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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -

■ 05

悪人だというので躊躇する事もない筈。
向こうだって相棒を相手にドンパチやってきたのだ、少しくらい友人の為にやっても構わない。
リーシャは友人想いなのだ。

「それにしてもアンリの言うとおりお相手結構なモテ顔だったねー」

「顔だけは良いんですよ、だから」

誇張するかのようにそこだけ強く言いリーシャも同調する。
もう町へ戻っても囲まれることはないだろうと町に戻ることになった。
話し合いの末、夜に町を出れば良いと纏められやはり何か起こるのだろうと予期。

(関わり合いたくないんだから聞かない聞かない)

下手に聞いて薮蛇をツツきたくない。
それに助ける義理もなく義務もないので二人で何か起きるまで見ているだけ。
白状というなかれ、人とはそんな生き物。
それにリーシャは無力なのでやれることなど無いに等しい。
ベタに人助けとか正義感があったりしても最後には我が身が可愛いのだ。
宿を取らずにギルドの仕事を探しに行き高ランクの仕事を見つけに行く。

「ブラックドールじゃねェの?」

ガヤガヤと賑わうギルド内ではアンリエッタを見て気付く人が居る。
しかし、気付かない人も居るから女二人が居るという状態を舐めて掛かる人が居のも事実。

「おい、此処は雑貨屋じゃねェ。怪我すんぜ」

忠告なのかバカにしているか、どちらもなのかもしれない。
それに対してアンリエッタは無表情でやれやれと心の中で聞こえてきそうな声音で拒否。

「お気遣いは結構ですわ。リスク覚悟で来ていますの」

彼女が相手に対して丁寧に答えたのにその人は独り善がり思考で怒鳴る。
怒鳴るなんて下品とアンリエッタなら思っている筈。
団扇を広げ相手の唾が飛ばぬ様にシャットさせながら相手の出方を窺う。
窺った結果相手にするのは時間の無駄と判断したのか掲示板式の依頼版へ視線を寄せた。
ギルドでは冒険者同士の言い争いには干渉しないが暴力という犯罪に走るとギルド員が問題を起こした側を厳重注意したり何かしらの処罰を与える。
アンリエッタはランク上げの試験を受けないので高ランクだがギルドの強制労働、収集に課せられるランクにわざと達していない。
メロウの集団も確かそうだったと記憶している。

(というか、まだ怒鳴ってる)

アンリエッタは平気な顔をしているがそろそろ周りが迷惑だと実感する程言っている男。

「無視してんじゃねーよ!女の分際で!」

恐らく彼女はこの罵倒を録音している。
彼がどう言い訳しても逃れられる事は出来ない。

「そろそろお黙りになって」

恐怖と威圧を凝縮した声音が男だけを貫く。
いや、周りにも散らばったから静かになった。
女は男に一瞥も渡さずに静寂を放つ。

「決めたわ、これにしましょう」

掲示板の番号を紙にサラリと書くと受付へ持っていく。
受付を通さなくても良いいつでも受け付けている依頼もあるが通す方を選んだみたいだ。
アンリエッタみたいにギルド強制を受けないランクに留まる人も居るがそんなのは僅か。
リーシャなんてランクが一番下から数えた方が早い。

「幽霊屋敷の討伐で宜しいですか」

「アンリ!?何、幽霊って!」

そんなアホなと思う依頼を受けようとしているアンリにそんなわけないよね、との意を向けても彼女は優雅に頷くだけ。
ちょ、こっちに相談無しで受けたよこの子。
幽霊ってアンデット系とかの意味なのか、いやそれでも腐臭が付くから嫌なのだが。
しかし、こちらの訴えを黙殺し淡々と受け付けに印を押させる荒行。
こういうのを息をするように行うマイペースさがアンリエッタなのだ。
学園の時にも七不思議探索に無理矢理連れて行かれベタに七つ目を知ると死ぬという噂を確かめようとする彼女に真夜中突然叩き起こされたのは記憶に新しい。
その噂は結局嘘でガセだった。
残ったのは眠気と真夜中の学校の独特な怖さである。
アンリエッタは不思議やお化けが大好物らしいとなんとなーく察せ今も幽霊屋敷なんてベタベタでドロドロな罠丸出し感満載な依頼を受けている。
受け付け曰くこの依頼は失敗しても仕方ない風物詩の前からある度胸試しに程度にしか使われないものなのだそうだ。

「幽霊を強制的に成仏させる快感は忘れられませんわ」

(え!?てか成仏させた事あるの!?)

突っ込みどころがあって混乱する。
その前に思うべき実物に出会った事がある事が驚きだ。

「あー、おれらもそれやりたかったのに」

呑気な声が聞こえ後ろを振り返ると依頼書の控えを覗き込むように見ている青年が居てその近さにびっくり。
何だこの距離感。
人には近寄られたくない距離、即ち至近距離。

「なー、アンリエッタおれらと共同討伐にしねェ?」

「リーシャ、彼は先程会ったメロウのトップの幹部、シャチよ」

(えー、何この馴れ馴れしさー。メロウってことは因縁相手じゃんかー、しかも何普通に紹介してきてるの!)

内心突っ込み顔には出さず無言。

「あれ、この子無口なのか?」

第一印象で決めつける男に機嫌が急降下する。
喋らないのでなく喋りたく のだとは敢えて言わぬ。

「私のリーシャに気安く話しかけないで下さい」

「え………………あ、はい」

呆気に取られた様子のシャチは無意識に答えた風だ。
ジト目で過ごしているとシャチ達イコールメロウも共に参加する事になっていた。
どうやらメロウがギルドに“お願い”したらしい。
アンリエッタが受付に「今後此処のギルドとの付き合いは見直させてもらいます」と笑みを浮かべて静かに述べた。
それに戦慄したのはギルド全体だろう。
アンリエッタもメロウもギルドでは同じくらい高ランクで有名なので怒らせたのは痛手になるだろう。
勝手にするのが嫌いなアンリエッタは己が振り回すのは良くてリーシャ以外に勝手をすると許せないのだ。
例えば友人がはしゃいで連れ回すのは微笑ましいが他人が連れ回すのは不愉快、それかうんざりするのと一緒。
ギルドはアンリエッタにとって知る仲でもない。
そして、ギルドの規則を犯しているのだから当然の発言だ。
規則には個人の意志を尊重するとのウマがツラツラと書いてあってこれは意志の権利侵害に該当される。
アンリエッタはここのギルド長は高みを目指し権力を先ず得たいと考えている奴でローのお願いを聞いたのも女を見下しアンリエッタ達を取るに足らないと鼻で笑い、メロウとの今後のツテを優先させたからこんな真似をした(尚、この見解はアンリエッタの脚色が入ってます)のだと彼女が面白そうに吹聴。
ギルド内で言うものだから確信犯か否かと考えるまでもない。



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