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只今、花嫁衣装を試着させられております。
点々と行われるそれに青筋が立つ。
ムカつく、腹が立つのが良く感じる。
胃も心なしかムカムカするので胃薬が欲しい。
リーシャの頭の中にある計画はウエディングの最中に脱走するものだ。
まだヨーコ達とは会えていないがもうじき会えるだろう。
それにしても本当に似合わないなと感じるその衣装に何度目かも分からなくなった溜息。
どうして自分にこれを着せよう等と思ったのか甚だ疑問が尽きない。
いつも男装の様に心掛けている服装からも見て、本当に場違い感が凄いのでもうさっさと二人を連れて脱走をしたい所だ。
結婚式は明日に迫った所で、夜になると晩餐と言って既に嫁である六人の女達と新入りとなる三人が一同に集まる。
これで六人の事が詳しく解りそうだ。
四人目の奥様はとても我が儘だったけれど他は違うかもしれないのでもしかしたら協力させられたりするかもしれない。
別にその人達も脱走させようだとかは思っていない。
仮に従っても彼女らの生活が保証出来ないし、各島に生け贄にされたので戻っても歓迎されたり守られるかも不明。
そんな状態で担ぐのは無理である。
無謀な真似が一番リスクを背負うのを理解しているので今回はマイとヨーコが優先されるわけだ。
ギィ、と扉が開かれるとズラッと長いテーブルに介する八人の女達とペトリナ本人。
部屋に入ると同時に不躾な視線を感じて顔には出さずに不愉快だと感じた。
これは視線の方向的にペトリナではなく六人の嫁達だろう。
何故殺気立っているのかは何となく分かる。
きっと此処で無理矢理結婚させられたが、生活を満喫しているが、側室達の醜い場と似ている感じだ。
何度か王宮に理不尽に召される事があったが、前にナイフで襲ってきた女と同じ空気を纏っている。
新しい花嫁のせいで楽な暮らしを台無しにされたくはないのだろう。
マイもヨーコも無理矢理連れてこられて今でも嫌がっているのだから余計なお世話だと、無駄な警戒心だと辟易する。
マイとヨーコを見れば驚いた顔をしていて、此処までは予想したリアクションだと納得。
席に着くとペトリナがリーシャを新しい花嫁だと紹介する。

「アルネだ。この嫁もまだ結婚を認めてくんねーんだよな」

も、という事はマイとヨーコもそうなのだろう。
ペトリナは同意させようとしている癖に結婚式の予定は変えない。
何と傲慢で自分勝手な男なのだろうか。
ヨーコは鼻を鳴らしてマイは黙りでペトリナに視線さえ向けない。
相当怒りが溜まっているらしいと心の中で推測。
早く助けたいと心では思うのに歯痒い。
それと、この男にも本名を教えず偽名を使った。
どうしても名を呼ばれたくない。
その一心でサラッとした何も知らない顔でご飯に手を付ける。
そうしていると一番端に居る女が質問してきた。

「アルネさん、でしたわね。どこの島のご出身で?」

「南です」

「親御さんはどんなお仕事を?」

違う人が聞いてきた。
腹を探っているつもりだろうが、禄に海を旅してきた事もないペーペーの民間人の言葉なんてキッチンにある包丁よりも鋭くない。
内心あざ笑って答える。

「親は……先の戦争で亡くなってしまい、今は独りです」

真っ赤な嘘だ、両親は普通に生きている。

「そうなのですか……ペトリナ様とはどこで出会いましたの?」

「無理矢理服を破られて女だと知ると嫁になれと言われました。ねぇ、ペトリナ様?」

と笑顔でペトリナを見ると彼は冷や汗をかいていた。
思った通り嫁となっている認識の女に迫られるとキョドるらしい。
やはりこういう責め方は有利で、男でなかったら乱暴な真似しないという事で良いのかも。
マイ達が浚われた時も特にこれといった乱暴さはなかったのでこちらが女である以上、下手に怒らせなけれは動けるかもしれないとチャンスを感じた。

「ペトリナ様と結婚なさいませんの?」

生温い女が呑気に言うのを聞いて反吐が出そうになる。
仮にもこっちは女なのでそんな不衛生な事はしないけれど。
それにしても人質と世間では可哀相な風に言われているが、実態はかなり違うようである。
これを世間が知ったらとんだ詐欺だと騒ぐ事だろう。
望んで此処へ来たのか、それとも望まぬままに此処へ来させられたのかは別に問題でも無い。
此処の人達は協力を扇ぐには弱い。
それに、ペトリナに告げ口する可能性も大いにあるので何かを言うのも止めておこう。
リーシャは内心計画を練ってから笑顔を浮かべる。

「私は心に決めた方がいるので、ペトリナ様とはご結婚出来ないです」

ペトリナにも言ったが、彼はそいつはどこのどいつだ、俺が倒して自由にしてやると息巻いていたので手を出したりしたら軽蔑して無視して罵倒して恨んでやるとノンブレスで言い続けた。
そしたら彼は意気消沈した様子で「わ、分かった……」と怖々と言ったのでボコボコにされる誰かの未来は安泰だ。
心に決めた方と言うのは口から出任せである。
そう言っておけば結婚を免れるかもしれない。
と、思ったので言った。
誰がこんな男と結婚なんてするか。
そもそも六人の嫁が居るのにまだ欲しがるその性格にも不服である。
おまけに自分まで物にしようとは許し難い。
マイとヨーコのどちらかを愛していて一人だけだと言うのなら別に怒りはしないと断言出来る。
六人の質問をのらりくらりとかわして食事を終えると部屋へ戻った。
宛てがわれた部屋で寛げる訳もなく、一人で脱走の道を歩く為に部屋を抜けて散歩する。
マイとヨーコの部屋も近くにあるのだとペトリナから聞いていたので後から手紙でも言葉でも交わせば良い。
式は明日に迫ったので計画は最終段階である。
翌日、朝から普通に起こされたリーシャは神妙に、一見見てみれば結婚には納得していないけれど素直に従う女だ。
それを怪訝に感じる者など居なくて、最後に唇に朱を乗せられて鏡に写る花嫁を見つめる。

