■ 03
しかし、相方が停止するのでどうしたのと聞く。
「どうやらこちらの動きを把握なされているようで、囲まれましてよ」
全く困ってもなさそうな顔や仕草にもっと慌てようよと言う。
「雑魚に何匹群がられても怖くないんですもの」
確かにアンリエッタ程になると最強クラス。
恐れるものは無いのだろう。
「メロウがご挨拶に来たみたいでしてよ、貴方もご覧になる機会が来ましたのね」
「嬉しくない嬉しくない」
首を思いっきり何度も振り否定する。
彼女は楽しそうに笑みを零すとリーシャの手を掴んで飛びますわよ、と浮遊する。
屋根と屋根を伝うでなく本当に飛んでいるのだ。
経験しているので今更驚かない。
きっと相手を撒く為なのだろう。
それくらいは危機感を感じ取れた。
「メロウはどれくらいの人数?」
「この町にはメロウ組織の半分は居ますわ」
アンリエッタは全てを知れる。
人の把握や話し声、居場所を知るのは朝飯前なのだ。
だって無敵の令嬢だもの。
「何か起こるって事じゃん!この町今すぐ出よう。この町から離れて別の町行こー?」
「無駄だとは思いますけれど。私達に用があるみたいなので、追ってきますわきっと」
「私達、達?達って何なの?私初対面でまだ見られた事ない筈でしょ。可笑しくない?」
「相手にとって私は因縁の女。その旅で同行するリーシャに興味を持つのは何ら不思議ではないのでしょうね」
「客観的意見どーも」
遠い目になる。
厄介が自らやってくるとは。
そりゃまあいつか対峙するなり出会うなりは訪れるだろうと思っていたが卒業して早々、しかも向こうからこんなノリノリでエンカウントしに来るとは考えられなかった。
しかも組織で動いているので本気度が割と高いそうだ。
知りたくなかった情報。
「このまま絶対に会わないように逃げれるのも時間の問題でしょう」
今起こってる現実を直視したくなくて黙り込む。
それに対して微笑みを浮かべたままのアンリエッタは何を考えたのかそのまま上空に上がり見えない距離にまで昇り詰めた。
「これで撒けますわ」
でも町で待ち伏せされているので今後を考えなくては。
結構な距離を離して地上に降り立つ。
その間考えていた事。
「どーにかしてメロウの接触を絶てないかな」
その意見に「無理ですわ」と一蹴し、更に宥める語り口で「これも定めなのでしょう、受け入れなさいな」と言われ為す術無し。
「どっかのパツキンと同じ発言しないでっ。その台詞は窮地に立たされた時にしか言わないお約束だーって」
お互い知っている過去の名台詞を復唱されうなだれる。
走る車や飛ぶ鉄の塊をお互いに知っているからこそ成立する会話。
「とにかーく。相手の目的が挨拶だけとは思えない」
仕切り直しに憶測を口にする。
「ええ、でしょうね」
「あわよくば私を誘拐して弱みを握る可能性もあるって。前に話し合ってた可能性があるんだし」
因縁の相手の弱み、つまりリーシャを浚い脅す事もやぶさかではない。
相手は裏の組織を操るブラックマーケティングを良く知るような連中だ。
誘拐と脅迫なんて簡単にやってのけるだろう。
「まだメロウはマシな方なのですけれどねぇ」
「他の組織よりは、でしょ」
悪人であるのは変えようのない事実。
とんでもない組織なのは知っている、アンリエッタからたくさん色んなそれに纏わる事を聞いているから。
それを聞いているから尚更会いたくないのだ。
「会ったら案外楽しいかもしれませんわよ」
それはアンリエッタだけだと思う。
彼女は嫌に楽しそうな顔でこちらを見てから「嗚呼、でも手遅れでしょう」と意味の分からない事をーー。
「そいつがお前のお友達か?おれにも紹介してくれよ」
その声はヤケに耳を刺激して思考を凍結させる。
振り向くのも嫌になる程勘が振り向くのは駄目だと告げているので絶対に向きたくない。
「良く此処に降り立つとお分かりになりましたねーーメロウのリーダー様?」
(やっぱ本人来たー!?)
遂に対峙してしまった。
「アルゴリズムを当てはめてやってみたら見事に当たった。お前ならおれに気付いていると思っていたが」
「このまま進んでもどうせ現れるのでしたら早めにと思いまして」
「ア、アンリぃ」
小さな豆粒声でどうしようと聞く。
しかし、先に男が話しかけるのでギク、となる。
「そりゃ、良い判断だ。おれも無駄な量力を使わずに済む」
見たくない見たくない、と必死に俯き相手に背中を見せたままアンリエッタの背中に隠れる。
これで対面は無理だろう。
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