を掘らないように無口を装っているのかもしれない。
警戒しつつもこちらへやってくるので脇に寄ると男は隣を通ってからリーシャへと身体を向けて明らかにロックオンされた顔で見てくる。
ドキッと冷や汗が垂れるのを感じてひたすら沈黙。
向こうはこちらを穴が開くように見てから初めて口を開く。

「……さっきまで酒場に居たよな」

「は、はい。居ましたけど……何か?」

「俺が怖く無いのか?」

それは海賊だからか、七武海だからか。
どちらの意味で聞いているのだろう。
真意を汲み取ろうと探るけれど無表情は崩れないしで無理だ。

「八十割くらいは怖く感じてますね……あははは」

空笑いで場を保たせる。
相手は安物と感じる長剣を肩に担いだ体勢のままこちらをジッと見る。
ローをサーチして練習でもしたのかと思うくらいその仕草は本人を連想させた。
噂とは言え、残忍と世間で言われているローとは雰囲気は似ているものの、どうにも残忍っぽい気配はしない。
もしかして、悪巧みしているのは周りでこの目の前に居る彼は差ほどやっている感覚も自覚もないのかもしれないと薄々推測。
普通ならば此処は無理矢理連れて行くのが海賊であり、彼はそれを結構する様子も無くジリッとやってきた。
反射的に後ろへ下がるとまた一歩寄る。

「何故近寄ってくるのでしょうか?」

「お前が後ろへ下がるからだが」

その淡々とした遣り取りは周囲の人間にすら緊張を与える。
関わり合いたくないという感じで目を反らしたりするので外側からの助けは絶望的だ。
何故こんなに厄介事に巻き込まれ易いのかと嘆きたくなるが今はそんな事を思っている暇は無い。
どう切り抜けるかが鍵だ。
ロー達がせめてこの島に上陸するまでの辛抱だと己に言い聞かせる。
震えるような心は持っていないが、焦りは感じていた。
どうしようと考えを巡らせて周りを見る。

「あの、で、私に何の用がおありで?」

ロー本人にこれを目撃されるのもまた別の問題が起こりそうだと苦笑。
説教をかまされそうな未来が待っているだろう。
マイとヨーコならばこの状況を打開させられるフォローを入れてくれるかもしれないが、生憎彼女達を捌けてしまった後なので気付くかどうか。
困ったものだ。

「……少し、タイプだ……俺の」

「え、あ、さいですか……」

もしかしてトラファルガーと名乗っている男は自分に好意を持つ呪いでも施されているのかと邪推してしまう。
返答に困って絞り出した言葉に男は続ける。
デートをしないか、お茶だけでも良い。
この台詞にデジャビュを感じて過去の記憶を漁ると人間に無断で実験をして披見体にする変人犯罪者科学者が同じ台詞で自分を填めたのだと思い出す。

「私に変な薬とか……飲ませないのなら……」

「薬?……風邪でも引いてるのか?」

(なんかやたら悪人に見えない事言う人だな……本当にこの人、七武海やる気あるのかなあ?)

普通は此処まで心配しないだろう。
何だが、彼が騙されていてこんな事をしている気がする。
多分、そんな予感を感じた。
外れていても何だか後味の悪いものである程、彼は悪い人に感じない。
ロー曰くリーシャは男を見る目が無いのでホイホイ付いていくなと言っている。
でも、ロー本人も男として駄目なのではと突っ込むと放送禁止用語の一日を過ごしたので二度と言うまい。
何となく時間を引き延ばす為に話題には事欠かないように注意を払う。
時間稼ぎになるかも分からないが、出来るだけこの男と二人きりというのは回避したい所だ。
偽物ローはリーシャの思考等全く考えていないのだろう、首をひたすらに傾げている。
此処は何かを言わなければとヘラリと笑う。
取り敢えず笑みを付けておこう。

「風邪、引いてると思います。今も病院に行く途中でして……ちょっと、お茶は無理かなーと」

そうだ、病院だと閃く。
どうやら偽物ロー達は何かの為に人を集めているようだし、下手に触らなければ純粋に市民とは接触したがらない筈。
そう予想して言うと「なら病院まで送る」という有り難迷惑。
付いてくんなと内心では思うものの、逆らって仲間でも呼ばれたら堪らない。

「そんな!七武海様にそんな事をさせるだなんて恐れ多い……」

(本来七武海ってこんな風に敬遠されている……んじゃなかったかな)

ローは七武海に入る前から知り合いなので七武海になりましたと聞いても「おー、七武海かー」という感慨深いものしか沸き上がらず。
想像して見てくれ、友達がいつの間にか芸能人になっていたとしても凄いなあとしか感じないのが個人的な感覚である。
これは比喩であるが、それと似た感覚という感じなのだ。
七武海?へー?という感じなのに対して、世間での反応は真逆である。
その世間の反応を生かしてどうにかこの人から離れられたら良い。
そんな感じで念じつつ側面では遠慮という下手に出ている。
ロー本人がこれを見たら目にこれでもかと眼力を付けて自分を睨む。
そして、有無を言わせずに船へ連行されるのだろう。
しかし、目の前に居るのはローの偽物なので当然そんな暴挙に出る筈もない。
相手は遠慮するとか、それらしい事を言うが、偽物を詠っている時点で付いていくつもりは果てしなくゼロだ。
でも、彼は引く気はないらしく首を縦に振ってくれない。
リーシャは内心辟易してきた。
この攻防を好い加減終わらせたい。
色々理由はあるが、この人が七武海でもローの本物でないのが一番である。
怖くないのだ、本音を言うと。
ローみたいに威圧感を感じる訳でもない人に病院に連れてってやると言われている時点でもう飽きてきた。
ローは医者なので取り敢えず病院とは言わず船に来いと言われる。
それなのにこの人と話しているこの時間が至極勿体ないような想いがした。
スススス、と後ろ方向の斜めに歩き出す。
今は兎に角マイとヨーコと合流するべきだろう。
足をいそいそと動かして二人が居るであろう建物に向かうけれど、それでも彼は黙々と付いてきていた。
もしかして病院に行くのだと思っているのかもしれない。
どうしても付いて来るらしい。
その行動力にゾッと感じつつ二人を見つけて声を掛ける。
二人は後ろに付いてきている男について、瞬時に理解したらしい。
険しい顔をする。
敵認定されるのは当然として、彼はどんな反応をするのかと様子を窺うと彼は首を捻って戸惑っているようだった。
なまじ、下手に力ずくとかで言い寄られていない分、どう捌けようかと悩む。
仲間が居て合流出来たのでと早口に言って三人になると二人も取ろうとしていた宿へ後ろを気にしつつ、無事に辿り着いた。
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