■ 04
アンリエッタは慣れた仕草や態度で相手をする。
ちょっと尊敬しても良いかもと思う。
「トラファルガー・ローともあろう方がわざわざ女二人に対して出張る等、何か得も知れぬ事を考えているのではとついつい期待してーー勘ぐってしまいますわ」
おい、今期待してとか言い掛けたなアンリエッタ。
貴様、絶対に此処に降りたのわざとだろと問い詰めたくなる。
まあ言っても肯定されて終わりなのだろうけど。
ローと呼ばれた男は待ってましたと言わんばかりに語り出した。
「アンリエッタ、またの名を“ブラックドール”。最強の女候補の一人の動向を知りたがらない奴なんて居ないだろう」
「その名は好きではないのであまり呼ばないでくださる?」
アンリエッタはそう言いつつ手に魔法を展開させて魔法陣が手の平に浮かびそこから矢が出現。
手の平を向けているのも矢が出てきた方向と違うのに意志があるかのようにローの方へ飛んでいく。
それを細長い剣で弾き返すお手並みは流石なもの。
彼は手加減された攻撃を払うと何もなかったように発言をする。
ちょっとは嫌な顔するとかしようよ。
「悪かったよ、フフ」
うわあ、全く悪びれてないよこの人。
リーシャがされたら心がポッキリ折れる自信がある。
ヘタレと呼べばいいさっ。
「で、お前のお友達を紹介してくれよ」
「お断りですわ、虫風情に名乗る名等ありませんことよ。一昨日また来て下さるかしら」
アンリエッタの罵倒混じりの発言を聞くのは久々だが彼とは毎回こんな風なのだろうか。
恐る恐るアンリエッタのフリフリのレースが付いているスカーフから顔を覗かせ見やる。
「酷い女だ。だが、おれとの仲だろう?見せてくれたって良いんじゃないか」
おれとの仲発言にアンリエッタは顔色を変えず「まあ」と意外そうな声を発する。
「貴方がそこまで見たがるなんて、世間ではそう言う殿方を変質者と呼ぶのを知ってらして?なんて貴方にぴったりなのでしょう!」
大袈裟に相手に投げつけた台詞はローの顔を破顔させるのに一役買ったらしい。
余裕な顔が苦虫の顔になる。
踏みつぶしただとか苦虫の後に続くのは勿論知っているがそこまで説明するのは面倒なので割愛した。
「おれが変質者だと?変態と同等に並べんじゃねェよ鉄仮面」
鉄仮面ってもしやアンリエッタのことなのか。
彼は命をそんなにポイ捨てしたいように聞こえる。
それでもアンリエッタは聞き流し片手に団扇を持って顔半分を覆う。
「鉄仮面でも変態の意味は知ってます。で、それを踏まえて。私の友人に付きまとう真似をしている方をそれ以外に何と呼ぶのかしら?」
うおお、お互いに火花が見える。
こういう時は私の為に争わないでとか言うべきなのかもしれない。
「そうだな。気になっている………恋をしているだとか、か?」
シンデレラとか白雪姫じゃないんだからそんな見てもいない相手に惚れるかっての。
「「変質者」」
思った事を述べたら彼女とハモった。
青筋を浮かべたローが違うと言っているが見たことがない相手を見たがるってその行動がもうアウトなんだ。
しかも嫌がっているし。
「まあ怖いわ。近頃は増えてきてますし、ね。リーシャ、変態は放っておいて行きましょう。貴方は勝手にどこへでも逝って下さいね」
いっての字が違う気がする。
殺伐とした意味な気がするが気にする義理もないのでアンリエッタの後に続く。
彼女に隠れたままローをちらりと見やると驚いた事に居なくなっていた。
フラフラと辺りを見回しているといきなり前にぶつかる。
(いった!)
鼻をぶつけて手で覆う。
悶えていると腕を掴まれてハッと上を向く。
射抜かれる視線と交差する。
腕を掴んだ本人であるローはこちらを確認すると目をみるみるうちに開き瞠目の形に固定。
何か特殊な顔立ちでも想像していたのだろうかと邪推してしまう程の反応だ。
「………………成る程」
「何が成る程なのかしらトラファルガー様」
クスクスと何が楽しいのか笑うアンリエッタは問いかけると彼は腕を話し彼女に向かってニヤッと笑みを見せて余裕か顔に戻る。
「お前の友は美人でないってこ」
「アンリ、この人………下着の中に虫入れて」
「虫には虫をですね、粋な計らいに感謝しなさいな」
確かにアンリエッタとかこの世界の平均的な顔達と比べたらグラマラスでないが、初対面でしかない人に指摘される謂われはない。
腹が立つので頼んでやり返してもらう。
途端、ローは顔を強ばらせてズボンを押さえる。
しかし、アンリエッタに掛かれば手等障害にならない。
直ぐに異変を感じ取りローは移動系の魔法を展開させて去っていく。
去ったらきっとズボンを脱ぐのだろうとは想像に難しくない。
「自分の意志と人に言われて仕返しするのは気分がまた格段に違うわね。そうだわ、これからはリーシャが仕返しの指示してくだされば私も二度美味しい思いをします。是非これからもお願い出来ます?」
「あんまり恨みは買いたくないんだけど」
うへえ、と嫌な表情をしてしまうのも致し方ない。
なんて最悪な事を頼んでくるんだこの子は。
ヤダと告げて先に進もうと催促すればまだ楽しそうなアンリエッタはフワフワと浮いているまま進む。
一体何だってこんな日になってしまったのだと嘆きたくなる。
しかし、アンリエッタとメロウとは因縁があると前から言われていたのでもう腹を括るしかあるまい。
これからも何度だって出会う可能性があるのを覚悟しておかなくては。
虎の威を借りるのと同じになってしまうが彼女から頼んできたのだし、まあ失礼な事やされた時くらいは頼んでも良かろう。
[
prev /
next ]