一番星のヒーロー | ナノ
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お昼過ぎになるとインターホンから訪問者を知らせるベルが鳴った。
ビクついたローに大丈夫だと宥めてからインターホンのカメラに映る人物を確認する。
このアパートはセキュリティが凄くハイクオリティーで安全面はこれでもかと言うほど強固なものなので訪問者を入れる時はアパートの入り口から確認しなければいけない二重式。
相手の顔は見えてもこちらの顔は見えないという一般のカメラ付きセンサー搭載の鉄壁の要塞と言っても過言ではない。

「あ、ペンギンさんだ」

「時間通りだな。通してやれ」

ローの許可も降りてインターホン越しでペンギンという名の絵本作家のマネージャーという肩書きを持つ男性をアパートの中へ招き入れる。
程無くして部屋に来たマネージャーを通すと早速本題に入ってきた。

「新作が出来たと聞いたんだが……見せてください」

敬語になった途中の口調に内心真面目な人だと思うとローも同じ感想を抱いたのか止めろと先手を打つ。

「いくらマネージャーでもお前とは付き合いが長ェ……いつもみてーに喋れペンギン」

「ですが一応作家の……」

「くどい」

「………………わかった。悪かったな、ロー。リーシャも」

「私は構わないんだけど、ローが怒ると大変だからね」

「な!俺はそんなに小せェ器じゃねェっ……っ!くそ……こんなことで怒鳴るなんてダセェ……!」

「ロー、今落ち込んだら進まないよ」

何とか気を取り直せさせるとローは文章を入れたUSBメモリーと挿し絵の入った封筒をペンギンに渡す。
もう帰ってしまうのかと考えるとそれも淋しい感じがしたので今からお茶を入れるからどうかと尋ねてみればあっさりと承諾する彼に内心、ローと喋りたいんだろうな、と微笑ましくなる。

「じゃあ緑茶でもいれてくるから寛いでて」

「ああ、すまない」

ペンギンの言葉に意を汲むとローがそわそわしていることに気づいた。
何となく察し彼に「ローは?」と聞くと嬉しそうにもじもじさせていた手を止めて立ち上がる。

「俺はコーヒー………………何か手伝いてェ……」

「うん、わかった。ペンギンは出来上がった挿し絵でも見てて待っててもらっていい?」

「ふふ……ああ、そうする」

ペンギンは危機として立ち上がる姿を子を見守るような目で見ると頷きリーシャはローを連れてキッチンへ向かう。
お湯を触らせると火傷してしまうかもしれないので三人分の湯呑みを用意することとお茶の葉を取り出すように指示を下す。
まるでお使いを頼まれた子供のように頷くローを微笑ましく感じながら見守る。
無事に役目を果たした彼にありがとうと言うと頬を紅潮させ頭をガリガリとかく。
可愛い仕草にキュンとときめきつい手が寝癖並みにツンツンとしている髪を撫でたくなる。

「どうした?」

「あ、ご、ごめん……頭を撫でたくなって……嫌だよね……」

苦笑して手を引っ込めるとローはきょとんとしてまじまじと手を見てきた。
今度はこっちが見てしまう番でどうしてそんなに見るのだろうと思っていると徐々に口を開きなにか言いたげに目をさ迷わせる。

「その……リーシャになら……か、か」

「か……?」

「構わない……!」

「えっ、あ……いいの?触るんだよ?」

「ふ、触れて、欲しいと思ってるが……恥ずかしくて……言えねェ……だけだ」

初めて聞いた言葉に唖然とするとローは頬を紅潮させたまま怖ず怖ずと頭を撫でやすい位置に下げてきた。
彼は身長が高いので手が届かないことを自覚していたようで嬉しくなる。
お言葉に甘えやんわりと見た目と反して柔らかい癖毛に触れると彼は猫のように目を細そめ気持ちよさそうに笑みを浮かべた。
ペンギンにお茶を渡すと見ていた挿し絵をしまってこちらを向く。