(うん。やっぱり違うなあ)

違和感しか無い。
この花嫁衣装は特に何も言っていないので拘りもない普通の衣装だ。
こちらへと言われた言葉に従いお付きの人に後ろの長い部分を持たれたまま進む。
扉を通ると不機嫌な顔をして不機嫌なオーラを巻き付けている二人が見えて(不服そうだなあ)と内心苦笑。
二人はリーシャに気付くとパーッと顔を綻ばせて見てくる。
気持ちは分かるが、似合わないので止めて欲しい。
苦笑いを零しながらヴァージンロードを歩く。
三人が揃うと神父(本物ではないかもしれない)が結婚式の常套句(じょうとうく)を言い出して最後にこの場で異議のある者はという発言で挙手しようとすると後ろにある扉がバーンと開く音が耳に入り反射的にそちらへ向く。

「異議、有りだ!」

――ドン!

現れたのは今話題の新人王下七武海。

「「「「異議ありィ!」」」」

「おれらの後輩返せ!」

「おれらは海賊だコラァ!」

「奪いに来たぞー!」

と、そのクルー達。

「ローさん!?」

「「船長さん!」」

登場した彼等に対して反応したのは自分達だけではなくペトリナもである。
刀を担いでカツンカツン、と靴音を響かせてヴァージンロードを踏む。
無表情に見えてとてつもなく不機嫌であろう。
ペトリナは誰だ!と声を張り上げる。

「今日結婚式を上げる花嫁の一人の男だ」

「何!?……お前の男か?」

とコソッと聞いてくるペトリナにどう言ったものだろうと悩む。
ここは素直に頷くべきか、否定するべきか。
というか、さっきからローの「早く認めろ」という視線が突き刺さる。
マイとヨーコも何故何も言わないのかという視線が凄い。
しかも、船員達の顔芸が豪勢だ。
向こうも何か言えよ的な物が身体にビシビシ来る。
ローが答えないリーシャに苛々したのか刀をカチンと鳴らす。

「今お前が耳打ちした女だ。この盗人が。海賊から奪ったらどうなるか教えてやる」

ローはペトリナを睨みつけるとペトリナは怒りを現して彼に襲い掛かる。
それにローは跳んで避けるとペンギン達がこちらに来てサッとこちらの安全を確保してきた。
流石は場数を踏む男達だ。
マイとヨーコを見ると二人は武器を構えていたので驚く。

「仕込んでたの?」

「素直に結婚すると思った?有るわけないし!」

「こんな血も涙も無い結婚をするくらいなら死んだ方が遙かにマシですが……こちらが死ぬのはどうにも割に合わないので向こうに痛い目に遭ってもらいます」

マイの言葉が何とも迫力がある。
それにペンギン達がははは、と笑う。

「リーシャを返してもらう。おれの元部下もな」

「リーシャ?誰だ?そんな名前は聞いた事がないぞ」

ペトリナがそう怪訝に言うとローは優越感を感じている顔で相手に笑みを見せる。

「本当の名前も知らない何てな。くくく。こりゃあ傑作だなァ?」

ローの明らかな言葉にペトリナはぐぬぬ顔だ。
余程悔しいらしくローに拳を振り下ろす。
ローも構えて避けてニヤッと口元を歪めた。

「図体がデカいだけじゃ新世界は渡れねェぞ……八千万ベリーの賞金首、“剛腕″のペトリナ」

「おれの事知ってるのか?」

「嗚呼。ついでに貴様の首も狩ってやる……海軍の名の元に……いや、この場合は……七武海の名の元に、か」

ローはとても平坦な声でそう告げるとペトリナが動揺する。
そりゃ、海軍となれば焦るのだろう。
ペトリナは本格的にローを潰そうとその腕を振り上げては振り下ろす。
リーシャ達はペトリナが向こうに言っている間にウエディングドレスを持ち上げて脱走を計る。
マイとヨーコが自分達も助太刀した方が良いのかという事を言っていたが、物理的に効果の無さそうだった事を配慮して止めておいた方が良いと言うと二人共悔しそうな顔をして足を動かす。
出口に向かおうとすると六人の女達が立ち塞がる。

「どういう事なの貴方達!?ペトリナ様を裏切ったの!?」

四番目の奥様方が大層ご立腹だ。
しかし、思い出して欲しい、この中でそれよりももっとご立腹な人間を。

「あんた達正気?」

「信じられません。というか退いて下さい」

「まぁ!なんて事を言うの!?そもそも貴方達」

「黙れ」

「「「「!」」」」

女達の息を詰める様子が手に取るように分かる。
何て愉快な顔をしているのか。

「最初からあの男に気を許してなんていない。それに裏切ってない。初めから信用も信頼もしていない上にどうでも良い。それと、貴女達についても。花嫁ごっこはもうお終い。ここからは冗談も腹のさぐり合いも無しの本気になる。それでも……やり合う?」

殺気を立たせて言えば竦み上がる女達。
前へ踏み出せば風に吹かれた雑草のように引く。
この生活に甘んじていた我が儘達に負ける程自分は弱くなかっただけなのでそんなにキラキラとした顔を向けないでと心の中で二人に思った。
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