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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

■ 06

かくして、望まぬ討伐をすることになってしまった二人はシャチがローのところへ案内するという言葉を聞かなかった事にし、制止する声も無視。
彼はそういう可哀想なポジションな訳で、落ち込む男はどこかに電話し喋るのを耳から流し続けいつの間にか傍にシャチが居て話しかけているのを知らずに進む。

「頼むからおれの話を聞いて!」

「俗物の虫が私達に話を聞いてもらえるなんてお思い?」

勝手に依頼に割り込んでおきながらニコニコと愛想笑いを浮かべる暇は無い、との言葉を暗に乗せてアンリエッタが無の顔でピシャリと言い放つ。
それに頬をポリポリとかく男は困ったなと視線をこちらに向けるが聞く気はない。
そっぽを向き彼女と歩く。
それにガーンとなる男、シャチはヨタヨタと着いていくしか無い。

「全く、楽しい筈の幽霊成仏が」

「討伐って依頼だったよね。成仏させる気満々じゃん」

アンデットは何回か会った事はあるが彼女は普通にこんがりと焼いていただけで成仏させている風ではなかった。
だとしたら、今回の討伐はマジもんの幽霊が居るという事になる。
一気にホラー要素、スプラットな想像が脳内を駆け巡った。

「猫の相棒が欲しいよ」

「名前はアンルーね」

「アンリと紛らわしい上にグレーギリギリ!」

でも頼れるサポートが欲しい。
アンリエッタはその生物に似た助っ人は召喚出来ると言うのでヤッター、と喜ぶ。
わくわくして居ると魔法陣が地面に浮かびその上に光の粒が表れ形を成していく。

「お、きたきた」

やがて光が弾けて猫が――。

「ヌーン」

「へ?」

そこに居たのはでっぷりしていて顔はお世辞にも可愛くない。
まるで。

「もはや、豚だー!」

「ブサ可愛いのではないの」

アンリエッタの美的感覚がズレていた。
しかも何、声がヌーンって何?逆にそこも猫らしくない。

「この猫ヌーンって鳴いてますけど」

「ヌーンよ。猫に似た猫科なのですわ」

ヌーンという鳴き声から取ったと言われているこの国特有のブサカワ、ごほん。
ブタ猫は戦えるらしい。
ブタ猫ヌーンはぼってりボディを揺らしてアンリエッタの方へじゃれてくる。

「戦えるって、どう戦うの?」

武器を手にボカスカして攻撃するようには思えぬ。
ヌーンはジト目をこちらに向けると鳴く。
その姿はまだ違和感がある。

「重量級の肉体を相手にぶつけますの。こうやって」

アンリエッタの念力で浮き上がるヌーンはされるがままにシャチの方へ飛んでいき激突。

「ごぶえ!?」

デブ猫は鳴くこともせず地面に綺麗な着地をして投げた人の元へゆったりと歩いて戻る。
投げられたのに戻る事に驚いた。

「ヌーンが人に当たる時には相乗効果と支援魔法を合わせて何倍も増やせば敵無しなるのですわ」

ブチ当てられたシャチは放っていき歩む。
元はと言えば来る予定などなかったののだからプラマイゼロなのだ。
彼を放って行っても結局大物は建物の付近に到着しているのだからそんなに事態は変わらないが。
尽く余計な真似をしたギルドを恨む。
新人と高ランカーという組み合わせであるが軽く見られて良い訳ではない。
いくらメロウが良くてもこちらに了承を得ておくのが先ずはマナーだ。
マイペースに歩いているとシャチが早く行かないと、と急かすので無視してゆったりとした歩調で行く。
ゆっくりゆっくりと時間を掛けて行き、途中でテーブルを出して椅子に腰を据えてまったりと紅茶を飲む。

「何やってんだよー」

せかせかと腕を動かしてこちらを動かそうとしているがシャチは別に知人でも友達でも依頼主でもないし動く義理は無い。
ローを待たしているから彼は急がそうとしているのだろうがそうは簡単に動いてやらぬ。
別に依頼は期限が無いので今日やる必要はない。
彼はそれが頭に無いのだろうか。

「煩いですわ。私達のティータイムを邪魔しないで?」

冷たい色をシャチに向けてひたりと黙り込む。
殺気を放つアンリエッタは紅茶を飲むと気配が飛散する。
ティータイムを三十分掛けて済ませスタスタと歩き出す。
先程と違って催促してこないのを見るとアンリエッタの怒気に気付いて突つくのはヤバいと知ったのだろう。
今更な気もする。
そうして時間を掛けて辿り着くと般若を背に背負う男が居てシャチの顔色は真っ青だ。

「遅い」

ぽつんと言いアンリエッタを見据える男に怯えない彼女はメンタルが強い。
シャチはローに遅れた理由を話すのに夢中なので彼女と共にサクッと屋敷に入る。
呼び止める声が聞こえたが聞こえない聞こえない。

「わー、ボロボロ」

当然ながら放置されている外観も内装も手が加えられていない廃墟だ。
ホラーゲームとかに出てきそう、いや、素材として制作者が使えそうな廃墟。
あと幽霊好きや肝試し度胸試しに来る物好きの格好の場所だろう。
彼女とはぐれぬ様に引っ付いて進むと前方に影が迫る。
悪霊退散と内心唱えて追い払おうと祈っていると肩を掴まれる。

「ひぎゃー」

後ろを見る間も無く手で肩に乗る何かをパチンと叩く。
いった!と声が聞こえたものだから人間なのだと気付き後ろを見ると帽子を被る男性が居て手をさすっていた。
ペンギンと文字が入った帽子を被っていてもしやメロウの幹部かと警戒していると男は「驚くとは」と唖然とした声音でこちらを見る。
ソレはこちらの台詞でもあるのだ。
無闇に冒険者の肩を掴むなんて何を考えているのか、この考え無しがと悪態を付く。

「リーシャの肩に触るだなんて。無礼打ちしましょうか?」

アンリエッタがムチを手に持っていて言うので男が喉からヒッという怯えを発し後ずさる。
良いよやっちまえというのは簡単だが、こんなことで一々構っていられないと面倒なので先に進みたいと望む。



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