「今回も良い作品が出来たな」

「元の話が実話だしね……」

「ベポが火傷をしてリスのピロが手当てする所までガッツリな」

リスのピロとはリーシャをモデルにしたベポの親友だ。
シリーズ当初から共に出ているピロもベポ同様人気なのだが世話焼きのリスよりもドジッ子のしろくまの方が読者に好かれている。
つまりローの体質が全世界で愛されているようなものだ。

「火傷をしたな、そういえば……もうすっかり治ったのか?」

「うん。軟膏とか湿布とか色々使って完治した」

「病院は嫌いだ……そういえばペンギン」

「ん?」

「次は病院が舞台の話を書くから丁度良い医学書でも資料に探してきてこい」

「………………何時の元ネタを使うんだ?」

「小学校の時の実話だ」

「そういえばそんなこともあったかなぁ」

リーシャが思い出そうとしているとローが慌てて「思い出すなっ」と思考を止めにかかってきたので相当なトラウマを抱えているようだ。
ペンギンと顔を合わせ苦笑すると咳払いをする絵本作家。

「と、兎に角っ。持ってこい……わかったな?」

「ええ、心得ましたよ船長」

「高校の時のあだ名だったよね?懐かしい……ね?船長?」

「っ!!リーシャまでっ。俺は……ただ頼まれたからで……」

ローが必死に弁解しているのか高校の時に男子校という特殊な環境を選んだ彼が部活に助っ人に誘われた際にそこの部長が練習中に怪我をして出られなくなるという事態が起きた。
それに担ぎ出されたのは見た目がクールで頼り概のある彼で、結局断る事ができなかったからと船長と呼ばれて…………カヌーのレースに出場したのだ。
リーシャも応援に行ったのでよく覚えている。
あの時のローは絵本を製作している時と同じように輝いていて、とても男らしかった…………というのは本当にレースの最中だけだったようで見事に一着でゴールした後はふらふらとした足取りでこちらへ来て倒れてしまった。
極度の緊張でぷつりと精神的に気力が切れてしまったのだと思う。
優勝した祝いに何がしたいかと聞くと「二人だけでパフェを食べにいきたい」と笑顔で述べたのだった。

「ローって甘いの好きだからねー……」

「っ、いきなりどうした?」

リーシャの独り言に驚いたのか怯えて聞いてくるローに何でもない、と付け加える。
彼は甘いものが好きで、ギャップがあるというのも女子にはよく驚かれるらしい。
特に苺のパフェが好きでケーキなんかもたくさん食べる。
きっとこの三人の中で女子力は断トツに高いだろう。
それを口にすると落ち込んでしまうので敢えて黙っておくが。
ふとペンギンとローを見るとまるで同窓会のように笑い合っていて、彼も男の子なんだなぁ、と染々感じた。
眺めていると目元に濃い隈をこさえた仮の恋人が首を傾げてきたので少しからかおうと悪戯心が動く。

「ロー達が私を蔑ろにするからつまんないだけー」

「なっ!お、俺は別に……そんなつもりで、だな……!」

「ふ、ふふっ……嘘だから……安心してよロー」

「う"!?嘘…………か?」

「うん。嘘……ローはからかいたくなるから、つい口から出任せ言っちゃっただけ……ごめんね」

「なら、構わない…………心臓が止まるかと思ったじゃねーか…………ペンギン……分かってたんだろ?言え」

「いや?知らなかったぞ?」

ペンギンは明らかに口元が緩んでいる表情を浮かべていたのできっと分かっていたのだろうと一目で分かる。
ローはあからさまに遊ばれたのを感じ取ったらしくむくれた。

「こうなったらお前の過去をネタに使ってやる」

「それだけは止めてくれ、頼むから」

苦笑して頬を引き吊らせたペンギンはそれから三十分程居座り帰って行った。


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