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マイとヨーコは女帝の収める島であるニョンガ島へと行った。
初めはリーシャも見届ける為に付いて行きそこで二人を二日程眺めていた。
彼女達は緊張しながらも強くなりたいと切望して見事鍛えて貰えるうまを取り付けたのだ。
交渉が失敗すれば良いと思っていたのに。
もし交渉が上手くいってしまった場合を考えてリーシャはとある計画を頭の中で練っていた。
それは置き去りとも言う放置。
分投げた、何もかも。
此処で自分がする事なんて何も無い。
強くなろうとも思わないし、なれるとも思わない。
という訳でボートを拝借して島から出た。
で、カームベルトという渦に巻き込まれた。
安定の不幸だったのでいつもの事だ。
船も木っ端微塵になったのを見たし、ついにあの世かと悟る。
目が覚めると仮面と対面した。
良く見ると殺戮武人と名付けられたキラーという人だったので懐かしさでのほほんとなる。
けれど、その最中にお前は誰だと尋ねられリーシャの事は忘れているのだと残念に思った。
尚、ロー達が近くに居ないのはロー達とはハンコックを説得した後に別れたからだ。
キラーは上からこちらを見ているので自分が横になっているのを気付く。

「流石に半年も経つと忘れますよね。貴方とは以前にお会いした事があります。そんな感じの者です。名前はリーシャと申します。所で私はカームベルトに巻き込まれた筈何ですが何故に此処に居るのでしょうか?」

聞きたい事が有りすぎて早口且つノンブレスである。
キラーは待ってろと言うと去る。
説明お願いします、待って下さいとも言えず見送った。
チキンなのだから仕方がなかろう。
暫くするとノック無しで入ってきたのが、赤い色を巻き散らしている人物。

「どっかで見た事あんな……」

「はい。主に酒場で」

「……忘れた。キラー、何か飲み物くれ」

そんな感じで居座っているキッド。
今ではもう直ぐ四億になる賞金首だ。
ローも三億を切り掛けている
どういう経緯かどうやらこの場所は船らしい。
海の遭難者を助けるなんてキッドらしくないような気がする。

「ただ女だったから引き上げたまでだ」

(だろうなあ。何か黒髪好きみたいだし)

酒場で会った時は二回とも意味有りげな視線を貰ったのは記憶に残っている。

「んー、で、私……補食されるんですか?」

「色気のねェ言い方すんじゃねーよ」

「私に色気を求めるのがそもそも間違ってますから」

「その割に何か色気っつーか雰囲気があるぜ?」

(マジか。ローさんのせいだ全部)

只の女が色気のある女に進化した理由を何となく掴んでいるリーシャはローへ思念を送る。
よくも余計な真似しやがっての念であった。
キラーが水を持ってきてくれたので喉が乾いている事に気付く。
礼を言って受け取ると礼儀正しいなと言われ噴出。

「それ、前にも言われました」

人が抱く物はいつでも同じなのかもしれない。

「あー、ぼんやりとお前の事思い出した」

「別に無理に思い出してもらわなくても構いませんよ。気にしませんし。それに私は町人K程度の人間なので」

町人A〜Gは話し掛けてもらえてお礼にアイテムを貰ったり渡したりする秀才な人間に該当する。
もしこれがイベントなら町人は何かお礼としてアイテムを譲渡するべきなのだろうが、お金も少ししかなくて無一文に近い。

「何かお礼をしたいのですがね」

「なら一晩」

「あ、そういうの無しの方向で」

「海賊に制限かけるたァ肝が座ってんなお前」

「私もそれなりに険しい試練を渡ってるので嫌でもメンタルは鋼になりますよ」

苦笑してシミジミ言う。

「うーん、コックさんのお手伝い?」

「好きにしろ」

(え、良いの?)

厨房なんて毒を入れたりしやすい所なのにあっさりし過ぎだ。
それとも無関心なのだろうか。

「えと、じゃあコックさんに挨拶を……何処におられますか?」

「さァな。他の奴らに聞きゃあ分かるんじゃねェか」

「分かりました。行きますね」

特に外傷もこれといってないらしいし、自分から見て内側にも何かしらの違和感や痛みも感じない。
奇跡と言ってもいいだろうカームベルトからの生還にキッド達も悪運が強いなと驚いていた。
動いても大丈夫だと言われたのでそそくさと部屋から出る。
女の感がキッドと二人切りで居続けると貞操が危ないと予知していた。
強ちそれは間違いでないだろう。
一応知り合いと何となく思い出してくれたので今の今まで手を出されないのを良い事にすたこらと厨房へ逃げる。
厨房に行くと厳つい人が居てこちらに気付くと目を丸くしていた。

「そういや引き上げた女が居たって聞いたな……お前の事か?」

「はい。初めまして。助けられたご恩の為に厨房で何か手伝いたいのですが」

「おう。海賊船に居て物怖じしないなんて凄いな」

「慣れてますから」

「どーやったら慣れるんだ?」

コックの正当な突っ込みは誰でも言いたくなるものだ。
それにどう答えようかと考えてピンと電球が出現して光る。

「私、一応下っ端の新聞記者なので」

「なら慣れる?のか」

「慣れというより諦めですね。強盗にかれこれ八回程人質にされたら誰でも諦めが付きますね」

「不幸過ぎやしねェかそれ」

憐れみの視線を貰ったが別に憐れられたくて語ったのではないので笑って受け止める。
それにより更に可哀想な人を見る目が強くなったが気にしない。
不幸がもう人生の一部なのだ。

「お前の好きなもん作ってやるよ」

「デザートでも良いですか」

「デザート!んなもん作るの久しぶりだが……嗚呼、良いぜ」

確かにこの船に乗る人達は甘党ではなさげだ。
女の人も乗っていなさそうなのでそういうのを作る機会はないのだろう。
コックの言葉に甘えさせてもらおうと決めた。
それから三日、船に居候し続けてキッドからもお酒を注げと言われたりしたが経験上慣れているしお手の物なので苦もなくこなす。
島に降りたってお礼を言って別れた。
いつ貞操が悪くなるかと冷や冷やしたが無事に守れた。
けれど、それはキッドが単に手を出してこなかっただけだ。
本気になればリーシャなどマグロだ。
まな板に乗せられたタイだろう。
それ程力の差は歴然だった。
故に守れたというより見逃されたのかもしれない。
貞操は危ぶまれなかったが、危機感は普通の人より低めなので実際に襲われなければどんな反応をするのか自分でも分からない。
なので、ひとまずは良しとしよう。
喜ぶべきだろう。
キッド海賊団は此処には食料を買いにきたと言っていたので「あ、略奪じゃないんだ」と思ったのは秘密だ。
降りた島は色々と物が揃いそうな所だ。
尚、キッドからは餞別(せんべつ)等は無かったが、何故かコックから餞別を頂いた。
恐らく不幸体質を哀れに思ったが為の施しだろう。

「貰って良かったのか……ううむ」

確かにカームベルトに巻き込まれてお金が殆ど無い状態だったから貰ってしまったが、果たして本当に良かったのかと頭を過ぎったがもう船は出航しているし引き返す事も無理だ。
これは有り難く頂戴しておくしかあるまい。

「こんにちわ」

突然声を掛けられたので周りを見ると自分より一回り小さい子供がニコニコと笑みを浮かべていた。

「こんにちわ。此処は何て島なのか教えてくれるかな?」

優しく聞いてみると子供はパッと顔を輝かせて頷く。

「此処はお菓子の島。メレンゲ島」

(メレンゲとは安直、なのかな?)

この島の由来は何となく分かる。
子供はこちらが質問したからか質問してきた。

「お姉さんは旅人さん?この島に観光に来たの?」

「そうだね。でも直ぐに定期船に乗る予定だよ」

「そうなの?此処はお菓子が沢山あるから案内したかったのに」

ショボンとなる子供に眉がヘタる。
困ったなフェイスだ。
リーシャは別に子供が嫌いでもない、そこそこ好きなので子供の困った顔や悲しそうな顔は苦手である。
子供は笑顔でいるべきだと思ったので予定を変更しても構わないかと思う。
急いでいる旅でもないし。

「お姉さんこの島で観光しようかなあ」

「本当?」

「うん。案内してくれたら嬉しい」

付け加えると落ち込んでいた表情がパァと明るくなるのを見て頼んで良かったと思った。
子供はとっておきの場所を教えてあげると言って先導してくれたのだが、お菓子の家ではなくお菓子の塔だった。

「先生」

中に入ると螺旋階段が見えて此処で待っててと言われて待つ。
そして、待つ事五分。
もう待てないと帰ろうかと思い始めた頃入り口からゾロゾロと大人が入ってきて同じ観光で此処に来たのかなと最初は思ったが、手に持っている不釣り合いなロープや袋に思考が回る。

(嵌められた?)

子供を餌にしてそれに食いついた大人を浚(さら)い売る仕事。
即ち人身売買。
売られるのは貴族か、はたまたオークションハウスか。
新世界は海軍の目が届き難いのでこういう事はやり易い。
内心不幸だと嘆いて、後は捕まるしかなかった。
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